剣は拳よりも強し? いいや、否定せよ、ケルベロス!

作者:ハル


「どうした!? 声が小さいぞ貴様ら!」
「押忍ッ!」
「もっとやる気出さんかー!?」
「押忍ッッ!!」
 そこは、とある格闘道場。師範代の厳しい檄に応えるように、門下生達は声を張り上げ、拳を勢いよく前へと突きだしていた。
「そこまで!」
 と、ふいに師範代が告げる。門下生達は、滴る汗を拭うこともせず、残心を心掛けた。
 ……静寂。耳を過ぎ去るのは、「ミンミン」と、蝉が奏でる合唱のみ。夏の風流を感じさせる、古き良き瞬間。
 だが――。
「邪魔するぜ! 格闘道場って看板を見かけてな、道場破りに来てやったぞ!」
 道場のドアが、勢いよく開かれる。無粋な音に続いて、不作法な声が響き、門下生達が顔を顰める。だが、すぐにその表情は強張った。何故なら、現れた男……いや、エインヘリアルは、3メートルを越えるかという程の巨体を有していたからだ。
「……道場破りだと?」
「ああ、てめぇが相手してくれんのか?」
 師範代が、門下生達を守るように前に出て、構えを取る。それに対し、エインヘリアルは人の神経を逆なでするようにニヤリと嗤うと、師範代を真似るように構えを取った。
 ……再びの静寂。だが、意味合いは正反対である。
「……し、師範代……」
 門下生達が、ゴクリと生唾を飲む。逃げようにも動けない。動けば死ぬと、本能が警鐘をけたたましく鳴らしている。そんな中、エインヘリアルと相対して構えを取る師範代の存在は、門下生達にとっての希望。勝てずとも、時間稼ぎくらいは……。エインヘリアルの拙い構えを見て、門下生達の心にそんな念が過ぎった。
「はっ!」
 先に動いたのは師範代であった。先手を取られてはいけない、そういった思考からくる果敢な攻め。しかし!
「くっくくくっ、馬鹿が!」
 エインヘリアルが、巨体の背中で隠していたゾディアックソードを抜く。師範代が目を見開いた。だが、避けようとするよりも早く、ゾディアックソードは師範代の身体を両断していて……。
「素手の格闘家なんて、所詮はこんなもの。武器を操れない弱者のお遊びよ」
「……あ、ああ……」
 一通り師範代の亡骸を踏みにじったエインヘリアルは、泣き叫ぶ素手の門下生達を、哄笑と共に切り刻むのであった。


「……すまない、お前達。またしても、私達エインヘリアルからこのような外道を出してしまうとは……」
 ケルベロス達を会議室に招き入れたザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は、血が滲む程唇を噛みしめていた。
「アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)の報告により、過去にアスガルドで重罪を犯した、凶悪犯罪者と思われるエインヘリアルが、道場破りを名乗り、格闘道場を襲撃するという信じがたい凶行を予知した」
 拳を武器でもって叩き潰し、無力感を与えようという意図が垣間見れる辺り、現れたエインヘリアルの質の悪さが窺える。
「このまま放置すれば、関係ないエインヘリアルにまで風評被害が及んでしまう可能性があるのだ。どうか力を貸して欲しい!」
 ザイフリート王子は、深く頭を下げて頼み込む。
「幸いな事に、エインヘリアルは一体であるようだ。また、ゾディアックソードを装備している事が確認されている」
 その他の問題点としては、2点。
「一つは、先に師範代と門下生を避難させてしまうと、エインヘリアルの標的が別に移る可能性が非常に高いということ。そのため、不本意ではあるが、避難はエインヘリアルの出現後に開始するしかない」
 そして、
「もう一点は、師範代は正義感が強く、門下生達を何よりも大事に思っていることだ。もちろん、これは称賛に値することだが、今回の状況如何によってはあまり良く事とはいえない」
 門下生達を守らなければ! そういう思考が働いて、避難が遅れ、あまつさえ自ら死地に赴く事もありえない話しではない。
「エインヘリアルの到着までは、若干の猶予がある。その点をしっかりと対処しておいて欲しい。なに、師範代が避難する事が門下生達の無事のために必要な事だと分かれば、師範代はちゃんと理解してくれるだろう。彼は、門下生達を守りたいのだから」
 エインヘリアルは、たとえ不利な状況に陥ろうとも、撤退の心配はない。
「あとは、しっかりと外道の初撃を受け止める事だ。そうすれば外道の注意を引きつけられるし、その方法が拳であったなら、より効果は覿面だろう」
 その際は、きっと目を見開いて驚き、哀れにも動揺を示すことだろうと、ザイフリート王子は口端を歪ませた。
「何度も頼ってすまないが、地球にいるエインヘリアルの名誉のため、今一度、力を貸して欲しい!」


