花絵馬に願いを

作者:東間

●願いの花
 次のテストで平均90点以上取るぞ、と書かれた八重桜。
 街コンで素敵な人と出逢いたい、と書かれたピンクのチューリップ。
 今年もみんなと笑顔満点で! と元気に書かれているのはデイジー。
 他にも沢山の花が咲くそこは、庭園ではなく雪に覆われた緑濃い神社の中。数多の願いが奉納される絵馬掛所。
 世界各国かつ四季折々の花でいっぱいのそこは、常に不思議な華やかさと色彩に満ち、冬になれば真っ白な雪も加わってより幻想的になる――筈だった。

●花絵馬に願いを
 年が明けて数日経ったある日の夜。人々が寝静まった頃に響いた轟音。
 飛び起きた人々が何事かと外へ飛び出すと、巨大なシルエットがずしんずしんと遠ざかっていき、その巨体が神社に繋がる4本の橋全てを崩落させていたという。
「『破壊された橋をひとの手で何とかするには時間が掛かるし、花絵馬の奉納が止まってしまうのは参拝客や神様に申し訳ない』っていうのが、ヒール依頼が来た経緯と理由だね」
 君達が一丸となって当たれば、そう時間は掛からないと思うよ。
 そう言ってラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)は微笑み、手元のタブレットを操作して――見上げる視線に気付くと、少し屈んだ。
「どうかな」
「お気遣いに感謝よ。……まあ、素敵」
 穏やかに尾を揺らした花房・光(戦花・en0150)の目が、画面を見て静かに煌めいた。
 丸い形をした絵馬の中心に、繊細なタッチで描かれた花が咲いており、その大きさは掌から少しはみでるくらい。花の咲いている面が表で、裏には願い事と、自分の名前や住んでいる場所を書き記す事になっているそうだ。
「公式サイトの説明を見ると、教育関係は八重桜、『幸せ』関係なら蒲公英や福寿草、ピンクのチューリップがお勧めです、って……ああ成る程、花言葉に因んでるんだね」
 健康や友情のマリーゴールド。
 門出を良きものにしたいと願うならスイートピー。
 平和ならデイジーか、希望という花言葉も持つガーベラも、という具合になっており、絵馬所では各花絵馬に花言葉が添えられている為、詳しくない者でも安心だ。
 奉納後、冷えた体を温めたい時は境内にあるお茶処がお勧め――というのもまた、公式サイトからの引用で。お茶や甘味類に舌鼓を打ちながら、『新しい1年』について話に花を咲かせても楽しいだろう。
「さて、君達は何を願う?」
 自分の事、誰かの事。
 何かひとつだけ咲かせたいとしたら――。


■リプレイ

●咲
 紗更はマリーゴールドへケルベロスであるが故の願い、『無病息災 武運長久 友情壮健 紗更』を綴り、椿姫さまはと訊ね、帰ってきた答えに目を瞬かせた。
 大切な人の帰りを願う桔梗には、『紗更さんがご無事で帰って来てこれからも一緒にいられますように 椿姫』の字。
「でもね、最後はうちのお願い事なんよ」
 ずっと傍にいられたら。もう1つの花言葉は内緒のまま、椿姫はもう1つ願った。
「また一緒におでかけしたいな」
「ええ、また一緒にお出かけいたしましょう」
 今年は始まったばかり。たっぷり1年、2人で共に素敵な思い出を。

 好きだから選んだ桔梗の花言葉は変わらぬ愛。真っ赤になり慌てた瞳李だが、アッシュの一言で彼の『母』が浮かぶ。ああ、何てピッタリ。
「そう言えば、住所はどこを……え?」
「んなもん、悩む必要もねぇだろ」
 鮮やかに取られた絵馬を取り戻せば、書かれた住所はアッシュの家。照れ隠しに、男の選んだ桜欄の可愛らしさが子の成長見守る父のようで丁度いいと笑む。
「……まぁ、なんだ、同感とかの意味もあるからな」
 人生の門出は、留守番する誰かさんの為でもあり。気付いた瞳李の顔は真っ赤だ。書きかけていた願いは『岡止々岐の形見と共に』。それを。
「見るなって言っただろ!」
「見ないとは言ってないからな」

