螺旋忍軍大戦強襲~弩級残軍結集

作者:白石小梅

●螺旋忍軍大戦強襲
「智龍ゲドムガサラの討伐、お疲れ様でした。その結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』は、我々に『彷徨えるゲート』が開く次の場所の情報を提供してくれました」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)が言う。
 ゲート出現予定地は『奈良平野』。この情報で、螺旋忍軍との決戦も可能である、と。
「ですがここでもう一人の血族『亜紗斬』を捕縛した最上忍軍が動きました。奴らはイグニスの命で、各勢力に潜入していた忍軍を通し、ゲート出現地点に防衛戦力を集結させようとしているようです」
 だがそれは螺旋忍軍を引き上げてかき集める、のではない。
 なんと、ダモクレスから『載霊機ドレッドノートの戦い』の残党勢力。エインヘリアルから、失脚した王子たちの後釜を狙う第十一王子と私兵団。更に、各勢力が研究していた屍隷兵の軍勢を、現地に集結させるのだという。
 だがなぜ、ダモクレスやエインヘリアルが関わってくるのか?
「どうやら彼らは雇った螺旋忍軍から『魔竜王の遺産である、強大なグラビティ・チェインの塊が発見された』『これを得る事ができれば、巨大な功績になる』『この事実を知ったケルベロスの襲撃が予測されている』という偽情報を掴まされているようなのです」
 念入りに『遺産の奪取には複数勢力が参戦してくる。敵に漁夫の利を与えない立ち回りが肝要』と吹き込まれ、戦端を開かず牽制しあうように仕向けられているという。
「イグニス・ドラゴン同盟は、偽情報に踊らされたダモクレスとエインヘリアルを『ゲートから戦力を送り込むまでの防衛戦力』代わりに利用している、ということです」
 集結されるとケルベロスウォーを発動しなければ、手の出しようがない規模。だが。
「連中は現在、奈良平野を目指して行軍中。少数部隊ならば奇襲伏撃が可能です。そこで、大戦前の前哨戦として、奇襲作戦を敢行いたします。主だった指揮官を討ち取ることが出来れば、決戦時に敵の力を大幅に削ぐことが出来るはずです」
 ダモクレスは伊賀越えルートで奈良を目指すため、住民を避難させた上で伊賀市の近郊にて。
 エインヘリアルは紀伊山地の和歌山県側、伯母子岳。
 屍隷兵は紀伊山地、三重県側の大台ケ原山を通って進軍してくるので、山地にて奇襲を掛けるのだ。

●弩級残軍結集
「皆さんに狙っていただくのは、ダモクレス勢力となります」
 動くのは、載霊機ドレッドノートの戦いの残党勢力だ。
「軍の再建の為に、大量のグラビティ・チェインを必要としていた弩級残軍にとって、最上忍軍の偽情報は渡りに船だったのでしょう。生存している3体の指揮官型を中心に、まだまだ有力な戦力が残されています」
 そう言って小夜は敵のリストを配布する。指揮官型を1体でも撃破する事ができれば、戦況はかなり好転するだろう。
「軍勢の先鋒は、ディザスター・キング率いる軍団。部隊長級の有力個体の数も多く、キングを狙う場合はそれら護衛戦力を撃破、もしくは釘付けにし、更に複数チームでキングへ奇襲を掛ける必要があります」
 マザー・アイリスの居場所は行軍陣形の中央。周囲を多数のダモクレスが取り囲み護衛しているが、ここの護衛は戦闘力は低く単純な戦闘行動しか行えない者ばかり。
「ですが、これらの護衛機はジュモー・エレクトリシアンが直接操作しているらしく、陣形には隙がありません。マザーの撃破のためには、ジュモーが指揮を取れない状態に追い込み、護衛戦力を混乱させた上で電撃戦を挑む必要があります」
 電撃戦はジュモーの指揮不能状態を前提とし、多数の護衛を引きつける班、残存護衛の突破口を開く班、マザーを攻撃する班の連携が必須となる。
「ジュモーは軍の後方で護衛機の指揮などを行っています。3体の有力個体が護衛についており、撃破する為には、その全てを同時に相手取れる戦力が必要になるでしょう」
 また、敵軍の中には部隊長級の有力個体も数多い。
「敵は組織の再編中。これらの有力個体も看過は出来ません。指揮官型を撃破後、残軍をまとめ上げる可能性も高く、意外な個体が頭角を現さぬとも限りません。優秀な武将を失うほど敵陣の力が弱まるのは必定です。発見次第、即時抹殺をお願いいたします」
 そしてもう一点。弩級残軍には、最上忍軍の最上・幻斎が同行しているという。
「居場所は不明です。忍者なだけあり補足は難しいですが、奴はこの度の黒幕の一人。なんらかの方法で撃破できれば、最上忍軍に大きな打撃を与えられるでしょう」
 万一、その姿を捉えたなら。小夜は己の首筋に親指をぴっと走らせて見せる。

