GWは働くな!明王!

作者:柊暮葉


「GWは休ませろ!」
 ビルシャナが血を吐くような叫びを上げた。
「残業残業、休日出勤、残業残業、休日出勤、そんな毎日はまっぴらだ! GWは日本中が休む事を要求する! GW中に一人でも出勤した奴がいたら死刑!」
 もう言いたい放題のビルシャナに対して拍手喝采するサラリーマン信者達。
「GWは日本中が休め~! 日本中、否、世界中が9連休を取る事を要求する! そして家の中でゴロゴロするんだ!」
 一体どんな社畜な毎日を送ってきたのだろうか。血反吐吐きながら休みを要求するビルシャナと男女10名の信者達であった。

「GWは休ませろ、残業休日出勤禁止という悟りを開いたビルシャナが発生しました。問題を解決してください」
 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始した。
 羽丘・結衣菜(魔法少女やめます・e04954)は働き過ぎは問題だけど??と思った。
「悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が、今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、配下を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、ほうっておくと一般人は配下になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が配下になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば元に戻るので、救出は可能ですが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」

「ビルシャナの能力は?」
 結衣菜が効くと、セリカは頷いて資料を広げてくれた。
 ビルシャナ閃光……敵を退ける、破壊の光を放ちます。
 孔雀炎……孔雀の形の炎を放ち、敵を焼き払います。
 浄罪の鐘……鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させます。
 これらの力で戦うらしい。
「今回のビルシャナは、ニートです」
「は!?」
「いい年のニートだったんですが、働き過ぎの同年齢の男性に引け目を感じ、こじらして、周囲がみんな働かないニートになれば俺がニートだという事が目立たなくなるじゃんかよという発想に……」
「……」
「そして実際、周囲の働きまくっているサラリーマン達にコンプレックスを持っているようですね。だから働く人達を擁護するんですが、自分が働いているかというとそうでもないという……そしてみんな休めば、自分が休んでいる事が正当化されるという……」
 セリカはこめかみを押さえながら首を傾げている。
「そのために第一歩としてGWに日本中、いえ世界中が休めという教えを布教したい模様です。配下達は純粋に疲れた働き過ぎの大人や、ビルシャナに煽られたニートなど様々ですが、現在、都内の大きな廃寺にビルシャナと泊まり込んで布教を行っております。実際にGWが近くなれば何か事件が起こるかもしれません。そうなる前に、信者達には大きなインパクトを与えて正気に返し、ビルシャナは退治してください」

 最後にセリカはこう締めくくった。
「教義を聞いている一般人は、ビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれませんね」


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
ルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
久瀬・了介(二二二九七号・e22297)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
エレオノーラ・ペトリーシェヴァ(ロシアンサムライガール・e36646)

