エクスプロード・ノーマーシー

作者:鹿崎シーカー

 連鎖爆発がデパートの壁を吹き飛ばす。ガラスや電光看板が落下し地面にぶつかって破砕。空いた穴から黒煙が上がり、非常ベルと狂乱の声が鳴り響く。それらが木霊じみて聞こえる商業施設の駐車場で、一際大きな哄笑が轟いた。
「ハハハハハハ! 燃えろ燃えろーッ! 炎よ燃えろーッ! アーッハッハッハッハ!」
 車の一台を足蹴に褐色肌の少年が笑う。尖った耳に、汚泥めいたタールの翼。すさまじい速度で指を鳴らす彼の周囲に次々と火球が灯る。小型太陽に照らされた目はらんらんと輝き、蜂の巣めいた有様の商業施設に凝らされた。
 火災の中で泣く子供、商品棚の下から客を助けようとする店員、必死で消火活動を行う大人達。指望遠鏡で穴だらけの壁をのぞく彼の口がつまらなそうにひん曲がった。視線をずらし、入り口付近。
「……おっ?」
 指に囲われた目が楽しげに光る。彼の尖った耳は、ガラスのドア越しに子供を蹴飛って逃げようとする男の声を捉えていた。
「んーなになに? エリートの邪魔するな……僕を守って死ね……ほうほう」
 目元から手を外して指を鳴らす。ひとつ増えた火球の群れを手早く数えて男を指差し、表情を凶悪な笑みに歪ませた。
「よっしゃお前に決めた! 死ねッ!」
 再度指が鳴った瞬間全ての火球が飛翔した。燃える軌跡を描いた火の玉は自動ドアから転がり出た男に殺到し、彼を飲み込み爆発! 少年は爆心地を指望遠鏡で注視する。そこに男の影はなく、黒い粉がわずかに堆積してるのみ。少年はしかめっ面で指を下ろした。
「……あれ? 外れぇ? なんだよもー……期待しちゃったじゃん」
 大きく溜め息を吐き、片手の指を鳴らし始める。一度音が出るに応じて火球が出現。赤々と輝くそれを見つめて心を落ち着け、青年は軽く首を振った。
「ま、いいや。とりあえず全員殺せば誰かしらなんかなるだろ。てなわけでー……」
 腕を引き、野球選手めいて片足を上げた。鬼火の群れが弓引くようにゆっくり後退。少年の横顔ににっと笑みが浮く。
「たァーまやぁぁぁあああッ!」
 踏み込みでルーフをへこませ一斉投擲。施設全体に飛んでいった火球は崩壊寸前の商業施設をボロボロに砕いていった。


「ショッピングモールを、白昼堂々……?」
「うん。人が多いときに、ってことらしいね」
 眉をひそめる蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)に、跳鹿・穫は渋い顔でうなずいた。
 今回、とあるシャイターンがショッピングモールを襲撃するとの予知が出た。
 ザイフリート王子と共に離反し、定命化したヴァルキュリアに代わって死の導き手となったシャイターン。エインヘリアルを生み出す役割を引き継いだ彼らは、自ら意図的に起こした事故で人を殺し導こうとしているようだ。今回狙われるのは真昼のショッピングモール。放置すれば大きな被害が出るだろう。
 しかし、シャイターンは既に攻撃を開始しており、現場には甚大な被害が出ている。到着と同時に速やかに避難誘導、及び迎撃が必要となる。
 ただ、このシャイターンはまだ選定対象をあぶり出そうとしている段階で、とりあえず良さそうな人間をあぶり出すために建物を壊している。つまり、最初の選定が終わるまでは進んで派手な破壊はしようとしない。
 最初の選定対象は、事件が起こるなり我先に出口から脱出しようとしている眼鏡の男だ。彼を庇う形で前に出て攻撃すれば、相手の意識をこちらに集中させられるだろう。
 選定対象の男性とショッピングモールの人々を保護し、シャイターンを撃破してほしい。
 ここで問題となるのは、出現したニーリと名乗るシャイターンの立ち位置だ。ニーリは駐車場に陣取っており、ここから建物を破壊して選定対象を探っている。商業施設から出るにはこの駐車場を必ず通らねばならず、下手に強行すれば多くの人が死ぬだろう。とはいえ、施設は事故が起きる程度には破壊されて崩壊寸前。対応には工夫が必要になる。
 ニーリは召喚した複数の火球を飛ばす遠距離戦闘を得意としている。呼び出し操る火球の数に限りはないようだが、一度使い切ると指を鳴らして一から召喚し直す必要があるようだ。
 ただそれだけなら単なるシャイターン、とも言えるのだが、ここでも戦場が問題を招く。商業施設は大型なため、駐車場もまた大きい。つまり、車が大量に停車している。うっかりニーリの火が当たればどうなるか……慎重さと大胆さが求められる状況だ。