 攻撃についての作戦は以上だ。もう一点、撤退について、小夜が注意を重ねる。
「本作戦は小回りの利く小勢での奇襲作戦です。敵勢とまともにぶつかれば勝ち目はありません。作戦終了後は敵の反撃に補足されぬよう、素早い撤退が肝要です。危険な任務となりますが、皆さんが武勲をあげることを祈っております」
 それでは、出撃準備をお願い申し上げます。小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
ミズーリ・エンドウィーク(ソフィアノイズ・e00360)
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)

■リプレイ


 住民の消えた伊賀市近郊に、猟犬の群れが伏している。
「……迷彩は必要なかったかな? ま、田んぼもあるし、いいか」
「しっ……来たぞ」
 ミズーリ・エンドウィーク(ソフィアノイズ・e00360)がぽつりと漏らし、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)がしゃがみ込む。
 整然と足音を響かせ、ダモクレスの軍勢が現れる。
「あれがキング……か。直に見るのは初めてだけど、ちょっとこれはまずいんじゃねーのかな……」
 八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)が指すのは、先鋒中央の黄金の巨躯ではなく、その周囲。
 量産型ディザスター・ナイトを始め、アパタイトソルジャーやアームドギアといった重装量産機が無数に配され、有力個体と共に進軍している。先鋒だけで、その規模は優に数百。全軍なら、千を超えよう。
 そう。敵は『軍勢』なのだ。
「こちらが撃てるなら向こうも撃てる……ここで撃ちかけたら、軍勢規模の戦端が開いて、一斉に撃ち返される……そうなれば数の少ないこっちは、一瞬で壊滅よ」
 眉を寄せて囁くのは、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)。覗き込もうとするナノナノの煎兵衛を押さえ、目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)がそれに応える。
「ああ……しかも奴らの行軍に油断はない。隠密気流は誰にも気付かれずに現場に先んじる力だが……相手に油断がない限り、一方的攻撃は不可能だ」
「そうだね……反面、こちらは小勢。敵軍に斬り込みさえすれば、彼らの多くが味方に遮られて、戦場は小さくなる。奇襲成功のためにはそれしかない、か」
 紗神・炯介(白き獣・e09948)はため息を落として、ハンドサインを送った。
 頷いた湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)とアンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が、他班へ砲撃断念を伝えに走る。
「伝えてきたよ。ついでに、無線も携帯もやっぱり駄目。隙も面白みもないって言うか……徹底的に生真面目だよね」
「でも目的は敵の殲滅じゃありません。計画を変更する時間はないですし、ビショップへの砲撃は私たちだけでやってみましょう」
 任務は、単純。
 討てる限りを討ち、生きて帰る。
 それのみだ。

 猟犬の群れは、一斉に飛び出した。
(「まるで本番ね……敵は指揮官級ばかり。味方も、先鋒だけで精鋭6部隊。前哨戦にしては、随分と派手な戦だわ」)
 リリーの瞳は、敵軍に潜む青い支援機体を射抜く。
「ディザスター・ビショップ、確認! 方位このまま! 作戦開始!」
「了解! 騙されたにせよ好きにさせたらケルベロスがすたる! これから先には、あんまり行かせないからなっ!」
 量産機がでたらめに撃つ弾の隙間を縫い、ミズーリが彼岸の花をひらめかせる。
 氷結の弾丸、破壊の一閃、零度の光線、遠地爆破……。
 煎兵衛もハートの光線を飛ばし、前へ出てきた量産型たちが吹き飛んでいく。
「雑魚が邪魔だな……でも、そこのお前さ……仲間に守られて、スカしてんじゃねーよ」
 爽の気弾がタイタンキャノンを吹き飛ばすと、ついに青い機体が露わになる。
 その肩口に、弾丸の如くギターのピックが突き刺さった。
「届いた……! どうです! お父さん直伝のピック投げ!」
 美緒に続いて、黒薔薇の花びらの如き呪いが飛翔する。炯介の呪いは亡者のように襲い掛かり、黒ずんだ染みとなってビショップを穿つ。
(「呪いのお裾分けだよ……しかし、時間は厳しい。急がないと」)
 敵軍は布陣を裂かれて混乱しているが、部隊長を討たぬ限りは、それを核に立ち直る。
「コレで墜ちろ! ……ファイエル!」
 真が放った破壊の光線に撃たれつつも、ビショップは無数のミサイルを解き放つ。
『狼狽えるな。指示の届く者は私に従え。前面に展開。迎撃せよ』
「っ……遠距離砲撃はお手のもの、か。まあ、そりゃそうだよね」
 混乱の中、六体ほどの量産機がビショップに従う。マルティナとアンノがその群れをなぎ倒しつつ。
「くっ……邪魔をするな! 奴は支援射撃機体……スナイパーか!」
 六機の量産機を前面に、青い機体が身構える。
 闘いの、始まりだ。


