その不遜な影は惑う

作者:幾夜緋琉

●その不遜な影は惑う
 秋田県鹿角市にある山、前森。
 その山中、深夜の刻……漆黒の闇に包まれた山中は、不気味な雰囲気に包まれている。
 ……そして、そんな森の中で。
『……ウウ……ゥ……』
 呻き声を上げているのは、辛うじて人型を象っている、攻性植物。
 ただ、明らかに元気はなく、動きも遅い……足を引きずる様にして、歩く姿は瀕死の形相。
 ……そんな攻性植物を、静かに冷たい目線で見つめているのは……黒衣に身を包んだ女性。
 何処か憂いを秘めた視線は、死にかけている彼を静かに、追う。
 そして。
『……ゥ……グ……』
 力尽き、その場に蹲る攻性植物。
 僅かな呼吸が、その命の灯火を辛うじて燻らせる……が、そんな攻性植物に、死神は近づき……何かを、左肩の部分に埋め込む。
 そして。
「さぁ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスへ殺されて来るのです」
 と呟くと、その指示を受けて……ガッ、と立ち上がる攻性植物。
 そしてそのまま、攻性植物は狂ったような叫び声を上げて、山を下り始めるのであった。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれた様ッスね! それじゃ、早速ッスけど説明するッス!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスへ元気よく挨拶すると、早速。
「今回、ケルベロスの皆さんには、秋田県鹿角市にある、前山って所に向かって貰いたいんッス!」
 と指さすダンテはそのまま。
「どうもこの山中に迷い込んだ攻性植物が、死神に目を付けられ、死神の因子を植え付けられた様なんッス。その結果、攻性植物は大量のグラビティ・チェインを得るが為、人間虐殺をしようと暴走為ている様なんッス」
「もしも、このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死んでしまえば、死神による強力な手駒に変わりかねないッス。そういう事態を防ぐ為にも、デウスエクスが人間を殺してグラビティ・チェインを得るよりも早く、撃破が必要なんッスよ!」
 そして、更にダンテは。
「今回の攻性植物は、辛うじて人型を象っている攻性植物の様ッス。とは言えその手足は蔓のような物に覆われており、その蔓の手足を鞭のように振り回して攻撃してくる様ッス」
「既に正気は失っている状況ッスから、勢いは躊躇することなく全力で振り回してくるッス。周りに残る木々諸共薙ぎ倒してくる可能性があるッスから、頭上含めて周りには注意を払って欲しい所ッスよ!」
「後、死神の因子を埋め込まれているデウスエクスは、普通に倒すと死体から彼岸花の様な花が咲く現象が確認されているッス。これを止める為には、残り体力に対し、過剰過ぎる程のダメージを与え、殺す必要があるッス。可能ならば、オーバーキルを狙って欲しい所ッス!!」
 最後に、ダンテはもう一度皆を見渡して。
「この様な死神の動きは大変不気味ではあるっす。ケド、暴走するデウスエクスヲ放置しても、良い事は万が一にも無いッスから、どうかこの場で解決をして欲しいッス! 宜しく頼むッスよ!!」
 と、力強く拳を振り上げた。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
小車・ひさぎ(二十歳高校二年生・e05366)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)
天司・桜子(桜花絢爛・e20368)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
クオン・エクレール(血桜紅月・e44580)
