それは殺意の風であった。
血塗られた大きめの刃を持つ両刃の手斧を掲げ、被った毛皮から覗く口元に愉悦の笑みを浮かべて一閃させると、逃げていた男の首が鮮血を散らしながら地面に転がる。
「ホーーウゥーー!」
遠吠えの様な声を上げ、手首の動きだけで手斧を一回転させ血脂を払うと、更に逃げ惑う人々を追い掛けてゆく。
それは狩りであった。
エインヘリアルが……戦闘兵団ヴェルセルクルのエインヘリアルが、単騎で人間を狩っているのだった。
「エインヘリアルが町を襲撃して、街の人らを虐殺する事件が予知されたで」
と口を開いたのは、杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044) 。
「この暴れとるエインヘリアルは、過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者みたいで、放置したら多くの人らの命が奪われる上、人々に恐怖と憎悪をもたらしよるから、地球で活動するエインヘリアルらの定命化を遅らせる事になりよる。
ヘリオンかっとばすから。みんなで協力して、このエインヘリアルを撃破してや」
と笑う千尋の口元に八重歯が光る。
「現場はここ、岩手県北部の軽米町。
現れるエインヘリアルは1体で、戦闘兵団ヴェルセルクルっちゅーやつみたいや。兵団っちゅーても一人だけやけどな。黒狼の毛皮を被った3mの体躯を誇り、大きめの刃を持つ両刃の手斧を二丁持っとる。
戦う事、破壊する事しか興味のない殺戮の衝動みたいなエインヘリアルや、視界に入る生きてるもんを全部壊し殺そうと、その二丁斧をを振るいよる。エインヘリアルとしても捨て駒として送り込まれとる様やから、不利になっても逃げはせーへんやろ……むしろ死ぬ間際まで、こっちを殺そうと手斧を振るって来る筈や。十分気ぃつけなあかんで」
ケルベロス達の瞳を見て注意を促す千尋。
「あちらさんにデメリットもないし、戦術的には有効な策やな。まぁ、やられた方はたまったもんちゃうから、このエインヘリアル絶対止めたってや!」
と千尋はケルベロス達に発破を掛けるのだった。
参加者 | |
---|---|
ミライ・トリカラード(朝焼けの猟犬・e00193) |
神寅・闇號虎(又旅中毒末期のお巡りさん・e09010) |
紗神・炯介(白き獣・e09948) |
レイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318) |
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469) |
アーロン・レドモンド(ヴァルキュリアの魔法使い・e24668) |
アスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977) |
鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756) |
●
「ホーーウゥーー!」
雄叫びを上げ、手斧をくるくると回すエインヘリアル……戦闘兵団ヴェルセルクル。
「他人の庭で暴れる迷惑なお客様……こちらも『狩り』といきましょうか」
「狂いたくなって狂ったか、狂ったから狂いたくなったか……卵が先かヒヨコが先と一緒か、今や聞けはしないな」
辺りに一般人が居ない事を確認し、メイド服の裾を翻した鹿坂・エミリ(地球人のウィッチドクター・e35756)が、癒しに特化した避雷針であるflores:cruxをくるっと回し、神寅・闇號虎(又旅中毒末期のお巡りさん・e09010)が、こちらに気付きながら臆することなく向って来るヴェルセルクルの姿に虎眼を細める。
「『永久コギト化』か……死ねないのも難儀なものだね」
「けど、死なないデウスエクスが永久に罰を受けるなんて、どんな凶悪なことをしたのかな?」
