ミッション破壊作戦～強き心で竜を駆逐せよ

■リプレイ

●山梨県木曽山脈
「……樹龍ミステル……か。……かつて、操られていた時の事を思い出すよ。あれから、大分時間が過ぎたが、こうして戦うことになるとはな……」
　重く落ち着いた言葉を放ちながら、グレイブ・ニューマン（躍動する大胸筋・e01338）は、ミステルと因縁の深い……もう１人のケルベロス――愛しき人――オリヴィエ・デュルケーム（癒姫・e04149）の表情をちらりと見る。
「……フラウ、ミステルを止める事が出来るかもしれません。……頑張りましょうね」
　優しげな緑の瞳で、我が子のように可愛がっている、薄水色の美しいボクスドラゴン『フラウ』に語りかける、オリヴィエ。
（「戦うことなく……分かり合え、幸せに暮らせる……それが一番なのですけど、そうもいきませんよね……。ミステル……あなたにはあなたの、私達には私達の願いがあります。……ですから、無理は言いません。……ただ、私達を傷付けるのは止めさせていただきます」）
　強い意志を持って、オリヴィエは自身に預けられた『グラディウス』を握りしめる。
「この辺りは、複数のミッションが集まってる……なら、１つでも解放しておかないとな」
　自身の武装を確認しながら、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）が決意を口にする。
「……さて、降下ポイントだ。……行こう」
　静かに言う、上野・零（シルクハットの死焔魔術師・e05125）の言葉にケルベロス達は皆頷く。
「先陣、切らせていただきますね……」
　静かな言葉の中に確たる意志の響きを窺わせると、サラ・エクレール（銀雷閃・e05901）がヘリオンの甲板を蹴り、宙へと舞った。
　続くように、愛沢・瑠璃（メロコア系地下アイドル・e19468）、マーシャ・メルクロフ（月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659）、リーナ・スノーライト（マギアアサシン・e16540）、３人の女性ケルベロスが降下ハッチから飛び出す。
「己が欲望の為に……多くの人々を虐殺しようとし、憎悪と拒絶の負の連鎖を生み出そうとするあなた達……『ドラゴン』の存在を、私は決して許しません。私達ケルベロスが、あなた達の野望を必ず打ち砕きます。我が閃光の一撃、その身に刻め！　そして滅びなさい！」
　木曽山脈のバリアを……ドラゴンの存在を否定する言葉をサラが口にすれば、サラの手にしたグラディウスは輝き、普段の得物である『刀』の長さまで光が伸びる。
「長野県のファンの皆の願いは、木曽山脈の奪還。そしてファンの願いはあたしの願い！ファンの願いを叶えてこそ……あたしは真のアイドルになれるのよ！」
　白のツインテールを風に靡かせながら、瑠璃は思いを込めてグラディウスを振りかぶる。ウイングキャットの『プロデューサーさん』も瑠璃の首にしっかりと掴まり、瑠璃の思いがファンの為になればと、祈っている。
　愛する日本の自然……山々、それらを視界に入れながら、マーシャは両の手で確りとグラディウスを握り、自身の身体を縦に回転させながら、少しでもグラディウスがバリアに与える衝撃を増やそうと、グラビティ・チェインを高める。
「木曽山脈は林業を担う方々の宝の山！　樹龍殿、人間の営みによる理由ではござるが……ここに留まることも暴れてもらっても困りまする！　……故に、成敗つかまつる！」
　ロシア系の北欧美人であるマーシャは、自身の愛する和の心を持ってグラディウスに最大限の輝きを宿らせる。
（「……八竜の生き残りも動き出したみたいだけど……ドラゴンには随分縁があるね……。八竜の一体……セリオン、そして蛟……カエルレウム……」）
　降下中の空気抵抗を可能な限り減らし、自然落下に身を任せながら、リーナはかつて戦ったドラゴン達の姿を思い起こす。
（「……二体共、実力は勿論、カエルレウムは『心』も強かった……。樹龍ミステル……。どんな龍なのか『心』の中までは、知らないけれど……絶対に負けない……。必ず、討ち倒してみせるよ……！」）
　リーナが強い意志を持って、強襲型魔空回廊のバリアへとグラディウスの切っ先を突き立てれば、サラ、瑠璃、マーシャのグラディウスも光り輝き、バリア内に雷光と爆炎を発生させる。
　少女達は、強き乙女として……ケルベロスとして、強襲型魔空回廊に『グラディウス』という牙を穿ち続ける。