「毎日うまいメシが食べたい! とかかなあ。ラウルは?」
「何気ないこの日常が続きますように、って」
 どちらの願いも、真に想うささやかなもの。
 口許緩めたラウルは、そう書かれた紫のアネモネへ『君を信じて待つ』自分の処へ帰ってきてと願いを忍ばせ、シズネも向日葵に負けないバランスで書いた後、住所で詰まった。
「……なあ、らうるのいえ、って書いていいか?」
 今の仮宿にずっとなのか、何時かまでかはわからない。けれど少しだけでも――今だけでも。
「勿論!」
 帰る場所が、帰りを待ってるひとが在る。願いは、思うより早く咲くかもしれない。

「でーきまーしたー!」
 リリウムが1番好きだからと選んだチューリップには、ただ皆が楽しそうなら嬉しいからと、混じり気のない無垢がこもった願い。たのしいことがたくさんありますように、という願いの横に並んでいた『幸あれ』が、纏の手で菊の花咲く面を向く。花言葉は、あなたはとても素晴らしい友達。
「わたしの素晴らしい友達たちに幸あれってね!」
 得意気な顔にほんのり照れが混じった隣、澪は希望を抱いた白のガーベラに手を添えた。
「私はこれです」
 今年も素敵なことが沢山ありますように。それはリリウムと纏、2人の未来に対する願い。
 少女達は互いの花と願いに顔を綻ばせ、仲良くお茶処へ。3人並ぶ様は絵馬掛所に咲く花にも負けぬ麗しさ。

 キースの盗み見ごめんなさいの礼に倣ったイェロは、ふいに『詳しいのか』と問われ、それ程じゃないと言って蒲公英を示す。あの花に込められた想いや願いは、花言葉と同様に1つだけではなさそうだ。
 感嘆の声と共に頷いたキースの口元が綻ぶ。片手間に調べ、知れば、また。蒲公英に触れ、耳を欹てての内緒話の後、ん、と差し出された手をそのまま握り混もうとしたイェロにキースは微笑みかけた。
「おすそわけ」
 綺麗で素敵な、神様への手紙からの、『幸せ』の。
「俺ばかり貰ってるのもね。キースにも、おすそわけ」
 全てを運ぶのは時間がかかるだろうから、花がゆるりと咲くように、少しずつ。出来るだけ多くの花が綻ぶよう。そう、願う。

 真心の愛、幸福歌う優しい蒲公英の裏へ亮がさらり連ねた願いは、『彼女に、温もりをあげられますように。――R.Y』。
 共に過ごす日々で大切にしたいもの。誰よりも幸せにしたい。そう想われている少女は、すぐ傍が当たり前すぎる誠実な愛を、幸福を忘れぬよう――そして今以上に、大切にするのと決意して、チューリップの裏へ全てを丁寧に込めて綴ったのは『彼の手を、ずっと繋いでいられますように。――A.D』。
「一緒に並べて、飾ろうか」
「うん、並べて飾りたいわ」
 互いの願いが実るよう。願い宿った春の花が仲良く咲いた。

 【おはよー】の面々の心を満たすのは、皆で共に過ごして迎えた、幾つもの季節の、色んな朝。眩しい朝の光。家族以外からの『おはよう』の温もり。美味しくて、賑やかで、優しくて。いつでも誰かが其処に居た。
 澄んだ空気の中で思い出した朝は全員に笑顔という花も咲かせ、門出の朝から手繰る新しい朝の景色も紡いでいく中、朝希は奉納前に皆の絵馬も見てみたいと提案する。
 皆が眩い朝を迎えられるよう、ベーゼが隠したままの『希望』は鮮やかなピンクのガーベラ。ミルラが、これまでのように『沢山の小さな思い出』をこれからもまた、と祈ったのはカランコエ。
 『幸福が飛んでくる』ように沢山楽しい事が起こるよう、シィラが明るく綴った胡蝶蘭に、自分達が得た縁も幸福も『不変』であるようウーリが願った釣鐘草。
 オズは『優しい思い出』を胸に良き『門出』をとスイートピーに望み、クラレットからは、どこへ行こうと『どこでも良い果を』届けてくれそうなネモフィラが。
 目覚めの世界がこの色に輝くよう、アイヴォリーから『希望』託されたのは白のガーベラで、神より一寸だけ近い場所から皆の『守護』を思うオルテンシアは、紫のブローディア。そして、蔓で『絆』を遠く長く結んでくれるだろう、朝希の朝顔。
 集まればそれは、門出の朝を祝う花束のように咲き誇っていて。
 鮮やかな、新しい朝に込み上げた滴も、ツンとした鼻の奥もそのままに。
 『ありがとう』と――『おはよう』を。

