智龍襲来~溶け残った氷

作者:質種剰


「螺旋忍法帖防衛戦の結果、螺旋帝の血族『緋紗雨』殿を保護する事に成功したでありますよ」
 と、集まったケルベロス達を前に、小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が口を開く。
「もう一人の螺旋帝の血族『亜紗斬』の所在は不明でありますが、まずは、充分な成果であったと言えましょう、皆さんほんとにお疲れ様でした♪」
 しかし、螺旋帝の血族『イグニス』と同盟関係になったドラゴン勢力が、螺旋帝の血族『緋紗雨』を奪還すべく動き出したという。
「竜十字島からの刺客の名は、智龍『ゲドムガサラ』……」
 智龍『ゲドムガサラ』は、その秘術により『緋紗雨』の居場所を特定する事ができるらしく、まっすぐに『緋紗雨』を目指して突き進んでくる。
「『ゲドムガサラ』が引き連れるのは、『宝玉封魂竜』の軍勢であります……『宝玉封魂竜』とは、定命化によって死に瀕していたドラゴンをゲドムガサラが『宝玉封魂法』で無理矢理生き延びさせた者の事であります」
 本来ならば死亡している状態である為か、姿は骸骨そのものであるが、元のドラゴンにも準じる戦闘能力を保持している。
「ゲドムガサラと共に襲撃に来る宝玉封魂竜の数は多く、市街地の防衛戦では大きな被害が出てしまうのは間違いありません……」
 そこで、ゲドムガサラの軍勢を迎え撃つのに最も適した場所——エインヘリアルによって要塞化されていた、天下の名城『飫肥城』での迎撃作戦を行う事となった。
「皆さんは、螺旋帝の血族『緋紗雨』さんを保護して飫肥城へ向かい、現地にてゲドムガサラ率いる『宝玉封魂竜』の軍勢を迎え撃って下さいませ。宜しくお願い致します〜」
 ぺこりと頭を下げるかけら。
「『宝玉封魂竜』は、数の暴力で押し寄せてくる為、難攻不落の飫肥城をもってしても守り抜くのは困難であります」
 しかし『宝玉封魂竜』には、智龍『ゲドムガサラ』が直接指揮しない限りその戦闘能力を発揮できない欠点がある。
「その為、前衛の宝玉封魂竜を撃破した後、敵本陣に切り込み、ゲドムガサラを撃破する事ができれば、残る戦力を駆逐する事も不可能ではありません」
 今回、迎撃する『宝玉封魂竜』は、
「便宜的に『水晶竜』とでも申しましょうか……」
 身の内へ水晶を抱え、全身を形成する骸骨の部分も透き通って、光を受ければキラキラと輝く、まるで氷の彫刻の如き外見をしている。
「水晶竜は、主に氷のドラゴンブレスを用いて攻撃してくるであります」
 氷のドラゴンブレスは頑健さに優れた遠距離攻撃で、複数の相手を氷漬けにしてくる。
「また、呪的防御ごと相手を超高速で貫くドラゴンクローも使ってくるであります」
 手足の爪を超硬化したドラゴンクローは、射程こそ短いが敏捷性に秀でた単体攻撃である。
「その上、水晶を使って惨劇の鏡像そっくりの攻撃もしてくるであります」
 そこまで説明して、溜め息をつくかけら。
「定命化の影響で死に瀕したドラゴンすら戦力化してしまうなんて、智龍ゲドムガサラは恐ろしい敵であります……宝玉封魂竜との戦い、きっと激しいものになりましょうが、どうかご武運を」
 そう懸念を洩らして、彼女なりにケルベロス達を激励したのだった。


参加者
皇・絶華(影月・e04491)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
イアニス・ユーグ(廻天・e18749)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)

■リプレイ


 飫肥城。
「飫肥城……まさかまたこうして……しかも防衛する形になるとはな」
 皇・絶華(影月・e04491)は、強襲型魔空回廊を破壊すべく何度も赴いた地へ、また別の作戦で訪れた事を感慨深く思う。
 セミロングの銀髪と強い意思を宿した瞳を持つ、螺旋忍者の少年。
 黒で統一された服装が絶華のクールな雰囲気を確固たるものにしていて、口調もそれに違わず大層凛々しい。