●樹龍の世界が終る時
「……封印されてなお、この大地を蝕むか。流石『ドラゴン』……最強種族の名は伊達じゃないな。……だが、ドラゴンとの対立が激化している今、お前に出てこられる訳にはいかねぇんだよ！　ミステル！」
　強固な封印を解こうとしている『ミステル』……この地をこのままにしておけば、いずれ遠くないうちに、ミステルは封印から解放されてしまうかもしれない。
　柚月はそのミステルの存在自体を否定する。
「最強種族が何だってんだ！　こっちは、世界中の人間の未来を背負って戦ってるんだ！　今更退く訳ねぇだろうが！　この一撃は、未来を切り開く一撃だ！　その重さ、しっかり受け止めやがれ！」
　柚月の叫びが、思いが、一つ木霊する度に、手にしたグラディウスは、バリアを破壊しようと力を増す。
（「……正直、世界の人間を護るとか、そーゆのには一切興味がないさ。……目の前で死なれるのは、気分が多少悪いだけだし。……だけど……知ってる奴に手を出すのなら……話は別だからね？」）
　零は、グラディウスを手に降下しながら、記憶を手繰っていく。
　そして……ドラゴンの関わった一つの事柄の記憶を紐解くと叫んだ。
「……たった数回喋った程度、初めての依頼で一緒だった人。……そんな人がドラゴンに殺された」
『竜十字島』ドラゴン勢力のゲートがある地……その場に辿り着くも、彼女は帰って来なかった……。
「……今からやるのは八つ当たりだ……お前が殺した訳じゃないが、嫌がらせをしてやる。……これ以上、殺させてたまるか。……俺に出来る事は、ただ前に進むことだけなんだ……邪魔なお前らは、さっさと消えろっ！」
　怒り、憤り、強い思いは、零の叫びを通してグラディウスに激情となって注がれる。
　グレイブとオリヴィエ……そしてフラウは、しっかりと互いの手を握り抱き合い、宙を舞っていた。
　この地に封印されているドラゴンへの思いも、複雑なものを抱いている。
　それでも、ケルベロスとして『グラディウス』を手にこの地に来たのだ……やらなければならないことは分かっている。
「数多ある回廊の中でも、この場はその内の一つに過ぎないかもしれない……けれど、これを壊すことで、周囲の人達は心から安らぎを得られるだろう。……我々はケルベロスだ。その誇りを胸に、今こそ牙を立てよう」
「……今でもあなた方と共に過ごせないかと思っています。自分勝手ですよね……けれど、あなたを倒せば全てが終わる訳でもないのです。だから、あなたの復活を阻止します……ミステル。分かり合う為の時間を作る為に……皆が笑顔で、いられるように……」
　グレイブとオリヴィエ、二人の言葉が……グラディウスが重なり、優しく強い色で輝きだす。
「人々の安寧の為、この回廊は……絶対に破壊させてもらう！」
「この一撃に、私の……私達の想いを込めて、叶えて見せます！」
　グレイブとオリヴィエのグラディウスがバリアに突き刺さると、他の６人のグラディウスも輝きを更に増していく。
　響く雷光、燃え盛る爆炎……。
　ケルベロス達は、バリア内部から放たれた強烈な光で、ホワイトアウトしていく世界の中……不思議な浮遊感を感じた。
　地面にぶつかる衝撃も何もない、時間が止まったような感覚……だが、止まった訳ではないということも何故だか分かる。
　白で覆われた世界が、木曽山脈の緑色に戻った時、ケルベロス達は確信した。
　……魔空回廊の破壊に成功したのだ。
「各々方、やりましたでござりまするよ！　魔空回廊の破壊に成功したんでござるよ！」
　感極まったのか、マーシャが大声で叫ぶ。
　グレイブとオリヴィエは放心したように、ただただ抱き合い……フラウは、涙を流している。
「……目的は達した。……早くこの場を離脱して、ヘリオンに回収してもらおう」
「……そうだ、ね。ここはまだ敵地。グラディウスもあるし……すぐに撤退しないと」
　零の言葉に、リーナも頷くと、手にしたグラディウスをしまう。
「いや……この場での最後の仕事みたいだな」
　柚月が、グラディウスの代わりに戦闘用カードを手にしながら、視線を向けた方向……封印されし『樹龍ミステル』の劣化複製体が怒りの形相で接近していた。
「私達ケルベロスがいる限り、絶対に諦めない！　負けない！　そして必ずすべての地域を開放して見せます……この地のように！」
『伯耆国安綱』を鞘から抜き、ミステルに向かって強く言う、サラ。
「ライブだって……使った会場を片付けて、帰るまでがライブなのよ。だから……絶対に帰ってみせるんだから！　しかも勝利の凱旋！　ファンの皆の為に邪魔させないよ！」
　言葉に『生きる事の罪を肯定するメッセージ』を込め瑠璃が言えば、仲間達もそれぞれの武器に手をかけた。