 共に見て語り合った花、朝露の魔法で透き通る山荷葉は清楚で凛々しい志苑とよく似ている。
 花を手にした夜からの讃辞に、志苑は名と同じ音持つ花を持ったまま礼を言い、恥じぬよう身を引き締めて。そんな彼女がいつまでも気高く咲き誇り、手にした刀の重み、信念、志に負けぬよう。そして。
「志苑の望みが叶うよう。其れが俺の願いだよ」
 言葉に、記されたものに少女はそれで良いのかと問うた。山荷葉の花言葉は『幸せ』だったから。
「では願いはあなた含め友の幸せです」
 皆の幸せなど到底難しい。だからこその希望。それに。
「2人分の願いなら少しは届きそうではありませんか?」
「……そうだな。きっと叶えて見せよう」
 優しい提案に微笑みが、花が寄り添う。

「優菜ちゃんは何にする?」
「私は梔子です。とても良い香りのするお花なんですよ」
 自分の気持ちや存在が探偵さんにとって喜びとなれるよう。花へ秘めた願いを知らない堅和はアングレカム咲く面を見せ、閉じていた片目を開くと『いつまでも一緒に 東京都 Y.H』と記した。
 『大切な人がいつも幸せでいますように 東京都 優菜』と書いた少女は、花言葉そのままの願いの相手は誰なのか問うが、大切な人を教えてくれたらと返される。その謎を解き明かすのに必要なのは、そう。
「じゃあ」
 差し出した小指に小指を絡め。いつか2人、答え合わせを。

「ヤトルはなんにしたの? これに願い事を書く訳だけど、覗いたり見たりしたら駄目だからね?」
「由美さんは……早っ! どんな願い事を書いたん……あだだだだ」
 覗こうとしたヤトルへ由美のアイアンクローが見事に決まる。これは――ずっと隣にいられますように、は口に出さないから叶うもの。故に覗いてはいけない。
 何ならあたしが覗いちゃおっか。からかう声と共に解放され、ヤトルはそっかと納得顔だが、由美の隣に奉納したベルフラワー、そこにある『隣の人とこれからも仲良くいられますように』を喜んでほしかった。
 そう言えば、以前読んだ図鑑に金盞花の花言葉が。確かと浮かびかけたそれが、彼女の色ともいえる明るさで薄れていった。

 傷みを抱いた数多の人々が、少しでも心安らぎますよう――しっかりもう一度願う氷翠の手には、幸せの花言葉持つ杜若。
 『不運があった方々が、少しでも元気になれるような幸せが訪れますよう。幸せと受け止められますように』と綴った花絵馬を掛けるその目に光が映った。どの花にしたのか訊いてみれば、これよと示されたのはガーベラで。
「常に前進っていう花言葉も持つんですって」
「希望だけじゃ、ないんだね」
 『これからも精進を重ね、強く』と願ったらしい。氷翠は新しい花言葉を刻みながら、その願いが叶うよう祈った。

 本当の気持ちは名付けるのも怖くて秘密のまま。それを知っているのは涼香自身だけ。けれど。
(「神様にはお見通しだったり、するのかなあ」)
 友情のミモザへ、『会いたい』――は、やっぱ無し。止め。
「これ位なら、いいかな。ね? ねーさん」
 肩に乗った翼猫の目に映る願いは、『元気でいてくれますように』。

 如月の願い事は花絵馬の数に負けず劣らず。迷う乙女心に萌花が色々勧めていくうちに出た答えは、何と『どれも叶えられるお願いにすればいい』。
 萌花。弟妹達のいる家。お裾分けくらいしないと怒られそうなほど、自分はいっぱいの幸せを持っているから。
「私の幸せを、大好きな人皆におすそ分けして、後押しできますように。東京都、K.K……っと」
「きっと、叶うといいね」
 勧めたガーベラへ綴られた優しさに萌花は思わず頭を撫でた後、白薔薇の絵馬、その端に小さく東京都とイニシャルを書き入れ――チュッ。
 花と一緒に咲いた口紅の跡に、そういう絵馬は聞いた事がないと如月はどきどき真っ赤。青い目が悪戯に笑う。
「だって、言葉に出来ないものもあるでしょ?」

