真夜中のジギタリス

作者:犬塚ひなこ

●真夏の夜の花
 何故だか今夜は眠れなくて夜の散歩に出た。
 少女は近所の公園に行ってみようと思い立ち、夜の町を歩く。昼間の日差しは強くて熱が籠ったような暑さだが、夜ともなれば心なしか涼しい気がする。
 普段はあまり通らない雑木林を通れば丘の公園まですぐだ。周囲よりも暗い林の中は少し怖かったが、ライトも持っているし夏の冒険だと思うとわくわくした。
 そんなとき、少女は道の傍らに一輪だけ凛と咲いている花を見つける。
「なんだったかな、このお花。ジギタリス……?」
 こんな場所に一輪だけ、しかも綺麗に咲いているとあれば気になってしまう。
 花弁の色合いは上部が白で下にいくにつれ薄い紫。淡く色付く花はとても綺麗だ。そっと近づいて花を眺めた少女はふと、花が妙な動きをしたことに気付く。
 風も吹いていなかったのに、と首を傾げる少女。
 次の瞬間。目の前で揺れた葉と花が異形へと変貌し、そして――。

●公園の片隅で
 少女はジギタリスの花に襲われ、意識を失った。
 枯れていた花が何らかの胞子を受け入れて攻性植物として蘇り、通り掛かった彼女を宿主としてしまったらしい。
「その後、攻性植物は雑木林から公園を通って近辺の人を襲ってしまうそうです」
 ヘリオライダーから伝え聞いた予知の内容を語り、リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)は集ったケルベロス達に協力を願った。
 敵は一体のみ。
 配下などはいないが、少女の身体を操っているという点ではとても厄介だ。
「取り込まれた女の子は攻性植物と一体化しています。普通に攻性植物を倒すと一緒に亡くなってしまうそうです。ですが、敵にヒールをかけながら戦うことで戦闘終了後に救出できる可能性があります」
 ヒールグラビティを敵にかけても回復不能ダメージは少しずつ蓄積する。つまり、癒しながら粘り強く攻性植物を攻撃して倒せば助けられるのだ。
 その為には長期戦を覚悟する必要があるとリュティスは告げた。無論、速攻で倒す事もできるがその場合は少女の命を諦めることになる。
「確実に勝利することも大切ですが、助けられるかもしれない命を最初から諦めて挑むなんてことはしたくありません」
 リュティスは首を振り、出来ることは行いたいと皆に伝えた。
 だが、万が一にでも危ういことがあれば早々に撃破することも必要だ。リュティスはどのような結果になっても良いようにと覚悟を決め、改めて仲間達を見つめる。
「ただの夜の散歩が死への道程になるなどあって良いことではありません。それがデウスエクスの所為なら尚更のことです。皆様、どうかお力をお貸しください」
 リュティスは仲間達へと深く頭を下げた。
 少女の命を救う為に。そして、これ以上の被害を起こさせぬ為に。ケルベロスの力はこの為にあるのだとリュティスの眸は語っていた。


参加者
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
卯京・若雪(花雪・e01967)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)
藍染・夜(蒼風聲・e20064)

