埼玉県川越市「蔵造りの町並み」にある商店街がデウスエクスの襲撃によって被害を受けた。そう告げるのは、柵夜・桟月(地球人のブレイズキャリバー・en0125)。
「幸いにも人的被害はありません。しかし、現地は蔵が建ち並び、散策するだけでも楽しい場所でしたので……観光客が激減し、商店街の人々が困っているようなのです」
蔵は伝統的な方法で作られており、このまま失ってしまうには惜しい。
そこで、と桟月はケルベロスたちを見渡す。
「ヒールのできるケルベロスで、手の空いている方は現地に向かってもらえないでしょうか? 修復完了後については、商店街の人々から嬉しいお申し出をいただいております」
修復のお礼として、商店街プレオープンの「ガラス加工体験」と「食べ歩き」をさせてくれるらしい。
「ガラス加工体験では、グラスかとんぼ玉を作れるそうです。使用する硝子の色や模様も自由に決められるようなので、自分に、あるいは贈り物に作るのも良さそうですね」
硝子を吹いて、あるいはあぶって形をつくり、カットして仕上げる。言うのは簡単だが、硝子の加工はなかなかに難しい。しかし、商店街の方もサポートしてくれるようで、あまり難しく考える必要はなさそうだ。
「食べ歩きでは、さつまいものせんべい、さつまいもソフト、スイートポテト、さつまいも大福などが食べられます。川越はさつまいもの産地で、さつまいもを使った甘味がいろいろ食べられるのは嬉しいですね。もちろん飲み物もあるので、必要な方は店員さんにおっしゃってくださいね」
当日は、雲ひとつ無い晴天。とはいえ季節は秋。防寒の際は薄手のコートなどを着用すると良いだろう。
「私はグラスを作ってみたいと思っています。では、現地でお会いしましたらよろしくお願いしますね」
と、桟月はケルベロスたちに頭を下げた。
●幻想の蔵造り
デウスエクスによって破壊された町並みを、ケルベロスたちが修復してゆく。
昔の風情を少しでも残せるようにと念を込めてヒールするのは、吏緒。形あるものはいずれ壊れるが、直すのも道理だ。
川越のやや上空を飛ぶドローンは、ミリムの放ったもの。
紗更と椿姫は、手分けをしながら手持ちのヒールグラビティの使用を。
ヒールをしたらグラスを作ろうと、ノルも意気込む。
テラスの4人も、ガラス加工を楽しみにしっかりとヒールをしてゆく。
真っ白なポンチョでしっかりと防寒対策をした棗は、綴とともに壊れた場所へとヒールをした。
小江戸と呼ばれる古い町並みは、徐々に風情あるものへと戻ってゆく。
市邨はムジカは、花弁を散らしながら町並みに幻想を纏わせる。首元には、お揃いのマフラーを巻いて。
それぞれだけが使えるヒールグラビティで修復をするのは、悠とハインツだ。
「幻想化された処も新たな観光名所になると良いね」
そうつぶやくのは、夜。移ろう幻想は陽光を受けて、きらきらと輝いている。
食べ歩きと観光を楽しみに、遥とアンセルムたちは手分けして割れた地面にヒールグラビティを使用する。その中で、オルトロス「ヴォール」に服の裾を引っ張れるのは、オルクスだ。
「大丈夫、ちゃんとヒールを終えてから食べ歩きするから! ヴォール、裾を引っ張らないでぇ!」
そうして、ヒールが終わったのなら――。
「さあ、食べ歩きへ!」
一華は破顔し、拳を掲げた。
●色づく思い出
作りたい蜻蛉玉のイメージをスタッフに伝え、トーマは器用に仕上げていく。
「うん、結構上手に出来てるンじゃね?」
深い青、銀めいた雪結晶、差し色に南天の実の彩りは、贈り損ねた誕生日プレゼントだ。「自分の分は作らないのですか?」
不意に桟月に問われ、トーマは首を振り。
「髪に揺れる、貰ったやつがあるからさ」
と、はにかんだ。
綺麗な硝子に見惚れつつ、椿姫は何を作るか思案顔になる。
紗更の助言を受け、椿姫は蜻蛉玉を。紗更は、グラスを。それぞれ作り始める。