●樹龍ミステル
　樹龍ミステルは、ヤドリギを操り木曽の植物を自身の手足とし、ケルベロス達を襲う。
「この地を開放出来た以上、ミステルが封印から解かれることはおそらく無い。ならば、全力で目の前の複製体を倒すのみ」
　サラに襲いかかる植物を逞しい剛腕で受け止めるとグレイブは、逆手に纏った白銀の生命体でミステルに達人の如き一撃を決める。
「私は皆さんを護る力を付与します。瑠璃さんは、皆さんのグラビティの流れを正常に戻すことに力を入れてくださいますか？」
　仲間達を守る盾となる紙兵を宙に放ちながらオリヴィエが言えば、瑠璃は即興のメロディと共に濃縮した快楽エネルギーを桃色の霧とし放出する。
「任せてよ！　聴衆が……ミステルだっけ？　しかも複製体……あんたしかいないのは、残念だけど……折角だから、あたしの木曽山脈ライブ、最高のナンバーをあんたに聞かせてあげる！　だから、感謝してあたしのファンになりつつ逝きなさい！」
「時間をかけるつもりは、ありません！　我が閃光、その身に刻め！」
　納刀したままの『銀閃御雷』に手をかけると、サラは神速の速さで抜刀し、一瞬の剣閃の輝きだけを残して、ミステルの緑の身体を切り裂く。
　ミステルとの戦闘開始から６分、ケルベロス達はオリヴィエと瑠璃、二人の潤沢な回復のお陰もあり、大きな傷を負うことなく有利に戦闘を進めていた。
　明らかに勝機はケルベロス達にあると言ってよかった……だが、複製体とは言え相手はドラゴン、大きなダメージを与えているにも拘らず、止めを刺すにまだ至っていない。
　時間をかければ、ミステルが増やし続けた複製体が軍勢として襲ってくる可能性が高い。
　魔空回廊の破壊を成功させても撤退できなければ、自身達の命だけではなく、地球側の切り札の一つである『グラディウス』を奪われかねない……。
『これ以上の時間をかけられない』
　その思いがケルベロス達を積極攻勢に移らせた。
「――この身を焦すは豪の焔――彼の身を貫くは紅蓮の刃――地球の核から溢れて轟け―― 逃げ場なき焔の地獄――燃やし尽くせ――ッ！」
　魔力を極限まで高め、零は、熔岩とほぼ同じ物質を呼び出すと、その物質で紅蓮の竜巻を作り出し、その竜巻にミステルを呑み込ませる。
「まちゅかぜ！　このまま突撃でありまするよ！」
　白馬型ライドキャリバーのまちゅかぜに跨り、炎と一体となってミステルに突撃すると、マーシャは零距離で御霊殲滅砲を放ち、ミステルに大きな風穴をあける。
「俺に死角はねぇんだよ！　輝きの銀の力！　顕現せよ！　シャイニングレイ！」
　光の力を秘めたカードを手に、柚月がその真の力を発動させると、光の弾丸が周囲に生まれ、一直線に飛んでいた筈の弾丸も地面や樹木に直撃すると急角度で弾道を変え、光の軌跡を残してミステルを次々に貫いていく。
「塵も残さず消えろ！　ミステル！」
「……貴方をこれ以上……好きには、させない……っ！！　本体は封印されたまま……目覚める事無く消えてもらう、よっ」
　言うとリーナは、戦闘域に散らばる魔力やグラビティ・チェインを自身へと強引に集束し、自身の魔力と融合させると全てを滅する黒き閃光として、一気に放出する。
「……ドラゴンスレイヤー……果たさせて貰う、よ……！　ラスト・エクリプス・バースト！！」
　叫びと共に放たれた黒き閃光は、ミステルを……いや、封印されし『樹龍ミステル』が生み出した複製体を呑み込むと、そこに何も無かったかのような静寂を生んだ……。

●封印は永久に
　肩で息をし、立てなくなったリーナを、マーシャがまちゅかぜに乗せる。
「今の内に撤退でござりまする！」
「……もう、複製体は生まれないにしろ、今までにミステルが生み出した複製体が殲滅出来た訳じゃないからね」
　一つ頷くと、零も退路を確認しながら走りだす。
「けど、これでミステルが封印から解かれることも無くなり……この地を本当の意味で解放出来たことになるんですね」
　青い瞳を少しだけ細め、普段より優しげにサラが呟く。
「そう言うこと！　これで長野のあたしのファン達も、安心してライブに来れるってことよ！　復興ライブでも企画しちゃおうかしら？　ね？　プロデューサーさん？」
　空を羽ばたくプロデューサーさんにニヤリと笑みを見せながら、瑠璃も高揚した気分で言う。
「『木曽山脈樹龍峰』ミッション破壊成功……これで少しでも、ドラゴン勢力の力が削れた筈だ。すぐに、ケルベロス・ウォーを発動出来る訳じゃない……それでも、いつか訪れるドラゴン達との戦いをほんの少しかもしれないが、有利にすることが出来たんだ」
　駆ける仲間達に柚月は、自分達の成した戦果を実感を持って言葉として伝える。
「……大丈夫かい？　……オリヴィエ君？」
　走りながらも、ミステルの本体が封印されているであろう方角を振り返るオリヴィエに、慰めるような声音でグレイブが聞く。
「……ええ、私は大丈夫です。……グレイブ様」
　握るグレイブの手に力を込め、オリヴィエが静かに言う。
　オリヴィエとグレイブ……二人は、仲間達の背を追いながらも互いの手を離さず走り続けた……。
『木曽山脈樹龍峰』樹龍ミステルが封印され地……。
　もう、彼の龍が目覚めることは無いだろう……。
『サーッ』と春の風が吹くと、緑の木々を静かに揺らすのだった……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年4月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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