甘い心だって言ってたよ

作者:土師三良

●甘味のビジョン
「いつからだろうな? 菓子だの果物だのを『スイーツ』という軽薄極まりない言葉で呼ぶようになったのは……」
 福井県坂井市某所の砂浜。水平線に沈みゆく太陽を背にして、柔道着姿のビルシャナが語っていた。
「まあ、しかし、呼び方なんぞはどうでもいい。俺が本当に許せないのは……そのスイーツとやらを好んで食べる甘党の男どもだ! 甘いものに夢中になるような男はもはや男ではない!」
「男ではない!!」
 と、声を揃えて復唱したのは八人の屈強な男。全員がビルシャナと同様に柔道着姿だが、寒さに震えている者は一人もいない。冬の冷気をものともしない精神力を有しているから……であれば、称賛に値するかもしれないが、実際はビルシャナの洗脳の影響で感覚が麻痺しているだけだろう。
「男はいついかなる時でも男らしくあらねばならん! どうしても甘いものが必要なら、角砂糖でも齧っていればいいんだ!」
「齧ってればいいんだ!」
 男たちが再び復唱すると、ビルシャナは派手に砂煙をあげて反転し、海の向こうの太陽に向かって叫んだ。
「『硬派キング』たる俺はこの夕日に誓う! 女の腐ったような甘党の男どもを一人残らず矯正し、真の男に生まれ返らせるとぉーっ!」

●エルモア&セリカかく語りき
「年が明けて間もないというのに、おかしなビルシャナがまた現れました」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールがそう告げると、彼女の前に並んでいたケルベロスの一人が大袈裟にかぶりを振った。
「やれやれ。デウスエクスどもに年始休みなどないのですね」
 エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)である。
「とはいえ、それは奴らと戦うわたくしたちにとっても同じこと。いつまでもお屠蘇気分に浸っているわけにはいきませんわ。賀正とはガシンショウタンの略だとも言われてますからね」
「言われてません」
 きっぱりと否定した後、セリカは本題に入った。
「そのビルシャナは異常なまでに男らしさにこだわっており、『硬派キング』と名乗っています。教義は『男のくせしてスイーツを好む奴は許さない』というもの。そして、同じく男らしさにこだわる八人の男性を洗脳し、自分の信者にしています」
「あらあら。哀れなホモソーシャルですこと」
 エルモアがまたもやかぶりを振ってみせた。
「しかしながら、スイーツを危険視する気持ちも判らなくはありません。そう、あの甘さと美味しさはあまりにもデンジャラス! 『スイーツが身を食う』とはよく言ったものですわ」
「言いません」
 きっぱりと否定して、セリカは話を続けた。
「皆さんがいきなりビルシャナに攻撃を仕掛ければ、信者たちを戦闘に巻き込むことになるでしょう。そのような事態を避けるためには戦闘の前に彼らの洗脳を解かなくてはいけません」
「つまり、スイーツの魅力を信者たちに知らしめればいいのですね?」
「はい。言葉を尽くして魅力を伝えるもよし。目の前でスイーツをさも美味しそうに食べてみせるもよし。料理の得意なかたはお手製の美味しいスイーツを信者たちに振舞うのもいいでしょう」
 まともな敵なら、ケルベロスの差し出したスイーツを素直に食べたりしないだろう。しかし、幸いなことに(?)信者たちは『まとも』とは言えないほどに男らしくあろうとしている。『食べるのが怖いのか?』や『挑戦を拒むのか?』などと挑発すれば、躊躇することなく食べるはずだ。
「スイーツの美味しさを推す以外にも『スイーツ=男らしい食べ物』と思い込ませるという説得法も有効かもしれません」
「硬派キングの教義を逆手に取るわけですね。まあ、どのような説得法でいくにせよ――」
 そう言いながら、エルモアは意味もなく胸を張った。