■リプレイ

●公園にて
 風に草木が揺れ、月明かりに葉の影が浮かびあがる。
 真夏の暑さも和らいだ夜。公園から眺める木々の向こう側は、どうしてか違う世界に繋がっているかのように思えた。
「夏の夜は、お散歩にうってつけですものねえ」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)は辺りを見渡し、夜風になびく黒髪をそっと手でおさえる。視線の先には暗闇にうごめく何かの影があった。
 藍染・夜(蒼風聲・e20064)はそれが敵だと察して仲間に警戒するよう呼びかける。
「――来たか。夏枯れのまま朽ちずに済んだとはいえ、最期の生の謳歌が妖し化では花も浮かばれまい」
 それとも狐の手袋の名に肖って化かす遊びを楽しんでいるのか。
 少しの皮肉が浮かんだが口にはせず、夜は現れた攻性植物憑きの少女を見据えた。相手も此方の存在を認識したと感じ、リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)は戦いに向けて身構える。
 そして、踏み出した少女の姿が月光の下で明らかになった。
 卯京・若雪(花雪・e01967)はジギタリスに絡みつかれている少女を瞳に映し、花が放つ禍々しい空気に首を振る。
「本来は毒とも薬ともなる花と聞きますが、こうなっては最早……」
「ジキタリスは本当に小さな手袋みたい。とっても可愛い」
 泉本・メイ(待宵の花・e00954)も花を見つめ、ふるふると頭を横に振った。花も少女も何も悪いことはしていないのに。綺麗に咲いていただけなのに、どうしてこんなことになってしまうのかとメイの表情が曇る。
 だいじょうぶですよ、とサヤがメイに告げると、夜も静かに頷いた。
 そうそう、と穏やかに答えたマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)も仲間を励ましながら拳を握る。
「こんなか弱き女の子が攻性植物の犠牲になっていいわけがないんだよ」
「こんなことで誰かが犠牲になって良いはずないんだ!」
 マサムネに同意を示し、秋空・彼方(英勇戦記ブレイブスター・e16735)も敵を強く睨み付けた。ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)も気を張り、今にも襲い掛かって来そうな攻性植物に狙いを定める。
「目の前の女のコ一人救えないんじゃァ、地球のヒーローの名が廃るってな。っつーコトで、今日も気合入れて頑張るとしましょうや」
 軽い口調ではあるが、ダレンの瞳に奥には闘志めいたものが映っていた。彼方は全力を賭すと決め、リュティスも敵に意識を向ける。
「助けられる可能性があるのに諦めるなんてできません。皆様、頑張りましょう」
 そして――夏の夜の戦いが始まりを迎えた。

