ミッション破壊作戦～断根枯葉

■リプレイ

●ミッション１１－１「長野県上田市」
　長野県が松茸生産量日本一を誇るならば、上田市はその有数の産地。ケルベロス達は再び、攻性キノコ蔓延るミッション地域の破壊に挑む。
「み、みなさん、大丈夫ですか……？」
　そろそろ目的地上空。気弱な表情で、首を巡らせるシルフィディア・サザンクロス（ピースフルキーパー・e01257）。常は偽骸装着で『地獄』を隠しているが、今回は耐性を優先してか、具える防具特徴は異なる。せめてと全身を覆う装いだが、何処か落ち着かなさそうだ。
「ああ！　松茸山に攻性植物が寄生する場所なんざ何処にもねぇって事、教えてやるぜ！」
　鮫の背びれのように逆立った青髪が勢いよく揺れた。少年らしい威勢の良さで、アバン・バナーブ（過去から繋ぐ絆・e04036）は大きく頷く。
「僕もばっちり！　今回で取り戻させてもらうかんな、キノコ野郎！」
　ルードヴィヒ・フォントルロイ（キングフィッシャー・e03455）も、大いに気炎を上げる。今回の選択は、彼の強い希望に因る。ミッション破壊の道も一歩から……ではあろうけど、前回は物凄く悔いの残る結果だった。だから、リベンジも兼ねて、今回で魔空回廊を破壊する決意だ。
「きりちゃんもよろしくな！」
　ルードヴィヒに声を掛けられて、和紙張りの桐箱ミミックは蓋をパカパカ。その傍らで、ミミックの相棒たるニケ・セン（六花ノ空・e02547）は、篠・佐久弥（塵塚怪王・e19558）と撤退ルートの検討に余念が無い。
（「……うん、頑張るっす」）
　意気軒高な歳の近い少年２人と対照的に、佐久弥は平静の表情で頬を掻く。それも単に表情筋が硬いだけで、心のテンションはしっかり変わるから、叫ぶ時はきっと大丈夫。
（「よし、なら俺は、守るべき仲間の為にこの生命を燃やすとしよう」）
　少年達の様子に翠眼を細め、マサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）は炎翼を広げる。実際、ディフェンダーとして動く心算。「誰かを守る意味」と「守る為の方法」は、両親の大切な教えだから。
（「この地を解放出来たら、お礼に松茸貰えないかな？」）
　……そんな熱血を余所に、軋峰・双吉（キノコグルメ使い・e21069）が真顔で考えていた内容は、まあさて置くとする。
「寒っ！」
　果たして、開いたハッチから吹き込む風に、思わず身震いする橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）。年の瀬、内陸の気温は時に零下ともなる。ヘリオン翔ける高高度ならば尚の事。
（「てか、これだけ寒くても攻性植物は元気なのか……生育の都合を考えれば、もっと南の方に行っても良さそうだけど」）
　埒も無きが脳裏を過るが、それも凍える冷気に霧散する。
「は、早く降下しましょ！」
　半ば悲鳴じみた言葉に、テレビウムの九十九もこっくりと頷いた。

●断根枯葉
「１番手は俺が貰うぜ……キノコは貧乏ケルベロスの味方なんだ！」
　寒風も構わず先陣を切ったのは、双吉。曰く、テキトーに生えるキノコを齧り、毒も薬もなくキノコグルメの力で腹を満たしてきたという。
「だけれども！　テメェ等は煮ても焼いてもキノコグルメでも食えそうもねぇなァ！」
　食えもしない攻性キノコに食用キノコの栽培地を荒らさせるなど、言語道断！
「松茸なんて高級品、食った事もねぇが！　キノコグルメ使い・軋峰双吉！　自然の恵みとその育手たる農家さんに報恩するべく、この上田の地を解放させてもらうぜッ！！」
　惜しむらくは、今回の双吉の防具特徴はキノコグルメでなかった事。有言実行というか、説得力は結構大事だ。
「おのれ攻性植物！ 　松茸は食った事ねぇが、美味いって話は聞いたことあるしいつかは食いたい、だがそんな資金は持ってねぇ！」