青み掛った銀髪を揺らした紗神・炯介(白き獣・e09948)がそう口を開くと、炯介に茶色の瞳を向けたミライ・トリカラード(朝焼けの猟犬・e00193)が、鎖を鳴らして小首を傾げる。
「ま、何をしたにせよ、やってる事は八つ当たりだ」
「それもそうか……好き勝手させるわけにはいかないね!」
返した炯介にミライも大きく頷いた。……その間にもどんどん距離を詰めて来るヴェルセルクルの体がドス黒いオーラに包まれた。
「なるほど……あれが能力の底上げ……厄介ですね」
迸る殺意にレイラ・クリスティ(蒼氷の魔導士・e21318)の青紫色の瞳が細められる。
「だが、猪の如く真っ直ぐ狩り場に突っ込んで来るとはやり易いな。さぁ、奴は狩る側ではなく狩られる側だと思い知らせてやろう」
「然り、哀れな狂戦士よ。だが、ヴェルセルクル、貴様を捨ておくわけにはいかない」
僅かに口角を上げたアスカロン・シュミット(竜爪の護り刀・e24977)の体を、外套を纏う様にオーラが包み、頷いたアーロン・レドモンド(ヴァルキュリアの魔法使い・e24668)が魔導書を紐解く。
「さて、それでは……やるとしようか……」
「ホーーウォーー!」
クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)が一歩踏み出したタイミングで、ヴェルセルクルがなんらその足を緩める事無く、咆えながら半包囲する様に陣を敷くケルベロス達の、有効射程へと踏み込んで来た。
「君もまた赦しを求めていないのかい? ならば……」
「来いよ、楽しもうじゃないか」
炯介が地獄の晩餐会の詠唱を紡ぐと、その力を付与された虎爪を研いだ闇號虎が地面を蹴り、
「逆に狩らせて頂きます。神殺しのウイルスの力……存分に堪能させて差し上げましょう」
同じく力を付与されたレイラが殺神ウイルスの入ったカプセルを投擲した。
●
レイラの投じたカプセルの効果によりドス黒いオーラは掻き消えたものの、それを意に介さず突っ込んで来たヴェルセルクル。勢いをそのままに薙がれる闇號虎の虎爪を手斧で跳ね上げ、その胴に両斧を叩き込んだ。
「くぅ……お前のように全てを投げ出せれたら、……俺は楽になれただろうか?」
返り血を浴びながら口元に笑みを浮かべるヴェルセルクルに虎眼を向けた闇號虎が問う。
「貴様の自由、少し奪わせてもらおう。我が美しき友、深緑の乙女よ。その腕に彼の者を抱け」
その闇號虎の後ろからアスカロンの護殻装殻術により加護を得たアーロンの声に呼応し、盛り上がった土がヴェルセルクルに伸びてゆくと、土を突き破って現れた木々の根が駆け上がる様に彼の足に絡みつき、
「闇號虎さん、今回復します」
エミリが向けたflores:cruxからスパークが弾け闇號虎の裂かれた傷を癒す間に、ヴェルセルクルに対し鎖を伸ばすミライ、続いてクオンと炯介が挟撃する様に攻撃を仕掛ける!
それに対し、左右へ腕を薙いだヴェルセルクルに光の翼で舞い上がったアーロン。
「……どうだ?」
ヴェルセルクルの顔に決まる重い飛び蹴り、だが、ヴェルセルクルはギロリとアーロンを睨むと、二人を押し返した斧をアーロン目掛けて振るう。
「アーロンさん!」
回避不可能と思われる斬撃に、オウガ粒子を放出していたエミリが声を上げるが、激しい衝突音が響いてアーロンが跳び退さり、大きく息を吐く。
「なんとう切り返し……」
アーロンの黒衣の下からは、ヒビの入った可変式攻防光盾が顔を覗かせていた。
「楽しいだろう! 力ある者同士の戦いは!」
そう声を掛けた闇號虎が、アーロンと入れ替わる形でミライとタイミングを合わせてヴェルセルクルへと突っ込んでゆく。
「誰一人、倒れさせないのです」
闇號虎に少し遅れて仕寄るアスカロンら仲間達の背中を見て、エミリは気合を入れ直す。
「ホーーーゥ!」