●紫色の花
 攻性植物が魔力の花を咲かせ、紫の色彩が周囲に広がる。
 気を付けて、と告げた夜が身構え、彼方もぐっと拳を握り締めた。
 その矛先が若雪に向かっていると察した彼方はライドキャリバーのヤタガラスに呼び掛け、守るように願った。その声に呼応する形で機体が仲間の前に滑り込む。
「絶対に助けてみせる……!」
 彼方は取り付かれた少女を見つめたまま、気合いの言葉を口にした。
 勿論、と答えた若雪は御業を呼び出す。
「仇なすばかりと成り果てた存在は、摘み取る他にありません、ね」
 敵を屠る他ないと心を決めた若雪は禁縛の呪で敵を包み込んだ。其処に合わせてダレンが正義の意志を拳に宿す。
「何、このおにーさんやらおねーさんやらは全員達人だぜ。すぐに助けてやるから、安心して待ってな」
 攻性植物が動くたびに苦しげに呻く少女に向け、ダレンは励ましの言葉を掛けた。そして、叩きつけられた拳は敵の悪意そのものを打ち砕かんと迸る。
 激しい衝撃が散る中、サヤは攻性植物の癒しに入った。
「無事におうちに帰れるように、まなつのよるのゆめにしてしまいましょう」
 標的の初期値を観測したサヤは傷付いた敵の状態を引き戻す。再構築された敵の身は綺麗な花に戻ってしまうが、これも少女を救う為。
 メイは仲間が少女を守ってくれると信じ、手にした槍を強く握る。
 いくよ、と告げて放たれた稲妻の突きが攻性植物を穿った。そのとき、メイは至近距離で花を見る。ジギタリスのかたちは狐の手袋めいている。その花の別名を浮かべたメイは以前に読んだ童話を思い出した。
(「狐の子供の買った手袋はこんな感じだったのかな……?」)
 しかし、すぐにはっとしたメイは次の一手に向けて身構え直す。その間にマサムネは翼猫のネコキャットと共に援護に回った。
「ジギタリスは食べると有毒なんていう話も聞いたけど、こんな形で人に害をなすとはね。でも、それを救うのがオレ達ケルベロスの役目だ」
 攻性植物に聖なる光を宿して共鳴させたマサムネに続き、ネコキャットが翼を広げた。仲間達に巡る加護を確かめながら、マサムネはこれからの戦いを思う。
 きっと長い戦いになるだろう。
 だが、最初にリュティスが告げた通りに誰も諦めたりなどしない。
「大丈夫です。サヤ様、メイ様もおられますし、とても心強いです! シーリーも力を貸して下さいね?」
 リュティスが仲間達を見渡すと翼猫が翼をはためかせた。
 そうしてウイングキャットのシーリーは敵から放たれる一閃を受け止めに飛び立ち、衝撃を肩代わりする。リュティスは相棒猫に目配せを送った後、一族に伝わる秘術を発動させていった。
 舞う彼女から溢れる力は前衛に向けられ、加護を打ち砕く祝福となっていく。
 夜は狙いを定め、花に指先を差し向けた。
 囚われた少女に罪はない。疾く返して貰おうか、と言い放った夜は触れられぬ霞みの檻を敵の周囲に顕現させた。
「宵色の青花と黎明色のジギタリス。二つの花舞う光景は美しかろう」
 痺れを伴う衝撃が攻性植物を包み込み、その動きを鈍らせる。
 彼方は自分も仲間に続きたいと考えて地面を蹴りあげた。跳躍した主に合わせるようにヤタガラスが地面を駆ける。
「絶対に、何事もなかったかのように元気な姿で帰すんだ……!」
 ライドキャリバーが先んじて機銃を掃射していき、彼方は流星を思わせる蹴りを放った。だが、即座に反応した攻性植物が伸ばした茎で彼方の蹴撃を振り払ってしまう。
 うわ、と声が上がったかと思うと彼方の身体が弾き飛ばされた。
「大丈夫か? 今援護するからな」
 ダレンは彼方に心配そうな視線を向けたが、すぐに敵に銃口を差し向ける。次の瞬間、ダレンが素早く放った弾丸が敵を貫く。
 その際にダレンは意識を失ったままの少女を見つめた。うう、と小さく響く声は実に苦しげで痛ましい。
 マサムネは眉尻を下げ、一刻でも早く彼女を解放したいと感じた。
「怖いだろうね、ちゃんと助けるからね」
 しかし、焦りは禁物。爆破スイッチを押して癒しと鼓舞の爆風を起こしたマサムネはネコキャットにも声をかける。背中は任せたよ、とかけた言葉には確かな信頼が宿っていた。
 激しい風が吹き抜け、周囲の木々がざわめく。
 メイはよろめきそうになりながらもしかと立ち、夜の空気を感じ取る。
 真夜中はいつもは寝ている時間。だからだろうか、暗い闇に包まれた世界は異世界のように思えた。
「夏の夜の冒険にわくわくする気持ち、分かるよ。でも……!」
 冒険が危険に変わるなら自分達が黙っていない。メイは人差し指を天にかざし、光を集めた。模型飛行機めいた形へと変わったそれは風を宿し、耀く軌道を描く。
 廻る回転翼で悪いものを祓うように、真っ直ぐに――。
 その衝撃が敵の力を大きく削り、すぐさまサヤが極小範囲の再構築をふたたび行った。開かない箱の中身を書き換えるようにして花の傷がふさがる。
「自己責任と片付けるには、あんまりにも理不尽ですものねえ」
 夜の散歩は自分も好き。叶うなら、少女に怖い思いを残さないようにと願ったサヤは改めてジギタリスに意識を向けた。
「サヤはジギタリス、すきですよ」
 不吉なイメージも多い花ではあるが毒と薬は紙一重。
 サヤから零れ落ちた囁きを聞き、若雪も良い色の花だと頷く。そして、若雪は握った刃を高く掲げた。
 花を綺麗だと思った温かな心が、冷たい闇に閉ざされぬように。
「彼女は現へ、返して頂きます」
 真夜中の闇に月光めいた斬撃が煌めきが奔り、鋭い一閃となって敵を斬り裂く。だが、若雪の一撃を受けた攻性植物が反撃に出た。
 夜は咄嗟に前へと踏み出し、仲間に向けられた緑葉を受け止める。
 最後まで盾として立つのが己の役目。痛みを堪えた夜は重力鎖を破壊の力へ変え、ひといきに敵を穿った。
 一瞬だけ近付いた少女に夜は声を掛ける。
「生を手放すには未だ早い。諦めず前を向いていて」
 たとえ聞こえずとも思いは伝わると信じたかった。夜の言葉にあわせ、リュティスも少女に呼び掛ける。
「私達が助けてみせます。あと少しだけ耐えてください」
 リュティスはシーリーと癒しに専念し続け、攻撃が放たれる度に動いていった。
 そうして戦いは続き、幾度も攻防が繰り広げられてゆく。
 若雪やメイ、ダレンが攻撃を続ければ、サヤとマサムネが敵を癒していく。彼方と夜は敵の様子を注視し、リュティスは仲間に回復を施し続けた。
 徐々にではあるが攻性植物の力は削れている。
 そんなときに彼方は好機を見出し、ガントレットを高く掲げた。
「ブレイブスター! アクションモジュールシックス! コードナルカミ!」
 迸れ、と彼方が口にした刹那、天に満ちた雷雲から一筋の閃光が落ちて左手に満ちた。先程は攻撃ごと弾かれたが、今度こそ。
 そんな思いを込めて放たれた四本の稲妻が敵を刺し貫く。
 その衝撃によって敵がよろめき、ひとつの花弁が散った。大きな転機が訪れたと感じた仲間達は頷きあい、花を見つめる。
 まもなく勝負をつける時が迫っている。そう感じながら――。

