きゅうり神拳ここに成る!

作者:ハル


 その武術はとある山奥にて、何の変哲も無い野菜……きゅうりにインスピレーションを受け、生み出された。
「きゅうり神拳、壱ノ型!」
 彼――恐らくは、まだギリギリ未成年であろう少年は、突きだした拳の先にある一本の大木……そこに、自らをイジめる憎き仇の姿を夢想する。少年の腕は、黒々とした体毛が逆立っており、きゅうりが外敵から身を守るための棘を連想させた。
「きゅうり神拳、弐ノ型!」
 続いて少年が突きだしたのは、きゅうりの先端に見立てた一本の指先。鋭く繰り出された指は空気を裂き、万物を破壊する秘孔を突く。
 はずだったが――。
「っ!」
 大木と衝突した指先は、大木に衝撃を与えるよりも先に、少年に苦痛をもたらす。
「きゅうり神拳完成への道は……まだ遠いか」
 痛みを堪えるように、少年が手を振っていると、
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「だ、誰だ!? い、いいか、今見たことは全部忘れ……ぁ……分かった」
 唐突に、少年の背に声がかかった。姿を見せたのは、蒼髪の少女。少年は、恥ずかしさから動揺を見せていたが、ふいにその思考にモヤがかかり――。
 きゅうり神拳、壱ノ型、弐ノ型……そして参ノ型である、きゅうりの優美な曲線を思わせる円を描くイナシからのカウンターが、先程までとは見違える精度、威力を持って少女に襲い掛かる!
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 しばらくその攻撃を受け続けた青髪の少女は、何の影響もないとばかりに言うと、少年の胸に鍵を突き刺した。
「…………ぅッ」
 すると、小さな呻きと共に、少年の身体が崩れ落ちる。
 ――と、少年が先程までいた場所には、まるで針のような体毛を逆立たせ、すべてを貫く太い指先、円の動きを自在に操る術を持つ存在がいつの間にか立っていて、蒼髪の少女にその力をデモンストレーションの如く見せつけていた。
「いいね、そのお前の武術、見せ付けてきなよ」
 クスリと笑い、蒼髪の少女は言った。その言葉を受け、少年が夢見た筋骨隆々のきゅうり神拳継承者は、自身に満ちた足取りで山を下りていくのだった。

「幻武極という名のドリームイーターをご存じでしょうか? 武術を極めようとしている修行者に狙いを定め、襲っているという迷惑なドリームイーターです。今回、片白・芙蓉(兎頂天・e02798)さんが調査をしてくださった結果、『きゅうり神拳』なる武術を修行していた少年が襲われる事を予知致しました」
 山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、迷惑な話です……そう言って、息を吐く。幻武極は自身に欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らしたいようだ。
「結局、今回襲われた少年の武術でも、幻武極のモザイクは晴れなかったようです。その変わりに、きゅうり神拳を会得したドリームイーターを生み出し、被害の拡大を目論んでいます」
 きゅうり神拳という珍妙な名称に侮る勿れ、柔も剛も備えた、なかなかの強敵だ。
「救いとなるのは、ドリームイーターが街へと出る前に迎撃する事ができる点ですね。森の中で、どうかドリームイーターを仕留めちゃってください!」
 桔梗は、次に敵の詳細が記載された資料を配る。
「何度も言うようですが、ドリームイーターが扱うのは、きゅうり神拳という名のオリジナルの武術です。主に肉体を使った武術ですが、カウンター技などもあるため、油断しないようお願いします。数は、その一体のみですね」
 戦闘するのは森の中ゆえ、周囲の被害については心配する必要は無い。ただ、きゅうり神拳の源は大地の力。地の利は敵にあるだろう。
 それ以外は、純粋な力比べという訳だ。
「ドリームイーターの目的は、幻武極に命令されたように、力を見せつけること。抗戦状態になれば、背を向けるような事はしないでしょう。正々堂々を心情としているようですから、その心情を利用すれば、やり方次第では不意打ちも可能かもしれませんね」