■リプレイ


 ケルベロス達は現場の廃寺に到着した。
 すると、本堂の方からはビルシャナ達の雄叫びが聞こえて来た。
「GWは全世界が、全日休めーッ、全員休めーッ!!」
「働き過ぎ反対!」
 元はニートのビルシャナがこじらして滅茶苦茶な事を喚いている。
「えーっと、わりかしどうでもいいって言うか何ていうか。サクッとビルシャナ刺して終わりになればそれが一番楽なんだけどなぁ」
 クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)は面倒そうに言った。
「ニートをこじらせて、全員無職にしようとするビルシャナですか…。…ニートじゃなくて自宅警備隊でしたっけ、まぁどっちでもいいです」
 ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)も投げやりな様子である。
「まあ、GWに休みたいと思うのは別に良いんだが、それが自己肯定の為というのはなぁ……周りに強要するものでもないだろう。休みたくないのに休まなければならないというのも、なかなかの苦痛ではないかな?」
 ゼルガディス・グレイヴォード(白馬師団平団員・e02880)はそう言った。理由があって働きたい人間だっているだろう。
「働きたくても働けない人は確かにいます。しかし、働いている人を妨害して良い理由にはなりません。下から足を引っ張るのではなく、自ら足場に登らなくてはいけませんね」
 卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)もそう言って頷いている。
「ああ。信者を説得するのはいいが―― 別に、働かなくても構わんのだろう?」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)は本業自宅警備員として、色々考えているらしい。
「休日出勤が嫌なのは分かるけど働いてない人間が言えることじゃないよね…あれ鳥だけど」
 エレオノーラ・ペトリーシェヴァ(ロシアンサムライガール・e36646)は呆れているようである。
 そこで面倒がっていても仕方ないので、ケルベロス達は、ルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)、久瀬・了介(二二二九七号・e22297)達も伴い、全員で本堂の方へと移動した。
 本堂ではビルシャナが今正に、口からツバを飛ばしながら休め休めと喚いている。
「残業禁止! 休日出勤禁止! GWは全世界が休む休日なるのだ!!」
 それに対して、働き過ぎの会社員や煽られたニートが拍手喝采して何か叫んでいた。
 その場にエレオノーラは引き戸を思い切り開けて乱入していった。
 ズバーン!
 びっくりして振り返るビルシャナ達。
「私達はケルベロスです。あなた達を説得しに来ました」
 テキパキと先に進むエレオノーラ。
「な、なんだと? 邪魔をするなッ!」
 慌てふためく鳥は無視して、エレオノーラは働き過ぎらしき眼鏡のリーマン男性に向き直った。
「休日出勤や残業、お疲れ様です。私も父が休みの日に仕事に行くのは嫌でした。けど、そのお陰で私はちゃんとした服を着れたり、美味しいご飯が食べれるんですよね。皆さんの頑張りも、きっと誰かの為になってるはずなんです。働きすぎは良くないですけど、全否定するのは早計ではないでしょうか」
 それから今度はだらしない体型の男性に向き直った。
「:日本には「働かざるもの食うべからず」と言う言葉があります。働かない奴は死ねって事ですね。こんな所で油を売らないで働く為の努力をするか、今ここで首を刎ねられるか、選んでください」
 サムライガールに真顔で言われた推定ニート男性は真っ青になって絶句。かわりにビルシャナが喚き出す。
「休日出勤の辛さがお前に分かるのかァア! GWぐらい休めばいいじゃん!」
「鳥も休日出勤の辛さが分かっている訳じゃないでしょう?」
 しかしビルシャナは自分の事は棚に上げて休め休めとキーキーうるさい。一方、脅されたニート男性の方には効いたようで、叫ぶのをやめて大人しくなった。
「本当だよな! GWは働くな!! …じゃなかった!!!」
 ルヴィルは一瞬、ビルシャナに乗ってからツッコんだ。そして説得開始。
「みんな働いて何を得ているんだろう。対価としてそう、お金だ! お金をもらってるんじゃないだろうか! あとは退屈な日々にちょっとした仕事というエッセンスが加わることで退屈な日常でなくなるようないや忙しくてもう仕事とか…いやいや、そう、お金だ! お金があれば高級酒だって買えちゃうぞ。仕事終わりの一杯はうまいぞ~~! GWだからって休んでちゃ収入がなくなっちゃうだろう! 働こうぜ!」
 作り笑顔でガッツポーズを決めるルヴィル。
「お前、本気で言ってないだろう」
 しかしビルシャナはジト目でそう答えた。
「本当はGWは全日休みたいな~~とか、働くの嫌だな~~とか思ってないか? 日本人は働き過ぎなんだよ!!」
「な、なんのことだ?」
「大体金より大切な事があるだろーが! それに今のご時世サビ残サビ救出は当たり前で、働いたって金が入ってくるとは限らないだろう!!」
 ビルシャナはまたヒートアップして喚き出す。
「そ、そうだ。家のローンはどうしよう……」
 しかし、リーマン男性の方は、そう呟いて青くなっていた。
「7月4日は祝日でないのに休みますか? 7月14日は?3月14日と7月22日は?」
 そこでミリアが話題を切り替えた。
「へ?」