「良ければ作ったの交換せぇへん?」
ふと思いついた顔で、椿姫が紗更に声をかけた。
「もちろん構いませんよ」
色よい答えに出来上がりを楽しみにしつつ、椿姫は紗更に好きな色を問う。
空色と答えた紗更は、透明ガラスと緋色のグラデーションを作って竿につけ、丁寧に硝子を膨らませる。
やがて椿姫の手元で、紗更の瞳色をした華に空色の蜻蛉玉が完成した。
「一緒に作るって素敵な思い出やね」
「ええ、素敵な思い出になりました」
また共に出かけようと約束をし、二人は蜻蛉玉とグラスをそっと交換した。
硝子の加工が初めてだというケルベロスは多い。吏緒もそうだ。
不器用ながらも大きめのグラスを形作ってゆけば、完成したのは薄緑色のシンプルな円柱型。
「うん、夏に麦茶でも入っていそうだ」
底面は厚く、側面は薄く。来年の夏が楽しみだ。
空牙は青色の硝子を選んで、ミリムより一歩先を行くように作る。
「……あ、意外と熱いから気をつけてな?」
「熱い熱い熱いっ!?」
助言は少し遅く、ミリムは既に半泣きであった。そうして次の工程に進めば、今度は膨らまなかったり。
悪戦苦闘しながらミリムが完成させたのは、少しいびつな緑のグラス。
さて、彼女が苦戦している間、空牙は蜻蛉玉も完成させていた。それをブレスレットにしたら、ミリムに差し出して。
「至らないことも多々あるが、今後ともよろしくな?」
誘いに応じてくれたお礼だという贈り物を受け取り、ミリムは満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
ミリムにとって空牙は相棒だ。赤面するほどの気持ちを抱くくらい、には。
風鈴づくりの経験から、困るノルに助言をしたく思うグレッグではある、が。
「すごく難しいけど楽しい!」
楽しげに作るのを微笑ましく見守っていたくなるから、少しだけ助力して。
グレッグのおかげだとはしゃぐノルが完成させたのは、秋冬の空色に太陽の金色を少しだけ混ぜ、今日の空を再現したグラス。対してグレッグは緑と青を混ぜ、海をイメージした潮騒柄を。
「あんたは何でも器用にこなしそうに見えるのに……な。互いに意外な面を知るのもいい経験……か」
「グレッグのほうが上手だった! そういう一面、見るの好きだし……作るの、すごく楽しかった!」
綺麗なグラスをふたつ並べ。お互いの頑張りの成果を大事にしようと、二人は透ける光に目を細めた。
添花のつなげる黒と水色の蜻蛉玉は、アルスフェインとボクスドラゴン「メロ」をイメージしたもの。
添花は明るい黄色のイメージだとアルスフェインは思うが、ここはあえて夕暮れのような、暁、橙を。
「ちょっと歪んでるかもですの」
「多少歪むのも愛嬌というものだよ」
それでも、二人の作ったものはあまり変わらぬ仕上がりに見える。
次は柄入りに挑戦するという添花。あまり器用ではないアルスフェインは、朱色を主に夕の空を映すグラデーションで。
「えへへー、おにいさまと工作はたのしいです!」
終始にこにこしながら、添花は作業を進めてゆく。そして紐に通したらできあがりだ。
「わたくしがつけてあげるですよ〜!」
はしゃぐ添花を前にかがみ、今度はアルスフェインが添花の首に輝きをかける。とてもよく似合っている、と微笑んで。
翡翠色と瑠璃色のグラデーションの厚手の気泡ガラスでできたグラスを手にイヴリンが緋雨の手元を見れば、涼やかな水色に薄い緑と、似た色合い。
「お揃いみたいだな」
「なるほど、確かに」
笑いかけられ、緋雨は冷茶を飲むのによさげなグラスをくるりと回した。
「ふふ、グラスの中に花吹雪みたいで素敵。このグラスならイヴリンの淹れるドリンクも映えるわね。ね、今度これで美味しいドリンク作って頂戴な」
スズネの提案に、イヴリンは喜んで、と答える。それは良いですねと、青色ベースに緑色の線が入る細長いグラス片手に奏星も同意を示す。
