夏の夜の月下美人

作者:陸野蛍

●月の下の美しい花
「やっぱり、此処は穴場だなあ。本当に月下美人が綺麗だ……」
 夏から秋にかけ夜の間だけ花開く、白く芳香の強い花『月下美人』
 青年は、そんな花に魅せられ、この時期になると色々な地で、月に輝く月下美人を写真に収めていた。
 こんな美しい月夜に、1人で鑑賞することが出来るとは、自分は幸運だと思った。
「あれ? 珍しいな、岩肌の隙間の土から、咲いている花があるぞ。とても綺麗な、白だ。写真に撮らなきゃ……カメラ、カメラ」
 青年が、背負ったリュックからカメラを取り出そうと屈んだ時、既にその花は動き出していた。
 自身の美しさを誇示する為か、植物の本能か……1人の青年は、美しい月の元、愛する『月下美人』に囚われた……。

●神秘の花に彼は囚われ
「夜にしか咲かない花か~。朝にしか咲かない朝顔は、メチャクチャ有名なのにな。なんでこっちは、静かなブームで。隠れた愛好家にだけ、人気なんだろうな?」
「今は、室内栽培も充分可能らしいが、環境管理は難しいようだな」
 スマートフォンで今回の依頼の役に立てばと情報を調べていた、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)が訊けば、天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は、凛々しく短く、そう答える。
「まあ、今回は山奥みたいだし、自然破壊にならないように、みんなに頑張ってもらうか。集合ー! 依頼の説明始めるぞー!」
 ヘリポートに雄大の大声が響けば、ケルベロス達が集まりだす。
「今回は、ここに居る、葵依の調査で分かったから予知してみたんだけど、愛知県の山奥で『月下美人』の花に1人の青年が囚われ、攻性植物となった彼が山を下り、市街地を襲撃することが分かった。みんなには、この攻性植物の撃破及び、可能なら、囚われた青年の救出をお願いしたい」
 時間は午後11時、辺りにも月下美人の花が咲き乱れているが、攻性植物化した月下美人だけが、離れた岩場に咲いていた為、余程戦場を移動しない限り、他の花への影響は無いらしい。
 一般人の侵入の警戒も必要無いが、囚われた青年を救出しようとするならば、攻性植物化した月下美人にヒールをかけつつ、ヒール不能ダメージを蓄積させ、攻性植物『ゲッカビジン』だけを死滅させなければならない。
「勿論、俺も青年を助けられるのが、一番だと当然思っている。だけど、難しいダメージコントロールや、隙を付いてのゲッカビジンの逃走なども考えられる。救出が不可能だと判断した場合は、迷わないでくれよ……更に多くの犠牲者が出ることになるからな」
 青年の命を優先したが為に、ゲッカビジンが山を下りれば、市街地での被害は大きく膨れ上がるだろう。
「攻性植物『ゲッカビジン』の戦闘手段の説明に移るな。まず、白い花弁を吹雪のように舞い散らせる攻撃、次に強い芳香で催眠状態を引き起こそうとしてくる攻撃、最後に大きな果実を発射し、途中で爆発させ集団を攻撃する攻撃の3つだな。グラビティの流れを歪める能力に特化した個体だから、注意するようにしてくれ」
 データを読み上げると雄大は、ケルベロス達の顔を見渡す。
「夜にしか咲かない、綺麗な花。囚われた青年もそんな神秘性に魅力を感じたんだろう。だけど、攻性植物になってしまった以上、その花は枯らしてしまう他無い。……今日は月が明るい夜だ。きっと、月下美人も綺麗なんだろうな……」
 空を見上げた雄大の顔は、少しだけ切なげな表情になっていた。


参加者
ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)
アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
幽川・彗星(朽ち果てるために敵を討つ・e13276)
花守・蒼志(月籠・e14916)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
有枝・弥奈(断ち切れぬ想い双つ掲げて・e20570)
バラフィール・アルシク(黒の世界に光明を見出す者・e32965)