 先のアリエスとの戦いを経て思う所も多い絶華だが、料理に対する謎のポリシーは健在、好きな調味料は漢方薬だそうな。
「これも何かの縁か……だからこそ……今度は護りぬく」
 改めて気合を入れた絶華は、周辺の地図を睨んで智龍ゲドムガサラ率いる宝玉封魂竜達の侵攻ルートを予測している。
(「五稜郭で下手打った分は取り返さねえと、な……」)
 ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)も、智龍本陣への切り込みを遂げんと決意を固める。
 銀と白の毛並みが美しい狼のウェアライダーで、普通の倍はあるかと思われる長くてモフモフな尻尾を持つ。
 師と仰いだ男より銃の腕と誇り、そして魂を受け継ぐガンスリンガーだが、雄々しい外見からは意外に思える、涙もろい一面もあったりする。
 得物は愛用のリボルバー銃の他に、かの阿修羅クワガタさんが使役していたアスラメタル【シルヴァリオン】を常用。
 元の持ち主の慈愛と誇りも引き継いで、今日も過酷な戦いに挑む。
「防衛側の戦力とモチベーションが気になるとこっスが、緋沙雨さんを守り抜く為にも行くしかないっスね」
 黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)は、自ら仲間の盾になるつもりらしく気合を入れて、左手のグローブを嵌め直す。
 黒いロングヘアとツリ目がちな瞳、そして背丈に似合わぬ巨乳が目を引くドワーフのガンスリンガー。
 やる気なさそうに見えるも根は熱血漢であり、幼い頃からの憧れだった正義の味方になる夢を現実のものとした警察官だ。
「……今回は、最後まで戦い抜きたいものだが」
 以前螺旋忍軍に重傷を負わされた事を思い出してか、密かに眉をしかめるのはイアニス・ユーグ(廻天・e18749)。
 オールバックにした橙色の髪と切れ長な赤茶の瞳、そして浅黒い肌に精悍な顔つき——いかにもな雰囲気のブレイズキャリバーの青年だ。
 しかし、そんな悪そうな風貌に反して臆病な性質の彼は、地獄化した部位を人に見せるのを恐れたり、生物に素手で触れる事に抵抗を抱いている。
 また、動物を拾ってくるような優しさも秘めた、無骨に見えるだけの小心者なのだった。
「まずはドラゴンの襲撃を凌ぎ切らないとな」
 フューリー・レッドライト(赤光・e33477)は、言葉少なな彼らしく静かに呟くだけで、敵の到来を待つ間も至って平常心を努め、どっしりと構えている。
 黒い長髪にぎらりと光る赤い三白眼が印象的な、ブレイズキャリバーの青年。
 目つきが悪く強面で表情の変化に乏しい為、他人からはよく怖がられるのだが、その実困った人を見ると放っておけないお人好しな性格。
 本人なりに怖がられないよう努力しているも、生来の寡黙さが祟って上手くいかず、密かに悩んでいるそうな。
「取引、ってやつか……」
 一方。二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、黒い双眸に困惑の色を浮かべるもすぐ前を見据えた。
「……いや、先のことは考えない! 今は、降りかかる火の粉を払う為に、目の前の敵、ドラゴンを……!」
 明るさと軽いノリがいかにも今時の若者といった風情だが、それでいて他人への気遣いも決して忘れない優しさも持ちあわせている。
 また、昔と違って今は大切な恋人がいる為に、戦いへ挑む姿勢にも変化が出てきているようだ。
「ドラゴンの軍勢を相手の防衛戦かぁ」
 と、襲撃に備えて曲輪の塀に身を隠しているのは、影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)。
 ポニーテールに結い上げた茶色い髪、黒く大きな瞳、色白な肌——華奢で可愛らしい外見は、かの城ヶ島制圧戦で若い命を散らした少女ケルベロスに瓜二つのシャドウエルフだ。
 それもその筈、リナは彼女の影武者としてずっと共に生き、親友の死をきっかけに自らも戦いに身を投じたのだ。