参加者
夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)
相馬・竜人(掟守・e01889)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
朝影・纏(蠱惑魔・e21924)
レーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)
長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)
ルフィリア・クレセント(月華明瞭・e36045)

■リプレイ


「長篠、来いっ!」
「押忍!!」
 格闘道場では、胴着を着用した長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)が、ノリノリな様子で師範代と組み手を行っていた。
「次はアンジェラ!」
「はい、です!」
 ゴロベエが終われば、次はアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)の番だ。無論手加減はしているものの、アンジェラは頰から汗を流しながら、裸足で床を踏みしめ、真剣な表情で師範代に挑んでいく。
「美少女の汗は、やっぱりいいね~!」
 アンジェラとゴロベエの奮闘を、夜乃崎・也太(ガンズアンドフェイク・e01418)達は、道場の端で見守っていた。也太は、精神を叩き直す体で道場にやってきたはずであるが、ちょくちょくチャラ男の面を垣間見せている。
「夜乃崎さん、静かにしましょう」
 対照的に、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は正座のまま、背筋をビシッと伸ばしている。そして、瑛華にそう言われると、也太も表情をキリッと引き締めるのが、なんとも……。
『技があってもそれ以上の力でねじ伏せてくるのが連中なんだよなぁ。悪ぃんだが、ここは譲ってもらえねえか』
 そんな中、相馬・竜人(掟守・e01889)は師範代に告げた一言を、頭の中で反芻していた。その際の、師範代の無力感に肩を落とす姿が痛々しく、竜人のエインヘリアルに対する苛立ちを深めていく。
「わざわざ素手相手の所に、武器持参で来て騙まし討ちなんて、呆れて何も言えないわ……」
 竜人の心情を知ってか知らずか、朝影・纏(蠱惑魔・e21924)がふいに発した言葉は、その場の誰もが感じていたこと。
「獲物を持とうと、素手であろうと……それが強さのバロメーターにはならないかと存じます。……ふふ、ケルベロスの皆様を見れば、それは一目瞭然です」
「あなたも、そのケルベロスに一人でしょうに」
「ええ、だからこそ……」
 ――余計に剣ではなく、拳で倒したくなってしまいます。纏に軽く突っ込みを入れられたレーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)が、クスリと頬笑んだ。「見た目に反して、なかなか良いこと言うじゃねぇか」竜人も同意するように、獰猛な笑みを浮かべる。
「あとは、師範代さんが私達のお願いを聞いてくれるかどうか……ですね」
 ルフィリア・クレセント(月華明瞭・e36045)が言うように、懸念はその一点だ。ルフィリアは事前に、何よりも門下生達の安全を考えて、率先して避難誘導を手伝って欲しい……そう師範代に依頼していた。
「門下生さん達を守りたいという、師範代さんの心を信じるしかありませ――ふみゅぅ?」
 その時、唐突に格闘道場に扉が勢いよく開けられる。突然の事に、ルフィリアは可愛らしく鳴くが、すぐにその意味を悟る。
「格闘道場って看板を見かけてな、道場破りに来てやったぞ!」
 扉の先には、傲慢さを隠しもしない巨体のエインヘリアル。
「で、誰が相手してくれんだ?」
 エインヘリアルは、すぐ近くで組み手をしていたアンジェラとゴロベエの構えを一瞥し、嘲笑と共にその構えを真似するのであった。


