●だって楽しくない
「――そうだろう!? 場所取りに駆り出され、歌えない歌を歌わされ、笑いたくもないのに口角だけ上げて! それなのに飲めない酒を飲まされ、へべれけになった上司先輩の介護を終えた、その帰り道! 道端で嘔吐する姿を頭に桜の咲いたカップルに蔑まれて! 一人咽び泣く! そして思うんだ! ……桜見て騒いで何が楽しいんじゃボケオラァ!」
「おっしゃるとおりです! 先生!」
「花見なんて滅びろ! 桜燃えろ! 枯れろ! もげろ!」
「もげ! もげ!」
夜の公園に木霊する、日陰者たちの叫び。
教祖たるビルシャナを中央において、七人の冴えない男女が手を叩く。
その度に桜が散って吹雪く。
虚しい。
ただただ虚しい光景だが、止めなければいずれ、不幸を呼ぶ。
……既に不幸であるとは言うまい。
●それじゃあ、お花見をしよう
「お弁当は持ったから。れっつごー」
「待ちなさいな」
ヘリオンに乗り込もうとするフィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)を、ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)が羽交い締めにした。
「ちゃんと聞いてたかしら。頼んだのはビルシャナ退治でお花見じゃないんだけれど」
「あいたた、わかってる、わかってるって。ボクはわかってるから皆に説明してあげて」
腕を叩いて観念した娘を解放し、ミィルはケルベロスたちへ向き直る。
「……こほん。『お花見なんて風習は滅ぶべき』だというビルシャナが、賛同する信者の配下化を進めているわ」
このまま放っておけば完全な配下となり、襲撃事件などを起こしかねない。
ビルシャナの言葉を覆すようなインパクトのある主張で配下に堕ちるのを防ぎ、ビルシャナ自身も即刻、撃破すべきだろう。
「現場は夜の公園。敵はビルシャナ一体で、信者は七人。周囲にひと気はないけれど、一応、誰かが近寄らないようにと公的機関への通達はお願いしてあるわ」
ビルシャナ対策に集中出来る環境、というわけだ。
「でも、いきなり殴りかかったら信者の皆さんとも戦いになっちゃうわよね。だから戦う前に、彼らの目を覚まさせてほしいのだけれど」
さて、花見などなくなるべきだと語る彼らをどうにかするためには……。
「やっぱり、楽しくお花見してみせるのが一番だと思うんだよ」
フィオナは至極当然といった様子で、ケルベロスたちに語る。
「目の前で楽しそうにしてあげたら、あれもしかしてお花見っていいものじゃない? やっぱりやってみたくない? とか、そう思うよ。きっと」
あるいはそうでなくとも、側でどんちゃん騒がれたらビルシャナどころでなくなるかもしれない。言葉でまともに「お花見っていいよ!」なんて語りかけたところで、どうせ聞く耳などもたないのだろうから。
「ちょうどいいことにひと気もないし。そろそろシーズンも終わりの夜桜を占拠してぱーっと楽しくやろうよ」
「……まぁ、信者の皆さんを目覚めさせるためなら、何をしても構わないから。そのあたりは皆で話し合って、上手い具合にやってちょうだい」
羽目をはずしすぎないようにねと、ミィルは釘を刺した。
参加者 | |
---|---|
アイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148) |
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931) |
白銀・ミリア(ネームドスレイヤー・e11509) |
幽川・彗星(剣禅一如・e13276) |
ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673) |
黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710) |
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716) |
櫻木・乙女(廻る春に舞う花・e27488) |
●お花見に来ました
「いやー、綺麗ですねぇ……」
幽川・彗星(剣禅一如・e13276)が大荷物を抱えたまま、しみじみと呟く。
