氷、怨念、凶器、射出……

作者:質種剰

●夕暮れ時
 物の輪郭がぼんやりと滲み始める夕暮れ時。
 ゴミ捨て場に廃棄されていた、年季の入ったビアサーバーの白い壁を、小さなダモクレスが器用に登っていた。
 握り拳大のコギトエルゴスムにびっしりと脚が生えて、まるで蜘蛛のような見た目をしたダモクレスである。
 蜘蛛ダモクレスは器用にビアサーバーの真上まで登りつめると、開いた蓋と本体の隙間から内部へ侵入。
 すると、古いビアサーバーに異変が起こった。
 大きなビールジョッキの連なる脚部を生やし、足先にはビール樽がくっついた状態で、すっくと立ち上がったのだ。
 ビールジョッキの腕も側面からしっかりと2本生えている。
「……キンキン……ビール……生……」
 蜘蛛ダモクレスに寄生され、巨大ロボと化したビアサーバーは、自我を持ってのしのしと歩き始めた。
「かんぱーいっ!」
 向かったのは、多くの人々がビールジョッキを掲げて日々の疲れを癒している居酒屋。
「ツメタイ生ビール、オマタセシマシタ……!!」
 ドブシャァアアアアッ!
 ビアサーバーダモクレスは、カランを自在に動かして生ビールを勢いよく大噴射。
 和気藹々としていた居酒屋店内を一瞬にして、恐怖と混乱のるつぼへ変えたのだった。
●混沌の飲み会
「あー、1日働いた後のビール、サイコーだよね! そんな社会人の癒しのひとときを邪魔するダモクレスはぶっ飛ばしてやろう!」
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、いつものようにそう息巻いてから、
「ビアサーバー型ダモクレスでも、斬れば何とかなるよね、うん……」
 自分が調査して見つけ出したダモクレスの事を考えて、視線を泳がせた。
「そんな訳で、埼玉県にある居酒屋にて、既に役目を終えていた電化製品、瞬間冷却式ビアサーバーが、ダモクレスになってしまうでありますよ」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、集まったケルベロス達へ向かって説明する。
「幸いにもまだ被害は出ていませんが、ビアサーバーダモクレスを放置すれば、多くの人々が溺死させられてグラビティ・チェインを奪われてしまうであります。皆さんには、そうなる前に急ぎ現場へ向かって、どうかダモクレスを撃破してくださいませ」
 深々と頭を下げるかけら。
「今回倒して頂きたいダモクレスは1体のみで、瞬間冷却式ビアサーバーが巨大化して変形した、ロボットのような姿であります」
 ビアサーバーダモクレスは、カランから大量のビールを洪水の如く浴びせ掛けてくる。螺旋氷縛波に性質の似た近距離斬撃だ。
 また、真上の蓋を開けて胴体を振り回し、複数人へ氷を撒き散らす事もある。こちらはアイスエイジに近い魔法攻撃だ。
「他には、ビールホースで繋がった生ビール樽とガスボンベを振り回して攻撃もしてきます。デストロイブレイドのような強烈な一撃でありますよ」
 ビアサーバーダモクレスのポジションはジャマーである。
「居酒屋さんにおいでのお客様へは、避難が必要なら皆さんで直接お願いなさって、万全の状態で裏手のゴミ捨て場へ向かって欲しいであります」
 そう説明を締め括り、かけらは皆を激励した。
「何の罪もない人々を惨殺するビアサーバーダモクレス……とても許してはおけないであります。どうか確実な討伐をお願い致します」
 そうそう、と一言付け加えるのも忘れない。
「……折角でありますから、皆さんもダモクレスを倒した後は、飲み会を楽しんでらしてはいかがであります? 勿論、未成年者はお酒は飲めませんが、居酒屋さんの豊富なメニューは飲めなくたってとても魅力的だと思いますよ♪」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)
蓬生・一蕗(残影・e33753)
銅螺尾・双麻(不条理世界の探偵紳士・e34665)

■リプレイ


 居酒屋。
「はぁ……やっぱり出たか。まったく、地球のオトナの楽しみを奪おうなんて、度し難い奴だ」