リリィ・ポー(愛に飢えた怪物少女・e45386)

■リプレイ

●森に傷つく闇は
 秋田県鹿角市の前森。
 山中、深夜の刻間、漆黒の闇に包まれ不気味な雰囲気が漂う山中。
 ケルベロス達がそこへと赴くは、死神によって傀儡化させられた攻性植物を倒すが為。
「うーん……死神の因子事件。これも地味ながら結構長い事起き続けてるよねぇ……」
 と苦笑する小車・ひさぎ(二十歳高校二年生・e05366)に、天司・桜子(桜花絢爛・e20368)とアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)も。
「そうだね。理性無き者を捨て駒にするなんて、死神の狡猾さは許せないね」
「ええ……黒衣の女死神さん……一体どのような方なのか……わからない事ばかり……ですけど……企みは阻止しなきゃです……」
 と、それぞれの言葉で、ぽつり。
 ……しかしながら、攻性植物自体が利になる事をしていたかと言えば、そんな事は無いだろう。
 更に今回は、人型を象っている攻性植物という事もある。
「人型を象っている、攻性植物……バナナイーターや『人は自然に還ろう計画』を実行している者達など、攻性植物勢力の活動を推進している者達が居る様ですね……そして、このようにはぐれてしまった者も居る、と……興味深いと思います」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)に、氷鏡・緋桜(矛盾を背負う緋き悪魔・e18103)とひさぎも。
「そうだね。でも正気を失った攻性植物……そもそも正気だったり、意識のあるいは攻性植物を俺は見たことがないんだが……まぁ、流石に捨て置くわけにはいかないよね」
「うん。こういう違う種族を故意に暴走させて手駒にする死神のやり口は本当気に入らないんよ。ま、例え死神がどうしようと、あたし達がズギャッと倒しちゃうから、グラビティ・チェインは持っていかせないんだけどー」
 とひさぎに対し、リリィ・ポー(愛に飢えた怪物少女・e45386)が。
「ふふっ、そうねぇ。グラビティ・チェインを死神に奪われる訳にもいかないわよねぇ♪」
 妖艶に、バッテンマスクの下に嗤うリリィ、とそれに龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)とクオン・エクレール(血桜紅月・e44580)が。
「自らの手を穢さずに仕掛けてくるとは……非常にいやらしい敵だ。決して許す訳にはいかないだろう」
「そうだな。死して尚死神に好きに操られる様は憐れとしか言い様があるまい。だが、これも定めである。絶望を作り出す前に滅ぼすとしよう……ただ、その前に動きやすい様に、周囲の雪を踏み固めておこうか」
「そうだな。足を滑らせて不意を突かれる訳にも行かんしな」
 ガッ、ガッ、と確りと足元を踏み固める隆也。
 そして……。
「ま、何だ……覚悟決めて行くとしよう」
 緋桜が髪を手で掻き上げると、鋭い目線になり……ケルベロス達は、戦場へと赴くのであった。

●美しき暴虐
 そして、暗い闇に包まれた森の中を進むケルベロス。
 ただ雪が降り積もっており、足元はとても滑りやすく、危険。
「さってと。皆も滑らない様になー!」
 笑いつつも、足元の雪を踏み固めるひさぎ……いや、彼女だけでなく、悠乃もリリィも、そして隆也も滑り止めを付けた靴を履きいて、足元を踏み固めながら、雪道を更に進んで行く……すると。
『……グ……ッグゥゥアアアア……!!』
 と咆哮を上げて、森の中を暴れ進む人型攻性植物。
 ……そんな攻性植物の暴走する影の下へ、更にケルベロス達は急ぐ……そして。
『ググ……グウウウウアアア……!!』
 と怒り狂った攻性植物が、ケルベロス達の目前へと出現。
 とは言え既に正気は無く、咆哮と共に暴れ廻るだけの攻性植物……その蔓をぐるんぐるんと振り回し、周りの状況は一切気にしない。