「日本では、これらは平日…ですが、アメリカの独立記念日とフランスの革命記念日、円周率の日です。日本に限定しても、5月9日(富山)や4月18日(三重)も休む地域がありますが…これらを全て休むんですか?違う県の県民の日で休むんですか? まぁ、日本の祝日を海外に押し付けるなら県民の日の網羅は当然として、海外の祝祭日も把握してますよね?」
「と、当然だッ」
「では9月28日も把握してますよね?」
「え……あー……」
 ビルシャナは一瞬、目を泳がせていたが、突如叫んだ。
「休めッ、その日は全部休めッ! 休むのはいいことだッ!!」
「…………」
「や~~す~~め~~や~~す~~め~~独立記念日も革命記念日も、日本の休日とせよ!! そしてみんなして休めーッ!」
 流石元ニート。休む事に関しては潔い。
「働きたくない気持ちはすごくわかる。それにGWだし、素直に休んでもいいんじゃないかな……うん、休もう。そして長期的に休む計画を一緒に立てたいと思うのですが、まずこの廃寺じゃなくてちゃんとしたところでぐーたらしたいと思うし、美味しいものもいっぱい食べたいよね!」
 そこで右院が休みたい気持ちに同調し始めた。
「だからちょっとずつみんなで出資していいところ行くといいと思うんだ。ということでお金持ってる人は是非……」
 チラッチラッと周囲を見る右院。
「どうせそこの鳥っぽい人もそう思ってたんでしょ?」
「その通りだとも!!」
 羽毛を喜びで逆立てて同意するビルシャナであった。
「さあ、みんなで金持ちよって、近所の店に繰り出すぞ! そして長期休暇の予定を立てるのだ! 休め休め休めっ!」
 そういう訳で右院とビルシャナは握手して、怠惰な世界に旅立とうとした。
「ちょっと待ちなさい」
「待て待て待て」
 それを慌ててクロノとゼルガディスが止める。
「休日ごろごろしててさー。小腹がすいた時にコンビニとか行くじゃん。でもGWだからって全てのコンビニが閉まっててみーな。絶望しかないじゃんほんと。そんな身近な事でも既にしんどいのにさ、これ、犯罪者出たらどうすんの。急病人は? 火事発生したら誰が火を消しに来るのよ」
「…………」
 ビルシャナと右院は凄く面白い表情で固まってしまった。
「少し考えたらわかる事をさー、何で考えられない訳? ドリーマーなの? オタク。まぁGWにどうしても働くなって言うならさ。まずはGW中この世の全てのビルシャナの布教活動辞めさせて見せてよ」
「えーっと……」
 ビルシャナはまた何か言いかけて、何だか凄く面白いポーズで固まった。右院の方は明後日の方を見て笑っている。
「ふむ……GWに世界中の誰も働かないとなると……テレビ番組を流す者がいなくなる。遊ぶ為の施設の人間が休んでいるので施設が使えなくなる。運転手が休んでいるので公共交通機関が使えなくなる。お店が休んでいるので物が買えなくなる。技術者が休んでいるので、電力供給等ができなくなる。……といった様々な弊害が起きるだろうな。やはり休みを謳歌するならば、働いて支えてくれる人がいると大変助かると思う」
「そんなこと気にしていたら誰も休まなくなるじゃないかー!」
 ビルシャナが喚いた。
「だから、世の中には、平日休みの職業や、シフトというものがあるのだと思う」
 ゼルガディス、至極まっとうな切り返し。
「では、実際に休んでみましょう」
 紫御が次の例を挙げていく。
「もちろん、PCはおろかスマホも使うことはできません。電気が生み出されていませんし、通信を処理する施設もお休みです。大変です。警察もお休みなので、貴方達の家に強盗が来るかもしれません。警備会社も休業中でしょう」
 それから紫御はビルシャナを見た。
「デウスエクスが襲ってきました! もちろん、ケルベロスはのんびりGWを満喫しています。どうしましょう?」
 その場合はビルシャナ何をやっても放置決定。
「大変でしたね……。お休みを満喫できましたか? ……貴方達の生活は多くの人達に支えられているのです」
 ビルシャナは騒いでも騒いでも放置される自分を想像しているのか、曖昧な笑顔である。
 続いて了介が畳みかけた。
「ライフラインの維持をしている方々まで休んだら、社会が大混乱して休んでいる場合じゃなくなるぞ。外に出ても交通機関も商業施設も動いていない。家で転がっているしかなかろう。電気や水が来るかは分からんがな」
「転がってろ! 働いたら殺すぞ!」
 ビルシャナが必死に叫ぶ。
「働いたら死刑? あいにく取り締まる警察も休暇中だ。犯罪者達が稼ぎ時と張り切るだろうさ。戸締まりには気をつけろ」
 了介は続けた。
「無茶な要求だと子供でも分かる。何故そんな簡単な事に思い至らなかったのか分かるか? ……見えていないんだよ。休日でも必死に働いてお前達を支えてくれている人達の事が。水も電気も安全も、当たり前にあるものだと思い込んでいるから全員休めなどという寝言が出る。そんな傲慢で幼稚な認識で社会を語るな!」
 そこで働き過ぎの会社員達は次々と立ち上がり始めた。
「そうだった……働こう。俺は自分の事しか見えていなかったらしい……」
「私が働く事で世の中回っているんだわ」
 一方、煽られていたニート達は、エレオノーラの顔色をうかがって全く微動だにせず。恐らく戦意はないだろう。
「待てーッ! お前ら、働くなッ! お前らが働いたら……俺が無職な事が目立つだろーがーッ!!」
 喚くビルシャナをケルベロス達が取り囲む。
「鳥、あなたをとっとと倒して、GWの平和を守ります」
 エレオノーラが日本刀を構える。
「やりたくなくても働くのが大人なんだぜ?」
 ルヴィルも妖精弓を手に取った。
「ぐううっ」
 ビルシャナは顔を真っ赤にして呻きながらケルベロスを睨み付ける。そして戦闘態勢を取った。