　２番手はアバン。大きく息を吸って一気に飛び出し、ほぼノンブレスで捲し立てる。
「なのにお前らが産地１つ潰しちまったら、品薄になって値段が上がっちまうじゃねぇか！　 さらに手が出しづらくなるだろうが。良い加減にしろぉぉぉぉ！」
（「そういえば……今年の秋は食べられなかったわね、松茸」）
　滅茶苦茶、個人的な理由が響き渡る中――芍薬は思い返していた。
（「国産ってやっぱ高いし……新作の『国産松茸バーガー』の案も、予算の関係でボツくらったしなあ」）
　旅団としてバーガーショップを経営する芍薬だが……アバンの叫びに、ストンと腑に落ちてしまった。
（「ん？　やっぱり……こいつらがここに巣くってるから、供給が減って値が上がってるのか？」）
　ならば、何としても、攻性キノコ共は魔空回廊ごと殲滅しておかなければ！！
「じゃ、行くわよ。松茸万歳！」
　……すっごいシンプルな、帰結だった。
「農家さんにご迷惑をかけるなんて、そろそろお仕舞いにしてもらうよ！　これ以上のキノコはお断り！」
　一撃一撃が魂の叫びだから全力で――そう謳う割に、やっぱりシンプルを口にして、ニケはミミックと一緒に飛び降りる。
「ああ、テメェらのせいで困っている農家やそれに携わる全ての生活の為にもなぁ！　塵の１つも残ると思うなよ！！」
　ゴウと翼模る蒼炎が燃え上がる。グラディウスを握り締め、躊躇いなく宙に身を躍らせるマサヨシ。
「特にこの季節だ、菌糸類なんざまとめて燃やすにはちょうどいいぜ！　さぁ焼却の時間だ！　灰になりやがれェェェ！！！」
「……そうですね。菌類の分際で自然を侵すゴミ共め……ブッ殺してやりますよ……！」
　まだあどけない面をフルフェイスで隠した瞬間、シルフィディアの雰囲気が一変する。
「ここにはたくさんの自然の恵みと、その恵みと共に生きている人達がたくさんいるんです……そこに貴様らのような平穏を壊す毒キノコがいると、目障りなんですよ……！」
　上田市の自然は、攻性植物の為にあるんじゃない。この星に生きるみんなのものだ。
「ここを貴様らが占領していい理由なんて何１つない！」
　デウスエクスへの怒りや憎悪も露に、少女はグラディウスを振り被る。
「貴様らの全て、何もかも残さず焼き尽くしてやる。ゲートごと消え失せろ……！」
　１１歳の少女が、何だか１番シリアスに熱い件を余所に――最後まで地図を眺めていた佐久弥は、ふと気付いてしまった。
（「上田市って……別所温泉のすぐ傍じゃないっすか」）
　そう言えば、最近気に掛けている子（恋愛的意味に非ず）と温泉に行く話が出ていたような。保養地で暴れられるのは、甚だ迷惑だ。
「毒キノコから食用キノコになって出直してこい……っす！！」
　グラディウスでデストロイブレイドを放つ気分で、全力で振り抜いた。
　各々温度差激しい心の叫びを７回見送って、ルードヴィヒは帽子を飛ばされぬように、そして気合いを入れるように被り直す。
「かつての古戦場に、新しく刻むのはひとの歴史。上田合戦に倣って、多勢の苦境に怯む暇なんてないんだよ」
　寒気に身を晒し、今度こそ、グラディウスに思いを込めて声を張る。
「帰りたい人達を帰す、取り戻すのが僕らが出来る事なんだ。キノコ蹴散らし狩り尽くして取り戻す……ここは、僕らひとの、生きる場所！」
　グラディウスの切先が魔空回廊に触れた瞬間――ルードヴィヒは、確かに刃がバリアに沈む感触を覚える。
　断根枯葉――根を断ち葉を枯らすように、災いを根本から取り除く事。今回の心の叫びが、１度目を上回る熱量があったかと言えば……些か首を傾げる節もある。それでも、２度に渡る蓄積が、魔空回廊を穿つだけの威に達したのだ。
　――――！！
　雷光と爆炎に煽られ、激しく逆巻くのは胞子の渦か。金の粒子がチラチラと舞い、バリアの破片が粉々に消えた後には――もう何も残っていなかった。