参加者
木村・敬重(徴税人・e00944)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)
鷹野・慶(蝙蝠・e08354)
ヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
蔵寺・是之(パン大好きな新米巫術士・e36469)
ルカ・エルステラ(優雅なる破壊者・e38371)

■リプレイ


(フフフ……きゅうり神拳、伝説のアレが、まさか実在してたとはね! それはそうと、ヨハンにルカに敬重まで、本当にお腹を空かせてきてるですって!)
 山奥には、木陰に身を潜める片白・芙蓉(兎頂天・e02798)達の姿が。その視線の先では、演技の出来ない不器用な男達がカロリー不足のせいでフラフラしており、胡瓜の浅漬けを手に鑑賞している芙蓉の目を丸くさせている。
「ヨハンくん達の弱々しい態度って、演技じゃないんだよね?」
 同じ事を考えていたのか、イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)も小声でポツリと漏らす。
「不意打ちを喰らわす汚さは嫌いじゃないが、あいつらも隙だらけってオチじゃねぇだろうな」
 勝てば官軍。だが、鷹野・慶(蝙蝠・e08354)の口元にも、思わず苦笑が浮かぶ。
(ふぅ、なんか落ち着く)
 これから戦闘が始まるというのに、ヨミ・カラマーゾフ(穢桜・e24685)はルカ・エルステラ(優雅なる破壊者・e38371)から預かったシエラを抱きしめ、一息。大勢の友人達と任務に出たのは初めてなのだろう。
「ところで、きゅうり神拳ってなんなの?」
 そして、ふと口をついて出た疑問。
「フフフよくぞ聞いてくれたわね、ヨミ! それこそは伝説の――」
 それを合図に、芙蓉が延々と語り始める。もちろん、内容の真偽については、芙蓉の妄想である。
「そういえば、是之はどうした?」
 ――と、慶が何か異変を感じ、言った。
「そういえば」
 芙蓉の適当話を真剣に聞くヨミの頭をナデナデするイブが、目を見開く。そうして、木陰に身を潜めるケルベロスは、ドリームイーターに正々堂々と挑む蔵寺・是之(パン大好きな新米巫術士・e36469)の姿を目にしたのだ。

