ユーデリケの誕生日~寒いときはやっぱコレ!

作者:あき缶

●お誕生日じゃー!
 本日はユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)の誕生日である。
 だが、当人は。
「うーーーー、寒い」
 地球のやたらめったらな寒さに縮こまっていた。
「寒いのじゃー、服をもこもこ着ても寒いものは寒いのじゃぁー」
 と街中でぶるぶる震えるユーデリケは、ふと一枚のポスターを見つける。
「……絶景とともに楽しむ体の芯まであたたまる足湯……?」
 こ、これじゃ!! と彼女は天啓をうけたかのように叫び、ヘリポートへと走った。
「皆、足湯! 行かぬか!」
 というわけでユーデリケが誘ってきたのは、山の上にある足湯であった。
 山の上からの眺望を楽しみながら、温かい湯に足を浸けて楽しめるというもの。
 茶屋が併設されており、温かいゆず茶やココア、コーヒーなどの他、アイスやパフェ、一口シューなどのカップに入ったスイーツを飲食しながら楽しめる足湯だという。
「寒いときはやはり、風呂が一番じゃろう!」
 ユーデリケは自分なりに良い施設を見つけたものじゃ、と自画自賛しながら、一緒に行く人を募るのだった。


■リプレイ

●あたたかくつつむ
 爽やかに冷たい山の風は今は弱く、太陽は青空の中で穏やかに熱を伝えてくれる。
 広大な緑の景色に、とぽぽぽと優しい湯が注ぐ音。
 大きくも丈の低い浴槽にたっぷりと湛えられた温泉の周りにある椅子に、ケルベロスはめいめい腰を落ち着けた。
 足湯初体験の平岡・晴(紫苑の月纏う・e18786)は桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)に支えられながら、そっとその小さな足を湯に浸した。
「足だけ浸かるお湯、って、何だか不思議な感じです、けど……」
 じーんわりと冷えた足を湯が包んで、体中に暖かさを広げていく心地よさに、ふーっと晴は息を吐いた。
「ぽかぽかしてきて……いい気持ち、です」
 萌花とぴったりくっついているので、山の風も平気な晴だ。
「んー、いい眺め」
 萌花は眼下に広がる景色に頬を緩ませる。
「なんか、こうやってのんびり過ごすのも、ちょっと楽しいね」
 と言いながら、萌花は事前に買っておいたミルクプリンの蓋を剥がす。白くぷるりとしたプリンを匙ですくい、
「はい、あーん。ほどよく甘くておいしいよ」
 萌花は晴の口の中に入れてやる。
「……美味しい、です……♪」
 ふふっと笑いながら、晴は萌花へと身を寄せた。
「おおお! 足しか浸かってないのにぽかぽかっス! すごいっスなぁ、天使様っ!」
 足しか湯に浸かっていないのに全身が温かいことに、ハチ・ファーヴニル(暁の獅子・e01897)はいたく驚いていた。
「……」
 天使様、と呼ばれることに未だ慣れないシグリット・グレイス(夕闇・e01375)だが、もう訂正するのは疲れたらしく、そこは飲み込むことにする。
「足だけと言うが意外と侮れんぞ。第二の心臓と言われるほど実は重要な役割をしている。心臓から送り出された血液を心臓へ送り返すポンプのような役割を担っているんだ。それに体の重要なツボが沢山集まっている」
 腐ってもウィッチドクターというか、彼にしては長々とウンチクを語ったシグリット。天使様至上主義なハチは『おおお、さすが天使様は物知りっスなぁ!』と感嘆してくれるかと思いきや。
「……うん、なんだかその……眠くなるような話っスな!」
 八割がた伝わらなかったようだ。
「……と、難しい話をしたな」
 シグリットも特にどうしても教えたかったことでもなかったので、流す。
「それにしても、天使様は足まで綺麗っスねぇ! 自分の足とは、ほら、大きさもこんなに!」
 とハチは話題転換しながら、己の脛をシグリットの脛にピトリとつけた。湯で温まってピンクに染まったシグリットの足だが、爪はもっと桃色にペディキュアが施されている。
「……ふっ。ハチの足はデカくて逞しい足だな」
 シグリットは蠱惑的に笑い、そっとハチの手に自分のそれを重ねた。
 はわはわしているハチに、シグリットは不機嫌そうに目を眇める。
「……なんだ、何か文句でもあるのか。足は暖かくても手は寒いんだ」
 むすっとそっぽを向くシグリットの耳は赤かった。
「ふふふ、目の前には絶景、隣には愛しの天使様! いやあ、まさに至福っスなぁ!」
 まさしくツンデレな天使様に相好を崩し、ハチはにへにへとシグリットの肩に頭をあずけるのだった。