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は、ビアサーバーダモクレスが現実に人を襲うと判り、やるせない気分でがっくりと肩を落とした。
 だが、気持ちの切り替えの速さもこの残念系イケメンの長所の一つ。
「さあみんな、さくっとお仕事終わらせて……飲みに行こう!」
 気合いを入れ直して顔を上げるや、仲間達へ明るく声をかける燐。
 自分は先陣切って居酒屋の中へ入り、店員に事情を説明、店内の客を避難誘導させる許可を貰った。
「これからお楽しみのところ申し訳ないけれど、もうすぐデウスエクスがやって来るんですよ……」
 日頃から、自分の気持ちを上手く表現する術に長けている燐だから、店員への説明も客への説得も両方危なげなくこなし、生来の人好きがする気質をも存分に活かして、人々へお引き取り願っている。
「お仕事の後の一杯……その憩いのひと時を破壊と恐怖で踏みにじらんとするダモクレスさん……必ず止めましょう」
 一方、確固たる決意を胸に店内へ入るのは、ニルス・カムブラン(暫定メイドさん・e10666)。
 性格は元気で温厚、例えビルシャナのせいで男性の欲望に関して余計な知識を吸収しようとも、決して捻くれず健やかに育っている。
「このお店にデウスエクスが襲撃に現れます。ご飲食の最中で申し訳ございませんが、速やかに避難をお願いします」
 なればこそ、一般客へ避難を促す際もメイド特有の腰の低さを発揮するニルス。
「お足元にお気をつけくださいませっ」
 既に酔っ払って足元がふらつく客へは、自ら身体を支えて逃げるのを手助けした。
 草臥・衣(神棚・en0234)も、御衣櫃と一緒に店内を回り、避難の呼びかけに勤しんでいる。
「突然申し訳ありませんが、デウスエクスを倒すまでの間、安全な所へ避難をお願いしております」
 同じ頃。ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)は、育ちの良さが伺える礼儀正しい物言いでグループ客へ接触。
「慌てず騒がず、速やかに移動をお願い致します」
 細やかに言葉を尽くして頼み込み、それでいててきぱきと避難誘導に励んでいた。
 恩師からなめろうを始めとするご当地文化への想いと力を継いだ彼女は、今日もボクスドラゴンのナメビスくんと共に、ご当地ケルベロスとして奮戦する事だろう。
「酒は楽しむために飲むものだ、……酒を人にかける行為はあるが、あれは別物だ」
 そう穏やかな声音で語るのは、蓬生・一蕗(残影・e33753)。
「酒を殺戮のために使うとは見逃すわけにはいかないね。早々にお引き取り願おう」
 表向きは、人里離れた地で作品を制作していた硝子細工職人だが、その裏では一族として密かに受け継いだ螺旋忍軍の術を護る青年。
 右目と右腕の傷跡を地獄化したブレイズキャリバーでもあり、今は己と妹を襲ったデウスエクスを探す事が、一蕗の生きる糧となっている。
「お楽しみのところ申し訳ないが、すぐにここは戦場になる為、速やかに避難して欲しい」
 一蕗は、地球人だけが持つ親しみ易さを最大限に利用して、一般客達へ優しく話しかけた。
「片付けたあと、また楽しく飲める場にするようにするから、宜しく頼む」
 誠意の伝わる説得に客の心も解れたのだろう、皆が素直に立ち上がり店外へと逃げ出していく。
「仕事終わりの美味いビール、これに尽きる。この一杯のために頑張ってきたという気持ちにもなろう」
 銅螺尾・双麻(不条理世界の探偵紳士・e34665)は、世の酒飲み皆が共感するに違いない感慨を口にして、客で賑わう店内を見回した。
 黒い帽子とロングコートが似合い、整った顔立ち等は一見渋く見える青年探偵。
 運は極悪、腕は超一流と呼ばれるように大成したいそうだが、その足掛かりが未だ見つからない辺り、確かに運に恵まれていないのかもしれない。
「ここは危険だ。美味いビールはもう少しだけお預けにしてくれ。すぐに片付ける」
 隣人力総動員な上、無駄にハードボイルドな空気を漂わせて避難を促す双麻からは、自身もさっさと片づけて早くビールにありつきたいという気持ちが滲み出ていた。
 他方。