「大勢の人と地雷原みたいな戦場か。やってくれるな……」
「シビアだと思うけど、力を合わせればきっとできるよ。頑張って!」


参加者
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)
シュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)
リディア・リズリーン(希望双星・e11588)
ソル・ログナー(希望双星・e14612)
キーア・フラム(黒炎竜・e27514)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)

■リプレイ

 響く爆発と崩落の音。非常ベルに気づいた職員や客が駆け回る。怒号と泣き声、熱気を背にし、眼鏡の青年は出口に走る。
「ハァーッ! ハァーッ! 一体なんだっていうんだ!」
 毒づきながら風を切る。出口の前にへたり込む子供を蹴り飛ばし、青年は走る。
「どけッ!」
 泣く子供を残し、ドアにとりつく。だが、無反応。開かないドアを、青年は拳で叩いた。
「クソッ! 開け! このポンコツがッ! 僕は……僕は死なないんだ! エリートの僕がッ!」
 ドアを力尽くでこじ開け、わずかな隙間に頭を差し込む。腕を出し、挟まれた胴を引き抜こうと暴れるその目が、遠くに浮かぶ光を捉えた。
「あ……?」
 モールの前に広がる、屋外駐車場の奥。銀の車に火球がいくつも浮遊していた。そしてそれらの中心に、褐色の少年。
 少年が片腕を上げ、青年を指さした瞬間火球の群れが一斉に飛ぶ! 青年の視界を業火が覆った直後、その間に影が割り込んだ。弾ける熱風と火の粉!
 熱風に煽られ、きつく目を閉じる青年。恐る恐る目蓋を開くと、立ちふさがる複数の背が見えた。真紅のチェーンソーを担ぎ、ソル・ログナー(希望双星・e14612)は熱波の中で溜め息を吐く。
「やれやれ……まさにガキの火遊びだな、全く」
 木琴めいた音色が響く。空から黒い花弁が散る中、クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)のアナウンス。
『お客人殿、デウスエクスの襲撃でござる! 外では拙者たちの仲間が足止めを致しておる故、慌てず、騒がずハリーアップで避難されたし。なお、店員及び消防団の方は避難誘導を。近くに動けない者が居たら手を貸して頂きたく!』
 リディア・リズリーン(希望双星・e11588)が眼鏡の青年をくるっと振り向く。桃色の風を浴びせ、笑顔で告げる。
「さーて! こっから先は危ないでぃす! 戻って避難誘導に従ってくださいね!」
 青年はドアに挟まれたままリディアを見上げる。震える口がわずかに動いた。
「……は? 何言って」
「ふんっ!」
 ソルの靴裏が顔面を打ち、青年をドアの奥へ吹き飛ばす。その時、背後上空で指音が鳴った。
「おーい? おーいおいおいおい! なーに邪魔してんだよぉ!」
 濁ったタールの翼を広げ、ニーリは指を弾き続ける。視線の先にはモール上空で花弁を散らす黒炎の実と、荘厳な黒いドレスをまとって滑空するキーア・フラム(黒炎竜・e27514)。
「人のもん横取りすんなよ。それ、オレの!」
「何がオレの、だ」
 火のついた銀髪をなびかせ、カーネリア・リンクス(黒鉄の華・e04082)が刀を向けた。
「お前にやるもんなんて何一つねーよ!」
 蒼いF1カーめいた装甲のシュテルン・プラティーン(天衣無縫フルメタルクルセイダ・e09171)が相棒のハンドルをひねり、キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)は金蝶のシューズを踏みしめる。エンジンと光る蝶の翼が空気を震わせる中、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)は青と赤の二刀を構えた。
「誰も殺させやしない。……ここで倒れるのはお前だけだ、ニーリッ!」
 毅然と言い放たれたニーリは口角を曲げ、笑った。
「へっ! あっそう!」
 腕を打ち振り火球を発射! 流星群めき降り注ぐ火の弾幕を前に真琴は二刀を地に刺し両手を合わせる。着弾・爆発!
