安らげないホームシアター

作者:baron

 真っ暗な建物の中で、光が灯る。
 それはプラネタリウムの様に小さな光を幾つも放った。
 その光に照らされて、建物の中に無数の雑貨がしまいこまれているのが判る。
『プロ・ジェク・ター!』
 ピピピ!
 そいつは光の熱量を上げてビームに変えると、建物を破壊して外に出る。
 どこに手足があるのか器用に穴のあいた壁をこじ開けると、田畑を横切ってビルや建物がある方向に移動し始めた。
 そいつは、ダモクレスになってしまったのである。


「とある県の蔵に眠っていた家電製品がダモクレス化します」
 セリカ・リュミエールがカタログと地図を手に説明を始めた。
 郊外ゆえに幸いにも被害は出ていないが、モクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうだろう。
 その前に現場に向かいダモクレスを撃破して欲しいとのことだ。
「このダモクレスは家庭用プロジェクター。あるいはプラネタリウム。一般的にはナイトシアターと呼ばれる機械です」
 構造的には学校の教材に使われるプロジェクターや、プラネタリウムと同じ仕掛けである。
「能力的にはバスターライフルを使うレプリカントの方が近いと思います。手足は無い様に見えますが、一応格闘は可能ですので注意をお願いします」
 形状は良くあるビデオに、8ミリカメラを取りつけた様な形をしているそうだ。
 カメラに似た投影機で専用のシートに投影するのだが、最新版では白い壁やカーテンなどにも可能な用に香料調整されており、旧型はお払い箱になってしまったのだろう。
 もしかしたら単純に壊れてしまったという可能性もあるが、だからといってダモクレスを放置出来る訳がない。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスを放置できません。被害が出る前に対処をお願いします」
 セリカはそういうと、資料や地図を皆に渡して出発の準備を整えるのであった。


参加者
虹・藍(蒼穹の刃・e14133)
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)
尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)
葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)
神桜木・光理(雷光剣理・e36081)
荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)

■リプレイ


「しかし、見渡す限り田畑だらけか。……戦闘後にコーヒータイムといきたかったのだが」
 アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)がアンニュイな表情を浮かべた。
 つい最近まで村でしたと言わんばかりの光景で、牛馬はともかくトラクターが居ない方が不自然なほどだ。
 まあ冬だからというのはあるだろうが。
「ちゃうちゃう。ちゃうんちゃう?」
「い……ぬ?」
 葛之葉・咲耶(野に咲く藤の花のように・e32485)が片手を振って否定すると、真面目なアンゼリカは初歩的なギャグに引掛った。
 翻訳すると否を二重にする事での否定強調形、要するに異なる意見がありそっちの方では無いだろうか? ということなのだろうが判り難かったようだ。
「逆ちゃうんゆうことぉ。場所が郊外で良かったねぇって。人里でなってたら大変なことになってただろうにぃ」
「そういうことなら了解した。無力な人々が傷付くべきじゃない」
 郊外だからこそ、被害が出ない、間にあう事も出来たと言っているのだ。
「幸いにも周囲に人影無し。被害が出ない内に、お片付けしてしまいましょう!」
「今なら避難誘導も必要無いからな。倉庫から出た所を迎撃できれば言うことはないが」
 虹・藍(蒼穹の刃・e14133)と尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)は周辺を巡って来ており、簡単にではあるが状況を確認して居る。
「しかし、家電製品のダモクレス化というのも不思議なものだな……。分かりあえれば、人になれたりするのだろうか、それとも、やはり残留思念みたいなもので成仏してしまうのだろうか……」
「どっちかというとぉ、ミミックゆうか付喪神の方が近いんちゃうかな」
 ユズリハは咲耶の言葉になるほどと頷いた。
 確かに包丁や針箱のような付喪神ならばミミックのようだし、亜種として機材がそのまま形になった奴が居てもおかしくはない。
 仲間が連れているサーヴァントを眺めながらそう思った。
「安らぎを与えるつもりが、用途が真逆になったわけだね。おっと……寝ぼすけ君がおきたようだ」
「家庭用プロジェクター……いいですね。家にあったらちょっとロマンチックな気がします」
 藍は上空から崩れた建物を指差し、あそたにダモクレスが居ると皆に教える。
 そこからは内部から強烈な光が漏れており、神桜木・光理(雷光剣理・e36081)は思わず溜息をついた。
 壁や雲をスクリーンに光は星座の形を刻んで居たのだ。