「厳しい戦いになりそうだけれど、必ずやり遂げてみせるよ」
 溌剌と宣言するリナの性格もどうやら親友と同じ、明るく前向きな頑張り屋らしい。
「ゲドムガサラだったか。種族の為に、という事だろうが……」
 他方、複雑そうな面持ちで言い止すのは宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)。
 牙刃という刃物のように研ぎ澄ませた闘気を駆使し、徒手空拳で戦うブレイズキャリバーの青年である。
 金色の毛並みを持つ狼のウェアライダーなのだが、動物変身するとその可愛らしさから子犬にしか見えない。
 また、軍服を着るのが趣味らしく、恋人を模したぬいぐるみや彼女が携える自分のぬいぐるみにもしっかり軍帽が被せてあった。
「無茶な仲間の延命に、螺旋忍軍と結託するやり方。……智龍と呼ばれる者が、こう手段を択ばぬか」
 双牙はゲドムガサラの卑劣なやり口に憤りを抑えきれぬ様子で、低く胸中を吐露した。


「キシャアアアアアァ!!」
 襲い掛かってきた水晶竜の第一声は、およそドラゴンっぽい威厳や重々しさとはかけ離れた高音だった。
 ヒュゴォオォオォッ!
 だが、そんな硝子を割ったような鳴き声と共に吹雪を吐きつけてくるのだから到底侮れない。
「僕の仕事は全うするっス」
 前衛陣が超局地的な極寒に晒されて苦しむ中、白は絶華を背中に庇って、倍の風雪をその身に受けた。
「私は貴様らの恐ろしさを知っている」
 身体を覆う牙狼魂から、氷結の螺旋を射出するのは絶華。
「だが……それでも私達とて挑まねばならないのだ!」
 冴えた冷気は渦を巻いて吸い込まれるように水晶竜の腹部へ着弾、ビキビキと骨の髄まで凍らせて激痛を齎した。
「コイツはひでえ……死してなお眠る事さも出来ねえのかよ」
 骨だけの身体になっても尚破壊活動がやめられない水晶竜を見て、苦い表情になるのはランドルフ。
 全身に纏ったアスラメタルから光輝くオウガ粒子をばら撒いて、後衛陣の超感覚を目覚めさせた。
「すっごいタイガーバスターっス!」
 威勢良く叫んだ白は、鉄甲爪牙にホワイトタイガーの精霊・粉雪を憑依させる。
 具現化した大きな虎の腕に見えるガントレットで、掌底と共に虎の形をした気の塊を水晶竜へ打ち込んだ。
「ググッ……」
 透明な肋骨が何本か折れて、苦痛に呻く水晶竜。
「……また、この綺麗なものを殺すんだな」
 その様を眺めるイアニスの口から、深い溜め息が洩れた。
 かの八竜と戦って以来、ドラゴンに対して綺麗だと思うようになった彼なのだ。
 だが、『砲撃形態』に変形させたドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃つ手つきには流石迷いがなく、水晶竜の——元々骨だけの尾鰭を粉々に破壊してみせた。
「俺達はその先に用がある。退いてもらうぞ、ドラゴン!」
 フューリーは、秘していた覇気を顕にすると同時に、簒奪者の鎌を回転させて投擲する。
 回り続ける鎌の刃が水晶竜の肋骨を斬り刻んで、奴の守りを緩めた。
「あなたに僕の心は変えられない。――この世界を壊すというのなら、この一太刀を凌いで、やってみればいい!」
 水晶竜の透けた背骨を正面から踏み蹴るのは燐。
 高々と跳び上がった瞬間に鬼門大通天の霊力の一部を解放、天へも通じんばかりの巨大な鬼火の刃を思い切り振り下ろした。
「……なんつってみたり」
 骨を砕いた手応えを感じつつ燐が嘯く。
「ここは通さない、守りきってみせる!」
 力強く吼えるリナは、稲妻の幻影宿したゲシュタルトグレイブを槍の如く構えて、
「放つは雷槍、全てを貫け!」
 貫通力の高い一撃を水晶竜の脊髄へと繰り出した。
「グゴゴゴ……!」
 水晶竜の全身に雷の幻影が纏わりつく。
 既にリナが自らへ施した魔法の葉っぱの効果もあって雷はなかなか消えず、苦悶する水晶竜の動きを鈍らせた。
「……残った命を、こう使うか」
 やるせない思いで嘆くも、機敏に跳躍するのは双牙。
「哀れだが、情けをかけるわけにも行かんな」
 ——バキッ!