「今日帰ったら早速淹れようか。私も蜂蜜たっぷりのレモネードをこのグラスで淹れてみよう。冷たい飲み物だけでは身体が冷えてしまうから、今日は何か皆で一緒に暖かい物を食べようか。鍋? シチュー? リクエストはあるかな?」
「料理を作るのでしたら私もお手伝いさせていただきますね」
奏星が小さく手を挙げ、うなずいた。
さて、仲間のできたグラスをそれぞれ鑑賞すれば、すぐそばで桟月が紅葉色のグラスを仕上げていたところであった。
「紅葉色のグラス、とても貴男にお似合いだわ。素敵なセンスね」
「ああ、素敵だな。今日の記念にウチの店にくれば一杯サービスするよ」
「ありがとうございます。皆さんのグラスも、どれも雰囲気があって素敵ですよ」
スズネとイヴリンに言われ、桟月はそれぞれのグラスをゆっくりと見遣る。
「本日は誘って頂きありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、楽しんでいただけたようで何よりです」
奏星に丁寧に礼を言われ、桟月は柔らかく微笑んだ。
●秋の香り
江戸の面影を残す町並みに当時の様子を思い浮かべ、タイムスリップのようだと宿利は笑う。川越を訪れたことがある宿利に案内を頼む志苑は、初めての場所に観光気分いっぱいだ。
「景色も良いですがこちらも気になりますね」
志苑の視線の先には大福にソフト、お饅頭にお芋のお握り。何から食べるか迷いながら、宿利は蒸かしたてのお饅頭を半分にして差し出し、おさつのチップも勧める。
「ありがとうございます。安心する甘さですね」
「あ、でもお団子も……もう、気になるものはみんな食べちゃいましょう!」
「本日は芋尽くしと参りましょう」
歩き終える頃には、二人とも満腹だ。
「私のガイド、ちゃんと出来てたかしら?」
「大変勉強になります。本日はありがとうございました」
向かい合い、二人丁寧に頭を下げあった。
木造の建物が多く並ぶ雰囲気は好きだと、リィンハルトとダリアは笑顔で歩く。
「さつまいものソフトクリームって美味しそうじゃない?」
ダリアの提案にリィンハルトは喜びつつ、でも寒くなるかも、などと思案顔。
ふと隣の店を見れば、壺の中に焼き芋を入れて売っている。これならば交互に食べると良さそうだと購入すると、どら焼きや団子が売られているのも見える。
「無限に食べられるお腹を持ってたら食べてたっ」
「半分こ作戦をしても食べきれる気がしないから、持ち帰れるものはお土産にしよっか」
「よーしいっぱいお持ち帰りしちゃお♪ 秋のお持ち帰り!」
リィンハルトが張り切るのを横に、ダリアが半分赤い紅葉を拾って添える。秋も一緒に持ち帰れば、ぜいたくなお土産になるだろう。
「川越の蔵は貯蔵庫ではなくて店蔵なのだって。火事になった時、延焼を防ぐ役割があるらしいよ」
ルーチェが双子の弟であるネーロにパンフレットを見せる。驚嘆の声を聞きつつ、お店で何かを食べようとドサクサ紛れに買った縮緬猫のがま口を取り出した。
「ネーロが食べてみたいものあれば、付き合うよ。お兄ちゃんが買ってあげる」
言われ、ネーロが選んだのはスイートポテト。折角だからと差し出せば、ルーチェは仕方ないなぁと苦笑する。
「ほら、せっかくだからルーチェも一口」
「あーんしてよネーロ。僕手が塞がってるから」
甘えるルーチェに仕方ないと微笑み、あーん、と食べさせる。
「うん、ネーロが食べさせてくれたから美味しいよ。でも……次は塩辛いのにしない……?」
「仕方ないなぁ……じゃあ次は塩辛いのね!」
と、ネーロは次のお店を探し始めた。
初めての町並みで、ヒノトは和菓子屋を発見する。
「お芋スイーツ!」
目を輝かせ、エルピスがお店に駆け寄った。目の前に広がるのは、たくさんのさつまいもの甘味だ。
「今日付き合ってくれた礼にひとつご馳走するぜ」