「へへ……ん?」
 勝ち誇るニーリの前で、上がる爆炎を光が払う。地に浮くのは蟹座の紋様。真琴は無傷、他の仲間の姿はない。彼の頭上、跳んだソルはチェーンソーを猛らせた。
「手筈通り行く。作戦開始だ。あのガキにキツイ灸を据えてやる」
「はい!」
 キアラが真下のニーリめがけて魔力砲台を発射。赤い蝶の群れを従えて噴く火柱に気づいたニーリは後ろに回避。指を鳴らす彼にカーネリアとシュテルンが迫る!
「行くぜッ! 篁流、カーネリア・リンクスと相棒のコラン・ダム、いざ参るッ!」
「同じくシュテルン・プラティーン、参りますッ! 篁流格闘術!」
 ヨタローを蹴ったシュテルンが跳躍! 縦回転しながら飛ぶ青は放たれた火球群に臆せず突撃、全弾まとめて打ち払ってなお飛翔!
「『垂雪・顎』ッ!」
「チィーッ!」
 身をひるがえすニーリの背後をシュテルンが突破した。指を鳴らして急降下する背にカーネリアが追いすがり、冷気の剣を振りかざす!
「凍てつけ! 篁流剣術、『寒月』ッ!」
「行けッ!」
 横一文字の一閃が三つの火球を斬り裂き、車のルーフを蹴って飛ぶニーリを火拳と化した銀髪が追う。その上を駆けあがるリディア!
「逃がさないでぃすよーっ!」
「うっざッ!」
 叫んだニーリが最大速度で指を弾いて腕を振る! 飛来する八つの炎弾を前に光の剣を抜くリディアをソルが投げ上げ、真紅のチェーンソーで八連斬。炎全てを斬り払った。
「前に出過ぎるな。そんな役割は、俺一人で良い……」
「クッソッ!」
 毒づくニーリの手首に赤い弾丸が命中! 車を飛び越えた真琴はコマめいて回りながら赤青の氷弾を連続投擲。着地と同時に刃を地に刺し、蟹座の紋章を呼び出した。
「痛ってええええええッ!」
「今だ。畳みかけるぞ!」
 紋様が光を放ち仲間達に加護を宿す。空中で悶絶するにニーリに向かってルーフを蹴ったシュテルンと光蝶の渦を巻くキアラが同時に飛び蹴りを見舞う! ニーリは片手を限界まで速めて炎弾七つを召喚して防御!
「シュテルンさん! 一気に行きます!」
「オラアアアアアアッ!」
 加速する二つのキックが炎の壁を同時に貫いた先、二人の目前に褐色の手!
「なめ……やがってッ!」
 指が弾け爆炎が噴く! 炎を浴びて吹き飛ぶ二人をリディアの桃霧とヨタローが受け止めた。一方ニーリは振り向きざまに召喚した火球で斬りかかるソルを迎撃。バックしながらさらに二つ生み出し投げる。それらを裂く紅蓮のノコギリ!
「弱い。タバコの火にもならんな」
「ちっくしょ! 来んなッ!」
 逃れようとする鼻先を鋭い駆動音がかすめる。後ろ手に指を弾いて火炎を出しつつ着地。そこへカーネリアが猛然と走り込む! 乱れ髪で地面を打ってハイキック!
「『氷刀』ッ!」
「うおおおおおおッ!」
 ニーリが目前で指を組む。両サイドの火球が閉じる扉めいてカーネリアを挟んで爆発! そのまま周りリディアの光剣を白刃取る! 目と鼻の先、リディアは濁った瞳を見据える。
「ニーリさん、あんな大勢の中からあの人を選んでましたね!? 察するに貴方達の選定対象は……身勝手な人間って所ですかね!?」
「知らねーよ……!」
 ニーリは紅い瞳をにらむ。歯を食いしばり、光の剣を押し戻す!
「とりあえずぶっ殺してエインヘリアルになりゃアタリ! でなきゃ他のをぶっ殺す! そんだけだよッ!」
 飛ぶ爪先がリディアの腹に突き刺さる! くの字に折ってふっ飛ばし指を構えたその直後、車の影からニンジャが飛び出し、クナイを機関銃掃射めいて連射した!
「ィィイイイイヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤッ!」
「うおぁあッ!?」
 横殴りの雨じみた刺突の嵐がニーリを撃った。たまらず地を蹴り走る彼を追うクナイ!