ヴェルセルクルが咆え、殺意の衝動のまま手斧を振るう。そのヴェルセルクルと交錯する光の粒子。突き抜けた光の粒子がクオンを形どり、くるっと身を翻したクオンが、
「刃で語るのみ……」
ハンマーを小脇に、彼女に続いた炯介と闇號虎と激しく打ち合うヴェルセルクル目掛け、再び地面を蹴る。
ヴェルセルクルは反転してくるクオンに気付いたが、
「余所見をしている余裕などないはずですよ?」
そう言って微笑み、瑞花の外套を翻して宙を舞ったレイラが華麗に跳び蹴りを見舞うと、アーロンもそれに続き、更に空中で回転したアスカロンが踵落としを見舞う。
それら立て続けに見舞われた重い蹴りに、ヴェルセルクルの足元が少しおぼつかなくなったところに、
「くらえっ!」
ドラコニック・パワーの噴射と共に吶喊力と遠心力を加えたクオンの『ドラゴニックハンマー改』が叩き込まれた。
ギリギリのところで胸の前で手斧を交差させ、跳ぶ事で勢いを減じたヴェルセルクルだったが、その代償として思いっきり吹っ飛ばされ、鎖を鳴らすミライを先頭に追い縋るケルベロス達。
「もう一押し必要ですね。……エミリさん」
回復も足りていると判断したレイラが声を掛け、エミリと一緒に殺神ウイルスの入ったカプセルが投擲され、放物線を描いたカプセルがヴェルセルクルの体に当たって爆ぜた。
「僕もあんまり人の事は言えないんだけどさ、君は一体何をやらかしたんだい?」
振るわれる手斧を紙一重で躱した炯介が、切られ舞った数本の銀髪越しにヴェルセルクルに問う。無論答えなど聞くまでもない。おそらく本能のまま武を振るい、感情の赴くまま誰かを殺したのだろう。更に闇號虎が左から詰め、オウガメタルを鋼の鬼と化した炯介と共に激しく打ち合い衝突音が響く。
「ヘルズゲート、アンロック! コール・トリカラード!」
更にミライから滴り落ちた地獄の炎が地面に魔法陣を形成すると、そこから勢い良く、それぞれ赤火、青炎、黄焔を纏った3本の鎖が、塔を作るかの如く天に向かって伸び、絡まる様に螺旋を描くと、そこから曲がって一気にヴェルセルクルに襲い掛かる。
「ホォーフゥー!」
上から迫り来る三鎖を見上げて咆えたヴェルセルクルの足元に魔法陣が広がり、レイラが詠唱を結ぶと次々と氷柱が噴出してヴェルセルクルを穿つ。
その上下からの攻撃に加え、左右からら挟撃を図るクオンとアーロン。ケルベロス達の波状攻撃に気力を溜めて傷を癒そうとするヴェルセルクルだったが、
「おっと、傷の疼きを抑えようとしても無駄だ!」
背後をとったアスカロンが左手に構えた『懐刀【桜花】』を振るうと、エミリらが重ね塗ったアンチヒールの効果が増大し、傷は微々たるものしか塞がらない。
「グギギギギギ……」
初めてヴェルセルクルの口から遠吠えの如き咆え声ではない音が発せられ、風を切る様に手斧が振り回し、手首の動きだけでそれを一回転させると、ふぅーっと大きく息を吐き殺意の衝動を纏って地面を蹴る。
「悪いがここから先は通行止めだ……『千引岩』!」
アスカロンが右手に嵌めた呪具『家守』の掌を向け、味方の守りを固め吶喊に備え、立ちはだかるのは、気だるげに前に出た炯介。
「……痛ぅ……」
オウガメタルが鋼の鎧の如く高質化してその刃を遮るが、突き抜ける衝撃に唇を噛む炯介。だが、カウンターで叩き込まれた拳が、ヴェルセルクルの纏うオーラを払拭する。
「そのまま捕まえてあげるんだよ」
勢いを失くしたヴェルセルクルにミライの『Dead or Alive』が伸び、次々と仲間の攻撃が飛ぶと、遂にヴェルセルクルが流れ出た鮮血による血だまりの中に片膝をついた。
●
「少し我慢してくださいね」
そう言ったエミリが、炯介を電撃も絡めたショック療法で癒す中、片膝をついたヴェルセルクルに波状攻撃を仕掛けるケルベロス達。
「もう判っただろう。あんたは『狩る側』じゃない『狩られる側』だ……!」
ニヤリと笑って宙を舞ったアスカロンが翼を広げ空中で回転し、繰り出した踵落としがヴェルセルクルの頭に叩き込まれる。