 遠く、黄金の剣が竜巻の如く荒れ狂っている。
 剣の主は、ディザスター・キング。
 炯介とアンノは、その動向を追ってきた。
(「予知が間に合わないキングの軍団は脅威……野放しにはできない。だが、今は自分にできる事を。少しでも多く、確実に、敵戦力を削る」)
 振り返れば、目の前に迫るはランドウォーカー。
 炯介の銀拳がその装甲を串刺して、アンノの飛び蹴りが首を潰す。
「ねえ、どうしてこんな事をしてるの? あの忍者……最上がボクたちを潰し合わせて美味しい所を持って行こうとしてるの、気づいてないわけじゃないんでしょ?」
「そうそう。貴方達を煽って魔竜王の遺産を独占なんて螺旋忍軍も上手い事立ち回りますよね。螺旋忍軍からしたらあなたたちは扱いやすい弾除け程度の存在にすぎないのに」
 美緒が放つ漆黒球に片腕を弾かれつつも、ビショップに動揺はない。
『ふん……弾幕を張れ。奴らを私に寄りつかせるな』
 返答は、腕より放つ無数の閃光。
 真が、叫ぶ。
「ミサイルポッド、腕のビーム、共に遠列攻撃か……気をつけろ! 後衛に来るぞ! マルティナクン、煎兵衛!」
「了解した!」
 真は飛び交う閃光から仲間を庇いながら、氷結の光線を乱射する。
「コレで凍り付け!」
 しかしこちらが後衛を庇えば、量産機たちは前衛に弾丸を浴びせかけてくる。
「ちっくしょう! コイツ雑魚との連携が上手い! 支援のスペシャリストってこういうことか! 頭数を減らしてくれ!」
 ミズーリがブラッドスターを歌う合間に、そう叫ぶ。
 だがその時、ビショップは弾幕に紛れ、肩のキャノンを構えていた。
「……!」
 放たれる青光の奔流。飛び込んで来たのは煎兵衛。美緒の身代わりに、なのぅ、という悲鳴を上げてかき消える。
「煎兵衛! くっ……良くやったぞ……!」
 真が振り払うように向き直る。
「ちっ、足止め班もヤバげだな……急いでこいつを片付けねえと。雑魚は俺が薙いでおくから……頼むぜ、と!」
 爽はちらりと金色の背に目をやって、虹銀の鎌を振り下ろす。量産型ナイトが真っ二つに裂け、その頭上をリリーが跳躍して。
「了解よ……! 押し込んで、戦場を寄せるわ! 他班のみんなとも轡を並べて、必ず生きて戻る!」
 渾身の火炎蹴りが青い胸部装甲を捉え、ビショップはブーストを遮られて、姿勢を崩す。
「今です! 続けて畳みかけます!」
 だが美緒の射線上に、戦場外からヴォルテックマシンが飛び込んでくる。
「っ……新手? もう、次から次へと……!」
 ピックで吹き飛ぶ量産機。この程度、美緒ならば一撃で半壊させ得る。
 だが。
『よくやった。続けて私を守れ』
 ビショップは後退しつつ、兵が減る度に量産機を指揮下に組み込んでいく。
(「まずい……これでは、いくら雑魚を倒したとしても、きりがない……!」)
 真の額に、汗が滲む。
 そう。ここは敵軍のただ中。
 敵兵の補充が途切れることは……ない。