 光の尾を引く重い飛び蹴りを炸裂させ、水晶竜の翼の骨格をへし折ってその機動力を奪った。


 8人はダメージ重視の戦法を取る中で、水晶竜へ攻撃を命中させる事、また、水晶竜の行動が失敗する可能性にも懸けていた。
 だからイアニスは水晶竜に攻撃が避けられぬよう轟竜砲をメインにして足止めを狙っていたし、リナは稲妻突きと幻影雷刃槍を繰り返しては、水晶竜へ強い衝撃を与えた。
 双牙は旋刃脚とスターゲイザーを交互に用い、見切られぬ為の対策と同時に双方の異常付与を目論んだ。
 火傷や凍傷を刻みつける事に力を傾け、さらには水晶竜の強固な骨組みを突き破って猛攻を続けるのは、白や燐、そして絶華だ。
 しかし。
「シギャァアアアアァッ!」
 水晶竜の吐いてくる猛吹雪や、硬化した爪での斬り裂きへ、ランドルフ1人で対処するのはいささか無理があった。
 一撃一撃が重い攻撃に対して皆の失った体力を回復させるだけなら、リナもランドルフを助けてサークリットチェインを頑張っていたが、それよりも吹雪による凍結が痛かった。
 殆どの仲間に叫ぶ心構えがあり、双牙も気力溜めで仲間を蝕む凍傷を治してはいたが、どうしても後手後手に回ってしまうのが災いして、次第に消耗していく一行。
「憐れんでたらコッチがCorpseになっちまう、行くぜ!」
 ランドルフは、回復にかかりきりになって、竜砲弾を撃つ暇がない。
「痛みさえも、糧にしてやる」
 イアニスも彼を手伝って、前衛陣の凍傷を地獄の炎で包み、重力の鎖そのものへ変換。
 『無かった事』にする荒業をこなして、斬られるが如き断続的な痛みから自分含めた5人を救った。
「ぐ……ごめん、粉雪……」
 それでも水晶竜の攻撃は依然激しく、先ずは仲間を懸命に庇っていた白が、水晶竜の爪に豊かな胸を引き裂かれ、自らの血の海に沈んだ。
「……皆、ごめん、僕の代わりにヤツを……!」
 水晶の中に故郷の町を焼く青い炎——殆ど覚えていない筈の景色を見てしまった燐は、こちらも薄れゆく意識に抗えず、ばたりと倒れる。
「大丈夫、痛みは一瞬だ……多分」
 グラビティ・チェインと己が気を練り合わせて、治癒の効果を秘めた気弾を生成するのはランドルフ。
 その気弾をリボルバー銃の銃口より実弾の如く乱射して、前衛陣へまるで攻撃のような痛みと共に傷を治し、異常耐性も付加した。
 ずっとメタリックバーストでクラッシャー達の命中率を上げてきたランドルフだが、水晶竜のドラゴンクローの効果が出れば、再び掛け直す手間が生じていた。
 同じイタチごっこならば、最初からバレットヒールレインで凍傷やトラウマ顕現対策を施しておいた方が、もう少し長く持ち堪えたかもしれない。
 とはいえ、あくまで長く持ち堪えただけであって、今回は一部の前衛陣が主体性に欠けていた為、どのみち戦線の瓦解は免れなかったろう。
「そう簡単に折れてはあげないよ!」
 リナは、変わらず稲妻を帯びた超高速の突きを浴びせて、水晶竜の神経を麻痺させんと奮闘していた。
(「堅いのはお城だけじゃない、私達の絆だって——!」)
 と、仲間達の堅い結束によって生まれる強さを信じるリナだったが。
 ビュォオォオォッ!