 ――時は少し遡り。
「大丈夫かよ、バルトルト?」
 木村・敬重(徴税人・e00944)は、足元の覚束ないヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)の肩に手を添えた。しかし、当の敬重本人も顔が青白く、限界までヘコんだお腹を幾度も摩っている。
「う~ん、ボクもお腹すいちゃって……」
 グゥ~と、一際大きく腹の虫が鳴く。出所は、ルカの細く小さなお腹だ。
「……エルステラさんもか」
 敬重が、天を仰いだ。
 だが、敵は待ってくれずに、
「俺のきゅうり神拳……最初に披露し、その身に浴びられる栄誉を誇るがいい」
 そう言いながら、三人の前にドリームイーターは現れた。そして、直ぐさま筋肉と刺々しい体毛に覆われた拳を構えるドリームイーターであったが。
「新武術の鍛錬と開発中なのですが、山籠りの食糧が尽きてしまって……。しかし、この子を食べる訳にも……」
 大事なアロエサンだけは口にできないと、その場に崩れるように座り込みながら、重低音で懇願するヨハンに、ドリームイーターの戦闘態勢が一旦解かれる。
「ならば、これを口にするといい。万全ではない相手では、きゅうり神拳の放ち甲斐がないのでな」
 そして、三人の前に、三本のきゅうりが放られた。
「あぁ、有難うございま――」
 ヨハンが、身を潜める仲間への合図もかね、そう口にしようとする。きゅうりに手を伸ばすフリをして、奇襲を開始しようという魂胆だ。
 だが!
「男なら、真っ向勝負あるのみ! 卑怯な手は使わないぜ!」
「その意気や良し!」
「そんな残念神拳には負けねぇぜ……! 行くぞオラァ……!」
 誰よりも先んじてドリームイーターに攻撃を仕掛けたのは、是之だった。隠れもせず、正面から唸る雷を纏う拳と、きゅうり神拳が激突する。問答無用で始まった戦闘の余波は、木陰に隠れる者らにも影響した。緊張状態になったドリームイーターに、その気配を捕捉されたのだ。
 ゆえ……。
「一斉放火なのだわ! 準備はいいかしら!?」
「おう! まだこっちには気付いていないはず――っ!?」
 芙蓉の重力を帯びた飛び蹴りと、慶の竜砲弾は優れた精度をもって確実にドリームイーターを穿つが、準備を整えられ、カウンターも受けてしまう。
(……奇襲は失敗か!)
 ユキが尻尾の輪を飛ばすのを横目に見ながら、イブは唇を噛んだ。だが、想定していた一方的な攻撃とはいかなかったが、奇襲が前提の作戦という訳ではない。
「少年くんに近づかないように、ポジションには気を付けるんだぜ!?」
 気を取り直したイブは、仲間にそう周知すると、
「恋人よ、枯れ落ちろ」
 体内に宿す毒を唇に含ませ、口付けによってドリームイーターを毒で犯す。
「……珍妙な技を」
 突然の口付けに、ドリームイーターは瞠目するも、すぐに自身に起こる異変に気付いたようだ。血を口端から零すドリームイーターに呼応するように、「きゅうりの味がする……かと思ったけどそうでもないな」などと呟くイブの白薔薇の髪飾りが、色づいたような気がした。
「イブさん、勿論心得ております。朝食を抜いたのは無駄骨となりましたが」
 ヨハンは塩飴と緑茶を軽く含み当面の空腹を和らげると、緊急手術で慶の傷を癒やす。
「何やら、今の状況は想定外と見える。……しかし、俺は手加減などせぬぞ?」
「必要ねぇよ。正直、正々堂々と戦いたいとは思ってたんだ。こうなりゃ、武道家として好きなだけ相手してやるよ」
「ボクも敬重と同じ気持ちだよ。一応拳士の端くれだからね。それに、手加減ができないのはこちらの台詞でもあるしね?」
 ドリームイーターの体毛が、より鋭さを増して逆立つ。振るわれた拳は、拳を躱そうとも、ほんの僅か毛先が触れただけでルカの皮膚を切り裂いた。
 反撃に、敬重の高速の蹴りがドリームイーターを打つ。
「私の友達を傷つけないで」
 さらに、ヨミの掌からドラゴンの幻影が出現し、業火を放つ。
「……っ!」
 身を苛む炎は、ドリームイーターを僅か後退させた。だが、ドリームイーターはすぐに前に出る。流水の如き動きで炎の中を突っ切り、狙うはヨミの抜けるような白い肌。
 しかし、ヨミに焦りはない。後衛のカウンター対策は万全であった。
「シエラ!」
 そもそも、焦る必要もなかった。ヨミは、ルカの指示を受けたシエラによって防御されていたからだ。「キュルー」と愛らしく鳴くシエラに、ヨミの表情が少しだけ緩む。
 ルカが、自身に気力を溜める。続き、梓紗の応援動画が戦場に流れた。
 改めて拳を構えるドリームイーターとケルベロスの怒濤の展開は、そうして幕を開けたのだった。


