螺旋忍軍大戦強襲~最果てパレード

作者:黒塚婁

●螺旋忍軍大戦強襲
「螺旋忍軍の『彷徨えるゲート』が出現する場所が判明した」
 螺旋帝の血族・緋紗雨を智龍ゲドムガサラから守り切ったことで得た結果だと、雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロス達に告げた。
 この情報があれば、螺旋忍軍との決戦を行う事が可能だが、問題がひとつ――五稜郭にて螺旋忍法帖を奪取し、螺旋帝の血族『亜紗斬』を捕縛した『最上忍軍』が、大きな障害となるのだ。
 最上忍軍は『螺旋帝の血族・イグニス』から新たな命令を受け、各勢力に潜入していた螺旋忍軍達を利用して『螺旋忍軍のゲートが現れる地点に戦力を集結』させようとしているらしい。
 ダモクレスからは『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力。
 エインヘリアルからは、ザイフリートやイグニスの後釜を狙う王子候補とその私兵団。
 更に、各勢力が研究していた屍隷兵の中で、戦闘力の高い者達を集めた軍勢も用意しているようだ。
 彼らは螺旋忍軍から『魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』『このグラビティ・チェインを得る事ができれば、巨大な功績になる』『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』という偽情報を掴まされている。
 同時『魔竜王の遺産は独占が望ましいが、複数の勢力が参戦してくる事が予測されている為、敵に漁夫の利を与えない為の立ち回りが重要である』と説明されており、デウスエクス同士では戦端を開かずに牽制しあうように仕向けられている。
 イグニスとドラゴン勢力は、集めた戦力を『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』として利用しようと考えているのだろう。
「ケルベロスウォーを発動しない限り、集結する軍勢を全て撃破する事は不可能だ。ゆえに指揮官を狙う。その分、危険な任務となるが……やらねばならんことだ」
 辰砂は目を細め、重々しくそう告げた。
「貴様らの相手は、載霊機ドレッドノートの戦いの後、姿を消していたダモクレスの残党だ」
 前哨戦を含む各作戦及び、ケルベロスウォーで敗れたとはいえ、マザー・アイリス、ジュモー・エレクトリシアン、ディザスター・キングを中心に、有力な戦力が未だ健在である。
 これらを討ち取れれば如何に有利となるかは、先からの戦いからも明らかだろう。
 さて、進軍するダモクレスの軍勢の先鋒は、ディザスター・キングと配下のダモクレス軍団が担っており、ディザスター・キングを撃破するには、この強力な先鋒部隊との決戦を行う必要がある。
 マザー・アイリスは全軍の中央に位置しており、周囲を多数のダモクレスが取り囲み護衛している。
 護衛しているダモクレスの戦闘力は高くなく、単純な戦闘行動しか行えないが、指揮官型の一体、ジュモー・エレクトリシアンが直接操作しているらしく、取り付く隙がない。
 ジュモー・エレクトリシアンは全軍の後方で護衛ダモクレスの指揮などを行っており、常にレイジGGG02、オイチGGG01、マザー・ドゥーサといった護衛と共に居るため、ジュモー・エレクトリシアンを撃破する為には、それら三体の有力なダモクレスと同時に戦えるだけの戦力が必要になる。
「それらに対する作戦の補足、及び他のダモクレスについては別に纏めておいたゆえ、よく確認しておけ。また、この軍勢には最上忍軍の最上・幻斎が同行しているらしい」
 苦々しい表情を隠さず、辰砂は続ける。
「同行しているという情報はあるものの、居場所は不明だ。奴を見つけ出し、かつ撃破できれば、最上忍軍に対してもダメージを与えられるが……容易い話ではないだろう。作戦の本筋を忘れぬことだ」
 そこまでの説明を終えると、彼はひとつ間を置き、
「繰り返すが、どれを選ぶにせよ厳しい作戦となる。私情を殺さねばならぬものもいるだろう……だが、敗北はより辛い結末をもたらすことになる」
 貴様らも充分承知であろう――最後にそう言葉を送るのだった。


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
刑部・鶴来(狐月・e04656)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)