「――信者はきっと親スイーツ派に転向することでしょう。スイーツの美味しさを一度でも知ってしまったら、その虜になってしまうことは間違いなし! 昔から『スイーツに交われば甘くなる』と言いますものね」
「……言いますよね」
 否定することを諦め、力なく頷くセリカであった。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
サイファ・クロード(零・e06460)
瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)
牙国・蒼志(蒼穹の龍・e44940)

■リプレイ

●スイーツも甘いも噛み分けた
 夕刻の砂浜で二つの集団が対峙していた。
 かたや、『硬派キング』を名乗るビルシャナとその信者たち。
 かたや、彼らの野望を打ち砕かんとするケルベロスたち。
「男にはスイーツなどいらん!」
 ケルベロスに向かって、硬派キング(以下、KK)が叫んだ。
「甘い物が必要な時は男らしく角砂糖でも囓っ……」
「そのとーり!」
 と、サキュバスのサイファ・クロード(零・e06460)がKKの言葉に割り込んだ。
「判る! 判るぞぉ! 角砂糖、サイコー!」
「……え?」
 当惑の表情を見せるKKに対して、サイファは角砂糖を讃え続けた。
「そのまま食べてもよし! 料理に使ってもよし! 理科の実験でも大活躍! 角砂糖こそ、まさに甘味のキング! それを知ってるあんたも凄い! さすがだぜぇーっ!」
「いや、俺は角砂糖推しのビルシャナじゃないし。てゆーか、そんなにグイグイ来るなよ。なんか怖い……」
 目を白黒させるばかりのKKに遠慮なく踏み込んでいくサイファ。その実、背中に手を回して、仲間たちに『ほら、今のうちに』と合図を送っていた。
 それに応じて、レプリカントのエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が前に出た。髪型はいつもと同じ縦ロールだが、衣装は和服だ。茶屋の娘を意識したコスプレである。
「皆さん、時代劇をご覧になったことはあるでしょう?」
 エルモアは信者たちに語りかけた。和服に相応しいスイーツであるどら焼きを配りながら。
「時代劇には茶屋もよく出てきますが、そこに訪れるお客さんたちは男らしくないと言えるでしょうか? ……てやんでぇ! 八百八町を東奔西走する岡っ引き、心の機微を知り尽くした行商人、真っ黒に日焼けした雲助、苦み走った渡世人など、男らしい人たちばかりじゃないですか」
「ん?」
 と、エルモアの背後でウェアライダーの牙国・蒼志(蒼穹の龍・e44940)が首をかしげた。
「間に入った『てやんでぇ』はなんだったのかな?」
「たぶん、『断じて否!』的なニュアンスじゃないかと~」
 銀狐の人派ウェアライダーの鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)が自信なげに言った。
 仲間たちがそんなやりとりとをしている間もエルモアは信者にどら焼きを勧め続けている。
「そう、甘味は昔から日本男児に愛されてきたのです。ですから、この和スイーツのどら焼きもきっと皆さんのお気に召すはず。ちなみにわたくしの大好物でもあるんですよ」
 何故に『和菓子』ではなくて『和スイーツ』なのかというと、餡の代わりにクリームが入っているからだ。
 それをもそもそと食べる信者たち。皆、無言にして無表情。しかし、よく見ると、微かに頬が緩んでいる。洗脳されてからずっと甘い物を食べてこなかったので、胃の腑に染みるのだろう。
「ボクも和菓子をご馳走しようかな」
 どら焼きが欠片も残さずに消えると、ヴァルキュリアの豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が新たなスイーツを配り始めた。
「京名物の八ツ橋だ。これもどら焼きに負けず男らしいスイーツだよ。なぜなら――」