「ビアサーバーのダモクレスか~……未成年だから酒は飲めないし、酒そのものにもあまり興味は無いが、飲み会とかはやっぱり楽しそうだなぁと思うんだよなぁ……」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)も、未成年ならではの憧憬を呟きつつ、靴を脱いだ足で廊下を歩く。
「ま、そんな飲み会がダモクレスのせいで台無しにならないよう、今回も頑張りますかね」
 本性は割と大雑把で面倒臭がり、時折素が出る口調も年頃の少年らしく乱暴なものだったりする、高校生刀剣士だ。
「ちわーっす。どうもケルベロスです」
 とはいえ、日頃は適度なクールさと人当たりの良さを併せ持つ航。
「なるべく早く終わらせるんで、ちょっと避難しててもらえると助かります」
 グループ客へ声をかける様は、隣人力も相俟って充分愛想良く丁寧であった。
「ビアサーバーか。まだ時期的には早い気がするな」
 篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)は、酒が飲める成人故に浮かぶ感想が、何気なく口をついて出たようだ。
 意思の強そうな金の瞳とまるで燃え盛る炎の如き紅の翼を持つ、オラトリオの青年。
 ちなみに、オラトリオであるからには頭の銀髪へも当然花が咲くのだが、睡蓮故に似合わないとの理由で、普段は仕舞っているのだとか。
「すまない。この裏でデウスエクスの発生が予見された。申し訳ないが一時避難をして欲しい」
 鷹兵は、自分の身分証明の為にケルベロスカードを提示しつつ事情を説明、一般客の警戒心を解くのへ一役かっている。
 また、店員と客が全員避難した後はゴミ捨て場へ続く道路に立入禁止テープを張って、野次馬が戻る危険性を封じた。
 すぐにゴミ捨て場へ向かう一行。
「お仕事上がりのビールの良さは、私にはわかりませんけれども。でも、大人の憩いの場を台無しにされるのはいけませんよね!」
 エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)も、*Poissons*の白い裾を風に靡かせ、ゴミ捨て場へと急いだ。
 陽の光を柔らかに照り返す薄茶色の髪と理知的な輝きを宿した銀の瞳が特徴的な、レプリカントの少女。
 性格は全てを愛する博愛主義者で、何事も赦そうとする度量の広さに努め、『憎しみは悲劇しか生み出さない』という母の言葉を何よりも大事にしている。
「居酒屋ごはん、美味しいって聞きますし! とても楽しみです」
 『笑っていれば、絶対大丈夫』という信念を持つエレは、ゴミ捨て場へ着くと、もふもふして小柄なウイングキャットのラズリと共に、笑顔でビアサーバーダモクレスの起動を待ち構えた。


 ビアサーバーダモクレスが居酒屋目指して動き出すのと、一行がゴミ捨て場に着いたのはほぼ同時だった。
「ダモクレス! 我々が相手をするぞ!」
 即座に鷹兵が、ダモクレスの進路を遮るべく立ちはだかる。
「受けよ! 時空凍結弾ッ!!」
 手に嵌めたバトルガントレットで『物質の時間を凍結する弾丸』を精製、指先より発射してビアサーバーのガスボンベにぶち当て、バキバキと凍てつかせた。
「一方的なお持て成しでお客さんが喜ぶ訳などございません。恐縮ですが、貴方のサービスはここで中止です」
 ニルスも、ダモクレスへ向かってぺこりと丁寧に一礼してから、アームドフォートを構える。
 そのまま携行型固定砲台の主砲を一斉発射、撃破せんばかりの強い衝撃と大きなダメージを、ビアサーバーの胴体へ齎した。
 トライザヴォーガーはニルスの動きに合わせて突撃、炎を纏った車体をビアサーバーへぶち当て、火傷を負わせた。
「先生から受け継いだ鎧装の裏技を今こそ……先生……力を貸して下さいね」
 恩師から受け継ぎ愛用している鎧装を、秘められた裏技の効果でご当地バーガー型に変形するのはビスマス。
「鎧装裏技解除コード『ローカルバーガーツインズ・ダブルケー』ッ!」
 増幅させたご当地の気を本物そっくりに顕現させた分身達と、呼吸を合わせてパンズアックスを振り下ろした。
 分身は、なめろうセイバー以外にも小松菜ダガー、蒟蒻ナックル、黒豚ハンマーなど様々なご当地食材を装備している。
 ゴシャッ!