■リプレイ

●任務開始
「魔竜王の遺産、ね……とんだ大法螺をついたもんだ。大したタマだぜ、イグニスってヤローは」
 目を細めてカルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が吐き捨てる。
 その視線の先には、ダモクレスの行軍――。
 量産型ダモクレスを先鋒に連なる数百をゆうに超える軍勢。名だたる指揮官ダモクレスの姿は容易に見えぬ――予知があっても尚、その戦場に辿り着くまでに苦戦するであろう――これは、ケルベロス達の予想を超えていたやも知れぬ。
 螺旋忍軍の煽動は、本格的にダモクレスを動かしたのだと、実感する光景であった。
「相手、戦場に不足なし! ……燃えるでござるな、まちゅかぜ!」
 浅葱色のダンダラ羽織を纏うマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)は相棒のライドキャリバーに明るく声をかける。彼女の兎耳はぴんと天を向いている。
「伊賀甲賀大決戦かなにかかしら」
 いや関係ないだろうけど――という言葉は裡に残し、大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)がぽつりと感想を零す。確かに互いにそのような勢力ではないが、因果を感じる戦場だ。
「……でも、この中から本当に探し出せるのかしら」
 市街地を行くダモクレスの流れを見つめる言葉の隣で、熊蜂のようなボクスドラゴンがぶるりと震えている。
 敵が恐ろしいというのもあるかもしれないが、見つからずに捜索できるのかと、平たく言えばビビっているのである。本人は武者震いだと隠しているつもりのようだが、彼女は敢えて何も言わない。
「刀を倒した方にいれば楽なんですけどね……」
 刀を手に、刑部・鶴来(狐月・e04656)は目を細め苦笑する。
 穏やかに振る舞う彼だが、底には静かな闘志があるだろうと――ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は見ていた。
「上等だ」
 片や、最上・幻斎への殺意を隠さず明らかにしている彼女は、手袋の感覚を確かめるように拳を握る。
「必ずとっ捕まえて……殺す」
 事も無げに物騒な言葉を口にしたハンナへ、いつもと変わらぬ笑みを向けた繰空・千歳(すずあめ・e00639)は佩いた二振りの愛刀を軽く撫でる。
「ええ、友人の借りも返さないと」
 愛刀を手にした以上、負けるわけにはいかない――言外の誓いに呼応するよう、鈴の音がちりりと続く。酒樽型のミミックである鈴も気合いは充分な様子であった。
「それじゃ」
「行くか」
 準備も覚悟も整った――見なした千里・雉華(絶望齎す狂犬・e21087)の目配せに、霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)が小さく頷く。そして、ウォンテッドを発動させるべく、適当なダモクレスへと躍りかかったのだった。