見上げる先には何処までも広がっていくような淡紅色。今を盛りと咲く桜たち。
真っ黒な夜空を背にした花弁は、街灯の人工的な光を受けて一層輝いているように思える。
この国の春を代表すると言っても過言でない光景だろう。今日はこれを専有して構わないというのだから、なかなか贅沢かもしれない。
「早速、始めましょうか」
「そうだね。あ、手伝うよ」
彗星の広げたブルーシートの端を、フィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)が引っ張って整える。
その上に並んでいくのは、唐揚げ・エビフライ・ハンバーグなどが詰められたお重と、人数分のお弁当。
「春の一時期しかできないイベントなんで、今日はしっかり作ってきましたよ。フィオナさんのと合わせて、どうぞ食べてくださいね」
「わーい!」
知能指数が低そうな声を漏らした櫻木・乙女(廻る春に舞う花・e27488)が、いの一番に腰を下ろして喜びを露わにした。
「ちょっと大人な味にはお漬物、 菜の花のからし和え……お味噌汁もありますよー。20歳以上には缶ビールもあります」
「お酒か……折角だから一杯やろうか」
カシス・フィオライト(龍の息吹・e21716)は微笑み、彗星から冷えた缶を受け取る。
飲めるのはカシスと彗星、二人だけだ。残りは全員ソフトドリンクで、いざ乾杯。
――と、そう簡単にはいかないのが、ケルベロスの宿命。
「おい貴様ら! いったい何をやっている!!」
少しばかり離れたところから奇声もとい気勢を上げ、ビルシャナと信者たちが猛然と駆けてきた。花見にまつわる不平不満、怨言の数々を漏らす彼らを退けなければ風情もへったくれもない。
「何って、花見だよ。花見は日本の伝統的な風習じゃないか」
手始めにカシスが、丁寧な語り口で説得を試みる。
「ほら、綺麗な桜を見ていると心が和むと思わないか?」
「思わん! いいから失せろ!!」
「そうだそうだ!」
「……たとえば花見の為に、こうやって色々と料理を用意してみるのも――」
「うるせーもげろ!」
取り付く島もなく、ついには拳ほどの石が飛んできた。
喋りながらも油断なく構えていたカシスは缶の底で打ち払ったが、説教に聞く耳を持たないのは火を見るより明らか。
やはりここは、言葉とは違った手段を用いるしかないようだ。
●歌って踊って戦って
「というわけで、海賊船長! 歌います! お花見といえばカラオケだー!!」
仕切り直して一番手は、黒須・レイン(小さな海賊船長・e15710)。
自前のマイク片手に立ち上がり、桜舞い散る中で歌うはもちろん――。
「うーみは広いなー! でっかいなー!」
童謡風の歌であった。わーい。たのしー。
「出やがったな! 桜の下で歌うマン! いやウーマン! いやキッズ!」
「頼んでもねぇのに歌なんか歌いやがって!」
「自分の歌声に酔っちゃうーってやかましいわボケ!」
此処ぞとばかりに鬼瓦みたいな顔を向ける信者たち。
しかし。
「てめぇの歌なんか聞きたか、聞きた、聞きたくなんか……」
「くそぉっ、幼子を怒鳴り散らすのは流石の俺でも気が引ける! ぶふぉっ」
次第に表情をほぐし、ついには一人が良心の呵責からか胸を押さえて倒れ込んだ。
「なーみは高いしー! 船しーずーむ! ……って誰が幼子だ! 私は船長だぞ!!」
「すごーい! せんちょーはうたうのがじょうずなフレンズなんだね!」
憤慨するレイン(16歳・127.6cm)に、乙女(18歳・159.8cm)が、やっぱり知能指数の低そうな褒め言葉を投げる。
「いや、まぁ、うん。それほどでもあるな! もっと聞かせてやろう!」
かいぞくせんちょー様も悪い気はしなかったか、リサイタルは程なく再開された。
「んんっ、あーあー……わたしはせんちょー! 船員をー! さがしてーるー!!」
のっけから止めどころが分からない。
止められないなら乗るしかないこのビッグウェーブに。
「えっと……じゃ、俺ブルースハープ演奏しまーす……」
おずおずと小さな楽器を取り出したジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)が、歌声に添える形で演奏を始める。