「さぁ、チェックメイトの時間だ。暴れ足りないからって、死神にサルベージされて戻ってくるんじゃないよ」
ギラギラとした金色の瞳を細めた炯介が、その瞳とは対照的に静かに引き金をひくと、銃口から冷凍光線が迸ってヴェルセルクルを穿ち、
「無慈悲なりし氷の精霊よ。その力で彼の者に手向けの抱擁と終焉を」
「貴様を超える! 花鳥風月!!」
炯介の冷凍光線を後押しする様にレイラの描いた魔法陣から幾重もの氷柱が飛び出し、その氷柱ごと砕く勢いで闇號虎がラッシュ攻撃を仕掛ける。
「……俺はお前の様になれないようだ」
連続攻撃を受けながらも振るわれる手斧。それを持つ左腕を掴んだ闇號虎がその紅の瞳で睨み付け、
「術者タイプですが、撃たれ弱くはないですよ!」
右腕の方は衣装の一部を裂かれながらも、魔法陣を展開したレイラが押さえ不敵に笑う。
「押し切りましょう!」
光り輝くオウガ粒子を放出して後押ししながらエミリが声を上げ、
「我が美しき友、深緑の乙女よ。その慈悲を以って腕に彼の者を抱け。願わくばその抱擁が永久ならん事を」
アーロンの詠唱と共に周辺の樹木から伸びて来た蔓や根が、包む様にヴェルセルクルを包みその動きを阻害する。
「ウガ……アアァ……」
自分の足を這いあがってくる木々の根に手斧を振るうヴェルセルクル。レイラによる氷の精霊、アーロンの樹木の精霊、その2つの精霊に抱かれたヴェルセルクルに、
「狩られる側の気持ちはどうだい? キミが今までやってきた事だよ。覚えておいて、ボ達は天より来たるは地獄の番犬! 神伐執行、ケルベロス!」
ドンと地面を踏んだミライが掌を向けると、三色の炎を纏った鎖が三つ首の竜の如く身動きの取れないヴェルセルクルに襲い掛かり、
「我は巨獣! 敵を、戦場を、我が金色の瞳に写る全てを蹂躙せし“緋の巨獣”なり!」
カッっと目を見開いたクオンが、暴虐の紅蓮となってヴェルセルクルへと突っ込んだ。
「グギギ……」
ヴェルセルクルは歯を食い縛り、闇號虎を振り解いて左腕を振るうが、それを嘲笑うかの様に跳躍するクオン。更にレオンも振り解いて右腕の手斧を振るうが、そこに足場があるかの様に更にクオンが跳び、2丁の手斧は虚しく空を切る。
「残念だったな」
左肩で銃身を支え構えたアスカロンから飛んだ、グラビティを中和するエネルギー弾が爆ぜたところに、思いっきり『雷光のラブリュス』を振り被ったクオンが、緋の巨獣の力を解放するかの如く、爆ぜる様にそれを振り下ろした。
「ギ……ア……」
その刃は容赦なくヴェルセルクルの体を裂き、溢れ出る血と臓物の中、ヴェルセルクルはケルベロス達を睨みつけながら、前のめりに倒れたのだった。
ヴェルセルクルが動かなくなった事を確認したケルベロス達は、一連の戦闘で破壊された周辺のヒールに取り掛かっていた。
「沢山暴れたねぇ」
「建造物の少ない所で良かったです」
一番離れたところをヒールしていた炯介とレイラが戻ってくる。
「お疲れ様でした。それにしても、捨兵……ですか」
回復を施しながら誰とはなしにそう口にしたエミリ。
「思い付く方も思い付く方だが、利用される方も、だな。その利用される奴は一体あとどれ位いるんだか……」
「出てくれば潰すだけだ」
応じたアスカロンがそう言って肩をすくめ、アーロンが僅かに紫眼を細めた。
「そうだね、後手に回るのは仕方がないけど、1つずつ潰すだけだよね」
「……」
くるっと振り返ったミライに、黙して何かを考えていたクオンが視線だけ向けて頷く。
「さっ、戻ろうか」
大きく伸びをした闇號虎が、ヒールがあらかた終わったのを確認し皆をそう促したのだった。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年4月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|