●ゆめに消ゆ
 癒しすら不可能な痛みが蓄積し、攻性植物はふらついている。
 同様に少女の表情も苦悶が混じったようなものへと変わっていった。若雪は彼女の負担が少しでも軽くなるよう、声をかけ続ける。
「僕達がついています、そして助け出してみせます」
「だいじょうぶですよ」
 サヤはもう一度、力強い言葉を紡いだ。
 メイも、もうすぐだから、と気力を保ち、長く続く戦いの終わりを見据える。
「私達が必ず助けるから頑張って!」
 懸命に呼び掛けながらメイは精神を極限まで集中させていく。其処から放たれた爆発は敵を翻弄し、更なる力を削り取った。
 されど、ジギタリスも抵抗を続けていく。ダレンに向けられた紫花は毒を孕み、その身に衝撃を与えた。
 花であるというのに重いそれを刀身で受け止め、ダレンは堪える。
「なに、こーいう時に耐えてこそ男のコってな!」
 強がり軽く笑い飛ばすダレンだが、その痛みが相当なものであることをリュティスは察していた。大丈夫ですか、と口にしそうになったリュティスだが、果敢に戦い続けるダレンにその問いは無粋だとも思えた。
「私は……最後まで皆様を支え続けるだけです」
 リュティスは真剣な眼差しを仲間に向け、守護の盾を展開していく。
 そして、夜は一気に展開を進めるべきだと感じて再び藍霞を広げていった。
 一輪だけ咲く孤独な花。
 それはきっと夜闇を独り歩きする少女の心を慰めただろう。花にとっても慰めとなっただろうかと誰にも諮れぬ思いを抱き、夜は手を翳す。
「そろそろお休みの時間だ、ジギタリス」
 ――黄泉路を彩る花と散れ。
 夜の一言の後、不明瞭な視界が敵を惑わせた。天藍の霧、纏い付く霞柵、逃れえぬ混沌。それらは花に痛みを与え、確実に弱らせてゆく。
「ネコキャット、仕上げに回るよ」
 マサムネはこれが最後の敵への癒しになると感じ取り、翼猫を呼ぶ。
 やろうか、と告げたマサムネが全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出すると、ネコキャットが翼を揺らして続いた。
 敵と味方に巡っていく力はやさしく、戦いの終わりを導いていくかのよう。
 彼方はヤタガラスに突撃するよう願い、自らも攻撃準備に入る。激しいスピンで敵を轢いたライドキャリバーと同時に彼方は破壊の力をその身に宿した。
「これで、変えてみせる――!」
 彼方が放った一撃は敵に宿った加護を壊し、一枚の葉を散らす。されど敵は彼方を拒むように緑の葉を舞わせた。
「く……っ!」
「誰も倒れさせたりしません!」
 崩れ落ちそうになる彼方を支えるようにリュティスが祝福を与える。メイは仲間達の連携にちいさな笑みを浮かべ、もういちど廻る回転翼で敵を穿った。
「あと少しだよ、諦めないで」
「必ず道を――帰り道を、開きます」
 若雪も其処に続き、どうか心まで飲まれませんようにと強く願う。
 流れるように、舞うように閃く刃が疵を残す。若雪の一閃は幻の花を咲かせ、辺りに優しい花香がふわりと漂う。
 眩い程の花眩の舞が敵を眩ませてゆく中、サヤは光の刃を手にした。これまでは観測と再構に専念していたが、それはもう終わり。
 真夜中は日常の中の非日常。
「非日常が過ぎて毒になってしまったこの夜を、ゆめへ片付けてしまいましょう」
 そして、夜風がサヤの前髪を揺らした刹那――。
 光は闇を裂き、攻性植物は跡形もなく枯れ落ちた。