「それじゃあ俺が……」
「いえ、まずは、わたしを倒してみてください、です♪ わたし程度を倒さずして、兄弟子や師範代に触れることは叶いません、です♪」
 立候補しようとしたゴロベエを制して、アンジェラが前に出る。ゴロベエは、「まぁ、君で十分だね」そう言って、素直に引き下がった。
「いいのかよ、こんな餓鬼を生け贄にして! てめぇは師範代じゃねぇのか? この腰抜けが!」
 エインヘリアルが、師範代を挑発しながらアンジェラに襲い掛かる。その際、一瞬駆け出しそうになる師範代をアンジェラが視線で制した。師範代の脳裏には、『門下生のみなさんも、あなたの言葉があれば、避難しやすい筈、です。みなさんを、導いてあげてください、です』というアンジェラの願い。竜人やルフィリアの言葉が蘇っていただろう。結果、それが師範代の足を止めさせ、託す覚悟を決めさせる。
「……ああ、その背中のモノ、使うならご自由に、です♪」
 一方、背中に手を伸ばしかけたエインヘリアルは、そのアンジェラの言葉に思考を凍り付かせていた。だが、一旦決めた行動を途中で止めることはできず、重力を宿したゾディアックソードと、アンジェラの音速の拳が激突し、道場内に衝撃が駆け抜ける。
「バッ!?」
 馬鹿な! そう言おうとして、エインヘリアルは言葉を詰まらせた。何故なら、眼前には拳から血を滴らせてはいるものの、以前健在なアンジェラの姿があったからだ。
「女の子に怪我させて、おまけに騙し討ちとはね。俺、そういうの嫌いなんだわ」
「ぐっ!」
 エインヘリアルの動揺を加速させるように、ホルスターから抜いた也太の銃から、雨あられのように弾丸が撒き散らされ、エインヘリアルの全身に食い込む。
「ハハ、こんなガキ相手に不覚取るとか、剣ってのも大したことねえんだな」
 髑髏の仮面で顔を隠しているものの、竜人の声色から、彼の浮かべている表情は容易に想像がつく。ウィッチオペレーションを施されたアンジェラは、「ガキじゃない、です! でも、ありがと、です」そう複雑な表情で感謝を告げながら、竜人に苦笑されていた。
「師範代様! 今のうちです!」
 エインヘリアルの隙を突き、レーヴの割り込みヴォイスが空間を満たす。
「安心してください。エインヘリアルの攻撃は、僅かであろうとも漏らしたりはしません」
 ルフィリアは、命のやり取りに少なからず動揺する門下生達を落ち着かせるように、そう言った。
 だが――。
「ぐずぐずするな! 彼らの邪魔になる!」
「お、押忍!」
 そんな声をかけるまでもなく、慣れ親しんだ師範代の一喝で、門下生達は我を取り戻し、整然と避難を開始していた。
「て、てめぇら! 一撃防いだ程度で良い気になりやがって!」
 しかし、エインヘリアルも徐々に冷静さを取り戻しかけている。連続して振るわれる二刀のゾディアックソードに対し、ゴロベエは素手でなんとか対応していたが、
「ゴロベエさん、これを!」
「押忍っ! さぁて、反撃といくか。拳士の力を思い知って貰おう」
 避難する門下生達の背中を守る瑛華に武装を投げ渡されたゴロベエは、それを装備すると直ぐさま反転し、星型のオーラを蹴り込んだ。
「避難は順調そうね」
 纏は振り返り、道場に残った最後の一人である師範代の背中を見送ると、
「仕方ないとは言え、道場で土足なんて悪いことしてるみたいでドキドキするわね」
 纏はその背中に向かい心の中で謝罪しながら、鞄の中から皮靴を、スカートの中から黒水滔々を取り出した。
「止めるわ」
 そして、捕食モードに変形させた黒水滔々で、エインヘリアルを丸呑みに! 全体的に、前衛の命中率が心許ない事を感じ取った、効果的な一撃。
「偶には銃を置いて、お相手致しましょう」
 避難が終わった事で、瑛華はエインヘリアルの前に。こう見えて、徒手空拳の心得もあるのですよ? そう告げる瑛華に、エインヘリアルは――。
「そうかい、なら今度こそ、その白い肌を傷だらけにしてやるよ!」
 遠慮も躊躇もなしに、ゾディアックソードを振り上げる。
「失礼しますね」
 対し、瑛華は艶っぽい笑みを浮かべると、低い重心からエインヘリアルの側頭部を狙い、蹴りで応戦する。
「くそっ!」
 冷静さを取り戻したとは言え、ケルベロスは精鋭揃い。序盤から、エインヘルアルは押され気味だ。
「私とも、お手合わせ頂きましょうか。プラレチも、やる気のようですので」
 焦りを増長させるように、「魔人」へと変貌したレーヴの蹴りが急所に突き刺さり、プラレチの尻尾の輪がエインヘリアルを傷つける。
「このっ!」
「おっと! 助けに来たよ、レーヴちゃん!」
 後衛へエインヘリアルの意識が向きそうになると、也太が攻撃に割って入り、
「望む事は、大地を穿つ神速の一撃」
 エインヘリアルの死角へと高速で回り込んだルフィリアが、気によって強化された蹴りを叩き込み、道場を揺らした。