喜ぶエルピスの視線が、お菓子の間を行き来する。気持ちはわかるが、今はひとつだけ。そうヒノトに言われ、エルピスが選んだのはスイートポテト。ヒノトが選んだのは、大福。
「ね、ね、わけっこしましょ」
「乗った!」
半分に割った二つの甘味を食べながら、町を散策する。そうすれば、肌寒い秋風もむしろ心地よい。
それに、時間はまだまだある。美味そうな物を見付けたら、さっきみたいにわけっこしようと約束しつつ、景色は半分にできないから。たくさん見て目に焼き付けようと、二人はうなずきあった。
スイートポテトの店の前で、あかりは立ち止まった。
思い出すのは、今よりもっと小さい頃、育ての親に泣いて愚図ったこと。それから育ての親がつくった不格好なスイートポテトはとても美味しくて、夜苦しくて眠れなくなるくらいいっぱい食べて怒られたこと。
「今なら、作ってあげられるのにな」
呟いた声は、秋の空に吸い込まれるようにして消えた。
「おお、さつまいも煎餅だってさ!」
「アレはピザの具にしてもなかなかよいもの」
指差すハインツに、楽しげにうなずく悠。
野菜チップスのような見た目のそれを、悠の分もとハインツが購入する。見つけたベンチに腰を降ろして味わえば、いもけんぴとは違う味わいだ。
「思ったより食べ応えがあるな! おいしい!」
「おいしいが、ふうむ、興味深い」
ストレートに味わうハインツに対し、悠は組成を探りながらゆっくりと食べる。
食べ終えて辺りを見回せば、ハインツが別の店を指差した。
「あっちにはスイートポテトの店が!」
「お芋のスイーツは大きく手を加えず、プレーンな面を生かしてる事が多いよね」
次は、あの店へ。ふたり手を繋ぎ、次なる甘味へと向かうのだった。
デニムショップコートを羽織る清和は、珍しく人型だ。そんな彼を見上げたり足元を見たりするのは、葵。
「やっと見慣れてきましたねー、流星さん、流星さん」
「あはは、なんか名前呼ばれるだけで照れくさいなっ」
確認するように呼ばれた名前に、清和は照れ隠しとばかりにメガネを上げ直した。
そのままサツマイモせんべいを摘まめば、歯ごたえが楽しい。
「ところで葵ちゃんは何買ってきたの? せっかくだからそっちも味見させて?」
「いいですよ、えっと……あ、じゃあ、これでっ」
葵は清和の差し出したおせんべいの中から割れたものを選び、さつまいもソフトをディップして清和の口元へ。清和は不意打ちに目を丸くしながらも「いただきます」と微笑んで、そのまま口に含んだ。
秋の香りを運ぶ冷たい風に対し、蔵造りの町並みはどこか温かみを感じる。
「更に温まるならやっぱりこれじゃない?」
悪戯っぽく笑んで、夜が芋焼酎を掲げる。それも良いねと同意する累音が見つけたのは、削り節をかけた焼きおにぎりだ。一方の夜は、芋握り。
並んで歩き、それぞれの手元を見る。
「芋以外のものもあるようでな……」
累音が言い切る前に、一口頂戴と返事も聞かずにかじりつく夜。その間に、累音も黄色い三角をひとかじり。
「……俺未だ食ってなかったのに」
夜の抗議には、お相子だと涼しい顔で返す累音だ。
気になるものを買っては食べ、シェアという名のつまみ食い。気付けば全店制覇で、満腹にも納得であった。
目に付いた甘味を片っ端から味見する中、エルトベーレはニコラス――ドミニクの本名だ――の服の裾をくいと引いた。
「さつまいもソフトもね、とっても美味しいんですよ?」
あーん、とエルトベーレが差し出すソフトクリームを、お言葉に甘えてとドミニクが口にする。
「美味しいですよね、そして……ちょっと寒いですよね」
「確かに……ちィと冷えっかもなァ。風邪ひかンように、あったかくせンとな?」
そう、だから。
「ちょっぴり、ひっついてもいいですか?」
はにかみ、小声で零しながらエルトベーレはドミニクに身を寄せる。