●SIDE: A
 量産型機人兵の機械腕が掴みかかってくる。するりと合間をくぐり抜け、鈴がエクトプラズムで作り上げた酒瓶を振り回す。
 横から、ふわりと斬り下ろされた剣線。空の霊力を帯びた千歳の一撫で、ダモクレスは無数に走る疵が弾けるように崩れた。
「退きな!」
 威勢良くカルナが千歳と鈴の間を跳んだ。
 宙を斜めに滑れば紅色の業火が揺れる――流星の輝きごと燃やし尽くしながら、彼女の蹴撃はアームドギアを怯ませる。
 彼女の着地地点を狙い、脇からガトリングガンがけたたましく吼える。
「邪魔だッ」
 ぐるりとひと回転、ハンナが鮮やかに如意棒を返すと、低い位置から一気に伸びたそれはアパタイトソルジャーのバランスを崩す。
 練り上げたオーラを千歳に向けて放ちながら、奏多は周囲を見やる――。
 アパタイトソルジャーが遠方に連なり、黄金の装甲の腕を銃に変じたアームドギアがこちらに狙いを定めている。この戦場は、遠距離攻撃を得意とする攻撃的なダモクレスが多いようだ。
「拙いな、相性が悪い」
 ぽつりと彼は零しながら、ブレイブマインを仕掛ける。
 ダモクレス勢力を甘く見ていたわけではないが――目標を探し出す事を優先したために、少し盲目的になっていた事は否めない。
 如何に注意を払おうと、十数体の量産型ダモクレスがひしめく場で戦闘を回避するのは至難。指揮官級が多く参戦していることから、この状況も予測も出来たが――恐らく、予想を上回っていた。
 そして、班を分けた事も不利に働いた。平常の戦力でも手に余る戦場を、彼らその半数で凌ぐことになる。尖った突破力を持つ彼らも数分は優勢を保ったが、それを優に消し飛ばす物量が相手なのだ。
「大丈夫? ハンナ」
「まだ動けるぜ――そっちは大丈夫か、カルナ」
 頬に走った朱を拭い、硝煙で臭う袖口に柳眉をしかめ、ハンナは軽く振り返る。
「当然……こんなとこで倒れてられっかよ」
 皆より体力の低い彼女は、身体の半分を赤く染め――肩で息をしながら、それでも不敵に笑った。
 戦闘そのものを楽しめる性質であればこそ、傷を厭わず、次へ構える。
 地面を揺らしながら間を詰めてきたアームドギアを彼女は睨め付け、首から地獄の業火をマフラーのように靡かせ叫んだ。
「遠慮はいらねぇぜ。鱈腹喰らっていきな!」
 異空間から召喚された大型のガトリング砲やミサイルポッドを纏い、一斉に放つ。
 集中砲火で黄金の装甲を蜂の巣のように穿たれながら、それでもそれは前に進む――激しい銃声が鋼鉄を削り火花を散らすも、止まらない。
 全身から巻き上がる炎と煙ごと、それは腕を振り上げ、カルナへと突き出した。
 ちりん、涼やかな鈴の音がひとつ鳴く。
 敵の腕に噛みつき飛び込んだ鈴は、カルナの代わりに炎に呑まれた。数多の傷が重なって、鈴は消えていったが、生まれた隙を見逃すまいと駆けつけたハンナが身体を捻り、それの横に迫っていた。
「悪いな……あたしは素手の方が強い」
 速度を乗せた拳は衝突と同時、高い破壊音を立てた。既にカルナの砲撃で装甲はほぼ引き剥がされていたところに、銃弾よりも強力な打撃が加われば、崩壊は免れない。
 崩れゆくダモクレスの立てた土埃の中、不穏な気配に気付いた奏多が声を上げる。
「皆、下がれ!」
 横並びに隊列したアパタイトソルジャーの構えるガトリング砲が高らかに唄う。
 千歳が咄嗟に前に出た。破裂音が彼女の鋼の腕を砕き、生身の肌を穿つ――全身が燃えるように熱い。だが、彼女は耐えきった。
 ――銃撃が止み、崩れ落ちたのは彼女では無く。ハンナとカルナであった。
 膝が地面につかぬよう武器を支えに何とか立っている体を保っている二人へと、千歳が手をさしのべる。
 すぐに奏多がオーラを送って傷を癒やしたものの、彼女の片腕は真っ赤に染まり、機械の腕は些細な動きで軋み歪な音を立てた。
「……退きましょう」
 臆す事無く千歳は告げる――無論、彼女の内心にも悔しさはあったに違いない。
 情報の流布の行方も、誰かが上げてくれるかもしれない信号弾も目にする事無く撤退することに何も思わぬはずがない。
 ハンナの目が敵意を孕んで友を見つめる。だが、彼女は首を左右に振る。
「ここからが面白いところじゃねえか……」
 まだ戦えるとカルナも異を唱える――が、体勢を立て直そうと力を籠めれば、足下の血溜まりが広がっていく。
「あなた達が辛うじて動ける間に、退かないと」
「……運び屋が荷物になるなんて冗談じゃない」
 くそ、とハンナは口の端を歪め、整わない呼気、流れ落ちる血に自嘲する。
 諦観を絶望にする前に、千歳は振り返る。
「私が殿になるわ。奏多、二人を先導しながら退路を頼める?」
「ああ――大丈夫か」
 頷きつつ、奏多は淡々と問い返した。意図を読みかねて僅かに小首を傾げた彼女は、彼の視線に気付いて、ああと零す。
 感情表現が苦手な彼は言葉通り、心配していた。二人ほどでなくとも、千歳の傷も重い。
 無論、奏多も無傷ではない。喰らった傷が疼くのを、顔に出さぬだけだ。
「撤退までは守りきってみせる」
 ここで仲間を失うわけにはいかない――強い意志を籠めてオーラを練り上げ、掲げた腕を覆うよう、飴色の華を目一杯に咲かせる。
「さあ、あなたにこれを破れるかしら。」
 穏やかな微笑みは決死の覚悟にも揺らがない。
 盾となることを決めた彼女に背を向け、奏多は掌の上、銀から弾丸を生成する。
 既にダモクレス達は距離を詰めてきている。恐らく如何にやり過ごそうとそれらが減る事は無く、時間経過と共に数の限り連なっていくだろう――そんな窮地にあっても、彼は凪いだまま。
「わかった……繰空、遅れずに着いてこい」
(「悪いな、マーシャ。俺達は此処までのようだ」)
 アイスブルーの瞳を細め――心の片隅で、もう一方の班の無事を祈った。