 ドコかのダレかが咲かせた様々な花が咲き誇る景色は、現実には有り得ない中々の面白さ。それがキソラは気に入り、混ざってみようかと気紛れを起こすも疎い為にピンと来ず。
「あ、光ちゃん。いいトコに」
「ライゼさん。どうかしたの?」
「花詳しいんだって? ああウン、ツレにそう聞いて」
「力になれるなんて光栄だわ。と言っても本の受け売りだけれど……」
 はにかむ少女に家族のコト、と伝えれば、それならこれがと渡されたのは紫の花。礼を言ってペンを取り、走らせたのはただ1文字。『S』だけを抱いたセージが、花畑の中に咲いた。

 『もう一度、逢いたい』『JIN、沖縄』と書いた花絵馬を、陣内はただ、見る。
 叶った所で何をどうする。相手は死者だ。それでも――忘れたつもりでいた過去なのに、傷覆う瘡蓋を剥がすように、ふと思い出してしまうと。
「逢いたいよ、……姉さん」
 零れた言葉に口を歪ませ、他の花で被せるようにして納める。
 肩に乗った翼猫の鳴き声に陣内は何も返さない。足早に、振り返らず去った後には、黄色い木香薔薇が咲いていた。

 『――が長く生きられますようにー』。自分が『それ』を願う事は『愚か』で『無分別』でも、ホリィは願わずにいられなかった。
 涙形の実りと死の香りをもたらす薄紅色のアーモンドでも、こうして無事奉納出来たという事は、神まで繋がり、許して貰えたのかもしれない。
「叶うと良いなー」

 今年もユスティーナと沢山思い出が作りたい。そう言ったメリルディがマリーゴールドを選べば、ユスティーナは『門出』のスイートピーを前にペンを掴む。日々時が、様々な事が過ぎてもそれで終わりという事はない。例えば。
「ユナとわたしが仲良しだっていうのは変わらないんだから」
 視線に気付いた陽色のように変わらないものが。新しい出会いがある。
「……よし。お互い、年の瀬にはいい年だったねって言えるようにしていきましょうか」
「年末には忘年会して、年明けたら初詣とか絵馬の奉納、行こうね」
 湿っぽい事は終わりにして、早速、花絵馬の御利益を感じよう。

 参拝そのものが人生初というウルトレスにコマキは1つずつ丁寧に教え、共に進んでいく。けれど男を待ち構えていた試練はもう1つ。肝心の願い事が、思いつかない。
「コマキさんは?」
「私はお店の繁盛を。それともう1つ」
 海外では牡丹に『必ず来る幸福』という花言葉もあるのだと、コマキは花を手に微笑む。
「UCさんにも、すっごく良いことが来るはずよ」
 暫く楽しげな姿を眺めた後、ウルトレスはオキナグサを取った。今過ごしているこの時間が自分を満たしていく。だから『何も求めない』この花がいい。
「UCさん。手、繋いで帰りましょ?」
「ええ」
 幸福が、早速ひとつ。

「えへへ。きみのための花だよ」
 笑顔の棗に見せられた桔梗の花言葉。確認してみれば。
「……キミらしいけど、恥ずかしいやつ。――僕はコレにするよ。意味はキミには秘密だけど」
 書きにいくよと引っ張られ、棗はナズナの花言葉を確認出来ぬまま綴と共にペンを走らせる。きみとずっと一緒に居られますように。くっつく狐とオコジョも描き添え、耳をぴこぴこ満足気に揺らす間も願うのは綴の事。
「つづるんは書けた?」
「書けたよ。……知ってた? 願い事って人に知られたら叶わないんだよ」
 何処かで聞いた話を伝えながら絵馬を掛ければ、その隣には桔梗。棗が離れていかないように。今願う唯一は、隣に知られぬ侭。

 つい思い出した未だ帰らぬ姿でサイファの胸は少し疼いたが、白薔薇を手に、溢れんばかりの尊敬と思いに一点の曇りはないと思いを馳せる。今年の抱負でもと書いた丸には『トゲトゲしても楽しいことないし、刺さらず尖らず、ポジティブ思考で!』と――。
「色々詰め込みすぎ?」
「何がかしら?」
「コウ! ね、どんな絵馬選んだの?」
 首を傾げた少女がガーベラと答えれば、サイファは光らしいと嬉しそうに笑い、自分の白薔薇を見せる。弾むような玄人の声が、絵馬掛所に咲いた。

