怨霊は図書室を彷徨う

作者:澤見夜行

●分類番号666
「ねぇ、聞きたくなぁい? 廃校舎に伝わる怪談話」
 放課後、中学の教室で雑談に華を咲かせていた、由里、花蓮、奈央は、その突然の声に振り向く。
 不気味な雰囲気を纏うその者に圧倒され、思わず三人は息を合わせ頷いてしまう。
 曰く、廃校舎の二階の図書室。そこに呪われた本が存在するという。
 ――分類番号666。
 水産養殖関係を収めるその棚に、血が乾いたような赤茶けた本があるらしい。
「その本はある少女の持ち物だったの。とても大切なものだった。
 けれど、誰かがその本を図書室に隠してしまった。……少女はいじめられていたのね。
 少女は嘆き悲しみ、そしてついに自殺してしまったの」
「……それから、どうなったの?」
「――その本を見つけて取り出そうとすると、少女の怨霊が現れて襲ってくるんだそうよ。
 『本を、返して……』ってね」
 その不気味な語りにいつのまにか引き込まれる三人。
 目を瞑り、息を飲み、小さく悲鳴を漏らす。
 本当にそんな本が存在するのか。
 意を決して確認しようとする三人だったが、霧散したかのように、すでに人影はない。
 顔を見合わせた三人は一つ喉を鳴らすと、視線を交わす。
「……ねぇ、明日行ってみない?」
 誰が言い出したわけでもない。三人は互いに頷くと教室を後にした。


「ドラグナー『ホラーメイカー』が、屍隷兵を利用して事件を起こそうとしているようなのです」
 クーリャ・リリルノア(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0262) が、資料を手に説明を始める。
 ホラーメイカーは作成した屍隷兵を学校に潜ませ、怪談に興味のある学生を怪談話で誘うと、屍隷兵に襲わせるということだ。
「既に、学校の怪談を探索して行方不明になってしまった子たちもいるようなのです。早急に解決する必要がありますです!」
 クーリャによると、今回の事件現場となる中学校でホラーメイカーが広めた怪談話は、廃校舎の図書室に出る怨霊の話らしい。
「指定された棚にある本を取ろうとすると、怨霊に扮した屍隷兵に襲われちゃうそうです。
 怪談話を聞いた一般人が事件現場に現れないように対策しつつ、怪談話に扮した学校に潜伏する屍隷兵を撃破してくださいなのです」
 続けて敵性戦力と周辺状況について説明が入る。
「出現する敵は屍隷兵一体です。ホラーメイカーは姿を隠しており見つけられませんです」
 屍隷兵の戦闘能力は低いが、デウスエクスと同じようにグラビティによるダメージしか受け付けない。油断は禁物だ。
「場所は廃校舎二階の図書室になりますです。分類番号『666』の棚のようですね」
 図書室の本はすべて背表紙下部に分類番号がついている。棚ごとに整理されているので、番号を目印に調べていけば目的の本を見つけやすいだろう。
「怪談話を聞いた中学生達は、部活終わりの夕方六時に廃校舎前に集まり向かうようなのです。中学生達が中に侵入しないように事前の対策をお願いしますです!」
 説明を終え資料から目を上げると、クーリャが最後に、と口を開く。
「この屍隷兵はどうやら螺旋忍軍の集めたデータを元にして作られたようなのです。
 学校に屍隷兵を潜伏させたドラグナーは、人を誘引するような怪談話をばらまいたりして、どうにも用意周到な感じなのです」
 うっかり私も怪談に乗せられてしまいそうなのです、と口を尖らせクーリャは言う。
「とにかく、中学生達がこの学校の怪談を模した屍隷兵の被害に遭う前に、早急に撃破する必要がありますです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 クーリャは一礼するとケルベロス達を送り出すのだった。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