 八ツ橋の一つを姶玖亜は頭上に掲げてみせた。
「――とても硬いから!」
 硬い八ツ橋を黙々と食べる信者たち。どら焼きの直後なので、その歯応えは新鮮だろう。
「とはいえ、八ツ橋はまだ初心者向けかな。真の硬派が食べるべきスイーツはこれだね!」
 信者たちが八ツ橋を食べ終わらぬうちに姶玖亜は第三のスイーツを配った。
 それは――、
「――堅パンじゃねえか!?」
 KKが(サイファにまとわりつかれながら)目を剥いて怒鳴った。
「これをスイーツ呼ばわりするのは無理があるだろ!」
「いやいや、大手通販サイトではスイーツにカテゴライズされてるし、ボクのバイト先のスーパーでもスイーツのコーナーに置かれてるよ」
「うん。だったら、間違いなくスイーツだ。玄人の俺も認めざるを得ない」
 サイファが(KKにまとわりつきながら)したり顔で頷いた。
 信者たちは必死の形相で堅パンに囓りついている。歯が折れそうなほどの硬度を有するそれを噛み砕くことで、自分の男らしさを証明できるとてでも思っているのかもしれない。
「堅パンは噛めば噛むほど味が出るワイルドなスイーツだし、肉体労働の栄養補給にもなるんだ。働く男にはピッタリさ」
 姶玖亜が堅パンのプレゼンをそう締めくくったところで、ほのかに香る湯気が信者たちの鼻孔をくすぐった。
 エルモアが緑茶を淹れたのだ。
「渋いお茶って、スイーツに合いますよね。だから、きっと渋い殿方にもスイーツが似合いますわ」
 鼻孔に続いてプライドをくすぐりつつ(実際のところ、信者たちの『渋い殿方』など一人もいなかったが)、エルモアは信者たちに緑茶を渡して回った。
「あ、誤解のないように言っておきますが――」
 最後の一人に緑茶を渡し、仲間たちを振り返る。
「――わたくしはレプリカントだからどら焼きが好きというわけじゃありませんのよ。それにネズミに耳をかじられたこともありませんからね」
「誰一人として、そんな誤解はしてないと思うよ」
 姶玖亜が苦笑を返した。

●盛者必スイーツの理をあらわす
「ボクもスイーツを持ってきたよ」
 瑞澤・うずまき(ぐるぐるフールフール・e20031)が信者たちに菓子を配った。一見、今まで同じ展開だ。オラトリオのリーズレット・ヴィッセンシャフト(淡空の華・e02234)とサキュバスの琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)が青ざめているという点を除けば。
「う、うずまきさんのスイーツだと?」
「死屍累々の未来が見えますわ……」
 しかし、幸いなことにうずまきが用意したスイーツはすべて市販品であった。
 それを見て取り、安堵の表情を浮かべるリーズレットと淡雪。
「手作りじゃない! よかった! 本当によかった!」
「虐殺の危機は免れましたわねぇ」
 虐殺犯となる運命を回避できたうずまきではあるが、別の意味で信者たちを殺しにかかった。
「男の人って、甘いものを食べないのがカッコいいと思ってるの?」
 と、あざとい上目遣いをして、そこに隣人力まで加え、夢見る乙女じみた声で語りかけたのである。
「でも、ボク……一緒にお出かけした時にシェアできないのって、なんだか寂しいなー。男の人はそれでも平気なんだ? 女の子を寂しがらせるなんて、カッコよくないと思うけどー」
「ですよね~」
 と、紗羅沙が頷いた。
「女の子からすれば、自分と一緒に甘い物を食べて共感してくれる人のほうが好ましいですよ~。それに『男らしくないから』という理由で周囲の人々を振るいにかけるような生き方は硬派なんかじゃないと思います。わがままで他人に無関心なだけですよ~」
「無関心でなにが悪いか!」
 KKが開き直りじみた叫びを放った。
「硬派な男には共感も好感も無用! そもそも、女と一緒に飯を食うこと自体が硬派な生き方に反しているのだぁーっ!」
「フッ……」
 と、鼻で笑った者がいる。