 蒲公英、ガーベラ。隣の花、わかなに安心を覚える陸也の横、わかなは『幸せな家庭』の苺に頬を染める。絵馬選び真っ最中な恋人の顔を盗み見れば、その目は綺麗な藤へ。
「花言葉は『決して離れない』か。良いな」
「私は……うん、カランコエにしようかな。たくさんの小さな思い出って意味なんだよ。これから陸也くんとたくさん思い出作りたいしね♪」
「良いな、それ。今日もその1つってわけだ」
 大切な人とずっと一緒に居られますように。
 明日も良い日でありますように。
 願いを書いた恋人達は、胸にもう1つ決意を秘める。あなたを守るという、告げなかった花言葉。そして。
(「わかなの母親にも一遍挨拶しねーとなぁ」)

 現状が最良だからと、レオンはヒヤシンスに『無病息災、健康第一』と普通を願った。
 もっと欲張ってもと不思議になったユタカだが、花言葉を聞いて納得する。あなたとなら幸せ。ああ、成る程。
「このロマンチストめ!」
「痛い痛い! もそっと優しく優しく! ……んで、君はどんなことを願ったの?」
「拙者はレオン殿と違って欲張り故、願い事をしっかり書かせて頂いた! じゃん!」
 誕生花でもある福寿草に込めたのは、相棒、友人――それから勿論、レオン。そんな『大事な人と、ずっと笑顔でいられます様に』。
 奉納後に少し冷えた体や冷たい手は、2人お茶処へ行けば万事解決。温かい茶と沢山の団子が、2人を待っている。

●温
 花当てから漂う気安さ溢れる2人の会話、そのお供はもちもち汁粉2人分。で、どっちだとサイガが訊けばラシードの指がバーベナを指す。
「あそ」
「君は?」
「まあ俺の分も叶えてどーぞ。あーやっぱさみぃ日はぬくいモンに限んな」
「じゃあそういう感じのを勝手に」
 どーぞと返し、ズズズッと汁粉啜るサイガは何も咲かせていなかった。賑やかし程度に青薔薇を咲かせる必要がないくらい、あそこには沢山の『誰かの本物』が溢れていたから。

「リルは絵馬に何を書いたのかな」
「ボクたちが幸せな夢を見続けれますように。桃色の霞草の絵馬でそう願ったよ」
 そう言えば自分も『偶然』空を見上げ、兄と慕うイサギと出会えた。
「神様に感謝しないとね」
「私はね、『瑪璃瑠が中学校で、良き友と教師に出会えますように』と八重桜の絵馬に書いたよ」
 昔と違い、『偶然』という奇跡を起こした神を信じられるくらい、自分はもう存分に報われたとイサギは微笑む。1番の願いは宝物に等しい日々が恙なく続く事。
 新しい環境でもそんな『偶然』と出会えたらとても素敵だ。瑪璃瑠は礼を言い、首を振る。自分も同じ、だからこそ。
「もっとずっと兄様にももらった幸せを共になんだよ」

「そういえば2人は何を願ったんだ? 俺は蒲公英に家内安全を」
 ヒエンは団子独特の不思議な食感を味わいながら問い、決めるまで時間が掛かった事に苦笑い。汁粉に舌鼓を打っていたざくろは大丈夫だと首を振り、撫子に成長を願ったと微笑んだ。
「後悔の無いように、思い切り良くなりたいなって」
「どんどん新しい事に挑んでいけるといいな」
 三色団子を一玉ずつ味わっていたアトリも、相槌を打った後に口を開く。
「マリーゴールドに無病息災をお願いしたよ。何はなくとも、健康で1年過ごせたらそれが1番だからね」
「まあ体が資本だし元気にこしたことはないか」
 家内安全も健康も大事な願い。ざくろは頷き、決意新たに汁粉をまた一口。すると固めたばかりの意志が甘味と共にほわほわ心地へ。これを食べ終わってから頑張り始めても、の呟きに男はククッと笑みを噛み殺し、少女も同意しまた一玉。
 今はただ、ゆっくり、ゆったり――時を咲かせて。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月30日
難度:易しい
参加:52人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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