ミッション破壊作戦～死を糧とする神々

■リプレイ

●一路、下関へ
　現場空域へと近づくヘリオン内。
「久しぶりの破壊作戦だから、しっかりしないとね」
　一見、ごく普通の地球人である氷霄・かぐら（地球人の鎧装騎兵・e05716）が仲間達へと促す。自らの武器を確認する彼女は、ずいぶん前に発令されたこのミッションが残っていることから、その強さが健在だと実感する。
「下関は結構美味しそうな物多いんだね～」
　水守・蒼月（四ツ辻ノ黒猫・e00393）の調べた情報によれば、おそばに、ふぐ、近代捕鯨の発祥地とされ、鯨肉もあるとのこと。面白いところだと、わかめにウニのソフトクリームがあるのだとか。
「……絶対取り返す。そんで食べに行く。くじらのハンバーガーとか竜田揚げとか」
　食欲旺盛な蒼月は食べ物によって意欲を燃やす。
　動機は様々だったが、現場到着のアナウンスを聞いたメンバー達は強く思いを秘め、眼下の街へと飛び降りていった。

●魂の叫び
　落下していくケルベロス達は程なく、バリアに覆われた強襲型魔空回廊を視界に収める。
　最初にグラディウスを構えたのは、廃材で組まれた左腕を持つ卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）だ。
「死んじまったらソイツのチップは終わり、等しくあの世が没収だ」
　それを、死神は勝手にチップを与えてしまう。今賭けるべきは生きている奴の命そのものだろうと泰孝は真下にいるはずの死神へ問いかける。
「さあ、オレ達の命のチップ、テメー自身の命のチップ、どっちが生き残るかゲームの始まりだ！」
　泰孝の持つ短剣が光り輝き、バリアをガラスのように破壊し、魔空回廊へと突き刺さる。
　その瞬間、辺り一面に閃光が走った。
　町にいる死神の配下どものどよめきが上空にまで聴こえてくるが、ケルベロス達はなおも落ちてくる。
「よくこんなに集めたわね……」
　かぐらは自分達の原因を感じつつ、その後始末をとグラディウスを振り上げて。
「それに、交通の要所は誰にとっても重要だからね。そろそろ返してもらうわよ！」
　続いて突き刺さった小剣は雷光を走らせ、どよめきは一層大きくなっていく。
「死神がこの宇宙に来たのって、元々、私達の種族が原因みたいな物なんだよね」
　長い黒髪を高い位置でサイドテールにしたアオ・ミッドカイン（空を舞い落ちる星・e24484）はヴァルキュリアとして、少なからずこの状況に思うことがあった。
「死神と言っても、命ある歴とした生者……」
　以前、死者の選定の経験がアオにはあると言う。死者の想いを垣間見てきた彼女は、死者が自らの動機付けになっていたこともある。
「生者が死者を都合の良いように利用するなんてのはね、とても傲慢で許されない事なの！」
　死神が『死者を利用する』行いは、以前の自身を見ているようで、種族としての強く感じ、絶対に止めねばと彼女は考えていたのだ。
「不死の存在じゃなく、この地球で今生きる一つの生命として！　裁定者を名乗って死を広げようとするアンタ達の勝手は、絶対許さないんだから！！」
　強い想いを込め、アオは刃を振り下ろす。それは更なる光を生み出した。
「このアテナ様を差し置いて、魂の裁定者を自称するなんて生意気ね！」
　次に叫んで落ちてきたのは、夢幻・天々奈（封印されし禁忌の少女・e36912）。女神の転生体を自称する、厨ニ病が入った少女である。
「ここでやっつけて、いくつもの魂を弄び傀儡にしてきた貴女の最低な魂を浄化してあげるわ！！」