 キングの剣は稲妻の如く、ビショップの弾雨は嵐の如し。
 戦場の攻守はゆっくりと逆転していく。
 真とマルティナは、励まし合いながら攻撃を防いできたが、すでに血まみれ、泥まみれ。
「マルティナクン、これまでだ……オレは次で……限界だろう」
「諦めるな……次は私が受ける。真は一度休め……!」
「駄目だ。回復したところでオレはもうもたない。すまない……キミに託すよ! 白き光よ、斯の者を包みて癒したまえ!」
「よせ! 真、無理は……っ!」
 癒しの銀光が傷を癒す中、真はマルティナを突き飛ばす。
 そして、青い光が迸り、その細い脇腹を撃ち抜いた。

 前衛も後衛もなく、敵の射程は変幻自在。激しい銃火の雨の中、今やミズーリも土埃と擦り傷だらけ。
「畜っ生……! 好き放題やってくれる! あたしにだってな……意地ってもんがあるんだ!」
 それでも癒しの気力を前に届け、喉が枯れるまで歌を歌う。戦場の激流を、少しでもせき止めんと試みる。
「遠距離グラビティを! みんな、奴を狙って! 撃つのよ! 撃たなきゃ!」
 リリーは、螺旋の氷結を撃ちまくる。しかしそれに続く攻撃は、散発的。
「わかってます……! わかってるんです……!」
 美緒は、血に濡れた指で重たい竜槌を無理矢理に掲げる。爆裂した竜砲弾が、ミサイルを放っていた青い機体を弾き飛ばす。
(「私が、しっかりしないと……攻撃を続けられるのも、確実に当てていけるのも、私だけ……! 私が……」)
 だが緊張に震える手が、次弾を装填する刹那。
「美緒! 避けろ!」
 マルティナの声が届いた時には、遅かった。
 ハッと上げた視界でミサイルが爆発し、美緒の意識は千切れ飛んだ。

 弄り殺すが如き射撃に、仲間たちは次々に倒れていく。
(「戦力差がどんどん開いていく……でも、こんなところで帰ったら殺された人たちに顔向けできないよね」)
 アンノが瞳を更に細めて見抜いた、僅かな隙。
 氷結の光が、ビショップの両足を凍てつかせる。
『む……っ』
「足止め班に報いるためにも……キミだけでも、ね!」
「同感……その味方を使い捨てて、敵を弄るような闘い方……てめえ全く、いけ好かねえよ……!」
 身に纏った鉱石が、爽の激怒に呼応する。現界した色鮮やかな魔法陣から、光り輝く隕石の群れが飛び出した。その一つがビショップの脇腹を打ち抜き、爽は一足飛びに距離を縮める。
「お待ちかねだぜ、ビショップ! たらふく喰らいな!」
 だがその瞬間。
 青い機体は跳ね起きて、爽の両手を掴んだ。
 キャノンの銃口を、とん、とその胸に押し当てて。
「な……っ!」
『ああ。君を待ちかねた。これで私の、勝ちだ』
 そして爽の胸元で、青い閃光が迸った……。

 青い機体は、ゴミでも捨てるように爽の肢体を掃う。
(「前衛は掃い、爽くんが一瞬の隙をこじ開けた。これが、奴に肉薄できる最後の機会」)
 籠手のジェットを込め、炯介は全てを賭けて跳躍した。
『ちっ……』
 漆黒の憎悪が、青い機体の頭蓋を打ち抜き、その首が後ろへと吹き飛んだ。
(「しくじった……なんてことだ……」)
 そう。胴体と、繋がったままに。
 ビショップは殴られつつも後方へ飛び退り、致死の威力を減じた。
 そしてすぐ、新たに戦線に加わるアームドギアの背後へと身を隠す。

 降り注ぐ銃弾は、まるで驟雨。
 倒れた三人を抱え、背を合わせるのがやっと。
「おい……全軍撤退だってさ。どこに行くよ?」
 ミズーリが、乾いた笑いを落とした。
 キングが、剣を高く掲げている。
 その周囲に煙幕が立ちこめ、黄煙が高く棚引いていた。
 戦線はこの時、崩壊したのだった。