「ふむ、後ろの連中に参ノ型は効き目は薄いらしい。ならば――」
 戦闘開始から数分。ケルベロスの主力火力である後衛へのカウンター攻撃の手応えの薄さに、どうやらドリームイーターは勘づいたようだ。対象を変え、その矛先は氷の騎士を召喚した是之へ向く。手足に凍傷を受けながらも、迫るきゅうり神拳参ノ型が是之を襲い、その身体は木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。
「……参りましたね」
 その時、ヨハンが眉根を寄せた。ドリームイーターが口端を歪め、手応えを感じた風であったからだ。ヨハンが付与したオウガ粒子が効力を失えば、前衛の命中率は心許ないものとなってしまう。事実、ヨハンがオウガ粒子を付与したのも、そういった兆候があったからに他ならない。
「フフフ戦況を見る目が備わってきたじゃないの。安心なさい、そのための私達スナイパーよ!」
 冷静なヨハンを親心にも似た心境で見守りながら、芙蓉は己が薄い旨をドンッ! と叩いた。
「芙蓉ちゃん、僕も援護するぜ!」
 前衛の命中率を補佐する手段は、何もエンチャントだけではない。エンチャントを打ち消されるならば、バッドステータスで攻め立てる。
 成長したヨハンに対しニヒルに口端を釣り上げる梓紗に、芙蓉は私も見てなさい! とばかりに「御業」でドリームイーターを鷲づかみにすると、イブが釘を生やしたエスカリバールで追撃を仕掛ける。そうする事で、ドリームイーターの動きは飛躍的に鈍くなっていった。
(轟竜砲も、そろそろ打ち止めか)
 先のイヴのジグザグもあり、慶が執拗に重ねてきた足止めも、そろそろ十分な威力を発揮する事だろう。慶は武器を筆に変え、きゅうり神拳、壱ノ型を描く。
「それってパクリって事? あのよく分からない神拳をパクれるなんて、慶すごいんだね」
「パクリって言うな! オマージュだ、オマージュ!」
 ヨミと軽口を叩き合いながらも、動きや型だけは驚く程正確に、慶の拳は色彩で棘の体毛まで再現しドリームイーターに直撃する。
「おおっ!」
 武術に憧れがある慶としては、感動ものなのだろう。感嘆が漏れる。
「何故お前がその技を!?」
 動揺するドリームイーターの反応も相まって、ノリノリであった。
「皆楽しそう。だから、私も安心して戦える」
 信頼する友が傍にいるだけで、こうも違うものか。芙蓉や慶には及ばぬものの、ヨミの操るブラックスライムもまた、ドリームイーターを捉えて離さない。
 だが、ドリームイーター側も黙ってはいない。
 きゅうり神拳、弐ノ型――指突が、敬重の秘孔を貫く。だが、ディフェンダーの敬重とルカには、シエラと梓紗によって耐性が施されていたはず。
「……ぐっ!?」
 しかし、敵の攻撃が前衛、中衛狙いに移行していた事もあり、降魔の一撃を放つ敬重の動きが、直前で止まってしまう。
「敬重!? 今助けるよ!」
 シエラのブレスを目眩ましに、隙をついてルカが花びらのオーラを降らせる。
「エルステラさん、すまん」
 それにより、石化した敬重の身体が、バッドステータスを一掃とまではいかぬも、一先ず自由を取り戻す。
「今後も壱ノ型と弐ノ型をループするようであれば、やはり小まめなヒールは必須ですか」
 その二種を繰り返されれば、油断すればあっと言う間にバッドステータスが増殖する。敬重のようになってしまう確立はそれほど高くないものの、一度なってしまえば連鎖する。ヨハンは考慮の結果、是之に緊急手術を施した。
「……なに? そいつにヒールを施した所で……」
 だが、そのヨハンの行動は、ドリームイーターには奇妙に移ったようだ。先の攻撃を受けて以来、是之は大きな行動を見せていない。
「俺がどうかしたか?」
 だが、是之の声がすぐ身近から聞こえ、ドリームイーターは慄然とした。
「こんな情けない神拳に俺は負けねぇ!」
 本気モードと化した、是之の雷を放つ拳がドリームイーターに放たれ、その身体を地面になぎ倒した。
「勝てばいいんだよ、勝てばな!」
「蔵寺さん、お見事です」
 図らずも炸裂した死角からの攻撃に、慶とヨハンが喝采を上げた。