■リプレイ

●美しい花に囚われて
「月下美人の花、実は見た事ないんだよね。きっと、こんな時でなければ、綺麗な花をゆっくり観賞出来たんだろうけど、それは『ゲッカビジン』に囚われた『彼』を助けてからかな」
 頭上高くに光る満月を青い柔らかな瞳で見上げながら、花守・蒼志(月籠・e14916)が呟く。
「月夜の下の月下美人か……出来れば、静かに眺めていたかったと言うのは本音だな……仕方あるまい、とっとと彼を救出し、ゲッカビジンを撃破した後、じっくりと堪能させていただこう」
 蒼志の言葉に同意するように、今回の事件を知ることに協力した、天照・葵依(蒼天の剣・e15383)も言う。
「ここまでの奥地なら、これの必要は無かったようだな」
 葵依は、戦闘時に一般人が侵入しないように『キープアウトテープ』も用意していたが、ゲッカビジンの出現場所に青年以外の侵入の可能性が低い事、そして、アスファルトと違って夜間の森林帯にキープアウトテープを張り巡らせるのは、ゲッカビジンとの接触時間的に間に合わないと判断し、ゲッカビジンの早期撃破に気持ちを切り替えていた。
「如何に美しかろうと、人に手を出したらアウトだろ? ……うん、アウトなんだよ、本来はな……」
 最後尾で独り言のように呟く、有枝・弥奈(断ち切れぬ想い双つ掲げて・e20570)の言葉に仲間達が振り返るが、弥奈は表情を変えずに歩みながら、返答する。
「いや、こっちの話だ……さて、救いに行こうか」
(「……月下美人ですか」)
 少々浮かない顔をしながら、相棒のゴーグルを付けた黒の細身のウイングキャット『カッツェ』を肩に乗せ歩くのは、バラフィール・アルシク(黒の世界に光明を見出す者・e32965)だ。
(「幼い頃の想い出の花……攻性植物となって、人を襲うなんて……。せめて、美しく咲いている間に散らせてあげましょう……。そして……囚われている青年の命も、誰の命も奪わせはしません」)
 その時だった、少女特有の幼く高い声がケルベロス達の耳に入る。
「みんなー、げっかびじんのお花畑に出たよー。キレ―な白いお花畑だねー♪」
 森を跳ねるように駆けながら言うのは、ミューシエル・フォード(キュリオシティウィンド・e00331)だ。
「ニホンのみんながキレーに思うもの……えっと、花鳥風月って言うんだっけ? 月の下で咲くお花なんて、とってもキレーな名前なのに、攻性植物になって、らんぼーな事をしちゃうなんて、駄目だよね」
 ミューシエルが残念そうに言うと、ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)が、数十メートル先に緑の衣に覆われ、月光の下、美しい月下美人の花を体中に咲かせた、人影……いや、攻性植物『ゲッカビジン』を見つける。
「アレが、ゲッカビジンみたいね。あれだけ離れていれば、この月下美人の花々は傷つけずに済みそうね」
 独特なアニメ声で、やや艶っぽくズミネがそう言えば、幽川・彗星(朽ち果てるために敵を討つ・e13276)が自身の身体から殺気を放ち、動物や野鳥すら近づけない空間を生みだす。
「やれやれ、攻性植物ってのは、こうやって一般人を取り込むから面倒なんですよね」
 ゲッカビジンの体内に青年の身体の一端を見つけ、彗星がぼやくように言い、得物の星剣を両の手に構える。
「助けようにも、戦い方が面倒になるし……ですが、助けないという選択肢はありませんし、とっとと攻性植物勢力自体を根絶やしに出来ませんかねぇ。……さて、哀れな被害者の為に除草といきますか」
 呟くと、彗星は夜闇に紛れる影の様な俊敏さで、ゲッカビジンに急接近すると鋭く、ゲッカビジンを切り裂く。
「この漆黒の闇に映える白は、とても綺麗ですのに、それを汚すモノが居るのは、本当に残念ですわ。……この美しい白、紅く染める訳には参りませんね」
 月光に美しいブロンドを輝かせながら、アリシア・メイデンフェルト(マグダレーネ・e01432)は呟くと、白銀の生命体を呼び起こし、仲間達の集中力を高める粒子を広げていく。
 そして、赤いリボンを結んだ水色瞳の『シグフレド』、黄色いリボンを結んだ紫瞳の『鈴蘭』、黄玉を手にした『月詠』、共に白き身体を有した、ボクスドラゴン達もそれぞれのパートナーの手助けになろうと、戦闘態勢をその小さな身体で整えていく。