●おたんじょうびおめでと
 ユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)はウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)に差し出されたプレゼントに、目を瞬かせる。
「ユーデリケおねえ、誕生日おめでとうなのじゃ」
 ウィゼの手のひらにチョンと乗っているのは黄色の愛らしいゴム製アヒルのおもちゃ。
「お風呂といったらやはりこれじゃのう」
「わぁーアヒルちゃんなのじゃ! かわいいのじゃー! ありがとうなのじゃ!」
 ぱあっと目を輝かせ、ユーデリケは受け取ったアヒルをぎゅっと抱きしめて笑顔でお礼を言う。
 アヒルを浮かべながら足湯を楽しもうとユーデリケが浴槽に近づくと、ウェアライダーの中年男性二人にチョイチョイと手招きされる。
 呼んでくれたのは牙国・蒼志(蒼穹の龍・e44940)と斎藤・大吾郎(ウェアライダーの甲冑騎士・e45941)。ふたりともメロンクリームソーダを持っていて、ちょっと愛らしい。
「ユーデリケ君は誕生日おめでとう」
 蒼志が祝辞を述べ、大吾郎が、ほい。と小さなカップケーキをユーデリケに渡してくれる。ケーキには旗が刺さっていて、そちらにも誕生日を祝う言葉が書かれていた。
「おめでとさん」
「えへ! ありがとなのじゃ!」
 遠慮なくカップケーキを食べ始める様子を、二人のおじさんは微笑ましげに見守る。
「可愛いお嬢さんじゃのう、大きくなったらきっと美人になるじゃろうて。将来が楽しみじゃわい」
「そうだな……後五年ほどすれば素敵な女性になれるだろう」
 大吾郎の呟きに蒼志が頷く。
「五年かや……、わしは十七歳になるのじゃな。どんな感じになっておるのじゃろうのう?」
 ユーデリケは自分の『お姉さん』姿を色々と想像する。防具次第では十八歳の格好になれるというのは今は置いておく。
 ケーキもそっちのけで考えにふけっていたユーデリケの頭にポスンと軽い何かが乗った。
「む?」
 後ろをユーデリケが振り返ると、八咫烏・那智(月陽炎・e18689)と菊池・アイビス(さそりの火・e37994)が微笑みながら立っていた。
「ユーデリケちゃんは誕生日おめっとさん」
「君に沢山の笑顔が咲くように」
 そっとユーデリケが頭に乗ったものを外して見れば、冬の花で美しく編まれた花冠。
「ほぇ……冠……!」
 お姫様みたいじゃ! と目をキラキラさせるユーデリケに、那智を親指で指差しながら、アイビスは得意げに訊く。
「こんアンちゃんええ男やろ?」
 こくこくこくっと何度も頷くユーデリケに我が意を得たりとアイビスは頷き、自慢げに那智と肩を組んだ。
「ワシのダチ」
「やだもうアイビス大好き」
 肩を組みながら那智はしまりなく笑った。

●はなしにはなさくだんしかい
 ふーっと深いため息を吐き、レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)は足先から広がる暖かさに、生き返るようだと呟く。
 彼を囲むように、アイビスと那智、そして暁・万里(亡霊・e15680)が足湯を堪能している。さながら男子会である。
「そういえば皆に聞きたい事があったんだ」
 レスターが口火を切ると、全員が耳を傾けるので、少し恥ずかしげにレスターは問いを投げる。
「その……皆、恋人いる? 好きな子でもいいけど」
「おっ、コイバナ?」
 年頃の男なら食いつかないはずがない話題である。
「クリスマスに告白して、晴れて恋人同士になったはいいものの、この先なにをどう進めたらいいかわからなくて……アドバイスが欲しいんだ」
 コイバナというよりはレスターの恋愛相談であった。
「何よーレッちゃんはまーたそないウダウダと。恋人同士なったんやからブチュっとやってスパーンと脱がせ……ぐえっ」
 スパーンとアイビスは万里に容赦なく叩かれた。アイビスが持つココアの水面が荒ぶる。
 涙目になるアイビスの頭を那智は優しく撫でながら、パフェの乗った匙を差し出した。アイビスはもちろんバクっとパフェをいただく。
 那智はクールに言った。
「好きな子? いっぱいいる。だから恋人がいなくて……恋愛に免疫の無い女子にはとても触れられない……」
 別世界の人だよなぁ、と万里はぼんやりと那智の言葉を聞いていた。
 アイビスも言う。
「ん。恋人はおらんが惚れた女ならいよる。……アンタら知っとるやろ?」
「その、ハグとかキスとかタイミングさっぱりで下心あると思われたくないし」
 レスターは真剣な声音で続けた。
「でも遅かれ早かれそういう気持ちを抑えられなくなるときは必ずやって来る。頭で考えすぎて我慢してたらいつか暴走しちゃうかも」
 ニヤと笑い、那智はコーヒーを口に運んだ。
「……できるだけ自然にさ。寒さに震える彼女を『俺がコートだ』ってそっと抱き締めたり?」
 ぶふうっと万里はココアを噴く。しばらく咽せ、呼吸を落ち着けた万里はアドバイスを口にした。
「下心あると思われたくないって気持ちはわからんでもないが、あんまり取り繕ってても仕方ないんじゃない? 駄目なとこもみっともないとこも互いに受け入れないとさ」
 万里は優しく続ける。
「彼女の事、ちょっとは信用してあげなさいな。自分がどうしたいってのは、はっきり言葉にしないと伝わらんよ」
「レッちゃんとは違うてワシゃ下心見せまくりやが、これでもめっちゃ真剣やねん。ワシも『俺がコートだ』言うてみよかな」
 台詞部分はキリッと真剣モードになりながら、アイビスは首をひねった。