花守・蒼志(月籠・e14916)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)

■リプレイ

●説得
 現場へと駆けつけた番犬達の目に廃校舎の昇降口と、怪談話を聞いたと思われる中学生三人組が映る。
「こんばんは」
「えっ……あ、こんばんは」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)が声をかけると、中学生の三人は驚いたように振り返った。
 番犬達は三人に事情を説明する。
「怪談の正体はデウスエクスでございます。ここはわたくし達に任せていただき、どうかお引き取り下さい」
 三人にそう告げる鴻野・紗更(よもすがら・e28270)。デウスエクスという言葉に、三人に怯えが走る。
「え、それじゃ私達が聞いた話って嘘なんですか?」
 由里と名乗った少女が訝しげに問う。
「そうだよ、でっち上げ。まあ怪談話に惹かれる気持ちはわからなくもないけどね。でも、確かめに行ったら冗談じゃ済まないことになっちゃうからさ」
 雨月・シエラ(ファントムペイン・e00749)が「冗談じゃ済まない」の部分を強調していうと、奈央という少女が怖がるように小さな悲鳴をあげた。
 奈央は「帰ろうよ」と二人に声をかけるが、由里と花蓮はまだ悩んでいるようだ。
 そんな二人に草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が強く言う。
「いいことを教えてやる。世にある不可思議の正体、その大体は真っ赤なウソか――デウスエクスか。その2択だ!」
「じゃあ今回のも?」
 花蓮があぽろに訊ねる。
「そういうこった。わかったら帰りな」
 あぽろは頷くと手で追い払うように振った。
「えー」
「一緒に付いてきてもらえばよくない?」
 帰りたがる奈央とは対照的に、由里と花蓮は帰ろうとしない。
 怖いもの知らずだなと、番犬達は思う。ただ一緒に付いてくるというのは、戦闘時に巻き込んでしまうので絶対に避けなければならない。
 さて、どうしたものかと考えていると、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)と花守・蒼志(月籠・e14916)が頷き行動に移る。
「えへへっ! 襲われちゃうよ!」
「わぁっ!」
 不意にイズナに後ろから声を掛けられ奈央が声を上げる。どうやら一番恐がりらしい。
 びっくりした奈央は「早く帰ろう」と二人に促す。
 もうすでに行方不明になった生徒もいるということを伝えると、三人の顔に真剣さが出始める。
「危ないからね」
「だ、大丈夫だよ」と言って聞き分けない二人に駄目押しするように、蒼志のサーヴァント鈴蘭が飛び出して驚かせる。
「きゃぁ!」
「害意がないお化けでそれだけ驚くのなら、本物なら危なかったよ?」
 そう言って、蒼志は鈴蘭を撫でると、鈴蘭は気持ちよさそうに「きゅー」と鳴いた。
「さ、わかったらお帰り下さい」
 三人は顔を見合わせると「確かにデウスエクスがでたら危ないもんね」と意見を翻し、最後には「はーい」と言って帰路についた。
「やれやれ、怖いもの知らずな娘たちじゃのう」
 藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)の言葉に、番犬達は苦笑する。
「それだけ平和を謳歌出来ていると言うことですね」
「確かに」
 番犬達は三人組が廃校舎から離れるのを確認すると、手早く準備に移る。
「では皆様、人払いを」