●囚われのキミを助けに
「ミューみたいなドルイドには、森の中はお庭なんだよ♪ 植物さんにだって、絶対負けないんだからっ♪」
 やや動き辛い柔らかい大地をものともせず、軽やかにジャンプすると、ミューシエルは、ゲッカビジンに輝く流星の軌跡を描いた蹴りを御見舞いする。
「任務でなければ、翼を収めて月と花を愛でられるのですが……。彼を救ってから、ゆっくりと鑑賞できる時間を作りましょうか……」
 青年の生命反応が少しでも分かればと、バラフィールは光の翼を大きく広げる。
 だが、青年の身体は、デウスエクスであるゲッカビジンの身体の中。
 それぞれの、グラビティ・チェインが混じり合い、正確に青年の生命力を計ることは難しい……それでも、ほんの少しでも、彼の残された命の量が分かれば、きっと無駄になりはしない。
 青年を助ける為に、仲間達の力を最大限に発揮させることを誓うと、バラフィールは雷光の壁を創りだす。
「長期戦も考えないとなのよね。なら、私も」
 言うと、ズミネは2枚目の雷の障壁を重ねる。
「鈴蘭、ダメージコントロールが重要だよ。青年も助けるって決めたんだから……いいね?」
 竜槌を砲撃形態に変え、蒼志が竜砲弾を撃ち出しながら言えば、鈴蘭は『きゅー』と応え、白い花が視えるような美しいブレスを放つ。
(「……植物って案外、人を理解しているのだろう。無論、植物なりに。植物だからって邪険に扱うと、彼らから手が出てもおかしくはないんじゃないかな。……あの廃遊園地の温室では、そういう場面を何度も目撃したからな。かと言って……攻性植物の侵略を許す訳では無いがな」)
 表情を変えず思考しつつも、弥奈はヌンチャク型にした如意棒で、ゲッカビジンの動きを抑制し、強烈な一撃をゲッカビジンの肩口に与える。
「岩で隠すは、我が呪い。眠れ嵐よ、刺す雷よ。悪し闇の穢れ浄め、世界が光に満ちるまで。閉じよ天岩戸。万象を包み守れ」
 戦場となった森の中に葵依の声が響けば、『自分』と『ケルベロス』の力を象徴する護りの力が、ケルベロス達の防御力を高めていく。
「歪めや歪メ。虚ロイ揺らメケ。蒼天ヲ駆け抜ケル赤黒イ雷の如ク。堕チ逝ケ…クハハハハハッ!! 殺セ殺セ殺セェッ!! 霹靂刀・禍津打ィッ!」
 狂気に身を任せるように彗星が剣鬼の霊力を一時開放し、究極の後の先によって、尋常ならざる威力の斬撃をゲッカビジンに浴びせたその時、周囲を歪曲させられながらも、ゲッカビジンが美しい白い花を周囲に舞い散らせる。
「彗星、下がるんだ!」
 咄嗟に葵依は彗星とゲッカビジンの間に割って入ると、代わりに花弁を受ける。
「葵依……すみません」
 傷付く彼女を見ながらも、戦場に居ることを忘れず、次の攻撃の為に半歩下がる彗星。
「まだ、序盤です。体勢を整えながら、必ず……彼も救って見せますわ」
 アリシアが決意を込め、手にしたスイッチを押せば、夜闇にカラフルな色取り取りの爆発が起こる。
(「必ず、救って見せますわ」)
 美しい姫の面持ちに、ケルベロスとしての覚悟の色を覗かせ、アリシアはゲッカビジンの次の動きを観察するのだった。

