ミッション破壊作戦～邪なる炎を掃え！

■リプレイ

●ミッション１３－２「福岡県福岡市」
　九州北部に位置する福岡県の県庁所在地、福岡市――市内の不良グループ制圧に、シャイターンのモヒ一族が乗り出してきて４ヶ月が過ぎた。
（「何と言うか、分かり易い敵で結構。倒すのに躊躇する必要がなさそうでやり易いよ」）
　冷ややかにヘリオンの窓の外を眺めるロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）に、ビハインドのイリスが静かに寄り添う。
（「ふん。モヒカンなんてパンクな恰好らしいが、やってる事は出世の為じゃねぇか。ダサいぜ」）
　息巻く木霊・ウタ（地獄が歌うは希望・e02879）は、荒っぽく鼻を鳴らす。
（「奴等の詰まんねぇ理由で、エインヘリアルを増やしてやって堪るかよ」）
　１人１人の魂には、夢や希望が沢山詰まっているのだ。絶対に護ってみせる。命を弄ぶ者に、ケルベロスが負ける訳がない！
「強い魂は、手入れの行き届いた装備にこそ宿る」
　一方、シヴィル・カジャス（太陽の騎士・e00374）は、シャイターン切丸とシャイターンキラー磨きに余念が無い。日本刀とエアシューズ、何れも今日の作戦の為に特注した。
「……いや、強い魂があるからこそ、装備の整備や作戦に万全を期すのかもしれない」
　誇らかに持論を説くシヴィル。他のミッション地域には、シヴィルの知るシャイターンもいる。ミッション破壊に臨む意気も人１倍強かろう。
「よし！　今日も元気にがんばろー！」
　意気盛んな仲間を頼もしげに見やり、長谷川・わかな（笑顔花まる元気っ子・e31807）は快活にエイエイオー！
「うわっととっ！？」
　両手で鉄鍋を掲げたタイミングで、ヘリオンが方向転換。体勢を崩したわかなを、咄嗟に鞍馬・橘花（超火力愛好家な鎧装騎兵・e34066）が支える。
「そろそろ、福岡市上空のようですね。皆さん、用意は良いですか？」
　黒タイツのような夜間迷彩型軽装甲に身を包み、自作のアームドフォートにバスターライフル二丁と、如何にもスナイパーらしい様相の橘花。銃剣めいて、ライフルにグラディウスを仕込んでいる。
「何があろうと、出来る事をこなすだけです」
　北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）も準備万端。ライドキャリバーのこがらす丸と一体化した姿は、彼曰く「決戦形態」。師匠の教えを胸に魔空回廊を蹴り砕かんと、脚部にグラディウスを装着している。
「まあ、ここの回廊は今回で破壊するつもりだけどね」
「シャイターン、許すまじ！　です」
　不敵に笑むロベリアの言葉に否やはない。今日はファミリアロッドを両手に握るウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）にしても、妖精種族の裏切り者と嫌うシャイターンに容赦はない。表情は沈着ながら、紅の双眸を剣呑に眇めている。
「魔空回廊切除手術といこうかァ！」
　果たして、ヘリオンのハッチが開けば、１番に身を乗り出したのはククロイ・ファー（鋼を穿つ牙・e06955）。
「テメエらシャイターンは、本当に俺をイラつかせやがるッ！！」
　連中にはヴァルキュリアの件から憤りが止まらない。その上、最初の作戦で傷付けた三重県渡鹿野島の魔空回廊は、ククロイの与り知らぬ所で破壊された。
「だから！　ここで！　絶対！　ぶっ潰すッ！！！」