　自らの輝かしい伝説の１ページと、天々奈は大きく振り上げたグラディウスを輝かせて。
「魔空回廊よ、砕け散りなさい！　必殺、シャイニングサンダーブレード！！」
　自らがカッコいいと思う技名を叫び、天々奈は刃を振り下ろす。
　大きく巻き起こる爆炎。彼女は己に酔いながら着地していく。
「ふん、我が地元での乱暴狼藉。これ以上見逃す訳にはいかんな」
　地獄化した心臓を燃え上がらせるクオン・ライアート（緋の巨獣・e24469）は、魂の裁定者を名乗る死神に不相応な役割だと憤る。
「いいだろう、貴様のその驕りの代償を、この回廊の崩壊を以って知るが良い！！」
　クオンは両手で、グラディウスを握りしめる。
「我は巨獣！」
　――『裁定者』を自称する、この死神の領域を！
　――破壊し、踏み躙り、無へと還す！
「我こそは、貴様達に絶対の滅びを齎す緋の巨獣！」
　そして……、握りしめた刃を思いっきり振り下ろす。
「この地の人々に。祝福の明日を齎す『戦乙女』なり！！
　クオンの刃は魔空回廊に亀裂を走らせた。そこから、濃いスモークが激しく噴き出し、周囲を包み込む。
「魂の裁定者と名乗る割に、呼び出すモノは死人返りの烏合の衆」
　女性のような戦衣装を纏うリュリュ・リュリュ（リタリ・e24445）は、光の翼で急降下してくる。
　この地は、本州と九州を結ぶ希望の隧道（すいどう）。死神が座す亡者の国には似つかわしくないと彼は言い捨てる。
「そんなに死人が好きならば、今すぐ素っ首切り裂いて冥府の国へと送ってやろう」
　リュリュが追いついた先には、月白の髪を揺らす雨之・いちる（月白一縷・e06146）の姿がある。
「たくさんの人々を繋ぐこの場所を、お前たちに渡すわけにはいかないよ」
　いちるもまた、死者の魂を弄ぶ死神の所業を見過ごせずにいた。
「魂の裁定者……。お前が魂を喰らうというのなら、私がお前を喰らおう」
　あまり声を荒げる性格ではないが、このときばかりはいちるも思いの丈を叫ぶ。
「貴様を殺す、私は勝つ！」
「人の、私達ケルベロスの思いの強さを思い知れ！」
　同時に叫ぶリュリュといちるの刃はさらなる爆炎を発し、魔空回廊の亀裂を大きくしていく。
　最後に、蒼月が落下してくる。
「……まだ僕、此処へ遊びに来た事ないんだよ」
　この地はいっぱい美味しいものがあると聞いたのに、こんな状況では食べることもできない。死神の言い分など知ったことでない。
「独り占めとか良くない。ふぐとか、瓦そばとか！　くじらとか！　本当ズルイ！」
　己の感情全快だが、グラディウスは彼の想いに応えて強く輝く。
「死神だかなんだか関係ない、なので倒す。食べ物の恨み思いしれっ！」
　亀裂が広がっていた魔空回廊へ、蒼月が小剣を振り下ろす。
　次の瞬間、一層強い光が辺りを包み込む。轟音を立て、魔空回廊が大きく振動し、瓦解を始めた。
「当然の結果ね！　これがアテナ様の力よ！」
　消滅していく魔空回廊を目にし、天々奈がドヤ顔で叫ぶのである。

●死神ソウル・ディカスティス
　強襲型魔空回廊の破壊を完了しても、直ぐに解放とはいかない。
　一旦はかぐらの提案するルートで撤退し、一行はミッション攻略に訪れるケルベロスと合流を目指す。
　そのかぐらが手持ち武器を装備する中、リュリュ、クオンがグラディウスを天々奈へと預けていく。
　そんな中、スモークの中から現れる死神、ソウル・ディカスティス。さすがに、魔空回廊の破壊に黙ってはいない。
「やってくれたな……魂の裁定者たる我が貴様らも傀儡と変えてくれよう」
　しかしながら、ケルベロス達もすぐに応戦を開始する。