●SIDE:B
「不意打ちとは卑怯なり!」
 出会い頭の銃撃に、まちゅかぜ走らせマーシャが叫ぶ――すぐさま言葉が光の盾を彼女へ与え、雉華の構えたハンマーが砲煙を吐いた。
 重ね、鶴来の放った二つの轟竜砲がタイタンキャノンを穿つ。されど、堅い守りは崩せない。
「ぶーちゃん!」
 叱咤するように、言葉が相棒の名を呼ぶ――蜂のように身体を震わせ、疾風のように滑り込む。
 青白い稲光を纏うレーザーの前に、それは身を投げ出すと、その中を泳ぐように突進しきる。
 ヴォルテックマシンの手元まで一気に駆け抜け、眼前でブレスを放射する。
 御覚悟、気合いの発声と同時に一足、マーシャの愛刀が緩やかな孤を描く。無駄のない斬撃は重装ダモクレスの関節部へ滑らかに落ちる。
 脚を切断されバランスを崩したところへ、鶴来がハンマーを薙ぐ。
 強烈な打撃で進化の可能性ごと氷結させ、振り抜いた衝撃をもって機械の身体を粉砕する。
「もひとつどうゾ――」
 目を細め、雉華が再び轟竜砲を構える。至近距離から放たれたそれは、ヴォルテックマシンの中心部を貫く。全身を走っていた電流が暴走し、それは自爆――見届け、何とか一波去ったと言葉は嘆息した。
「何処を通ってもダモクレスばっかりね」
 消耗の激しさは効率の悪さもあるだろう。ここまでの乱戦になるとは考えていなかったため、戦闘そのものに時間が掛かる。
 同時に、探索が巧くいかなかった。
 考えていた動物変身による探索も、このような戦場では危険が増すため、試す事も儘ならぬ。
 動物に協力してもらおうにも、ダモクレスに怯えたのか、小鳥一匹、殆ど姿を見せなかった。
「恐るべし謀計でありまするな」
「たぶん違うよ」
 むむむとマーシャが腕組み唸る横で、言葉が困ったように笑う。
 ぴくりと鶴来の狐耳が動く。
 何かを捉えた彼は刀の柄に手をかけると、低く声を掛ける。
「次が来ます……!」
 見えたのは黒い装甲、徒手のダモクレスが数体――あれはロス・オブ・ネームズか。やれ弱点は何だったかと記憶を探りつつ、構えた時だ。
「あ、あれ!」
 指を差し、言葉が思わず声を上げる。
 垂直に上がる赤の信号弾――。
 ぱっと輝いた一条の光。
 皆の表情が明るくなった傍で、雉華がはっと息を呑み――そのまま瞳に差す光をより剣呑なものとして、ゆっくりと口を開く。
「……霧島さんにつけていた手配書の気配が消えまシた。ついでに報告しまスと……消える寸前で引き返したような気配がありまシた」
 通信は使えないのでこれ以上は解らない、彼女の報告に、重い沈黙が落ちた。
 儘ならぬ状況におかれているのはこちらも同じ。何があったのか、想像は容易い――だが。
 ふう、敢えて大げさに言葉が息を吐く。
「危機も承知で信号撃たせておいて、誰も辿り着けませんでしたーじゃ、情けないもんね」
 もしかしたら、巧く進めてるかもしれないし。明るい声音を作って、仲間を鼓舞し、襲い来る敵へ改めて向き合う。
 先陣切って前線に飛び込んだまちゅかぜが激しくスピンし、敵を翻弄する――青い羽織を翻し、マーシャが高く剣を上げた。
「道なくば道を知り、欲すれば我が歩を道とする。」
 真っ直ぐ振り下ろせば、剣閃は道を切り開くように空気ごと両断する。
「己が切り開いた道を仲間が突き進む。これぞ王への一手。信頼の業なり……さあ、行くでござるよ!」
 黒い兵士を一刀で斬り伏せ笑顔を見せたマーシャへ、拳を向けた個体の顔面を凄まじい速度のハンマーが襲う。
 バイザーを砕きながら地にねじ伏せた雉華へ、振り下ろされるチェーンソーの腕。咄嗟に柄で凌いだが、腕に一線、朱が走る。
 そこに巻き付く華やかなリボン、フリル、花――。
「可愛くなあーれっ!」
 言葉がすかさず傷を癒やし、ぶーちゃんがブレスで彼女に近づく敵を追い払う。
 空間に飛び込んだのは白き狐の尾――。
「万象廻りて太極に至る。無風一閃、神凪之太刀!」
 構えた白刃を、鶴来は振るったか。
 神凪之太刀――斬らずとも、万物を絶ち切る業は、最後の一体を両断した。
「……さて、此度は最後まで立ち合えますかね……?」
 敵を振り切るために、白刃を振るいて、空に上がった赤の残滓を睨め付けた。