 気が付けば敵は生け垣を越えて外に出ようと……。
「……さすがにダモクレス化したものはいりませんけどっ。動き出す前に迎撃しましょう」
「よぉし、今回も頑張って被害が出ないようにするからねっ」
 光理は咄嗟に回し蹴りを放つ。
 まだ敷地からは完全に出ておらず、場所を固定する為に動いたのだ。そして咲耶に場所を譲ってその場を離れることにした。
「雷纏いし精霊を、振り切れぬ物はないと知れ!」
 咲耶は作り置きしておいた御札の内、一番当て易そうな攻撃を選ぶ。
 封印しておいた雷を解き放つと、冬の寒さを忘れさせるように紫電が元気に弾けて消えた。
 気が付けば敵中に飛び込んでおり、バリバリとまとわりつく様に放電して居る。
「捨てられたことに憤りはあるだろう。……しかし、君を放っておく訳にはいかない」
 ここでユズリハは踊りかかると鉄塊の様な刃を強引に押し当てて視界を塞いだ。
 そして全身を使って大剣を振り回し、手痛い一撃を浴びせて注意を惹きつけることにした。
 この一撃こそは我が一撃、お前を倒す脅威であると告げながら。


「出来るだけ陣形を作りながら戦おうか。さぁ、黄金輝使がお相手しよう」
 アンゼリカは翼を半開きにすると滑空しながら飛び蹴りを放つ。
 ズズンと鈍い音を立てて、ダモクレスは吹っ飛ぶのではなく僅かに後ずさった。
 的確だが軽い攻撃、どちらかと言えば動きを止める為に間髪いれずに蹴りを浴びせたのだろう。
『プロ・ジェク・ター!』
「プラネット・シアターってちょっとおもしろそうですね。ぼくも欲しい気がします」
 ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)はフローラルな香りに包まれながら、太陽の様にまばゆい閃光をその身で受け止めた。
 スンスンと鼻を鳴らしてみると、敵が居る辺りから薫って来る。
「寝る前に星を見ると落ち着いて眠れそうです。ちょっと待っててくれたら知り合いに直してもらって持ち帰ってあげてもよかったですのに……」
 空きスペース、あるいは倉庫の周辺に香料を置いたのは持ち主だろうか?
 やはりベットに一台欲しいなと思いつつ、ユリスは鼓動を速め『ひつじが一匹ひつじが二匹』と吠えることでその身に受けた痛みを跳ねのけて行った。
「あんたもかつては家族の団欒の中心にあったのだろう。しかしこの期に及んでは是非もない」
 そんな中で椿木・旭矢(雷の手指・e22146)はハンマーを担ぎ、フェンスを蹴って大上段に構えた。
「思い残したことは多いだろうが元に戻ったからといって、帰って役立てる場所があるでなし。せめて引導を渡してやる」
 怜二の顔は無表情であるが、その勢いは非常にダイナミックだ。
 顔色が変わらないからと言って心が動かない訳ではない、目は口ほどに物を言う……というが手はもっと自己主張をしていた。
「今だ!」
「フン。戦機だということくらいは判っているさ。このハンマーで、その機動力を奪ってやろう」
 怜二が視線と共に声を上げると、荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861)はその手の中にある鉄槌を振るった。
 ドーンというけたたましい音と共に、ダモクレスの周囲が揺らぐ。
「さぁ、行くぞ柘榴。サポートは任せたからな」
 怜二はそう言いながらミミックの柘榴にも攻撃を掛けさせ、この機とばかりに攻撃を叩き込んで行く。
 やはり壁役では無い分だけ、こちらの攻撃は通り易い様だ。
「とはいえ面倒な能力を持って居るのは確かなんだよねー」
 藍は雷電の結界を張った後、嫌そうな顔をして敵の動きを見守った。