 当然その蔓が樹に当たれば、積もっていた雪諸共、地面へと落下……その直撃を頭に喰らえば、かなり痛い。
 ……が、そんな雪玉を取りあえず回避し、構えるケルベロス……。
『ウゥゥウ……』
 と、更なる唸り声を上げて、僅かにケルベロス達の様子をチェックする。
 そんな攻性植物の動静を見て、アリスが。
「攻性植物さん……貴方に一般の方を襲わせる訳にはいきません……ここで、倒させて頂きます……」
 悲しげな声色で呟くアリス……しかしながら、攻性植物はその声を聞き届ける風にはない。
『グゥ……ウウウウアアア……!!』
 と、叫びながら、またもその手の蔓を鞭のようにしならせて、攻撃してくる。
 そんな攻性植物の攻撃、ガッと前に出てカバーリングするのはリリィ。
「アハァ、もう、あわてんぼうさんねぇ」
 と、妖艶な声を上げつつ、その蔓に身を呈し、囚われるが……すぐに両腕を左右に払い、解除。
 そして流れる様にリリィは、先ずは前衛陣にサークリットチェインで全体にヒールと、盾アップの効果を付与する。
 防御力上昇した仲間達に、更にアリスも。
「……行きます……」
 とその手から禁縄禁縛呪を飛ばし、攻性植物を縛り上げる。
 縛られた攻性植物は、こちらも身を身じろぎどうにか解除する。
 ……そして、攻性植物の攻撃をかいくぐり、対するケルベロス達の攻撃。
「さぁ……行くぜ!」
 と先陣を切り緋桜が攻性植物の懐へ潜り込んで、ファナティックレインボウを強烈に叩きつける。
 そして彼に連携して、隆也が。
「手加減はなしだ。死んで貰う」
 と『憤怒の魔剣』の一閃を放ち、速攻で斬り付けていく。
 そして、クオンは、二人の攻撃の間を縫い、攻性植物の背後へと回り込み、憑霊弧月で斬り付け、毒を追加。
 クラッシャー陣の怒濤の如き総攻撃で、その体力を大幅に削り去る。
 ただ、油断してはならない……彼は、死神によって傀儡にさせられている者。
 ヘタに倒してしまえば、彼の血肉、奪ったグラビティ・チェインは、死神のものとなってしまう。
「ったく、ダメージ調整なんて面倒くせえなぁ」
 とひさぎがぼやくと、それに悠乃が。
「でも、仕方ありません。これも死神の狙いなのでしょう……簡単に乗る訳には行きませんから」
 と答えつつ、的の体力状況を見極める。
 まだ、瀕死ではない事を認識すると、斉天截拳撃で武器封じの一撃を叩き込むと、更にひさぎが。
「そっか。まぁ……りょーかいっ!」
 と頷きつつ、ハイジャンプからのスターゲイザーの一撃。
 その身体に強烈な蹴撃を叩き込み、攻性植物、一端体勢を崩して其の場に転倒。
 ただ、人型故、すぐに立ち上がろうと……。
「させないよー! 桜の花々よ、紅き炎となりて、かの者を焼き尽くせ!」
 と、『紅蓮桜』の一撃、桜の花弁が攻性植物を取り囲み、そして炎へと燃え上がる。
 炎に包まれた攻性植物は、更に苦しそうな悲鳴を上げる……まるで、救いを求めるかの様に。
「……死ぬ間際になって、女死神さんに「道具」にされてしまわれて……せめて、私達の手で……」
 苦悶の声に、呟きつつも……真っ直ぐに攻性植物を見定め、その手を構える。
 そして次の刻、攻性植物の攻撃手段は余り変わらず、蔓の手を振りかざし続ける。
 最早、誰に当たってもいいかの如く、無差別に。
「そこ、危ないわよぉ!」
 とリリィが叫んで注意喚起、その蔓の行き着く先へ飛びつき、カバーリング。
 幾度となく仕掛けられる攻撃に、身につけて居る義骸フィルムが所々傷を見せる。
 ……が。
「あははぁ……もう、いいわぁ!」
 と自分自身へのシャウトで被害を回復。
 そして、同列のアリスはブレイズクラッシュを放ち攻撃すれば、クオンも絶空斬。
 隆也と緋桜の二人は、息の合った連携攻撃、ストラグルヴァインと降魔真拳にて、攻性植物の体力を更に削り抜く。