 ビアサーバーの蓋が派手な音を立てて内部へ減り込み、大きなダメージとなってダモクレスを襲った。
「生ビール、スグニお持ちイタシマス!」
 ビアサーバーダモクレスは、頭部がひしゃげたのへも構わずに立ち上がり、カランから大量のビールを噴射する。
「させるか! 二階堂バリアー!!」
 すると、何故か航が号令を出して、燐に仲間を庇わせようとした。
 それというのも、
「聞けば、ビールを大量にぶっ放すグラビティを仕掛けてくるって? そいつは楽しそう……いや美味しそう……いやキツそうだな!」
 と、燐本人がヘリオン機内で興味津々に語っていた為、本人の意思を尊重したのだ。
「よし! その攻撃、僕がすべて引き受ける。みんな、安心して戦ってくれ!」
 頭から爪先までビールでびっちゃびちゃになりながらも、熱いテンションで嘯く燐。
「……おぉ、流石二階堂さん。ほんとに全部引き受けてくれるとは……」
 運良く宣言通りに守って貰えた航が感心する。
「で、グラビティビールのお味はいかがか」
「……いや、全然違うよ? さすがに、本物のビールとグラビティとの違いくらい……、……いいから僕に構わず、先に行け!」
「何処へ!?」
 同じ師団である燐へ遠慮ないツッコミを浴びせて、航はビアサーバーへ肉薄。
「貫け! 流星牙!」
 紋章の力を借りた神速の突きを、今日は珍しく二刀流の日本刀で繰り出すのだった。
「……清浄なる力を秘めし、空の石よ。……神聖なる輝きで穢れを、祓い賜え!」
 エレは、燐の不浄を祓うべく、数ある鉱石の中から天青石の持つ力を借りる。
 澄み切った空を思わせる煌めきが燐へ安らぎを与え、強き浄化の力を発揮すると同時に、休息の石としても彼の体力を回復させた。
 ラズリも主の意志に忠実に清浄なる翼を羽ばたかせ、後衛陣の異常耐性を高める。
「本来は人を楽しませる為に生まれた君だ。こんな事本意ではないだろう……倒させてもらうよ」
 と、自身の影から出現させた幻影を仲間の身代わりに立てるのは一蕗。
 そうして前衛陣を守護する傍ら、回復の合間合間では地獄の炎を颯に纏わせ、ビアサーバーへ重い蹴りを入れていた。
「はやくビール飲ませろ!」
 もはや飲酒欲求を隠そうともしない双麻は、己が全身を地獄の炎で覆い尽くして戦闘能力を大幅に増幅。
「探偵は迅速を尊ぶってな。さっさとケリを着けよう」
 その後も、愛用のリボルバー銃から地獄の炎弾を射出、ダモクレスの体力を確実に削っていった。
「あなたに僕の心は変えられない。――この世界を壊すというのなら、この一太刀を凌いで、やってみればいい!」
 燐は、ビアサーバーのビール樽を踏み蹴って空中に高々と跳び上がるや、鬼門大通天の霊力の一部を解放。
 青白い刀身から天にも通じんばかりの巨大な鬼火の刃を形成し、真下のダモクレス目がけて思い切り振り下ろした。
「……なんつってみたり」
 柄糸と同じ、鮮やかな青色に設えた鞘へ刀を収めた時には、既にビアサーバーダモクレスは真っ二つにぶった斬られて、地面へ頽れていた。
「倒した! やったー! ビールだ!」
 ダモクレスが絶命していると確かめるや否や、双麻はすぐ居酒屋へ駆け戻りたそうにしたが、
「ああ、先に道路をヒールで直さないと……」
 戦いの痕跡生々しい道路やゴミ捨て場をこのまま放置してはいけない、あともう一踏ん張りだとビール欲を堪えて留まる。
 しかし。
「自単ヒールしかねぇ! ヒールが終わるまでビールがお預けとは……」
 自分では仲間の修復作業を見守るしかできない事に気づき、上手い事言ったつもりでがくりと項垂れた。
 ともあれ、ヒールを終えて居酒屋へ戻った一行。
「メニューいっぱいですねえ……」
 と、物珍しそうにきょろきょろ店内を見回すのはエレ。肩に乗ったラズリも初めて見る景色にそわそわしている。
「ねぇねぇ、何食べよっか。サラダと焼き鳥と……あ、ポテトフライ!」
 そんな彼女をリードするのが、旅団『レウィシアの花冠』団員の鶫だ。
「エレさん、本日はお疲れ様でございました」
 祥空も、団長を労う傍ら、女性2人の腹具合を慮った上で、サラダ、お刺身盛り合わせ、だし巻き玉子、鶏の唐揚げを注文している。
「それじゃ、エレちゃんの勝利を祝ってカンパーイ!」
 音頭をとる鶫の手にはビールジョッキ、祥空はスクリュードライバーのグラスを掲げた。
 2人の手元を興味津々に眺めるエレ自身は、烏龍茶で乾杯している。
「ふわー、もう暑いねぇ。お酒飲むと余計に暑いよ」
 ジョッキを空にして尚、お代わりの梅酒に手をつける鶫は、いつの間にか薄着だ。