●風吹きて花舞う
「どうか諦めないで。必ずそこから助け出してみせます。貴方の意志を、どうか見せてください」
 青年の生きる意志を信じ、強く声をかけながら、アリシアは妖精に祝福されし、癒やしの矢をゲッカビジンに撃ち込む。
「ぜったいに、おにーさんは助けるんだよっ! でも、こーせー植物さんは倒しちゃうんだよ。えーいっ! あたると、いたいよっ!」
 青年を助ける意志を口にすると、ミューシエルは、自身の一族に伝わる、狩猟技法のひとつ……オークの木に獲物を喰らう意思を込め創りだした槍を、ゲッカビジンに投げつけると、その特製の槍は、ゲッカビジンの左腰を貫く。
「そろそろでしょうか……冒されぬよう……病魔よ、消え去りなさい」
 自身の翼から羽根の形をした光を仲間達に飛ばし、仲間達を護る羽根としながら、 バラフィールはゲッカビジンの蓄積ダメージを思考する。
 戦闘開始から既に17分。
 青年を救いだすことを絶対条件に戦闘を続けたケルベロス達は、攻撃の合間にゲッカビジンへのヒールも行っていた。
 バラフィールがゲッカビジンのダメージを計る形になったが、彼女のヒールでは強力過ぎる為、ゲッカビジンの回復を担当するのは、主に葵依、ズミネが盾役と兼任で行っていた。
 蒼志、弥奈、ミューシエルがゲッカビジンの動きを可能な限り抑制し、傷口を広げる。
 彗星だけは、攻撃の手を止めること無く全力でゲッカビジンを攻撃していたが、青年をも傷つけてしまうような場合は4体のサーヴァントもゲッカビジンへの回復を行い、ゲッカビジンだけを葬る蓄積ダメージが最大になるのを、ゲッカビジンの果実の弾丸や、甘い香りを嗅ぎながら必死に待った。
 バラフィールが仲間達の回復にすぐさま動かなければ、ケルベロス達の動きの方が悪くなってしまう……そんな、待ちの戦闘。
 だが、ゲッカビジンの動きも目に見えて、悪くなってきている……勝負時かもしれない。
「皆さん、ゲッカビジンを撃破するなら、今です! 彼を必ず救いだして下さい!」
 バラフィールの決断の言葉が飛べば、ケルベロス達は視線だけで頷き合う。
「美しい月下美人に捕らわれ、生を終えるのは君にとって、案外悪くない死因かもしれないが、白く美しい花を血で汚すのはあまりにも勿体ない。今、解放してやるからな! 頑張れ!!」
 右手に装着した白き縛霊手のエネルギーを網状の霊力として放射しながら、葵依が青年の魂に向かって叫ぶ。
「花は、何時か枯れ行くもの。こんな形で枯らすのは、心痛むが無駄な抵抗はしない方がいい。苦しみが増すだけだ。そうだろう? 彗星?」
 パートナーに問いかけると、葵依はバックステップの要領で射線を開く。
「葵依の言うとおりです。どう足掻いても、こっちが勝つんですよね。雑草風情が霹靂に追いつけると思うな」
 剣鬼の霊力を再度開放した彗星の斬撃は、ゲッカビジンを大きく傷つける。
 青年の命がもたないかもしれない、そう思った時……アリシアとズミネが同時に動いていた。
「我が名の下に、我が加護に畏み畏み申す。我は征服者の打倒を望むもの。我は征服者をこそ征服するもの。故、死の軛を否定するものなり」
「辛い時も(ありました♪) 苦しい時も(ありました♪) 殴り殴られ傷ついて辿りついた新世界 例え槍が降ろうとも 絶対地球を守ります」
 アリシアが扱える13のルーンの内の1つ『復活のルーン』から限定的に力を行使し、魔力で編んだ宝剣を生み出すと、青年の命を護る為にゲッカビジンに一太刀浴びせる。
 一方、ズミネは魔術施術の進化系……無から生成した人体の部品を負傷した部位に移植する事で青年に一瞬の痛みを与えながらも、グラビティ・チェインを注ぎ込む。
「まだ死にたくないなら、生きる意志を捨てずに耐えてくれ。私はその手助けをしに来た……その道は、私達が切り開く!」
 聖なる鈍器でゲッカビジンを殴打しながら、弥奈が強く青年に声をかける。
「これで、ゲッカビジン……キミは、終わりだよ。小さな傷でも、侮るなかれ……ってね」
 素早い動きで蒼志が指輪から小さな針を出し、ゲッカビジンに極最小の傷をつけると、ゲッカビジンは月の光に晒されながら、鈴蘭の毒を全身に巡らせ、動きを止める。
 月夜にケルベロス達も思わず目をつぶるような、強風が吹いた。
 その風は、ゲッカビジンを空へと舞わせるように、白い花々を天空へと舞い上げた。
 そして、白い花弁の多くが消えた後には、枯れ落ちた緑の衣から、静かに息をする青年の姿が覗いていた。
「……良かった。……同胞達と同じ地で……あなたも、眠ってください……」
 呟き、バラフィールはゲッカビジンの……いや、月下美人の花弁を愛しげに一枚、手に取るのだった。