 紗更の言葉に九石・纏(鉄屑人形・e00167)とイズナが頷く。キープアウトテープを張り巡らし、また殺界形成による人払いがなされる。
「これで、近くに寄ろうとする人はそうそう出てこないでしょう」
 仲間達が人避けの対策を講じているあいだに、恭志郎は廃校舎の周囲をぐるりと見て廻った。
「大丈夫そうかな……」
 どうやら他に廃校舎を訪れている者はいなさそうだ。
 これならば一般人を戦闘に巻き込むこともないだろう。
「それじゃ行きますか」
 番犬達は顔を見合わせ頷くと、屍隷兵潜む廃校舎へと足を踏み入れた。

●廃校舎の屍隷兵
 廃校舎に入った番犬達は、怪談話にあった図書室へと向かう。
「廃校舎だけあって雰囲気満点だねー」
 シエラは緊張感なくそう言うと、辺りを観察する。
 人の出入りは殆どないのか、埃が舞い、天井には蜘蛛の巣が多数ある。
「あっ……でも埃っぽいし長居はヤだなあ……。髪がベトベトになっちゃいそう……」
 風化していくままの廃校舎を見ていたシエラは、自身の髪に触れながら呟いた。
「では、手早くすませましょうか」
「賛成」
(「怪談と言う物語はいつでも人の心を惹きつけるものじゃのぉ……こうして事件が起こらなければ笑って済ませられる範囲なのじゃが……」)
 廃校舎を歩くカノンはそう思いながら、しかし肝心のホラーメイカーの姿が見えないことを訝しんでいた。
 目的の図書室は廃校舎内二階にある。
 木造の校舎が歩くたびに軋む音を発し、まさに怪談向けの様相だ。
 階段を昇り二階に上がると、廃校舎の一番奥に向けて歩いて行く。
 途中いくつも空き教室を見るが、どこも手つかずのまま放置されているようだった。
 番犬達は図書室へと一直線に向かうと、扉を開け中へと侵入した。
 事前の情報通りならば、ここに屍隷兵が潜んでいるはずだ。
 番犬達は手早く準備を整える。
「封鎖完了だ」
 纏は図書室入口前をキープアウトテープで封鎖し、戻ってくる。
 図書室内を見て廻り、司書室に繋がる扉にもキープアウトテープを張り巡らし、図書室に一般人が近づけないよう完全に封鎖した。
 目的の書棚を探す。
「分類番号666か……」
 呟きながらカノンは知識を呼び覚まし考える。
 666、「悪魔の数字」やら「不吉な数字」や「世界を影から支配する数字」などと言われている数字だ。
「まさに怪談話にはうってつけと言うか、故意的なのかのぉ?」
 とはいえ、書棚に並ぶのは水産養殖関係の本だ。ホラーメイカーがどんな意図でこの番号を怪談話に使ったのかはわからないが、ただの悪戯にしては狙いすぎてるように感じた。
 随分放置されていたのかボロボロになっている書棚が多かったが目的の書棚を見つけることができた。
 左上から順に、一冊ずつ確かめていくと、一冊分類番号の付いていない赤茶けた本があるのを見つけた。
「ありました」
 恭志郎が仲間達に声をかけ、確認する。
「確かに、赤茶けた本ですね」
「分類番号もついてない」
「間違いなさそうですね」
 全員で確認し合い頷く。本当に屍隷兵は現れるのだろうか。現れるとしたらどこから? どう対処する? 恭志郎の頭にいろいろな考えが巡る。
 一つ深呼吸をすると、頭をクリアにする。どうなるかはわからないが、仲間もいる。大丈夫だ。無駄な考えを省き、意識を周囲に集中する。
 そうして一呼吸おいた恭志郎は一歩前にでて本に手をかけた。
「では、いきます」
 声で合図し、勢いよく本を抜き取った。
 瞬間、濃密な殺意が図書室を支配する。
「出てきたな」
 纏が声を上げる。
 本棚の陰より現れるのは、本の破れたページを出鱈目に身体中に巻き付け、醜悪な吐息を漏らす――屍隷兵だ。
「カエ……シテ……!」
「ご丁寧に台本通りのセリフだな!」
 くぐもった声を上げながら、屍隷兵が本を手にする恭志郎に襲いかかる。