 何しろダモクレスが、ただやられてくれる筈が無い。
『ラ、ラ、ラ、ラ、ラーイット!』
 先ほどのまばゆい光線が太陽であるならば、無数に放たれるソレは星屑にも似ていた。
「あーっもう。やっぱりー~! 癒しをくれるはずのメカが、何故こんなものをまき散らす程凶悪になったのか!」
 藍は苦笑するとロッドを一回転させて、もう一枚結界を重ねることにした。
 今度は盾役への防壁というよりは、襲い掛る脅威を跳ね返して癒す行為が主体だ。
 なにしろダモクレスは前衛全体に攻撃を浴びせかけており、威力はともかく邪魔っ気で仕方が無い。
「迫力もあって綺麗で……。これで敵でなくて、この場が仲間内の上映会だったら最高なんだが」
「そう思わなくもないけど……。でもその時ってコレと出逢ってないか、別の敵と戦ってると思うわよ」
 ユズリハは籠手で光を弾いた後で、光理と呼吸を合わせて飛び込みトーラスキックで跳ね上げると斧で殴り飛ばさせた。
「すまないなシオン。もうちょっと我慢しておいてくれ」
 そして箱竜のシオンに向き直り声を掛ける。
 藍が一応治療してくれたとは言え、ジャマー相手では負荷の全てを一度に払えると言う訳ではない。
 運不運もあるので、今はカバーに成功しただけ良しとするほかあるまい。


「キヒヒ。だぁ~いじょうぶぅ?」
「ええ、問題ありません。元々ぼくらの役目は攻撃じゃないですしね」
 咲耶は懐から大福帳を取り出すと二枚ほど千切り取り、片方に込めていた気を移すと同時にもう片方へ負荷を封印する事にした。
 それを見てからユリスも動き出し、カカトを合わせて白い靴を打ち鳴らすと踊りながら風を呼び込んで行く。
「受けるのがこちらだけとはバランスが取れないな。お返しだ。螺旋の氷よ、敵を凍えさせよ!」
 怜二は握り込んだ拳にグラビティを載せてゆっくりと指を開いた。
 順風と逆巻く風の二重螺旋が冷気を乗せて、ダモクレスの体を蝕んでいく。そして霜が走ったボディをナニカが走り抜けた。
「あまり足掻くな。その方が楽だぞ」
 それは旭矢の放った雷。掌を天に掲げると数多の稲妻を呼び寄せ繰り出したのだ。
 戦場を覆う様に幾筋の雷電が駆け抜け、その姿はさながら手指で敵を掴み取るかのようである。
 ケルベロス達は受けたダメージをそっくり返すかのように、怒涛の攻撃を見せる。
「見えた! ……そこだッ!」
 アンゼリカはライフルを構え、畳みかける様に凍結光線を放った。
 それは突き抜けるかと思われたが、途中でダモクレスのとある部位に命中する。
 この個体はフラットな分だけタフネスだが、動きがそれほど良くないこともあり上手く当てられたようだ。
「ふふ、綺麗に命中……さて、効果はどうかね?」
 その時、アンゼリカはあっと言葉を漏らした。
 見慣れた光が周囲を包み込んだからだ。
 獅子座に乙女座に天秤座、蠍座に蛇使い座に……と星座が周囲を埋め尽くす。
『ラ、ラ、ラ、ラ、ラーイット!』
「同じ技か。当たらなくなるまで繰り返しそうだけど、無理に試す程じゃないかな」
 アンゼリカは念の為にカバーに入る盾役を見て、試すのは一度だけで良いかと納得した。
 そして崩れた倉庫では無く家屋の屋根に駆け登り、高度を活かして飛び蹴りを食らわせて行く。

 さんざめく光の波と流星の如き姿が交錯する。
 壊れかけたスイッチが動くたびに、記録された様々な映像が画像を結んでは消えて行く。
「……君の終わりを、私が見よう」
 ユズリハは消えゆく思い出を前に、失われた機能を視る力を使うことにした。
 既に動くことの無い本来の眼で垣間見て、ダモクレスの動けない部分を視ることで同異を果たす。
 ユズリハの失われた目が視ることにより対象の運命を固定する。地獄によって観察され続けたダモクレスは、回避する事もかなわずに無明の闇の中に生命力を奪われて行くのだ。
「結構行けてるかな?」
「しかし奴の力は面倒だ。長引かせてはいられない」
 繰り返す戦いの中で、藍が輝く翼を広げたり雷電の結界で癒していく。
 有利になって来たかな。と口にする彼女の眼を視、その言葉に頷きながら、旭矢は雷撃より回し蹴りに比重を移して行った。
 敵は範囲攻撃と妨害能力に長けており、こちらでメインアタッカーは彼だけだ。
 運が悪ければ自身の力が封じられている間に、逃げられてしまう可能性もあるだろう。
「それもまた修行……と言えたら良いんですけどね。万が一にも被害者を出すわけにはいきませんから微妙なところです」
「僕らの手が届く範囲でなら、なんとかするんdねすけどね」
 光理は再び回し蹴りで相手の動きを抑え、ユリスは自らを蝕む負荷を含めて風に載せて吹き払って行く。
 後少し、そうは思いつつも決定的な時が訪れるのをジっと待つしかなかった。