●強化版「スポアー」
「よしっ、やった！！」
　ズシィィィンッ！
　思わず快哉の声を上げる芍薬。だが、集まったケルベロス達の前に、すぐさま攻性キノコ――スポアーが立ち塞がる。
「はやっ！」
「というか、でかっ！」
　呆れた面持ちのアバン。現れたキノコ一株は、ルードヴィヒの記憶より二回り程大きかった。ぶっとい軸にある目や口と思しきはつり上がり、胞子をひっきりなしに撒き散らす。
「怒ってるっすね」
　乾いた笑みを浮かべる佐久弥。尤も、補給を断たれたデウスエクスは早晩、全滅する。激怒もむべなるかな。
　だが、激怒キノコに怯むケルベロスはいない。
「どぉした！　クソ菌糸類、粉を撒くだけじゃあくしゃみも出ねぇぜ！」
　ミッション破壊成功の勢いの侭、獰猛に笑み、好戦的に挑発するマサヨシ。
「さあ、雑草処理の時間です……この星にやってきた事を後悔させてやりますよ……！」
　低い声音に殺気を漲らせ、シルフィディアは断骸剣・壊を構える。
「さっさと倒して、撤退するぜ。グラディウスに注意な」
　かと言って、怒れる攻性キノコに包囲されても厄介だ。双吉の言葉に否やは無い。
　ジャアアアアッ！
　しゃがれた雄叫びが轟くや、胞子が前衛を越えてぶちまけられる。
「っ！」
　咄嗟に飛び退くニケ。シルフィディアはアバンが庇うも、頭から胞子を被った双吉に悪寒が走る。ミミックもカタカタと震えた。何れも胞子が掛かった箇所が変色している。
「キノコグルメを忘れて、毒キノコそのまま食っちまった経験もあってな……。キノコの毒にゃ耐性がある。その程度じゃ、ちと腹が緩くなるくらいだぜ」
　強がりを言って、紙兵を撒く双吉。スポアーの能力はある程度知れている。故に、ケルベロス達は防具で備えていた。スポアーの胞子攻撃は何れも範囲型。だが、メディックの範囲ヒールでも癒しきれないとなれば。
「クラッシャーかな？」
「多分な」
　ニケの推測に、双吉は肯く。少し悩んだ表情で、アバンは肩を並べる前衛４人＋１体にサークリットチェインを描いた。
　基本、強化は前衛からが多い。だが、スポアーの攻撃は後衛にも届く。一律に前衛優先では、思わぬ所で足許からすくわれかねない。又、範囲型グラビティのエフェクト発動率は単体対象の半分だ。更にジャマーの手に依れば、単純計算で要する時間は半減する。
（「効率っすか……」）
　鉄塊剣“餓者髑髏”を握り、佐久弥は独りごちる。作戦によってグラビティの選択は千差万別。ある程度好みで選んでも問題ない場合も多かろう。だが、手数が限られる時間制限のある戦闘や短期決戦は、より『効率』が求められる。各ポジションの『役割』について考察を深める機会ともなるだろう。
　ともあれ、今は兎に角穿つのみ。シルフィディアとニケのスターゲイザーが奔る。足技は少女には相性が悪かったが、敵がクラッシャーで寧ろ幸いだった。スナイパーの足止めがじわりと効けば、アバンが撒くオウガ粒子の援けもあり前衛の刃がキノコを穿ち出すのも早かった。
「クカカ！　燃え尽きろ！　砕け散れ！　彼らの痛みを思い知れ！！」
　自らを盾と為し、マサヨシは己を厭わぬ獣のように拳を振るい蹴りを放つ。
「いやもう、絶対キノコ狩り尽くす。コマ切れにして鍋でぐつぐつ煮てやっかんな！」
　息巻いて、時空凍結弾をぶっ放すルードヴィヒ。台詞に反して、グラビティのエフェクトは氷だが……代わりに芍薬がグラインドファイアを叩き込む。九十九の十徳ナイフもキノコの傘を切り裂いた。
　ニケのミミックは、いっそルードヴィヒと競うようにキノコに喰らい付く。尤も、クラッシャー対スナイパーの命中対決なので、圧倒的にミミック有利。蓋をぱかぱかしては「どやぁ」とでも言いたそう。
　ジャアアアアッ！