高らかにテンポよく。寂しさや悲しみと無縁の明るめな曲を吹きながら相棒のウイングキャット・ペコラに視線を送れば、クールな長毛猫も渋い顔を見せつつぴょんぴょんと跳ねて踊った。
自由気まま。秩序とは正反対の光景。
それが何か、思い出したくないものを呼んだらしい。
「うがあー! これだから、これだからお花見キッズは!」
「見てるだけでイライラするのよぉ!」
「ガキなんて連れてくんなよ! てめぇの面倒も見きれねぇくせによぉぉ!」
信者たちが悲鳴を漏らす。
そんなに嫌なら、そもそも花見に行かなきゃいーのに。ジルカは思いつつも、そうはいかないのがオトナってやつなんだろうと、彼らの苦悩を慮った。
だからといって演奏はやめないけれど。
「……あああ、あたしもなんだかうずうずしてきた!」
悶える信者はさておき。
地団駄を踏み出したのは、何故か鶏の着ぐるみへと収まっている白銀・ミリア(ネームドスレイヤー・e11509)。
「ミリアも踊るのだ! 気兼ねなど無用だ! 己をかいほーするのだ!」
「よーし! 一番、じゃないけど一番! 白銀ミリア! 踊ります!」
レインにも促されて前に出れば、ミリアが繰り出したのは無駄に洗練された無駄のない無駄なダンス。
「ミリアちゃんかっこいー!」
傍らでテレビウムのカーネルと怪しげな玉をコロコロしつつ、アイリス・フィリス(ガーディアンシールド・e02148)が歓声を上げた。
童謡にブルースハープとキレキレダンス。
「もう桜関係ないなー!! ヒーロー見参、トウッ!!」
料理を貪っていた風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)が真っ黒獣人態に変身して飛び込むことで、いよいよ混沌は深まり、ビルシャナたちは口を挟むことすら許されなくなってくる。
「おーっと! あれは……ウェアライダールーヴ!」
「ルーヴ?」
事情が分からず首を傾げたフィオナに、歌手から司会のおねえさんへ転向したレインが熱く語る。
「ウェアライダールーヴ! それは流行や恋に敏感で元気が取り柄のシンリンオオカミウェアライダー風鈴・響が憧れのヒーローを目指すため素性を隠す時のっ! いわばヒーローネーム!!」
「カンペ丸読みしたみたいな説明、ありがとなレイン!」
やけくそじみたサムズアップを返しつつ、響改めウェアライダールーヴは鶏怪人ミリアと睨み合った。
「貴様の命運も此処までだ! 三枚におろしてカラッと揚げてやろう! そこの唐揚げみたいにな!」
「言ってくれるじゃねーか!! 鶏さんなめんじゃねーぞ!」
唐揚げをもぐもぐしながら挑発に答えたミリアが先手を取って、股下短い着ぐるみにもかかわらずキック!
それを片手で受けたウェアライダールーヴも、負けじとハンバーグを飲み込みつつ脚をしならせてキック!
「いやぁ、激しいですねぇ」
「怪我しなければいいな」
のほほんと呟き、格闘の応酬と料理の減りを交互に眺める彗星とカシスが味噌汁を啜る。
「はぁ……ふぅ……ほんと、皆すごいなぁ」
休みなく演奏を続けていたジルカは体力が切れたか、シートの上に座り込み、ペコラを労いつつ喉を潤す。
その間にもヒーローショーの皮を被った異種族無差別級格闘戦はエスカレート。
「墜ちやがれぇええ!!!」
「ぐはっ!!」
ミリアから本能任せの滅多打ちを受け、ウェアライダールーヴの身体が桜の幹にぶち当たった。
「おーっとまずいぞ! このままではルーヴが負けてしまう!」
レインがマイクを握る手に力を込め、前のめりになって声を張る。
「いまこそ、みんなの力が必要だー! ルーヴを応援しよう! がんばってー!」
「がんばってー! 大丈夫! ルーヴなら勝てるよー!」
真っ先に反応して叫ぶ乙女。
「頑張ってくださーい! ……あぁでも、ミリアちゃんも頑張ってー!」
迷いと興奮からか尻尾を現して振り、アイリスは双方に呼びかける。
そうしてケルベロスたちから一定の反応が示されたことに満足してか、レインの矛先は呆けた信者たちに。
「さぁお前たちも!」
「えっ」
「がんばってって! ルーヴがんばってーって!!」
「が、がんばってー……」
「声が小さいー!」
「が、がんばれー! 負けるなー!」
「いーぞ、いーぞー。ほら、そこのヒトも混じって」
ジルカにも言われ、すっかり雰囲気に呑まれた信者たちは口々に激励を行った。