もちろん大歓迎のドミニクが自分の上着を肩にかければ、エルトベーレが微笑む。
「こうしてるとあったかい、ですね」
次は何を食べようか。でも、温かいものは――まだ、食べたくない。
ムジカが言の葉にするさつまいもの味覚に思わず笑みをみせ、市邨は焼き芋おにぎりをひとつ差し出した。
秋を見失いそうなくらい、あっという間に寒くなってきた。「秋は何処? 秋は何処?」なんて云っていたムジカの姿を思い出し、また市邨は笑う。
「――秋、見付かった?」
「川越で秋を見つけたワ」
市邨が運んだ秋を、ムジカは笑顔で一口お裾分け。市邨が食べ終えれば、芋のお酒で乾杯だ。お揃いマフラーも暖かい。
「探してた秋、お家に持って帰るのも素敵。お土産にするならもっと色んな秋が楽しめそうネ」
「大福やせんべい、沢山のスイーツ達はお土産にしよ」
家にも沢山の秋を詰め込んで一緒に喰べようと、市邨は再びグラスを合わせた。
以前勧められた芋きんつばをもう一度食べたいと探す万里が見つけたのは、ちょっと違うもの。
「ちゃきん?」
聞き慣れぬ言葉に首を傾げて、二つ購入。渡そうとする相手は既におらず、慌てて探しにゆく。
さて、めくるめくさつまいもスイーツに浮き足立つ一華は、大きく呼吸をしていた。
「本当に、秋はいい香りばかりです」
ね、と同意を求める相手はつい先ほど一華を見つけたばかり。はぐれないように万里がとしっかり手を繋げば、ぐいぐいと引っ張られてクレープ屋にたどり着く。どうやら、さつまいもソフトに芋や煎餅をトッピングできるようだ。
「わたし、クレープにしますっ。とっても美味しそう!」
「それじゃあ俺は……え、トッピング全部乗せ?」
豪気な恋人に、今夜の夕飯は要らなくなりそうだと万里は笑った。
何処に入るのかというくらい食べてヴォールに焼き芋を渡すオルクスを横目に、アンセルムはソフトクリームとスイートポテト、饅頭を食べてゆく。
まだまだいけると張り切るオルクスとは対照的に、遥はさつまいもソフトとさつまいも大福を少しだけ。しかし二人の豪快な食べっぷりを見ると、もしかしてこれが普通なのかもと首を傾げてしまう。
「伊織はあまり食べてないけど、大丈夫? 石焼き芋食べる?」
アンセルムに石焼き芋を差し出され、遥はやんわりと断った。あまり食べられる方ではないのだ。
アンセルムがさつまいもチップも食べようと購入すれば、予想以上に袋に詰め込まれ、当惑してしまう。
「伊織、フェニシータ、3枚ぐらい食べる?」
「ええ、そのくらいでしたら、食べるお手伝いはできますよ」
「三枚じゃ足りないよぉ!! そこは、五枚位食べなきゃ!!」
それぞれらしい返答に、アンセルムはくすりと笑って手渡した。
棗に差し出されたさつまバターを一口食べ、綴は美味しいとつぶやく。棗も幸せの味を噛みしめ、周囲をじっくりと眺めた。
「日本伝統の景色だね。つづるんに似合ってるなぁ、なんて」
棗の言葉に一瞬考え、綴はゆっくりと返す。
「キミの目に僕がこう映ってるってことなら、悪くないね」
それにしても、寒くなるこの季節は人肌が恋しい。
「俺の隣はいつでもあいていますよっ♪」
「僕の隣は随分と前にキミになったけど?」
同じモノを食べていることは承知。さつまバターの最後の一口を差し出され、棗はぱくり、微笑んだ。
「俺の隣も、ずーっとつづるんだよ」
願わくば、ずっと傍に。
そして、冬も近いから。温かく暖かな日常にしてゆけますように。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月6日
難度:易しい
参加:41人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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