 銃口の群れに番犬たちを囲ませて。
 青い機体は、もはや余裕をもって塵を掃う。
 絶死の罠は、一斉射撃の断念では、なかった。
(「攻撃特化のあまり……半数が遠射程攻撃を一つしか持たぬまま出撃し……射撃戦に沈むのか……私たちは敵将たちの強大さに……目が眩んだのか」)
 マルティナが目を閉じ、炯介は諦観したように遠くを見る。
(「……敵は軍勢。その大半は、容易く蹴散らせる雑兵たち。その鉄の盾の分厚さを……僕らは、見誤った。私情は捨てたはずだったのに、ね」)
 前衛に、無尽に湧き続ける量産機。
 倒すべきは後方、射程自在の魔弾の射手。
 こちらが同じ技を続けて後衛を狙うことが出来ぬ中、ビショップは狙って射撃戦に対応出来る者から潰していった。
 リリーが最後の一人となったのは、一人中衛で列攻撃に巻き込めなかったからだ。
(「八人が全力でビショップへ集中砲火を浴びせていたら……それとも三班全部でキングに挑んでいたら……きっと、何か違ったわ。でも、今はもう……」)
 闘いの歓声が近づいてくる。アンノがちらりと向き直って。
「タイプGの班かな……助けに来ようとしてくれてるみたいだけど……キングに挑むつもりで、敵陣に食い込んじゃった。ここまでは来られそうにない、ね」
 支援も途切れ、青い機体は腕を上げる。
『死ぬがいい』
 絶対絶命。
 それが、力への扉を開く鍵。
 道は、一つだった。

 飛び出したのは、血に灼けた軍服。
「皆、走れ! 奴は、私が止める!」
 彼女が突きだした拳を合わせた瞬間。支援機体は、まるで巨大な掌に捕まれたかの如く空中に絞め上げられた。
『な、っ……!』
 炯介とアンノが、眉を歪ませて顔をあげる。
「マルティナさん、まさか」
「二人は矛だ! 標的は、ビショップじゃない……! 二人には、いずれ仲間たちと共に、あそこに立つ王の喉笛を食い破る仕事が残っている……!」
「そんな、ボクは。ボクなら……」
 アンノが言い終わるより先に、彼女は首を振って。
「私は……真に託されたんだ。皆を護ってくれと。盾は、私だ……! みんな、三人を頼む……行ってくれ! 行くんだ!」
「……ええ。きっと、助けを呼んで戻るわ! 竜巻……螺旋掌ッ!」
 リリーが、跳躍と同時に破壊の大渦を解き放った。迷いを棄て、アンノが反発領域を展開して量産機の包囲をぶち破る。
 彼らは、走り出す。
「……撤退する! 僕らは、まだここにいる! 助けを頼むよ!」
 その両腕に爽と美緒を抱え、炯介は割り込みヴォイスを用いて吼えた。柄にもなく。
『小癪な、雑兵が! 盤上にキングが残る限り……戦争は! ゲームは止まらない! お前は私に殺され……我らが盤を制するのだ……!』
 押し潰されながらも、ビショップは肩口のキャノンをゆっくりとマルティナに向ける。
 だが青光が噴く直前。それは時空さえ凍らせる弾丸に弾かれ、沈黙した。
『……ッ!』
「雑兵の、最後っ屁さ。必ず、生き残れよ!」
 ミズーリは、そう言って身を翻した。
「……思い通りにはいかないものだな、ビショップ。皆の努力は、無駄にならない。お前は、試合開始の前に盤を降りる。そしてお前のキングは……仲間たちが必ず墜とす!」
『お、のれ……雑兵どもがァアアッ!』
 突如として、青い頭がひしゃげて潰れる。
 ディザスター・ビショップは甲高い電子の悲鳴を上げながら、爆散した。
 そして無数の量産機が、マルティナへと殺到する……。

 果たして、炯介の叫びは届いていた。
「こっちだ! こっち!」
「救援をお願い!」
 敵を掃って彼らを迎えるのは、タイプG班と、それに率いられる足止め班。だが半ばが倒れて満身創痍。そして、出撃時よりも人数が少ない。
「これで全員か?」
「ああ。僕らは七人だ。一人は……残ったよ。すまない」
「ビショップは死んだよ。でも、色んなものに借りが出来たね」
「せめて、今……私たちが出来ることをしましょう。こちらへ!」
 透き通るような髪のオラトリオに導かれ、彼らは大軍勢からの撤退戦へと合流する。
 窮地は、まだ、終わらない……。

作者:白石小梅 重傷:目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011) 八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165) 湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659) 
死亡:なし
暴走:マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) 
種類:
公開:2017年7月21日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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