「俺のきゅうり神拳が……躱されただと!?」
「こちとら朝食抜いてんだ。そろそろ沈め」
「――なっ、がぁ!」
 弐ノ型を再び受けた敬重に、壱ノ型が迫る。だが、敬重はそれを軽々と捌き、躱して見せる。それどころか、正邪を宿したガントレッドによって、痛打を与える。ドリームイーターに付与されたバッドステータスは、彼の命中率にまで大きな影響を与えていたのだ。
「さて、そろそろ僕も楽しませてもらおうかな? ……言ったはずだよ? 手加減できないのは、むしろこちらの方だってね」
 敵の命中率が下げれば、回復の頻度も少なくてすむ。余裕が出来たルカが、フッと頬笑む。軽快な足捌きからルカが電光石火の蹴りを放つと、ドリームイーターは易々と吹き飛んでいった。
「出番ですよ、アロエサン」
 ヨハンの呼びかけに応じ、攻性植物のアロエサンがキシャァアと産声を上げる。
「医武両道をお見せします」
 ヨハンが告げるや、アロエサンは瞬く間にドリームイーターに絡みつき、締め上げてしまう。バキバキと、不穏な音が辺りに響くと、
「――一閃!」
 日本刀を超速で抜刀した是之の斬撃が奔る。
「これが終われば、イブと打ち上げだ」
「ギ……ギギィ!」
 ヨミが振り下ろしたファミリアロッドから、空を覆う程の魔法の矢が降り注ぐ。全身の至る所を貫かれ、ドリームイーターが血に染まった。
「きゅうり神拳は……死さず!!」
 息も絶え絶えながら、ドリームイーターは最後の攻勢に出た。
「その技、くれよ。もっと上手く使ってやるから」
 ドリームイーターが狙ったのは、後の先。だが、慶はそのさらに後を取ることを目論んでいた。互いに円を描く動きを牽制をイナシながら、本丸の一撃を叩き込む機会を探る。だが、ドリームイーターは失念している。この戦闘は一対一ではないのだ。
「私も混ぜなさい!」
 芙蓉が、「フフフ」と笑う。いつもの笑いの後に起こったのは、盛大な爆発だ。爆発を真面に浴び、体勢を崩したドリームイーターは、慶の本丸の拳をも浴びてしまう!
(ヨミちゃん、見てる?)
 振り向きいて確認したい衝動を抑えつつ、イブは演技ではなく本当にフラフラと揺れているドリームイーターの前に立つ。イブは、目を瞑った。そして、唇をそっとドリームイーターの唇に触れ合わせる。ドリームイーターの唇は冷たい。それは、本当の意味で血が通っていないからなのか。それとも、既に事切れているからなのか。倒れ行くドリームイーターを見つめるイブには判別がつかない。
「恋人よ、枯れ落ちろ」
 ともかく、仲間の中で最高の威力を誇る白薔薇の口付けは、ドリームイーターのすべてを枯れさせたのであった。

「えっ!? 『Raison d'etre』のイブ……さん!?」
「うん、そうだよ」
 目を覚ましたと同時に出会った有名人に、少年は驚嘆の表情。それに返答したのは、何故か自慢げな雰囲気を滲ませたヨミである。
「何かを志す気持ち、僕の歌にも通ずるところがあると思うぜ! だから、その気持ちは大切にね!」
 憧れていたらしいイブの言葉に、少年は魅入られたように何度も頷いている。
「そうね! アンタには、自分を鍛える漢気があるんだから! 非凡といっていい根性だわ!」
「ええ、見返そうという心意気、実に応援したいものです」
 芙蓉は、事情を聞いた時から、少年の事を高く評価していたようだ。少年の背をバンバン叩く芙蓉の隣では、ヨハンも大きく頷いている。
「ただ、復讐には先がないってことも忘れないようにな。それだけの行動力があるんだからよ」
「ああ、危ない事は控えろよ?」
 敬重と是之は、それぞれ忠告を。一通り言い終わった後、是之が少年にアンパンを渡すと、少年は大人しく囓り、「……美味しい」一言そう言った。
「是之、僕にもちょうだい」
 最初に要求したルカを筆頭に、「私よ! いえ私もよ! ねえ!」とグイグイ詰め寄る芙蓉。ヨハンらも、是之からアンパンを受け取り、笑顔で頬張る。
 その時――。
「俺の小指一本サーガがいま始ま――イタァイ!」
 そんな珍妙な慶の悲鳴が、山に響いた。どうやら、少年に習って、木を相手に神拳を放ち完敗したようだ。
「ごはんだね?」
 純粋な表情で、ヨミがイブを見上げる。アンパンを我慢して自分とのごはんを楽しみにするヨミに、イブの口元はどこまでも緩むのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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