「生憎と、喧嘩降魔拳士としてお前だけには負ける訳にはいかないんでね!」
「いつまでも御託をー!」
 ゴロベエの光と闇を宿した両腕が、ゾディアックソードを弾き、時にエインヘリアルの腹部を穿つ。踏み込みと同時に床板が粉砕されるのも気にせず、求めるのは勝利のみ。
(ようやく安定してきたかな)
 降魔の一撃を放つ也太は、存外に苦戦したここ数分を回顧し、ほっと息を吐いた。問題だったのは、全体的に前衛の攻撃がエインヘリアルに命中しなかった事。だがそれも、也太自身が付与した足止めに加え、纏のブラックスライムでの数度の攻撃により、若干緩和されてきていた。
「チッ!」
 だが、エインヘリアルとてその事は自覚している。一旦後方に飛び退きながら、なんとかヒールができないか試みている。が――!
「させません!」
 自身に付与しようとしたエンチャントは、その点は織り込み済みのルフィリアの音速の拳に追撃され、満足な効果が得られているとは言えなかった。思い通りに行かない展開に、ギリギリと歯軋りを繰り返している。
「……素手の分際で!」
 口から発せられるのは、そうした素手よりも武器を上に見た言葉。
「確かに剣を持てば、リーチもあり、切断力も高まります。……が、それが素手を下に見る理由にはなりませんよ」
 それが気に入らず、ルフィリアは冷めた表情で切り捨てる。要は、使い手側の問題だ。扱う者が扱えば、拳とて剣に劣らず立派な武器となりえる。
「現に、武器を扱わぬ私達に、貴方は徐々に追い詰められているではありませんか」
「ぐっ!」
 レーヴとプラレチの拳を裁きながら、図星をつかれたのか、エインヘリアルがさらに表情を歪める。レーヴが言うように、拳の価値を証明するのに、今回集まったケルベロス達以上のメンツは早々無いであろう。
「所詮棒切れが無きゃ何も出来ねえ弱者のお遊びって奴なんじゃねえの?」
 前衛の周辺に、竜人が発生させた爆風を吹き荒れる。
 逆説的に言えば、剣がなければエインヘリアルには何も残らない。戦闘とは、常に万全の準備を整える方が難しいのだから。
「ビルシャナじゃねえんだ、拳が至高とは言わねえが、自慢の剣で勝てねえこの状況――テメエ、今相当格好悪ぃぜ?」
 一方的に蹂躙している時は、気持ち良さが先行して分からないが、こうして互角、もしくは劣勢に立てば、武器が格上と拳を見下すエインヘリアルの姿は滑稽でしかない。実質、竜人に剣も真面に扱えない口だけ野郎と言われたに等しいエインヘリアルの頭部に、幾本もの青筋が浮き出た。
「舐めるな、弱者共!」
 爆風を吹き消すように、星座のオーラが散乱する。也太とゴロベエは、クラッシャーの女性陣を庇いながら、その暴風をなんとか乗り切ろうと堪えた。
「夜乃崎さん、長篠さん、庇って頂いてありがとうございます。私とコルレアーニさんで道を切り開きますので、相馬さんに傷を致してもらってください」
「頑張ります、です!」
 言うが早いか、ディフェンダーの背中から瑛華が飛び出し、その援護にアンジェラがつく。まずは瑛華がオーラの弾丸を顔面に向かって発射し、目眩ましとなった所にアンジェラの聖なる光が襲い掛かった。
「ぐぁっ!」
 それにより、エインヘリアルの足元の動きが、より拙くなったのを纏は感じた。瑛華とアンジェラに続く、3人目の動き。エインヘリアルは、纏のどこから攻撃が来るか見定めるように、剣を構える。ブラックスライムか? はたまた足か? だが、いつまで経っても構える様子がない纏に、エインヘリアルは我慢できずに先に動いた!
「武道には無手で得物を持った相手に対する技術があるのよ? 勉強になったかしら?」
「ギィッ!?」
 だが、エインヘリアルの剣は見切られ空を切り、変わりに無防備な足元は纏の掌底を受け、本来ありえない方向に曲がってしまっていた。
「ふふ、一緒に遊びましょう、です♪」
 そんなエインヘリアルをおちょくるように、アンジェラはニッコリと頬笑んだ。