　堂々と敵の正面に立ち塞がったクオンはちらりと後方の仲間を見てから、全身を光の粒子に変える。紅の巨獣たる彼女は猛然と敵に襲い掛かり、ソウルへと強い衝撃を与えていく。
「邪魔する敵はなるべく早く倒すよ」
　クオンに続き、かぐらはドラゴニックハンマーを砲撃形態としてその手に持ち、竜砲弾を叩き込んで相手を足止めしようとする。
　仲間が作った隙を活かし、泰孝は九尾扇を舞わせて自らのジャミング能力を高めていたのだが、ソウルは思ったより早く動き出す。
　敵は宣言どおり、ケルベロス達を食らい尽くそうと巨大な鎌を乱舞させる。前線のメンバー達がそれを浴びることになるが、一撃受けるだけで力が抜けるような感覚を受けてしまう。
　だが、リタリを目指すヴァルキュリアのリュリュにとって、勝利は至上のもの。如何なる衝撃を受けようとも倒れてはいられない。
「試練だ。欠乏にあっても耐えられよ」
　それは、勇者を選定していた彼が与えていた欠乏の試練。遅延を表すルーンを虚空に描き、魂の裁定を行うソウルの身体を縛りつけてしまう。
「私の魂、お前なんかにあげないよ」
　敵の暴食に直接対抗したいいちるだが、仲間と連携して速やかなる撃破を目指したいところ。
　その為、まずは悠然と動く敵を足止めしようと、高く跳び上がったいちるは敵の体を強く蹴り付けていく。
　ぐらりと揺らいだソウルを、アオが後方から目を光らせ、狙う。
「聞いてみる？　大気に満ちる風の音を！」
　アオはこの場の風の精霊へと呼びかける。この場に深緑の風を呼び起こしてソウルの体を包み込み、動きを阻害していく。
　この死神だけは絶対に野放しにしてはならない。アオは強く、強く、ソウルの体の動きを止めようとしていた。
「アテナ様の秘められし破壊の力の一端を分け与えるわね！」
　大仰なポーズをとった天々奈は仲間の背後へと爆発を起こす。隣にいたウイングキャットも翼を大きく羽ばたかせ、暴食を受けたケルベロスの回復に当たり始めていた。
　忌々しげに唇をかむソウルへ、精神を集中させたかぐらが直接相手の体に爆発を起こし、敵の手にする巨大な三日月型の大鎌へと僅かながらにヒビを入れる。
　先ほどの天々奈に続き、リュリュもまたカラフルな爆発を自分達の背後に巻き起こし、爆風を背にしてさらに戦意を高揚させていく。
「くれてやる、拾いな」
　戦闘態勢を整えた泰孝は、黄鉄鉱で作られた金貨を投げ飛ばす。
　高い音を立てて地面を跳ねる偽りの金貨。ソウルはその音に気を取られ、黄鉄鉱に体を覆われることになる。
「どうした、ライフってチップが欲しけりゃ、オレがチャンスゾーンだぜ？」
　泰孝は自身へと攻撃を集めようと画策し、さらに敵を挑発する。
「人形の分際で……」
　眉を吊り上げるソウルは、三日月形の大鎌を振り上げた。
　だが、その刃を蒼月が庇い、しっかりとその身で受け止める。彼はすぐさま食らいつくオーラの弾丸を飛ばし、ソウルの体を殴打していく。
「おいで、虚喰。死をも喰らい尽くして」
　先ほどの敵の暴食に対する返しとして、いちるは自らの血を魔導書「虚喰」に対して捧げることで、封じられた虚喰を召還する。
　呼びかけに応じたのは、終焉を詠う邪竜。それがけたたましい咆哮を発すると、耳にしたソウルの自由を奪い、その身を食らい尽くそうと動く。
　しかしながら、ソウルも一区域を占領する力を持つ死神だ。そう簡単に食らいつくされはしない。
　ただ、逃れたソウルの背後から、アオがバスターライフルからエネルギー光弾を発する。
　グラビティを中和し、弱体化させるアオの一撃。ソウルは大鎌を持つ手に力が入らないことに気づく。
「小癪な……」