●夏の夜
 倒れ込みそうになる少女に駆け寄り、若雪と夜はしかとその身を抱き留めた。メイもひょこりと覗き込み、意識を取り戻した少女に問う。
「大丈夫ですか……?」
「ん、うん……」
 どうやら傷ひとつない彼女の無事にほっとしたメイは金平糖を取り出して手渡す。甘いものを食べると元気がでるよ、と微笑んだメイの声に少女も薄く笑った。
 マサムネとリュティスは安堵を覚え、彼方も胸を撫で下ろす。
 助けられてよかった、と思う反面で彼方は少女を安心させる為に敢えて多くを語らないでおいた。
「何にもなかったよ、大丈夫」
「おはよう。日常へかえりましょーねえ」
 サヤも口許にちいさな笑みを湛え、ダレンもよく頑張ったな、と声を掛ける。自然と手を伸ばしてしまうが、ダレンは首を振ってそっと引っ込めた。
 そして、夜は少女に問いかけてみる。
「良ければ寝付けなかった理由を聞いていいだろうか?」
「え? お昼寝しちゃったから、です」
 きょとんとした彼女の様子にそんなことかと笑った夜は軽く肩を竦める。狐に化かされるなどとからかうのも憚られ、夜は少女を送って帰ると買って出た。
 メイはそれが良いと頷いた後、ふと夜空を見上げる。
 感じるのは夏の夜の少し冷たい空気。もうすぐ、夏が終わる。少し寂しい気持ちになってしまったメイの様子に気付き、サヤはその手を伸ばす。
「さあ、サヤたちもいきましょーか」
「うん!」
 そっと繋がれた手のぬくもりはやさしい。
 若雪は少女や仲間達の穏やかな様子を眺め、帰路につく皆の後に続く。
 思うのは、少女の幸先。
 ――どうか再び、彼女が安心して花を愛でる事が出来ますよう。
 心穏やかな日々の中へと帰れますように、と願った思いは、夏の夜の静けさの中へと緩やかにとけて消えていった。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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