　それでも、敵の武威は侮れない。双吉は基本、回復に専念。紙兵を撒き、時にヴェールを編み上げる。強化に専念するアバンのサークリットチェインやメタリックバーストも、回復の一助となった。
「……それ、季節外れの盆踊りか？」
「え、フローレスフラワーズだけど」
　言われてみれば、確かに花弁のオーラが散っている、なんて事もあったけれど。
　ジャアアアアッ！
　敵の胞子は、いっそ気儘に前衛・後衛どちらにもぶちまけられた。特に後衛をディフェンダーが庇えば、双吉１人では賄いきれず、攻撃手が回復に回る事もしばしば。そのもどかしさを――佐久弥の一撃が払拭する。
　ブンッ！！
　しっかと地に足を付けながら、いっそアクションゲームのキャラクターにも似た軽やかさで、佐久弥の鉄塊剣が風を切る。重撃が命中すれば、ジャマーが齎す『怒り』は大きい。
　中衛は１人。胞子攻撃が専ら佐久弥を狙えば、双吉のヒールも厚くなる。時にディフェンダーも庇い、そのまま戦線の安定に繋がった。

●怒涛は凱旋に通ず
　ギュルルルル――。
　巨体に違わず、スポアーの体力は相当なもの。だが、ケルベロスそれぞれが役割に専念出来るようになれば、遠からず終焉は見えてくる。
　予めルードヴィヒが撒いた殺神ウイルスが、スポアーの治癒を阻んだ時。ケルベロスの攻撃が殺到する！
　満を持しての佐久弥の大器晩成撃は、至近距離から勢いよく叩き付けられる。続く仲間の攻撃の度、キノコの巨体を凍らせ砕く。
「ここで壊させて貰うよ」
　ニケが構えるエクスカリバールから釘が生えるや、キノコの大傘目掛けてフルスイング。続いて、ミミックが作り出したエクトプラズムの武装がその軌跡を辿る。
「殴り抜いて、ブッ捕まえるッ！」
　漸く、攻撃に転じた双吉の迦楼羅炎掌より、濁った黒い霊力の網が放射された。
「見せてやるぜ、俺達の絆！」
　アバンも初めて、攻撃する。縛霊手に集まる青白い輝きは、少年曰く同胞の御霊。勢いよく踏み込み、叩き込む。
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――」
　その名も、極致・蒼炎の一撃。マサヨシの拳が蒼炎を纏う。
「我が拳に砕けぬもの無し。我が信念、決して消えること無し――」
　研ぎ澄まされた集中の果て、マサヨシの正拳が奔る。
「故にこの一撃は極致に至り！」
　『最強の自分』という暗示を以て『怨敵を砕き、焼き尽くす』という信念が、敵に逃れるを許さない。
「貴様らデウスエクスの存在そのものが不愉快なんですよ……バラバラに、死ね！」
　敢えて露にされたシルフィディアの右腕が、禍々しい漆黒のドリルに姿を変える。憎悪の鋭刃はキノコを細切れにすべく旋回強襲、抉り込まれる。
「冥土の土産よ、美味しい焼きキノコにしてやるわ！　インシネレイト！」
　芍薬の拳が赤熱して輝く。手に集中させた熱エネルギーをスポアーに直截注ぐや、巨体の一部を爆砕させた。
　ギ、ギジャァァ――。
　弱弱しくも胞子は最後まで佐久弥を狙ったが、すかさず九十九が動画を流して応援した。
「市街地だってひとのものなんだよ。いつまでも大きな顔はさせないよ」
　上田市に帰れないで辛い人だって、きっといる。だから、ルードヴィヒは躊躇わない。取り戻す力の行使は、ケルベロスの意義だから。
　兵は神速を貴ぶ――一陣の風は、すかさず過たず敵を穿つ刃。一閃も鮮やかに、引導を渡した。

　――斯くて、ケルベロスは凱旋する。信州の松茸山は、年を越す前に奪還された。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年12月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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