 崩れ落ちるエインヘリアルに、当然のようにケルベロス達の攻撃が殺到する。
「やっぱ、お遊びだったのはお前の方だったみたいだな」
「こんな……ことがぁ!」
 今までヒール役とした専念していた竜人も攻撃に加わり、「見えない爆弾」が爆発する。
 おまけに、戦闘初期から主にレーヴとルフィリアに付与為れてきたパラライズによって、エインヘリアルはヒールもままならない様子。
「お前なんて、これで充分だ」
 ゴロベエが、エインヘリアルに見せつけるように籠手と靴を外す。
「お前は素手を人の技術を甘く見すぎたんだ。自宅警備式戦闘術、怠惰真拳奥義……牙懐崩山拳!」
 そして、我流の格闘術……その神髄である奥義を、嵐の如くエインヘリアルに叩き付ける。だが、ドドメとなる一撃だけはエインヘリアルに届かず、ゴロベエは「瑛華さん、纏さん!」と、二人に声をかけた。
「ふふ、チェーン・デスマッチでも、構わないですよ」
 その声に応じるように、瑛華とエインヘリアルの身体がグラビティの鎖によって繋がれていく。
「くそっがぁ!」
 いくら乱暴に扱っても壊れない鎖に、エインヘリアルの脳裏に死が過ぎる。
「……勉強を生かせるチャンスがあるとは限らないってことね」
 拘束されたエインヘリアルに、纏の黒水滔々が襲い掛かった。
「ほら、素手の相手を蹂躙したいんだろ?こいよ相手してやるから」
 フラフラと虫の息のエインヘリアルに、也太が銃をくるくると回転させながらホルスターに納め、告げる。一矢報いたいだろう? 也太がそう挑発するように人差し指をクイッと曲げると、
「お、おおおおおおおっ!」
 エインヘリアルが、必至の形相で剣を振り上げた。
 だが――。
 剣を振り上げた態勢のエインヘリアルに向かって、乾いた銃声と共に弾丸がいくつも吸い込まれていく。バタリと倒れるエインヘリアル。
「銃は剣よりも強しってか? てめぇの十八番やられた気分はどうよ」
 その亡骸に向かい、也太はざまぁみろと、吐き捨てるのであった。

 修復された道場は、多少ファンシーさを残しながらも、元の姿を取り戻していた。和洋折衷の外観にゴロベエは謝るも、師範代は「見た目よりも、心の在り方!」と、笑っていた。
「本格的な武道も、本当に体験してみたいわ」
「私もです。体験入門とか大丈夫ですか?」
「そうだな、ちょっと見学してってもいいか?」
 そして、纏やルフィリア、竜人が興味を持ってくれ、いたく喜んでもいた。
「皆さんも、頑張って強くなってくださいね」
 門下生達はといえば、瑛華の悪戯っぽいウインクに心を射貫かれ、再開を心待ちにしているそう。
「ありがとうございました、です!」
「押忍!!」
 そして、アンジェラの一礼と共に、道場を襲った理不尽は、幕を下ろしたのであった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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