 紫御が前衛へと次々に分身の術を張り巡らせていく。
 右院はまずはスターゲイザーでビルシャナに蹴りを入れた。
 エレオノーラが月光斬でビルシャナを捕縛。
 そこにクロノがフォートレスキャノンでビルシャナを狙撃する。
 ルヴィルはホーミングアローを撃ち放つ。
 ゼルガディスが雷撃を纏いながら突進。
 了介はブレイズクラッシュで地獄の炎を叩きつける。
『患者さんの苦しみを、貴方も味わいなさい……』
 そしてミリアが病魔の弾丸で過去に捕らえたデウスエクスの力でビルシャナを撃ち抜いた。

「ふざけるなよーッ!!」
 ビルシャナが暴れ出す。
 まずはビルシャナ閃光で前衛を吹っ飛ばすと、次に孔雀炎で紫御やエレオノーラ達を狙い始めた。次々に加えられる大ダメージ。ああ働いたら負けというニートの怨念凄まじき。
 ルヴィルのテレビウム櫛々が慌てて応援動画を回して主人の仲間を回復し始める。

『光よ、来い』
 櫛々の回復を受けたルヴィルは夕暮れを詠唱して、手近な仲間達を光の力で回復し始めた。
 ミリアがメディカルレインを使う。
『見た目は怖いかもしれませんが……痛みも無く、効果は抜群ですよ?』
 憑依活性気穴術により、紫御もクロノ達前衛を回復。
『被害確認。状況を立て直す』
 ダメージコントロールで了介は適切な戦術行動を取った。ケルベロス達は体勢を立て直した。
 エレオノーラがグラビティブレイクで突っ込んで行く。
『仇なす敵を喰らい尽くせ!』
 右院が叫ぶ。天狼爪牙連撃に刀のオーラに五体の幻影の狼を纏わせて、敵に連撃を浴びせかけた。
『撃!』
 ゼルガディスは雷爪刃により、電撃を纏った爪の刃を抜き放つ。
『あんたもう逃げられないわよ?…最後まで付き合ってよね。』
 クロノは斬り抉る雷神の鎖。拳の上に雷を発生させ、ビルシャナに叩きつけた。ビルシャナの体内を雷撃が迸り縛り上げ、ついにトドメを刺したのだった。


 戦闘後に、ケルベロス達は壊した廃寺にヒールをした。
「帰ったら、父さんと母さんにいつもありがとうって伝えようかな」
 エレオノーラは、感謝のこもった声で呟いた。
「それがいいね」
 クロノが微笑み、仲間のケルベロス達がうなずき合った。
 休みは大事、労働も大事。そのバランスをどうやって取っていくかが課題なのだろう。何はともあれ、どんなときも働く人達に感謝である。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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