「ほらほら、いっぱい食べなきゃ」
 鶫に取り皿を唐揚げで山盛りにされて、エレが目を瞬く。ラズリも首を伸ばして匂いを嗅いだ。
「えへへーエレちゃんとも早くお酒飲めるようになると良いなー」
「お酒は、大人になってからのお楽しみですね」
 一方、隣のテーブル。
「ではとりあえず……」
 メニューを開いたビスマスが注文するのは、例の枕詞に反してビールではない。尤も彼女は未成年故ビールを頼まれても困るが。
「アジとイカ、牡蠣のなめろうをお願いします。ところで、さんが焼きやたたっこ揚げってありますか?」
 そう、誰もが予想する通り、当然の如く、なめろうの全種制覇にかかっていた。
「はいっ、私もビスマス様に倣って、イカのなめろうをいただきますっ。あと、串揚げ、ごぼうの唐揚げと鮭雑炊もお願いしますっ」
 ニルスも元気良く仲間に追従する。
「すまない、ブランデーは。……バーではないので無い。ならばチューハイ辺りで手を打つか……」
 鷹兵は、戻ってきた居酒屋店員へ質問してから、分厚いメニューをパラパラと捲って、
「揚げ出し豆腐を貰えるだろうか」
 とりあえずは定番のおつまみに落ち着いたようだ。
「あっ、旨いよなー揚げ出し豆腐。すみません店員さん、揚げ出し豆腐一つ追加で!」
 すかさず航が手を挙げて店員へ声を投げる。未成年の彼は最初の一杯にライムソーダを頼んだ。
「とりあえずビール。んで、卵たっぷりポテサラと骨つきソーセージ盛り合わせ、スズキのお造り……」
 双麻は怒涛の勢いでおつまみを注文。ようやく何憚る事なくビールを飲めるのが嬉しい様子だ。
 皆が注文を終えてすぐ、酒や飲み物、料理が運ばれてきて、テーブルを埋め尽くした。
「燐、皆、今日はお疲れ、折角の機会なので楽しもうか」
 自家製ローストポークの大皿を前に、透明なお猪口を手にした一蕗が、同じ旅団『星籠』の飲み友である燐を労う。
「ああ、皆も本当にお疲れ様! ドラオくんも蓬生さんも、来てくれてありがとう! 篁くんもな!」
 燐はおもむろに仲間を見渡してから、ビールで満ちた大ジョッキを突き上げた。
「それじゃ、ビアサーバーダモクレス無事撃破を祝して、乾杯ッ!!」
「乾杯!!!」
 皆が手にしたジョッキやグラス、杯を掲げる。衣は烏龍茶だ。
 ケルベロスだけではない。店へ戻ってきた一般客もそこここのテーブルで乾杯してくれていた。
「お酒を飲んでる人達、すごく楽しそうなのですね……私も20歳超えたら、ちょっと飲んでみたいかも、ですね」
 烏龍茶を手にもも肉の焼き鳥を食べて、真理が呟く。
「ぷはーっ、この1杯のために生きてるって感じするよね!」
 ジョッキを干した燐が幸せそうに笑えば、一般人の中でも物怖じしない者達が、積極的に絡みにきた。
「サイン? 握手? 喜んで!」
 サービス精神旺盛な燐は彼らの頼みへ全て応えている。
「ケルベロスカード? 仕方ない、差し上げましょう!」
 中には日本酒の徳利片手にお酌する者もいて、燐の酒量はどんどん増えていく。
「いたーだきますっ」
 ニルスはなめろうや牛もつ煮込みをぱくぱく食べている。師団では朝食作りを担う事の多い彼女だが、健啖家ぶりも健在だ。
「卵はやっぱりハードボイルドに限る」
 双麻はポテサラを肴に、今はギムレットを舐めて満足顔だ。
「そこもハードボイルドなんだ……」
 航はライムソーダを飲み飲み仲間へツッコんでいる。揚げ出し豆腐やたこわさびの箸も進んでいた。
「こうして燐と外でも飲む機会が出来たのは何よりだ」
 冷酒を飲み干す一蕗も楽しそうである。同じ頃に入団した2人、互いに酒を酌み交わして仲を深めたいと思っていたらしい。
「僕もですよ蓬生さん! 蓬生さんも篁くんもドラオくんもじゃんじゃん呑んで下さい! 料理の追加要ります?」
「ああ。酒もツマミも美味しく頂いてるよ……本物のオークやビルシャナではないが」
 冗談を言う一蕗が手を伸ばすのは、ローストポークや鶏ささみの湯引き。
「チューハイもなかなか旨いものだな」
 葡萄チューハイを飲みながら揚げ出し豆腐を摘む鷹兵も、変わらず物静かだが満足そうに見える。
「お待たせしました。鰤とイカのさんが焼きと鰹のたたっこ揚げです」
「見てくださいナメビスくん、これも美味しそうですね!」
 何度目かになるなめろう系譜の追加注文を前に、ビスマスが目を輝かせた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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