●邪なる炎を掃え！
（「前回戦った奴らが託した想い、俺達の熱い魂の叫び。全てを込めて、人々の安息を取り戻すッ！！」）
「さァ破壊だ破壊だ破壊だ破壊イィッ！！　悉く細かく粉々にッ！　砕けろ壊れろ魔空回廊ォッ！！　託されし想いと魂の叫び！　全て力に吼えろッ！！　グラディウス！！」
　灼熱なる叫びに呼応したか、ククロイの白紋が淡く発光する。
「モヒー族はァ！　壊滅ッ！　殲滅ッ！　絶滅だァ！！」
　シャイターンへの怒り、或いは先を越された八つ当たりも隠さず、ククロイはあくまでも己らしく感情を爆発させる。
「モヒー族に破滅あれエエエエエェッ！！！」
「そうだ、地球は……お前達の来る所じゃない！　出て行けえええッ！！」
　グラディウス具えた計都の脚にグラビティ・チェインが収束する。
「デウスエクスの蛮行を、これ以上許す訳にはいかない……！　この地に生きる人達の為にも、ここで潰す！」
　前回の作戦参加者でもある計都。１度狙いを定めた以上、もう外しはしない！
「今度こそ砕け散れ、魔空回廊ッ！！」
　右手のファミリアロッドは蝙蝠に姿を変えた。ファミリアを一撫で、グラディウスを握り直したウィッカは思い切りよく飛び出す。
「妖精種族を滅ぼしたエインヘリアルに与し、害悪を働く貴方達を心より軽蔑します」
　これ以上、被害が広がらない内に。今ここで引導を渡す！
「……後、その髪型のセンスもヒドいと思います！」
「ホント！　何でモヒカン？！　トゲ付き肩当て？！　いつの時代の不良なの？！　やられ役臭がプンプンするんだけど？！」
　猛スピードの降下中、矢継ぎ早に突っ込むわかな。風圧にサキュバスの翼が煽られる。
「今時ぜーったい！　流行らないよね？！　世紀末にお帰りくださーい！！」
　福岡市は皆の街！　平和を脅かすものは誰だって許さない！
「ああ、モヒカン野郎の好き勝手にされて堪るか！　てめぇらはここで断ち斬る！」
　気炎万丈、ミュージックファイターの心の叫びは降下の風圧にも負けず響き渡る。
（「地球と、地球に息吹く命を守り、未来を築く為――俺達ケルベロスの牙がある！」）
「皆の未来を！　可能性を！　消させやしないぜ！　覚悟しろよ、魔空回廊！　ぶっ潰れやがれ！　うおぉぉぉっ！！」
　雄叫びと共に、ウタのグラディウスが魔空回廊へ叩きつけられる。
（「これは……？」）
　降下の最中、橘花に覚えのない歓喜が湧く。これから破壊するモノへの苛立ちも。
「あれはここに在るべきものではない。わたしもここに在ってはならないモノだろうけど……それ以上に、あれはいけない」
　思考に何かが混じる。それは、あれを打ち壊すという強い意志。
（「……あれは妾の場所を土足で踏み荒らしている。それを許しては、かつて会うたあの者に、妾を打ち負かしたあの者達に面目が立たぬ」）
　橘花の周囲に仮想砲塔群が形成される。グラディウスの影響か、その出力はこれまでになく高まっているよう。
「穿ちなさい。『天牙の鉄槌』」
（「思い返せば、デウスエクスには色々と奪われてきたけど……その事自体は今更だよね」）
　『弱さの証』から目を逸らし、ロベリアは迫り来る魔空回廊を凝視する。
　復讐は本人を狙えば十分。だが、この回廊を放置すれば、犠牲者は増えるだろう。分かっていながら見過ごすのは、きっとカッコがつかないから。
（「柄じゃないけど、ケルベロスとして戦ってみようか」）
　イリスと共に、グラディウスを振り上げる。
「何れはゲートも壊しに行ってあげる。挨拶代わりに取っておきなよ！」
　殿はシャイターン切丸を右手に、グラディウスを左手に、勇ましく身構えるシヴィル。
「人々を守る騎士として、デウスエクスに身内を奪われた個人として……斯様に、奪う事しか頭になさそうなモヒー族を許せるものか！」
　それに、邪悪なデウスエクスの中にも高潔な精神を見出せた者もいた。
（「下劣なモヒー族共を放っておいては、彼らの名誉まで汚されてしまうからな」）
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参！　邪悪なる侵略者どもめ、我が正義の剣の前に果てるが良い！」
　――――！！
　次々と、強襲型魔空回廊に突き立てられるグラディウス。閃光が何度も走り、スモークが立った。