●よるにうたえば
「いいよね、足湯」
 抱えた少女人形をとある事情から手放せないアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は、『一般的な温泉』に浸かることが出来ない。故に、足だけ浸せばいい足湯は都合が良かった。
 アンセルムの持つカップには一口サイズに切られたりんごパイがバターとフィリングのいい香りを漂わせている。
「ああ、温まる……景色も綺麗だし、来てよかった」
「絶景ですよねー」
 彼と連れ立ってやってきている朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は隣でウンウンと頷く。
 環のチョイスしたドリンクは、贅沢にもマシュマロを浮かべたココアだ。ココアの温度は熱いくらいだが、寒い山上ではこれくらいでないといけない。
「甘さもぬくもりも体にしみわたります……!」
 とはいえ、紙コップの中のココアも限りがある。飲み干してしまって暇になった環は、パシャンと軽く湯を蹴って、アンセルムに掛ける。二十歳なのに環はまだまだ大人になりきれなかったようだ。
「朱藤……やるのは良いけど――ボクがやり返す性格だってこと、忘れているね?」
 ばしゃん。アンセルムも負けじと湯を掛け返す。
「ひゃっ、アンちゃんやりましたね!?」
 バシャンバシャン! 意地の張り合いのようにひとしきり湯を掛け合い――湿った場所の熱がとっぷり暮れて冷たさを増した風に奪われていった。
「ふぇっぷし! あは、流石にはしゃぎすぎましたかね?」
「ぇくしっ! ソニアはこんな大人になっちゃだ、ふぇ……ぇくしっ!」
「風邪引くでないぞ、お二方」
 アンセルムに忠告を受け、ユーデリケは苦笑しながらカイロを渡してあげた。
 なんだか新鮮、と不思議そうに足を湯に浸けたエヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)だったが、すっかりこの感覚に慣れ楽しげに足を揺らして水面に音を立てている。
 手には湯気を立てるゆず茶。甘酸っぱく暖かな飲み物は、胃の腑からエヴァンジェリンを温めてくれた。
 ふーっとゆず茶で温まった口から出て来る息は真っ白で、満天の星空に浮かんではするりと解けて消えていく。
 その様子を穏やかに微笑みをたたえながら見つめるアウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)。エヴァンジェリンと目が合うと、微笑みを強くして、きもちよいね、と囁いた。
 はく、とアウレリアの唇に運ばれていくイチゴが爽やかな香味を弾けさせる。
「山の上だから、穹が近くに感じる、ね」
 頷くエヴァンジェリンに、ふとアウレリアは歌をせがんだ。アウレリアは彼女の歌声が大好きだから、この心地よい空間でそれを聞きたかった。
「歌……? ……一回だけよ?」
 照れからか一瞬手順したエヴァンジェリンだが、小さく頷くと、そうっと囁くような声量で歌いだした。仏蘭西の思い出の歌を。
 さやかにきらめく星のような歌が終わり、エヴァンジェリンは頬を赤くして恥ずかしげに目を伏せた。
「やさしい、お歌、ね」
 とアウレリアは嬉しげに言い、お返し、と賛美歌を歌い出す。
 互いに身を預け合いながら、湯の流れる音と歌だけが静かな山に流れ行く。
 レスターと那智が互いにもたれかかって寝息を立てているのを、アイビスと万里がそれを優しい眼差しで見守っていた。
 眠くなってしまいそうな、静かで穏やかで、あたたかなひととき。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月19日
難度:易しい
参加:15人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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