●魔と機の戦場にて
 サーヴァントの消失と、無数の傷を代償に何とか辿り着いた場所にて――ひとまず彼らは身を潜め、それぞれ四方の様子を眺めた。周囲にはダモクレスの残骸がやけに多く散らばっている。
 ここから信号弾が放たれた以上、ケルベロスが何かと戦ったことは確かである――だが、人影は無い。異様な気配を感じ、鶴来は目を細めた。
「既に撤退したのでしょうか」
「……皆さん、あれを」
 雉華が顎で示した先、数十メートルは離れた場所――。
 遠くからでも解るほど高く、いくつも黑焔が柱のように上がり、群がるダモクレス達を灼いていく。
 白い髪を靡かせ、焔を放ちながら戦場を駆ける男の姿は、悪鬼の如く。周囲はブラックスライムに似た澱みで浸食され、敵を見境無く喰らっていく。
 その焔灯す瞳は敵のみを見、爛々と光る。
 ――それが上野・零の姿であると、誰が知るだろう。
「暴走状態ね……勝ったのかしら。それともみんなを逃がすため……?」
「むう……これでは幻斎も逃げたでござろうな」
 周囲を窺いながら、言葉は状況を案じ、マーシャは無念さを滲ませた。
 幻斎がどの時点で逃げたのか、その情報を得る手段が無い彼らは――そもそも此処が導陽天魔との戦場であったことすら、この時点ではわからなかった――ただこの場の惨状に立ち尽くすしかできなかった。
 量産型ダモクレスが集まり続けているようだが、どれも暴走した零に向かっているようだ。その状況を利用し、念のため、慎重に周囲の様子を確認したものの、やはり幻斎の影は無い。
 一縷の望みをもって駆けつけたが、これ以上の戦闘はそもそも不可能であった。
 それでも撤退の判断は、彼らにとっては苦渋に満ちたものだ。
「またしても……いえ、次巡り逢う方が大切ですね」
 佩いた剣へ一瞥くれ、鶴来はひとりごち――届かぬ相手へと、雉華は強く西を睨んだ。
 ――最上の幻斎さんにダモクレスよ。
「……必ず潰す」
 次の戦いで必ず果たす――誓いの言葉をこの地へ置いて、彼らは撤退したのだった。

作者:黒塚婁 重傷:ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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