●ヤングモヒー
「何が足りなかったのだ！」
　悔しげに唇を噛むシヴィル。睨む視線の先に、未だ健在の魔空回廊。
（「２度目の挑戦だ。あの言葉は偽り無い」）
　自身の『魂の叫び』を思い返す計都――故郷を喪い、燻るデウスエクスへの憎しみも真実。今日の叫びは、そんな普遍的な怒りの発露だった。
　グラディウスの一撃に手応えはあった。だが……喩え他のシャイターンのミッション地域でも、いっそ他の種族のミッション地域であっても、計都の『言葉』は通じただろう。普遍的故に、魔空回廊を深く穿つに至らなかったかもしれない。
　その傾向は、計都のみならず。グラディウスを研ぐのは「『この』ミッション地域はこの手で潰す！」という熱意なのだ。
　ともあれ、魔空回廊への攻撃は成った。スモークに紛れてククロイの許に集まるケルベロス達。８本のグラディウスが、彼のアイテムポケットに収納される。
「急ぎましょう」
　ウィッカの沈着な言葉に頷き、撤収を図る。狼に変じた橘花は首を巡らせる。
「えっと、どっち行こう？」
　戸惑った表情を浮かべるわかなだが、兎に角、一方向に進路を定めた。
「うわぁ、ホントにそんな格好なんだ……」
　世紀末な出で立ちに、純粋にビックリのわかな。周囲はベビーモヒーの甲高い怒号で騒がしい。再度のアタックも、予知なきシャイターンには全くの奇襲となった模様。
　だが、流石にそのまま逃げ切るには至らない。
「クソッタレ！　やっぱりケルベロスかよ！」
　悪態を吐いて立ち塞がったのは、『如何にも』なシャイターン。極彩色のモヒカンに黒いタールの翼。スパイクと鎖の肩当てのみの上半身は禍々しい刺青に覆われている。妖精族特有の尖った耳のみならず、ベロリと突き出した舌にまで鋲のようなピアスがあった。
「また会ったな、ヤングモヒー……！」
　闘志熱く身構える計都を庇い、こがらす丸のエンジン音が唸る。
「ロベリア、強行突破だ！」
「了解」
　シヴィルの月光斬が奔るも、ヤングモヒーの鎖が斬撃を弾く。同時にロベリアよりオウガ粒子が煌く。だが、前衛は６名。列減衰はエンチャントも例外なく、使役修正も加わっては、メタリックバーストの恩恵は薄い。顔を顰めるウィッカのファミリアロッドの先が五芒星を描く。
「お前ら生きて帰れると思うなごらぁ！」
「それはこっちの台詞だ！　テメエこそ覚悟しやがれ！」
　気炎を吐き、殺神ウイルスを投擲するククロイ。わかなのスターゲイザーが翔け、炎を纏って突撃するこがらす丸。金縛りせんとイリスも動く。
「何ッ！？」
　確かに、ウィッカのマジックミサイルは敵を捕えた。だが、続く攻撃を尽くかわされる。実戦経験が浅い橘花に至っては、狙撃の位置でもその命中率は良くて５割。
「……っ」
　人の姿に戻った橘花の獣撃拳を俊敏な一閃で弾き、ヤングモヒーはニィと嗤う。
「そこの女ぁっ！　この俺様が直々に――」
　シヴィルが庇う暇もなく、文字に起こすのもおぞましい狂気の叫びが轟く。必死に踏ん張る橘花。防具耐性が合致しないまま集中打を被れば、即座に落ちかねない。
「しっかりしろよ。この力でぶっ潰しちまえ！」
　すかさず、ブレイクルーンがが少女を癒す。未来を創る意志に力を与える秘文字を記す、ウタの表情は険しい。
　回避と命中、攻防共に優位なポジションは１つしかない。
「キャスターか」
　計都も眉を顰めている。ヤングモヒーの外見はステレオタイプのごろつきであり、言ってしまえば雑魚。だが、奇襲の混乱の真っ只中で、真っ先にケルベロスの前に立ち塞がった。ミッション地域中枢に立つ、強化型デウスエクスはけして侮れぬ。
「ガキ共ッ！　いつまで遊んでやがる！　さっさと囲んじまえっ！」
　そう、戦いが長引き、ベビーモヒー共が正気に返れば。敵地で包囲されれば百戦錬磨のケルベロスとて、無事では済まない。
　短期決戦の為、早急に『全員の攻撃が命中出来るように』しなければ。計都の流星の如き蹴打がヤングモヒーの足を刈った。