「がんばえー! ルーヴがんばえー!!」
「うおおおおお! 皆の声援で力が漲ってきた!」
別にそんなこともないけれどそういう体で。
ルーヴの身体は高く飛び上がり、桜色の中に黒い影を浮かばせる。
「私の重さ受けてみろ! トゥッ!! ライダーキック!!」
「うあぁっ!! や、やられたぜ……ばたり」
鳩尾辺りに強烈な蹴りを受け、鶏怪人はくるくると回りながらブルーシートの上に転がり込んだ。
「決まったー! ウェアライダールーヴ必殺のグラビティ・ライダーキックが、鶏怪人をやっつけてくれたぞー!」
「すっごいジャンプ力ぅ……だったねー」
乙女が言って拍手を送れば、信者も含めてぱちぱちとまばらに音が鳴る。
こうしてヒーローショーは終わり、穏やかな花見の時間が――。
「お前たち、しっかりと気を持て! お花見キッズの暴挙を許すな!」
来るはずもなく、未だ健在のビルシャナが根性のある信者三人ほどを従えて息巻く。
「むむ、しぶといですね」
これだからヘンテコビルシャナは面倒だ。
アイリスは一芸を披露して疲労した仲間を見回し、ついに来たか……と重い腰を上げた。
「一番! あ、一番じゃないですね、まぁいいや。アイリス・フィリス! 一発芸やります!」
「いえーい!!」
アクセル踏みっぱなしの乙女が気張って盛り上げ役を務めつつ、アイリスが突然生み出したのは氷の砲台二つ。
「さぁカーネル、これをしっかりと持って」
転がしていた玉をテレビウムに抱えさせれば、準備万端。
(「あとはカーネルを……砲台に入れるだけ!!」)
そうすれば桜の天幕を突き破り、綺麗な花火が開く。
視覚にも聴覚にも刺激十分。きっと信者たちも正気に戻ってくれるはずだ。
「いくよカネール! ……カーネル? ちょっと、カーネル、なにするの!?」
どっこい。テレビウムは数度画面を明滅させたかと思うと、じたばた暴れだした。
「落ち着いてカーネル! 大丈夫だから! 一回だけだから!」
力づくでなんとかしようとするアイリス。
対してカーネルは、何かを訴えるようにまた画面を光らせる。
「……え? サーヴァントはマスターと一蓮托生? って、きゃあ!」
その一瞬。柴犬ほどの大きさしかないはずのテレビウムは流れるような体捌きで主人を抱え上げると、反対の砲台に頭から押し込んだ。
しかしカーネル自身も、かなり無理くりな事をした反動で結局砲台に収まる。
勝敗付かず。一人と一匹は仲良く天を眺めて、己の命運を悟る。
(「レインちゃんミリアちゃん、強く生きるのよ……」)
ほろり。
「おねーちゃーん!!」
レインの叫びが木霊するなか、打ち上がった一人一匹は夜空に季節外れの大菊を咲かせた。
さらばアイリス・フィリス。
ありがとうアイリス・フィリス。
七色の光に紛れて見える笑顔は、きっと幻ではあるまい。
あなたのことは忘れない。いつかまた会える日まで。
さようなら。
●まだ続くよ
「……いっそ今度から、こういうカンジでどう?」
余韻を裂いて、ジルカが信者たちに尋ねた。
「どうって、えっと」
「まぁそうなるよね。うん」
聞いておいてなんだが、答えに窮する事態であることは明白。
「だってカラオケや楽器演奏はともかく、ヒーローショーや打ち上げ花火なんて見せられたこともないですし……」
「衝撃すぎてもう……」
信者たちはすっかり大人しくなり、ビルシャナに絆された脳みそを急激に冷やしていた。
今なら何か、言い聞かせることも出来そうだ。
「人から命令されての花見は本当の花見ではありません。花見とは、自分がそうしたいからするものです」
のんべんだらりと様子を見守っていた彗星が語りかける。
花見嫌いに対して「したいからするもの」だなんて、すごい良いこと言ってる雰囲気なだけで別段説得力はないはずだが、どったんばったんの大騒ぎで動揺している信者たちは妙な関心を抱いて唸った。
「それじゃあ皆も、一緒に花見とかどうかな?」
改めてカシスが促すと、一人また一人と信者たちはビルシャナから離れ、ブルーシートに乗ってくる。
「ここらへんのものは勝手につまんでも怒らないので、ご自由に?」
「お茶もあるよ、はい、お疲れ様」
「はぁ……じゃあ……」
彗星から箸を、ジルカからは紙コップを受け取り、信者は細々とお重を突き始めた。
「綺麗な花に囲まれての食事と言うものは、また一段と違った美味しさに感じて良いものだぞ」