 引き裂くように手を振り下ろす屍隷兵。
 恭志郎の腕に裂傷と同時に毒が広まる。
「いざ、参りましょうか」
 油断なく武器を構える紗更。たとえ格下である屍隷兵相手だったとしても、慢心することはない。
 確実に、的確に。成すべき事を粛々と成す。
 恭志郎が後退するのに合わせて紗更が飛び込み大鎌を振るう。虚を纏う一撃が、屍隷兵の胴体を斬り裂き、その生命を簒奪する。
「それじゃ、早いとこ終わらせよっか。多分、その方がキミ達にとっても良いだろうし」
 現れた屍隷兵に僅かな憐憫を滲ませて、シエラは武器を構えると全身に地獄の炎を纏わせる。
 そのままサイコフォースで屍隷兵を爆破すると、続けざまに魔法光線を発射する。
 爆煙の中から呻り声を上げながら屍隷兵が飛び出してくる。
「させませんよ……!」
 蒼志がすぐに反応し、恭志郎を狙う一撃を庇う。
(「やはり本を抜いた者が狙われるようだね」)
 仲間同士の体力に気をつけながら、蒼志と恭志郎は仲間を庇っていった。
「筐さんと花守さんの回復は我輩に任せるのじゃ」
「ありがとう、助かります」
 舞い踊るカノン。癒やしのオーラ煌めく花びらが舞い、前衛の二人の体力が回復する。
「鈴蘭……!」
「きゅー!」
 蒼志の指示に、サーヴァント鈴蘭がブレスを放つ。
 屍隷兵が怯んだところを狙って砲撃形態で竜砲弾を放ち、屍隷兵の足を止めていく。
 その流れに纏も乗っかると、竜砲弾を次々浴びせていく。
「おまけだ」
 目にも止まらぬ早さで銃弾が放たれ、アムードフォートの主砲も轟音を上げる。
 屍隷兵に巻き付く破れたページが飛び散り、屍隷兵の呻き声が図書室に響きわたる。
 だが、まだ屍隷兵は健在だ。白煙の中を、愚鈍かつ鈍重な動きで番犬達に襲いかかる。
「――緋の花開く。光の蝶」
 イズナの手のひらから放たれる緋色の蝶。
 幻想的に舞う光の蝶が、屍隷兵の注意を逸らす。
 蝶を追いかけるようにその動きを止める屍隷兵。その機会を番犬達は逃さない。
「体力だけは多いな」
「やれやれ、早いとこ片付けるとしようかのう」
 番犬達の攻撃が集中する。
「草火部さま、雨月さま、合わせます」
「はいよ!」「はーい!」
 仲間への声かけを忘れず、連携を意識した立ち回りをする紗更。
 決してでしゃばった事はせず、丁寧に攻撃を積み重ねていく。
 紗更の掌から放たれるエネルギー体が屍隷兵の身体を貫くと、その機に飛び込んだあぽろとシエラが連携して屍隷兵に致命的なダメージを与えていった。
 攻撃は止まらない。
 恭志郎と蒼志の二人が仲間を守り、イズナと纏、そして紗更が状態異常と行動阻害を与え仲間の援護を完璧にこなし、そこを攻撃役のあぽろとシエラが的確に狙う。
 屍隷兵は藻掻くように引き裂きや噛み付きを行うが、すぐさまカノンの癒やしによって治療され、番犬達にはまるで影響がない。
 体力は多いものの、所詮は格下の相手。また多勢に無勢だ。
 番犬達の圧倒的優位に戦況は進む。
「こいつはどうだ」
 纏の鉄弐式にマウントされた鉄屑堂製散弾銃から散弾が叩きつけられる。
 動きの遅い屍隷兵は回避することができず、その身体に巻き付いた破れたページごと肉片を飛び散らかす。
 ボロボロと肉片を零し落としながら、屍隷兵が挑みかかってくる。
「ッ……!」
 屍隷兵の攻撃を受け止めながら恭志郎は思う。
 ドラグナーまでもが屍隷兵を使いだしたこと。
 以前、関わった戦いで螺旋忍軍の研究者を撃破出来ていれば、この事件はなかったかもしれない。
 ……たらればは無意味だとわかっている。
「だからこそ……」
 武器を握る手に力を込める。せめて、今は可能な限りの阻止を。
 屍隷兵へ攻撃しながら誓う。
 ――いつか必ず、こんな技術は絶やしてみせるから。
 屍隷兵のくぐもった怨嗟の声が上がった。