 水晶竜が絶え間なく浴びせるドラゴンブレスの前には敵わず、勢いよく吹っ飛ばされて地面へ叩きつけられた。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……『窮奇』……開門……!」
 絶華は、古代の魔獣の力をその身に宿すや、狂戦士へと変貌する。
「……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 そのまま超強化した身体速度で水晶竜に襲い掛かると、三重臨界を己が爪の様に振るい、神速の斬撃を幾度も浴びせた。
「この一撃、避けられるものなら避けてみろ……!」
 鉄塊剣『赤光』を振り下ろした剣圧で、水晶竜との間に『暴風の道』を生み出すのはフューリー。
 ズブッ——!
 逃げ道を失った奴の背骨を、血管に似た紋様輝く大剣で深々と刺し貫いた。
 『暴風の道』そのものも破壊の力を帯びていて、苦痛にもがく水晶竜の翼や手足を見えない刃で斬りつけていく。
 勝機の見えない戦いが続き、もはや気力のみで立ち向かうケルベロス達。
 戦闘開始から12分が過ぎた頃、水晶竜の水晶の曇りが全体に広がり、ようやく奴も疲弊している事を知った。
「……捨て身は強い、が。何度でも見せてやろう」
 双牙は、地獄化した両の手刀を突き出したまま水晶竜へ向かって跳び上がる。
「護るものがある、帰るべき場所がある、その強さを」
 勢いよく全身を回転させるや、自らの身体を弾丸代わりに突撃、凄まじい威力で繰り返し水晶竜の傷口を深々と抉った。
「グゴゴゴゴゴ……!」
 水晶竜の断末魔は襲来時の高音に比べれば酷く濁って、直に命の灯が消えると判る。
 そして、ズシーンと地面へ頽れた様は、透明だった骨までもが白く変色していた。
「出来れば二度と会いたくねえな、あばよ」
 次第に消えていく遺骸を見下ろしたランドルフが、苦い表情で呟く。
「残念だが、この現状ではゲドムガサラへ切り込むに足る戦力とは言えん……皆、退くぞ!」
 フューリーがそう判断して仲間を急かした。
「そうだな、仕方あるまい」
 大切な恋人から貰った御守を握り絞め、双牙も苦渋の決断をする。
「……行こう」
 と、白とリナを両肩に担ぎ、燐を右手で抱えたのはイアニス。もしもの時の為に用意していた怪力無双が役に立つ。
 イアニスの脇を双牙とフューリーが固め、殿を絶華が務めて、周囲の警戒を怠らずに飫肥城の防衛線へ撤退を始める一行。
 暫くすると、飫肥城の防衛を担うグループのひとつが、やはり宝玉封魂竜を相手取り戦っている様子が目に入った。
 声の聞こえる距離まで近づいた時はもう倒し終えていたが、奇しくも彼らを襲った竜も氷属性だったようで、微かに冷気の残滓が感じられた。
「すまん、こっちは3人やられた……」
 絶華が心底悔しそうな面持ちで声を投げる。
「敵は1体だ。俺達があのドラゴンと戦う」
 黒髪の少年、機竜が澄み切った金の瞳でこちらを見据え、頼もしく請け負ってくれた。
「新手か……」
 敵と聞いてフューリーが振り返ると、なるほど、瘴気を漂わせた宝玉封魂竜が近づいてきているのが判る。
「悪いな、宜しく頼む」
 ランドルフがすれ違いざまに短く言った。
 これ以上会話を続ける余裕も、他班へ敵との戦闘を全て任せる事へ逡巡する余裕もない。
 今はこの戦場を離脱し、全員で無事に帰還するのが何より大事だ。
 5人はそう思い極めて、疲労で重い足を速めた。

作者:質種剰 重傷:黒岩・白(巫警さん・e28474) 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年7月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。