 チーム最年長の蒼志だ。
「貴様、なにがおかしい!?」
「いや、すまない。なんだか、昔の自分を見ているようでね」
 そして、蒼志は『昔の自分』について語り出した。聴く者の脳内にメランコリックなBGMを再生させずにはいられない声音で。
「学生の頃の私は君たちのように硬派ぶっていて、甘い物のことも馬鹿にしていた。本当は甘党だったのだがね。しかし、ある日、喫茶店の前で美味しそうなパフェのサンプルを眺めていたところを同級生の女子に見つかってしまったんだ」
「……おい、待て」
「実に恥ずかしかったねぇ。そんな気持ちを知ってか知らずか、彼女は私と一緒に喫茶店に入り、パフェを頼んでくれた。とはいえ、私は硬派を気取っていたから、食べることを頑なに拒否したよ」
「……待てってば!」
「すると、彼女はパフェをスプーンですくい取り、私に向けて『あーん』と……」
「待てや、コラァーッ!」
 と、絶叫に近い声でKKが蒼志の話を遮った。
「それ、ただのノロケ話だろうが!」
「ノロケ話に聞こえたのなら、すまない。ようするに私が言いたいのはね。甘いものが好きな男性は女性に好かれやすいということだよ」
「それがどうした? 俺の信者たちは、女に好かれるためだけに生き方を変えたりしない! そうだろう、おまえら!?」
 KKが問いかけると、信者たちは『押忍』という威勢のいい返事を……しなかった。皆、決まり悪げに目を伏せている。『スイーツ好き=女子にモテる』という超理論を聞いて動揺しているらしい。
 そんな彼らを見回して、蒼志がどうでもいい情報を口にした。
「ちなみに件の女子は後に私の妻になったよ」
「やっぱり、ノロケてんじゃねえか!」

●覆スイーツ、盆に返らず
「貴方がたはスイーツを軟派な物だと思ってらっしゃるようですけど、某コンビニでは甘さ控えめでボリュームたっぷりの硬派なノリのスイーツが売ってますのよ。試しに召し上がってくださいな。あ、コンビニの商品だけじゃなくて、手作りのスイーツも用意しましたので、そちらもどうぞ」
 信者たちに精神的な追撃を加えるべく、淡雪とリーズレットがアップルパイやシュークリームを配り始めた。二人では持ちきれないほど大量にあるので、サーヴァントたち――ボクスドラゴンの響、テレビウムのアップル、ウイングキャットのねこさんに手伝ってもらいながら。
 それらを食べているのは信者たちだけではない。紗羅沙もまたせっせと口に運んでいた。美味しそうに、楽しそうに、幸せそうに食べるところを見せつけて、信者の洗脳を解こうとしているのだ。
「スイーツ――それは男女ともに得られる胃と心のオアシス! そこに壁を作るとはなにごとだぁーっ!」
 リーズレットが大声で説教を始めた。この状況だけを切り取って見ると、彼女が誰よりも硬派に思えるかもしれない。
「私たちが持ってきたスイーツはどれも美味しかっただろ? そう、食する者が男であれ、女であれ、美味しいものは美味しい! その絶対の真理を忘れるな! それに今日に限っては、ただ美味しいだけではないぞ。ほら――」
 リーズレットが指し示したのは淡雪ととうずまき。
「――この美人なサキュバスさんや可愛い地球人の娘が『あーん』とかしてくれっちゃたりするのどぅわー!」
 すると、うずまきが少しばかり照れながらもスプーンでプリンを掬い、体の前に差し出した。
「じゃあ、蒼志さんの奥さんに倣って……あーん♪」
「ぶはははは! なにが『あーん』だ!」
 KKがうずまきに嘲笑をぶつけた。
「俺の信者たちはそんなハニートラップに引っかかるほど愚かではないわ!」
 確かに信者たちはスイーツを食べる手こそ止めていなかったが、うずまきの『あーん』には乗ってこなかった。
 ほんの一秒ほどの間は。
 その約一秒が過ぎ去ると、信者の中でもひときわ愚鈍そうな大男が――、
「あーん!」
 ――と、口を開けて、うずまきに迫った。そのマヌケな姿を例えるなら、餌を投げ入れられるのを待つ熊牧場の熊。