 恭志郎の神速の突きが屍隷兵をはじき飛ばす。
 目に見えて、屍隷兵の動きが鈍る。
 番犬達が顔を見合わせ頷くと、武器を構え一斉に飛びかかった。
 もう終わりにしよう。全員が無言のままにその意識を共有していた。
「そんなにページを巻き付けてたらよく燃えちゃうね」
 イズナの元から半透明の御業が生み出され、炎弾を飛ばし、屍隷兵を延焼させる。
「どんな守りだって、すり抜ける!」
 すかさずシエラが飛び込み、暴風纏う一閃を放つ。
 荒れ狂う暴風が、延焼する火の勢いを増加させ、さらに、その肉体を切り刻んでいった。
「どれ……我輩もやるとするかのう。雨月さん」
 カノンが声を掛けるとシエラがすぐに飛び退く。カノンは構えた弓から矢を放つと、矢は屍隷兵の心を一直線に貫いた。
「それ、まだまだいくぞい」
 カノンの手から目にも止まらぬ速度で礫が放たれ、屍隷兵を穿つ。
「アァぁ……!」
 屍隷兵から苦悶の声が上がる。
 次々と襲いかかる地獄の番犬の牙の前に、屍隷兵は為す術が無い。
 あぽろの右手に純粋な力――太陽を現出させる熱と破壊のエネルギーが集中する。
「テメェも本当なら被害者だ!その腐った体ごと、光に還すッ! ――『超太陽砲』!!」
 至近より放たれる陽の深奥。
 純然たる熱エネルギーの塊が、屍隷兵を焼き尽くし滅ぼす。
 轟音と共に空に伸びる光の大柱は勝利の祝砲だ。
 静謐がその宿主たる図書室に戻ると、そこにあるのは焼け焦げた屍隷兵だった者の一部だ。
 こうして、図書室の怨霊たる怪談の主は撃破されたのだった。

●赤い本
 戦い終わり、破損した箇所を修復し終えた番犬達は、図書室にホラーメイカーに繋がるなにか手がかりが残されていないか手分けして探すことにした。
「行方不明者の痕跡は……やっぱり無えか」
 なにか痕跡が残ってないかと図書館内を歩き探すあぽろだったが、手がかりになりそうなものは見つけられなかった。
「うーん、やっぱり手がかりは何もなさそうだねえ」
 イズナは書棚を見て回るが、こちらもやはりホラーメイカーや屍隷兵に関わるような手がかりは見つけられなかった。
「やはりここには何も残されていないようですね」
「ほんっと、ホラーメイカーってこんな回りくどいことして何がしたいんだろうね」
 ホラーメイカーの思惑に翻弄されているようで、番犬達は皆一様に釈然としない気分だった。
 焼け焦げ屍隷兵であったソレの一部を、纏は布に包む。
(「同じ人間として、後で供養ぐらいはしてあげよう」)
 纏は静かに黙祷すると、その場を離れた。
「あと気になることと言えば……」
 恭志郎がなんとなく持っていた件の赤い本へと番犬達の視線が集まる。
 薄暗くなった図書室内で、纏はランタンを灯すと赤茶けた本へと目を向ける。
 それは何の変哲もないファンタジー小説のようだった。
「蔵書印があるね。くみき、あやこ。久弥木綾子って人の持ち物だったようだね」
 蒼志が言う。蔵書印を押すとなるとよほどの本好きだろう。また本の状態からみてかなり古いということが分かる。
 この人物が、怪談話にあった少女のことなのかはわからない。
 ただ確かなのは、久弥木綾子なる人物の本が、怪談話の通り分類番号666に置かれていたということだ。
 この本の持ち主が本当に自殺したのかどうかはわからない。けれど、もし本当に怪談通り、持ち主がいじめにより自殺していたとしたら……。
 番犬達はどこか薄ら寒さを感じて、本を元の場所へと戻すと、図書室を後にした。
 扉をしめた図書室の中から、微かな、声がした気がした――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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