彗星に負けじと、カシスが良いこと言ってる感を滲ませる。
「な? お花見ってそこまで悪いもんじゃないだろ?」
義姉の安否は余所にレインが問えば、信者たちはなんとも複雑な表情を見せた。
「確かに、お花見が悪いのではないのかもしれませんね」
「悪いのはやりたい放題する上司とかで……」
「……ぶっちゃけ、君たちの職場とかってブラック企業ってやつだよね?」
ジルカが直球を投げ込むと、信者は一旦言葉をつまらせ、さらに呟く。
「でもそれすらも皆さんを見てるとまぁ……別に大したことはないのかなぁって」
「そうしてお前たちはまた! お花見地獄に付き合うつもりなのか!」
一人きりになったビルシャナが喚いた。
「……ねぇ。トリさんみたいなの、KYって言われるんでしょ? 知ってる」
ジルカの冷たい視線が突き刺さる。
先程までは熱烈な信者だった七人の人々も、今や教祖をビルシャナと知って慄くばかり。
「ぐぬぬ……かくなる上は実力行使だ! 貴様らを花見と一緒に滅ぼしてくれる!」
言葉で駄目なら身体で示せ。
ビルシャナは肉体言語での布教を試み――。
「はいはい邪魔邪魔。雑魚鳥はとっとと死んどけェッ!」
何をする間もなく、キレちゃった彗星から激しい剣戟を受けた。
「……後続どうぞっ!」
「さぁ、断罪の時間だよ。無数の刃の嵐を受けよ!」
間髪入れずに光の剣を創り出し、カシスが幾度も敵を斬り刻む。
更にはキックやらパンチやらビームやら海賊船長の信念やらをぶつけられ。
「あいたー!」
「あ、おねえちゃん」
空の彼方で主従関係を逆転させたか、カーネルの凶器と化したアイリスがビルシャナと頭をごっつんこ。
それによって蘇るトラウマ。
「――あああああ! いやぁ! もう飲めません! 飲めませんってばぁ!!」
「そんなに叫んで……辛かったんだね」
ジルカは哀れみを向けつつ幻影の大鎌携え、子供らしからぬ冷たさで言い放つ。
「知ってる? お花見って、ツマミにヤキトリすっごく合うんだって」
「っ……えっ、ちょ、ま――」
「それじゃあ逝ってらっしゃい、焼鳥さん☆」
挟み込むように立った乙女が大鎌の一撃を待って、地獄の底から引きずり出した瘴気の赤黒い大鋏を――ばちん。
哀れビルシャナの身体は、真っ二つに両断されてしまった。
「桜と野望は、儚いモノ、だから。しかたないね」
あっけなく死んだビルシャナの名残を見下ろし、ジルカがぽつりと囁く。
●収まりきらない二次会
「お花見タイム本番だ! 彗星! 料理食わせろおらー!」
「はいはい。こぼさないでくださいね」
ビルシャナを退け、信者たちも去った公園でケルベロスは花見の続きを楽しむ。
「みーりあっ! 花見用に持ってきたから一緒に飲もー!」
「うひゃぁ!」
レインから冷えた缶ジュースを頬に当てられ、弁当を抱えたまま飛び上がるミリア。
「騒がしいことばっかりで、花だって楽じゃないね。へへ」
ペコラと一緒に桜を見上げつつ、ジルカは微笑む。
「む、この料理もなかなか美味しいな。……お酒と、それから夜桜に合う」
賑やかな仲間と桜を愛でながらカシスは晩酌を楽しみ。
「え、ちょっと、カーネルもうそれは終わっきゃー!!」
「おねーちゃーん!!」
「アイリスは立派なヒーローだった! ありがとうアイリス!」
再び空に舞い上がったアイリスに、響が敬礼を送る。
「……賑やかですね、母さま」
そんな喧騒から少し離れて、乙女は桜を眺めながら片手を頭に添えた。
オラトリオの証である髪花。乙女のそれは、咲き誇る淡紅色と同じ。
亡き母と同じ、ソメイヨシノ。
「母さま……私、強くなったよ」
満開の桜に母の姿を重ねて、胸の前で小さく手を握る乙女。
……けれど寂寥感に浸ってばかりでは、あっという間に桜の季節も終わってしまう。
「おーい!」
「あっ、はーい、今いきまーす!」
彼方に投げた言葉を証明するため、乙女は仲間のもとへと戻っていくのだった。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 6/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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