　魔空回廊を破壊された上、完全に自身の対策を練られ、いいように攻撃される状況。追い詰められつつあるソウルに、いつもの余裕は微塵も感じられなかった。

●魂の裁定者の末路
　鋭い三日月形の大鎌を振るう死神、ソウル・ディカスティス。
　確かに、相手は強敵ではあるが、ケルベロス達は着実に相手を追い込んでいく。
　仲間をカバーするリュリュはその斬撃に耐えながら、再び相手にルーンの魔術を与え、敵の回復手段を阻害する。
　対し、ケルベロス側の回復は天々奈がしっかりと行う。前線に立つメンバーには光の盾を展開し、敵の大鎌による被害を大きく軽減させていたようだ。
　一方で、思ったように動けぬソウル。実際、敵は思うように魂を取り込めず、力に転化できずにいたようだ。
　広範囲に渡る敵の暴食にもしっかりと耐える蒼月。この地の食べ物を食べたいという想いが強い彼も、負けていられないと音速の拳を叩きつけていく。
　さらに、月光のような淡い銀色を纏う六花結晶に包まれたいちるもまた、敵が力を高めることがないようにと、敵の体を殴りつけて衝撃を与える。
　明らかにソウルは動きを鈍らせてきている。かぐらはそれを察して斬霊刀を抜き、瞬時に相手の弱点を見極めた。
　仲間の攻撃が重なり、服が破かれた胴もそうだが、魂を集める胸こそ狙うべきと判断した彼女は鋭い刃をそこへと突き入れていく。
　続き、泰孝もバスターライフルを構え、相手の熱を奪い去る凍結光線を発射し、その身体を僅かに凍りつかせていく。
「さらなる死をもたらすんじゃなかったのか？」
　泰孝の挑発を耳にした敵の歯軋りは、ケルベロス達にも届く。
　魂の暴食を繰り返し、メンバー達から体力を、グラビティを奪おうとするが、その動きと治癒能力を大きく阻害され、力を吸収できるにいるソウルだ。
　ケルベロスはさらに、攻勢を強める。エクスカリバールを手にしたアオが特攻し、敵の体を殴打して尖端の曲がった部分でその服を破っていく。
　今こそ、力を解放すべきと判断したクオンはソウルに向けて叫ぶ。
「さあ、終わりの時だ。偽りの裁定者よ」
　クオンはそれまで使っていた全武装を放棄し、三叉の槍を召喚してその手に握る。
　姉より譲り受けたその槍は淡く発光し始める。本来在るべき「戦乙女」として、彼女はその穂先を敵へと突きつける。
「貴様の魂はこの地に残さぬ。我が槍の光に導かれ……シェオルの果てへと還るが良い！！」
　瞬時に飛び出したクオンはその尖端を、ソウルの胸の中心へと突き入れ、貫通させた。
「その魂、在るべき場所へ……選定の槍の力を以って今、還さん」
　槍は彼女の言葉に応じて輝き始め、その光がソウルの体を包み込む。
「そ、そんな、あ、あああああああぁぁっ！！」
　断末魔の叫び声を上げたソウルの身体は完全に灼かれてしまい、塵すら残さずになくなってしまう。
　それが、魂の選定者を自称していた死神、ソウル・ディカスティスの最後だった。

　この地を支配していた死神の消滅を確認し、メンバー達はこの場を離脱する。
　死神の配下達が迫ってきているはず。にげられなくなる前にと、いちるは自身の、天々奈は仲間から預かった分を含め、グラディウスがあることを確認してからこの場から撤収する。
　いつか、この地で本当に美味しいものが食べられるように。蒼月はその日が来ることを信じ、仲間の後を追うようにしてこの場を離れていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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