●静かな月夜の刻は流れ
「……あれ、俺は? ……うわっ!?」
 青年が目を覚ますと、青年の顔を覗き込む、3体の小さなドラゴンと、翼の生えた猫の顔があった。
「お目覚めのようだね」
 蒼志が柔らかい声で言う。
「……えっと、俺は? 何が、どうなってるんだ?」
「あなたに起こったことを説明してあげるね」
 青年の疑問の声に、ズミネがこれまでの経緯を説明する。
 その間、アリシアは青年の傷を1つも残さないようにヒールをかけ、弥奈とミューシエルは現場の最低限の自然再生を行っていた。
「森も自然も命のかたまりなんだよっ♪ だから、ミューは元気になってほしいし、すぐに元気になるって知ってるよ♪」
 跳ねまわりながらヒールをしていたミューシエルが青年の元に戻って来る頃には、青年も事情を理解し、助けてくれたケルベロス達に礼を言うと、明朝の夜と朝の間のゲッカビジンの写真を取る為に身体を休めると言って、テントに戻って行った。
 ケルベロス達もすぐにはヘリオンに戻らず、少しの間それぞれ月下美人の花々を静かに鑑賞することにした……こんなに綺麗なのだからと。
「ふむ、本当に良い穴場だ。被害が少なくて、何よりだった……」
 ぽつりと葵依が言えば、煙草を片手に彗星が呟く。
「……故郷にもありましたねえ、これ。もう殆ど覚えてない、母が好きだった……らしいです。草花を綺麗とは思えても、あまり好きにはなれません。攻格植物に嫌な思い出しかないのもありますが、いつかは枯れ落ちるかと思うと、ね……」
 白い煙が彗星の本音の代わりに吐き出されると、葵依は少しだけ悲しそうに、切なげに彗星に向かって言葉を紡ぐ。
「そうか、故郷の……嫌な思い出とは、なかなか忘れることができないものだからな……。だが、いつか枯れ落ちる時が来るからこそ、この瞬間の景色を美しいと思い、また次の種子を残して来年にも花咲く姿をみれるのだ……私は、好きだな……花は、太陽の日を浴びて咲く、小さな太陽の化身のようなものだから……」
 淡い月光が2人を照らせば、もう言葉は不要だった……。
 月下美人の花々は名に違わず美しく静かに月光の下、ケルベロス達を数刻の間、魅了し続けた。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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