「なんだよ!? 不意打ちとか汚ぇぞ!」
「アンブッシュに引っかかる方が悪いのでござる! イヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤ!」
 言い返しながらクリュティアがさらにクナイ乱射! そしてタール翼を広げて宙に逃げた少年に悠々とアイサツする。そのバストは実際豊満!
「ドーモ初めまして、ニーリ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる。ノーラクーン・スキンセール。お主の思惑通りにはさせぬでござるよ!」
「うるせえッ!」
 叫び返し火炎弾を一発投下! 口上の不意をついた一撃に蒼く輝く蝶が群がり、柔らかな光に包まれて消滅した。
「とりあえず……殺せばあたり?」
 周囲に光の蝶を侍らせたキアラの、緑の瞳に怒りが満ちる。
「あまつさえこんな大事故を起こしておいて、とりあえず転生すれば当たり!? 違ったら他の人を殺せばいい!? 許せない……命を軽々しくもてあそぶあなた達に、魂の選定者を名乗る資格はありません!」
「だぁーかぁーらぁー……」
 苛立たしげにニーリが舌打ち。空中で指を打ち鳴らした!
「知るかッてんだよぉッ!」
「はッ!」
 出現と同時に連続投下される爆炎と、キアラの蝶が正面衝突! 散る火の粉と光の粒を斬り裂きヨタローに乗ったシュテルンがジャンプし、シートを蹴って回転飛翔! 光をまとった回し蹴りが炎を破壊しニーリを襲う!
「篁流格闘術、『浮雪』ッ!」
「ッ!」
 身を反らして逃れた脇腹に二撃目のキックが突き刺さる。ニーリが奥歯を噛んで生んだ三つの火球を黒炎の槍が貫いた。シュテルンを振り払う彼の頭上、両手を燃やすキーアがダイブ!
「下賤な炎……滅ぼすわよ、オーガ、キキョウッ!」
 一回転し黒炎まとう桔梗がムチめいてしなる! 炎の一撃をニーリは屈んでかわし黒い翼を羽ばたかせる。その足に巻き付くクナイ付き鎖をクリュティアが引く!
「イヤーッ!」
「ぬあっ!」
 手が空をかき地面に向かって引きずり込まれた。鳩尾にソルの回し蹴り!
「ふん!」
「ごはっ……」
 吹っ飛ぶ体をクリュティアが再度引っ張り戻す。入れ替わり走る真琴の回転ダブルセイバー斬撃を身をひねってかわしたニーリはリボンで束ねた髪をつかみ片手で指を打ち鳴らした! 後ろ髪を引かれた真琴を火球の中へ叩きこむ!
「死ねッ!」
「ぐはッ!」
 頭から火の玉に突っ込み爆発! 真琴は地に打ちつけられるニーリにロングローブを投げつけ、髪をつかむ手首の剣を切断。逃れる彼と裏腹にローブはバウンドするシャイターンを縛りタールの翼を締め上げた。
「っくしょ! んだこれ!?」
「キーア、やれっ!」
「わかってるわよ!」
 もがくニーリにキーアが突撃。鬼めいたガントレットを限界まで引き絞り黒い炎で包み込む!
「貴方に本物の炎を魅せてあげるわ……! 塵も残さず燃え尽きろッ!」
「いっ……!」
 鉄拳制裁! 拳が無防備な腹を撃ち抜きアスファルトを砕き割った。炎が、キーアもろともニーリの全身を飲み食らう!
「んぐぁあああああああッ!」
「このまま焼き尽くしてあげるッ!」
 唸る炎が天を突き、なお勢いを増し燃え上がる。地獄炎の牢獄の中、歯を食いしばるニーリの目が狂気に輝く。デスパレートな狂気に!
「キーア殿、アブナイ!」
「っ!?」
 地面スレスレを飛ぶクナイが炎を斬り裂き二人を分かつ。黒炎から逃れたニーリは大火傷を負った頬で凶悪に笑った。振り返るキーアの真上に無数の火球!
「遅ぇーよバァァァーカッ!」
 ニーリが縛るローブを引き裂き指を鳴らした。流星群じみた炎弾幕が降り注ぐ!
「響け、壮麗の調べ。生命の息吹、来たれっ!」
「蒼の抱擁にて、私に全てを守る力を!」
 呪符に覆われた真琴の翼が神律を、力強く羽ばたくキアラの翼が無数の蝶を野に放つ! 蒼い光に包まれたキーアが爆炎に飲まれる真下をニーリは超低空飛行で逃れてターン。湧き立つ炎壁の向こうをにらみ、さらに指を鳴らそうとしたその瞬間!