 仲間をサポートする悠乃は。
「開く傷口、重なる痛み、あなたから、癒しの時を奪います」
 と『逆癒』でその体力を削りつつ、バッドステータスを更に倍増させていくと、連携しひさぎも。
「っしゃ、花房!」
 と熾炎業炎砲を攻性植物の身に叩きつけ、更に炎で苦しませる。
 そんな……ケルベロスの猛攻の前に、攻性植物はみるみる内に弱る。
 開戦から……四分程で、もうかなり弱り切ってしまう。
「! みんな、攻撃止めて!」
 と、桜子が警告し、一端攻撃を全停止させる。
 ……その蔓の蠢きにも勢いはなく……苦しんでいる攻性植物。
「んー? そろそろ終わりか?」
 とひさぎの言葉に桜子はこくりと頷き。
「一気に……高攻撃力で仕留めないとね。みんな、脳細胞を極限まで活性化させてあげるね。頑張って!」
 と、前衛陣に、順次脳髄の賦活を付与しつつ、他の仲間達は攻撃を構え、防御。
 ……前衛陣に全部、脳慈雨の賦活がつくと共に。
「うん、いいよ、みんな頑張って!」
 と桜子が皆に声を掛け、それを切っ掛けに、クラッシャーとディフェンダー、更に悠乃もクラッシャーにポジションを変えて、接近。
 緋桜のファナティックレインボウ、そして隆也が……深々と叩きつける降魔真拳。
 そして悠乃がジグザグスラッシュで、一気にバッドステータスを倍加させ、その身をバッドステータスを一気に爆発させる。
 そしてその一撃は……攻性植物を内側から蝕むと共に、其の場に転倒。
「己が滅ぶその刹那に先決に染まる紅い月を見る事が出来るであろう……オマエの絶望と魂を、我が剣が喰らい尽くす」
 とクオンが『秘奥義【無閃】』の一閃にて、尖端の一撃を叩きつけると……その一閃は、攻性植物を四散破壊し、撃ち砕くのであった。

●狂いし後は
 そして、無事に死神の傀儡となった攻性植物を倒したケルベロス。
「……ふぅ……終わった……かな?」
 とアリスが周りを見渡し、桜子が。
「うん……終わったねー。死神の因子も……どうも咲かなかったみたいだし、無事に終わったみたいだね」
 と頷く。
 ……勿論、他の攻性植物の影はないし……死神の声もしない。
「一応、周りの捜索は私に任せて下さい」
 と悠乃は翼を広げ、空へと飛び上がり、更に周囲の状況を確認。
 特に何か……が判明するという訳ではないけれど、漆黒の森を空から見下ろしていると……まだ、どこかに死神がいるのではないか、とも思ってしまう。
 ……そして、悠乃が地上へと降りてきた所に、アリスが。
「どうでした……? 何か……あの女死神さんに関する手がかりとか……見つかりましたか……?」
 と問いかけるも、悠乃は残念そうに首を横に振る。
「空から見る限りでは……死神の影はありませんでした。恐らく、最早逃げた後なのでしょうね……」
「そうですか……痕跡も遺さず、さっさと帰ってしまった様ですね……仕方ありませんが……」
 と言いつつ、アリスは……地面に残った攻性植物の遺した触手の切れ端などを、取りあえず拾い集める。
 そして、土を盛った所へ緋桜やアリスは跪き……攻性植物達の冥福を、静かに祈る。
 暫くの間、皆も声を潜め、無惨に散りし攻性植物の冥福に、祈りを捧げつづける。
 ……。
「さて、と……無事に事件も解決したよな? んじゃ、さっさと帰ろうぜー!」
 とひさぎの提案にクオンも頷き。
「そうだな。次の死神の傀儡が何処かに出てくるとも限らん……いつでも対応出来るよう、体勢を整えておくとしよう」
 そして。
「そうねぇ……ふふふ、それじゃみんなぁ、お疲れ様ねぇ♪」
 と手を振り、去り行くリリィに、他の仲間もバラバラと、其の場から帰って行くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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