「ひゃあ! 何とかなったよぉ」
「すまんな。そろそろ終わりだとは思うんだが」
 おっかなビックリ庇ってくれた咲耶に怜二は霊を口にした。
 それまでダモクレスはこちらの前衛を倒して包囲を排除しようとしていたが、ここ暫くは倒せそうな相手を狙う事が多かった。
 突破が難しいと諦めて、倒せる相手を狙おうと思っているのだろうと推測は出来る。
「交渉もできん、倒すだけとはいささか残念だ。何とも悲しい事だが、これ以上の悲劇は許す訳にはいかないな。倒してしまうとしよう」
 怜二は戦況が落ち付いて来たことで、最新の道具に駆逐された元ハイテク機器に思いを馳せた。
 とはいえ度を越して同情するほどではなく、気を引き締めるようにハンマーを握り油断をしないよう心掛ける。
 そして仲間達と共に追い込み始めた。
「回復は要る?」
「あたい自分でやっちゃったよぉ」
 藍が尋ねると咲耶は御札をひらひら、気力は十分に回復して居ると答えた。
 ならば回復は不要かと、真っすぐ指先を天に掲げる。
「じゃっ防壁積むより攻撃した方が早いかな。……貴方の心臓に、楔を」
 指を鉄砲の様に固めた藍は、脳裏に楔を思い描いてダモクレスを指差す。
 そして虹色の輝きを持つ弾丸を、星と重力の力で生成してダモクレスの運命に重しを載せた。
「このまま包囲体勢を崩さない様にいこう。そうだ逃さないとも。この一刀で……両断するッ」
 アンゼリカは走り込んで愛剣を振りかざすと、再び四大の力を集めた。
 そして相手が防御する手前で飛翔すると、一気に降下して来る。
「希望に満ちた明日の夜明けを告げる鐘。そうだ、これが――……光だ!」
 光を用いることで身の丈以上のブレードを形成、アンゼリカは輝く刃を振り降ろした。
「もういっちょ! ですよ!」
「都合三丁、いや四丁というところか」
 続けざまに光理が斧を浴びせて右側に、ユズリハが蹴りを食らわせて左に避ける。
「こいつでトドメだ!」
 最後に旭矢が赤き日輪を振り落とした。
 さながら陽が落ち夕焼けに染まるかのようで、怒涛の四連続降下攻撃によってダモクレスが叩きつぶされたのである。

「……終わり、ましたでしょうか?」
「今回も無事に勝利を収めることができたね。ダモクレスの侵攻も終わらないが。負けてられないな」
 念の為に待機していたユリスが、動か無い残骸を見て溜息をついた。
 アンゼリカはそれに応じながら、剣を収めて戦いを終える。
「そうだな。……あっ」
「どしたん? 何か危ないことあったぁ?」
 旭矢が小首を傾げていたので、咲耶はつきあって小首を傾げて尋ね返した。
「いや、な。戦いを手早く終わらせることに夢中で、うっかり畑を荒らしてしまっていないかと思ってな」
「ならヒールしてから見まわろうか。ご近所さんにも挨拶して行きたいしね」
 旭矢の言葉に藍が笑って応じた。
 戦闘音を聞いて心配になっている人々に声を掛けるついでに見回るくらいはなんでもない。
「残骸処分とヒールを手分けして片付けるぞ。寒くなって雪が覆い隠さないうちに調べよう。天井とかはヒビ一つで大変だからな」
「じゃあ空から見て回りますねー」
 怜二が声を掛けると、光理は空を飛べるので上を指差した。
「これも出逢いなのでしょうけど、ちょっと勿体ないですね」
「誰かの思い出と共にあって、過ごした機械。失われるのは惜しいが……直せば、使えないかな」
 ユリスが欲しかったかもと寂しそうに残骸をつつくと、ユズリハはその中から幾つかを取りあげて修復して行く。
 ヒールは変異するので元には戻らないが、基本的な機能であれば残るかもしれない。
「それにしても、お払い箱になった上にダモクレス化かぁ……。帰ったらしばらく使ってなかったあれこれを使ってあげようかなぁ」
 咲耶はその光景を見てほっこりしながら、建物のヒールを代わりに担当することにした。
 そして一同は雪の降る田畑の中にある古い自販機で、ベトナムコーヒーやらアニメの限定デザインのコーヒー見付けて温まりながら帰還したと言う。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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