「こら、ハジ! なにをやっとるか!」
 KKの激昂の声などどこ吹く風。うずまきが苦笑混じりに『あーん』してくれたプリンを熊男は世にも幸せそうに味わっている。しかも、すぐに『あーん』と二口目の要求を始めた。プライドというものがないらしい。
 そんな彼に冷たい眼差しを突き刺している他の信者たちに向かって――、
「貴方たちも、おひとつ……い、か、が?」
 ――淡雪がエクレアを勧めた。その端に舌を這わせながら。ラブフェロモンを撒き散らして。
 今度は一秒も持たなかった。
「いただきまーす!」
 三人の信者が声を揃えて猛ダッシュし、淡雪の手の中のエクレアの争奪戦を始めた。
「ウエムラ、イチモト、マカベ! 貴様ら、硬派の誇りを忘れたかぁー!」
 腕をじたばたさせながら、KKが怒鳴り声をあげた。いや、泣き声というべきか。
「オレは忘れちゃいないぜ、硬派キング」
 と、サイファがKKの肩に手を置いた。
「実を言うと、オレもスイーツが大好きなんだ。更に白状しちゃうと、ゆめかわいい系のカフェでキュートなパフェを食べるのが夢なんだ。ああ、死ぬほど恥ずかしい夢だってことは判ってるさ。でも、だからこそ、叶えてみせる。どんなに生き恥を晒そうと、キュートなパフェを食べてみせる。それが俺の――」
 肩から手を離し、力強くサムズアップするサイファ。
「――進むべき硬派道だ! あんたも硬派なら、一緒について来てくれるよな?」
「いかねえよ!」
 KKが吠えるように答えたが、ほぼ同時に正反対の叫びを響かせている者たちがいた。
「いきまーす!」
 残されていた四人の信者たちだ。九割がた解けていた洗脳がサイファの熱い言葉で完全に消え去ったらしい。
 彼らは感涙に頬を濡らし、サイファを取り囲んだ。
「師匠! ゆめかわいい系カフェで死ねるなら、本望ですぅーっ!」
「いや、死ねとは言ってないし。あと、師匠じゃないし。てゆーか、そんなにグイグイ来ないで。なんか怖い……」
 サイファが元・信者たちにもみくちゃにされている間に、紗羅沙が戦闘態勢を取った。
 微かに怒りを含んだ視線の先にいるのは、もちろん、信者を失って孤立無援となったKKである。
「硬派を気取るのも結構ですが、自分の生き方を肯定するために他者の生き方を否定するのは下の下ですよ。それと――」
 KKの腰を指さす紗羅沙。
「――その黒帯、結び方が間違ってます!」

「凄まじい戦いぶりでしたわ」
「おまえのことは忘れないぜ、キング」
 感慨深げに呟くエルモアとサイファ。
 その横では姶玖亜が首をかしげていた。
「うーん……確かに凄まじい戦いぶりだったけど、べつに強くはなかったよね」
 KKは死体となって、砂浜に横たわっている。姶玖亜が述べているように強くはなかった。はっきり言って、弱かった。
「さて、スイーツも余ってることだし、ちょっとしたパーティーでもやっていくか」
「それ、いいー!」
「なかなか楽しそうだね」
 リーズレットの提案にうずまきと蒼志が賛意を示した。
 そして、淡雪がパーティーの準備を……する態で、元・信者たちを『おっぱい教』なるものに勧誘してまわった。
 流されやすい元・信者たちのことだから、あっさりと『おっぱい教』に染まるかと思われたが――、
「悪いな、お嬢さん。俺はおっぱいよりも足に生きる男なのさ」
 ――と、熊男が無駄に渋い声で言った。
 そして、他の元・信者たちも次々と自分の嗜好をカミングアウトした。
「いや、真に尊いのは背中! 美しき肩胛骨のライン!」
「控えめでありながらどこか大胆に自己主張する上前腸骨棘の良さが判らないのか!」
「このウエムラの心を揺さぶれるパーツは耳の裏のみ!」
 そう、流されやすい彼らにも決して譲れない一線があったのだ。
 男らしい。
 実に男らしい。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。