●その身を光刃と為し
　――！！
　ウィッカを轢かんとしたヤングモヒーのスパイクチャージを、ロベリアが辛うじて遮った。蹂躙形態に変じた鉄塊剣を握る彼女の唇は、不敵な笑みを刷いたまま。
「地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
　両腕の地獄が無数の刃に変じる。剣風と同時に叩き付ければ、あたかも舞い散る花の如く。
「護り抜こうぜ、地球と地球に宿る沢山の命の輝きを！」
　勇気をもたらす歌声と音色で、青の凱歌を誇らかに謳い上げるウタ。ヤングモヒーの嗜好か、専ら狂気の叫びは橘花に、スパイクチャージはウィッカに浴びせられた。敵地の只中で倒れれば、全員の死活問題だ。特に橘花の消耗は激しく、メディックであるウタは早々にヒールに専念せざるを得なかった。
　そのお陰で、火力が減じなかったのは幸い。計都を始め、足止めの技はそれなりの用意がある。倦まず弛まずの攻勢を保ち、時に盾が庇うもどかしい耐戦の先に――わかなは両手で抱える鉄鍋が、ヤングモヒーに届き出した事に気付く。
「これから決めるよ！　当ったれー！！！」
　加速した鉄鍋を、思い切り振り下ろすわかな。すかさず、シヴィルの破鎧衝が痛撃するや、ロベリアの鉄塊剣二刀流が十字に斬り裂き、ククロイのチェーンソーが唸りを上げる。橘花のフォートレスキャノンは後少しで届かぬも、計都のアイスエイジインパクトの軌道をウィッカより放たれた蝙蝠が正確になぞった。
　集中砲火に堪え切れず、タールの翼を広げるヤングモヒー。
「チクショォォッ！」
　だが、ロベリアの悪意の嵐が刻んだ傷が回復を阻み、イリスのビハインドアタックが敵の背後を突く。シヴィルのゾディアックブレイクが、わかなのハウリングフィストが炸裂すれば、加護をも砕かれ忌々しげな罵倒が吐き散らされた。
「２度の火力で足りぬなら、４度の火力で。それでも足りぬというのなら、幾度でも滅してくれよう」
　仲間の尽力で狂気の叫びに耐え切った橘花は、今度こそ数多の徹甲弾、榴弾、焼夷弾を怒りと共に浴びせ掛ける。
「幾重の加護よ、我が杖に宿れ……マギノストライク！」
　一見は冷静そのもののウィッカも、標的の鬱憤を晴らすように、強化魔法を幾重にも施した魔杖をフルスイングした。
「そこだっ！」
　ここまで来ればヒールも要らない。ウタの刹那の一閃が、的確にシャイターンを斬り払う。
「モヒ、てめぇじゃ勇者になる魂なんて到底集めらないぜ。腐れ野郎の目ン玉じゃ何も判んねぇだろうからな」
「このクソガキがぁぁっ！」
「さあ、受けてもらおうか！　お前を破滅へと誘う、凶星の一閃をッ！」
　こがらす丸と合体した計都の蹴りがシャイターンの胸板を貫く。炎の轍を残しながら地面をスライドする勢いのまま、ライドキャリバーと分離した計都の背後で爆炎が上がる。
「イッツ、ジ・エンド……！　フォーム『ローカスト』！　砕ァけェろォォォッッ！！」
　仰け反る敵影に、ククロイは玉虫色に眩くも必殺の跳び蹴りを叩き込んだ。

「あ、アニキィィッ！」
「急げ！　撤退だ！」
　ヤングモヒー撃破から間を置かず、周囲のベビーモヒーの慟哭に紙一重の勝利を悟るシヴィル。
「ロベリア！　道を切り拓くぞ！」
　ディフェンダーを先頭に、包囲せんとするモヒ一族を斬り払い突破を図るケルベロスの陣形は、あたかもグラディウスの如き鋭き光刃を思わせた。

作者：柊透胡	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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