「遅い」
「んなッ……!」
 むかれた目に懐に潜り込むソル! 腰だめの握り拳が月光めいた輝きを帯びる。
「所詮タネの割れた手品だ。解放……start up」
 ニーリの視界が一瞬暗転。高速アッパーに撃たれた顎が上向き砕けた歯茎が血を流す。無防備な首にクナイ付き鎖が巻き付いた。
「慈悲は無し。拙者の攻撃見切れるでござるかな?」
 鎖を手繰って炎壁を飛び越えたクリュティアは、手にした大量のクナイを投げ放つ! ケルベロス敏捷性に物を言わせた刺突の豪雨!
「イィィィヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤヤッ!」
「……!」
 寸前で我に返ったニーリは両手で頭を抱え込む。全身に次々と黒い矢が突き立ち、サボテンに変えていく!
「だぁーっ! いででででででで!」
 必死で耐える傍ら、外れたクナイが銀糸に引かれた。銀髪を山嵐めき逆立てたカーネリアは絡めとったクナイを毛先に燃える髪を振り乱す!
「行くぜシュテルン! 篁流二連撃ッ!」
 長髪から無数の針が飛び散った! 銀針とクナイはその場にぬいとめられたニーリに殺到して突き刺さる。シュテルンは外周を高速旋回して外れた針を蹴っては投擲。縦横無尽に行き交う針がシャイターンの全身を貫いた!
『「篠突く雨」ッ!』
 針のむしろと化したニーリの絶叫が響く。再現出した光剣を片手にリディアが死の中心へ走る。
「私達も合わせますよ、ソルさんっ!」
「ああ」
 彼女にチェーンソーを投げ渡し、ソルは両手に浮かぶ紋様で黒い槍を織り上げ、振りかぶる!
「我が魂に刻まれた、破壊と復讐の鎖に彩られし叛逆の槍。今降臨せよ!」
 放たれたジャベリンが分裂し針の嵐に溶け込み弾ける。銀と黒が飛び交う中に飛び込むリディア。赤いチェーンソーと光剣を交叉し、シャイターンをX字に斬り捨てた。
「でぇええええええええやっ!」
 背後で黒いタールの血が派手に噴き出す。自らの血に溺れるニーリの、
「ゴボッ……い、嫌だ……死にたくねえ……うあああああああッ!」
 断末魔とともに、ニーリは爆発四散した。


「うーむ。終ったでござるな!」
 クリュティアがぐっと伸びをする。キアラは服の袖で涙を拭った。
「え、ええ。これで、一安心……ですよね」
 二人の隣、やや離れた位置を歩くキーアが横目を向ける。
「何言ってんの。アレ、直ってないから」
 あごをしゃくった先に、崩壊寸前のモール。所々黒に染まった建物は、妙に禍々しい威容をまとう。薄紫の髪を結い直しながら真琴がつぶやく。
「状況が状況だ。さすがに全部は直せなかったか」
「当たり前でしょ? 怪我人も、あなた達もどうにかしないといけないし。もう……」
 溜め息をつくキーアの顔を、黒髪のカーネリアとゴスロリドレスのシュテルンがのぞく。二人の顔には薄ら笑い。
「素直じゃねえなー。心配だったって言えよ。なあ?」
「いわゆるツンデレさんなんですね」
「……燃やされたいの?」
 黒炎を握るキーアの隣をリディアが風めく駆け抜ける。
「そうと決まれば話は早いでぃす! ライブしてきまーっす!」
 コウモリ型ギターを手にすっ飛ぶリディアを見送り、キーアは黒炎の翼を広げて飛行。キアラと真琴も別方向に飛んでいき、他の面々がモールに入る。遅れて扉を潜ったソルは、そばにへたり込んだ眼鏡の男に目を向けた。
「お前……避難しろって言われただろ」
「う、うるさいっ!」
 震えながら、男は喚いた。
「なんで僕があんな奴らと! この……エリートの僕がッ!」
「おい」
 ソルは胸倉をつかみあげ、至近距離で冷たくにらむ。
「貴様もデウスエクスと変わらんな。……エリート? 笑わせるな。お前は、ただのクズだ」
 吐き捨て、青年を放り出して去る。そして、寄ってくる子供達に笑顔を向けた。
「よーし、もう大丈夫だ。ケルベロスが来たぞー」
 子供達が群がる背中を、青年はただ呆然と眺めていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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