弩級兵装回収作戦~ハイブリッド・アーミー、銀麗

作者:沙羅衝

 ここは三重県四日市のコンビナート。かつては一般人達が労働の汗を流していた場所だ。
 だが、現在は『ハイブリッド・アーミー』なるダモクレスの襲撃を受け、弩級兵装の発掘と修復作業が行われる現場と化していた。
 幸いにも一般人の避難は既に完了したという事だが、既にかつての面影はない。
 そのコンビナートの一角に、内部へと向かうエレベーターホールがあった。そこに、白銀の全身甲冑を纏ったダモクレスがいた。分厚い甲冑であるがスマートなフォルム。そのフォルムから女性であるということがうかがい知れる。彼女の名称は『銀麗X552』。
 フルフェイスの仮面から伸びた、腰に届くほどの長さの髪が、金属が焼けたような匂いの風を受けて少し揺れた。
 エレベーターの扉が開く事を待っていた彼女は、後方から背の高いダモクレスが近づいてきた事を察知する。銀麗より遥かに巨大であり、頑強。漆黒の全身甲冑に身を包み、手には巨大な剣と盾。名称を『防盾X1980』と言った。
「……」
 2体のダモクレスは、特に何も会話をすることなく、ちょうど扉が開いたエレベーターに乗った。
 何処か懐かしいような雰囲気を持った大きなダモクレスだが、その理由は彼女には分からない。そんな事を考えていると、エレベーターの扉が開いた。
「遅い。弩級兵装の発掘は地球侵略軍の最重要作戦だ。コマンダー・レジーナに出し抜かれてはジュモー・エレクトリシアン軍団の威信に関わるのだぞ。警備の首尾は。発掘はどの程度進んでいる」
 『調整体X1』の名称で呼ばれるダモクレスがまくし立てる。
 少しカチンとくる銀麗だが、自分が口を開くより先に防盾が言葉を発する。
「……警備に関しては問題ない。発掘施設周辺は常に量産型ダモクレス、タイタンキャノン及びアパタイトソルジャーが哨戒している」
 その言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻したのか、銀麗は素早く状況を演算し、それに続く言葉を発した。
「ただ、発掘には細心の注意が必要だわ。それに、高度な技術も要求される仕事よ。焦って爆発してしまえば、喩え発掘できても完全な状態ではないのは明らかだし……」
 銀麗はそう言って、苛立つそぶりを見せる調整体を一瞥する。
「もう少し工数を頂きたいわ」
 こちらにはそれなりの理由がある。理論で負けるつもりは無かった。
 だが、それでも構わず文句を言おうとする調整体。それを銀色に輝くダモクレス『鉄聖母メサイアン』が遮る。
「問題ないようですね。引き続き作業に尽力してください。発掘したあとに弩級外燃機関エンジンを転送する準備はいかがですか?」
「万端整いました。いつでも転送可能です」
 まだ何か言いたげではあったが、調整体は姿勢を正して報告する。
「それでは、皆さん。万一の場合は不完全でも転送させる事になりますが、それは最後の手段です……素早く、完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くしましょう」
「ハッ!」
 その様子を確認したメサイアンは、その金色の瞳を細めた。

 まずは任務を遂行すること。それ以外の事を考える必要は無い。銀麗は頭を垂れながらそう思い、腰に携えた二丁の拳銃に手を触れた。

「……ちゅう事や。ってもう一回言うからよう聞いてな」
 集まったケルベロス達を前に、宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が説明を開始していた。
 絹の話では、指揮官型ダモクレス達が、新たな作戦を開始したとの事だった。その内容は多く、半数のケルベロスは首をかしげていた。
 どうやら彼らは地球に封印されていた強力なダモクレス『弩級兵装』の発掘を始めたらしい。
 弩級兵装は、その名の通り、重巡級ダモクレスを越える力を持つ兵装で、『弩級高機動飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の4つの兵装があるようだった。
「まあ当然やけど、この弩級兵装を揃えられたら、やばいことになる。それを止めるで」
 絹がいつもより丁寧に説明すると、ケルベロス達は理解し始めた。
「んで今回の作戦や、他のチームが警護している量産型を攻撃、その隙に複数のチームが一気に潜入して弩級兵装の破壊を破壊する。皆はこの『弩級外燃機関エンジン』の破壊任務をやる4チームのうちの一つや。『弩級外燃機関エンジン』は『鉄聖母メサイアン』が仕切ってる。そいつらを何とか倒して、弩級兵装の破壊、それも完全破壊を目指して欲しい。でも、最悪何ぼか損害を与えてなっちゅう依頼や」
 これまでの話を理解したケルベロスが、では自分たちの敵はと尋ねる。
「うちらは、『鉄聖母メサイアン』配下『銀麗X552 』を撃破して、その弩級兵装を破壊するのが任務や。両手にリボルバー銃を持って、精密な射撃を行ってくるから、気をつけてな」
 絹はそこまで言うと、はたと気がつき、少し難しい顔をする。
「せや、その弩級兵装の破壊について注意事項や。よう聞いてな。
 まず、この弩級兵装『弩級外燃機関エンジン』の破壊には8人のケルベロスの全力攻撃を1、2回ぶち込んだらええ。でもな、破壊する順番があるねん。間違ったら……どかん、や。この辺一体は焦土と化すと言われとる」
 それを聞き、ごくりと唾を飲むケルベロス。
「正しい順番は『鉄聖母メサイアン』の第一区画、『銀麗X552』の第二区画、『防盾X1980』の第三区画、ほんで『調整体X1』の第四区画の順番や。正しい順番で破壊すると、その度に色が変わるらしいから、その辺を良く確認してな。あ、でもや、メサイアンを倒してから7分が経過すると自動的に転送されてしまうっちゅうおまけつきや」
 そんなおまけいらんっちゅうねんなと、絹は自ら突っ込みを入れる。
「完全破壊を目指すんは、はっきり言ってギリギリや。他のチームとの連携もいる。ややこしいけど、皆やったらやれると思うわ。気合入れて頑張ってな!」


参加者
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)
斎藤・斎(修羅・e04127)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)
高辻・玲(狂咲・e13363)
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)

■リプレイ

●戦場における任務
 ドドドドオ!!
 量産型ダモクレスとケルベロス達が激しく戦闘を繰り返す。その攻撃はまさに怒涛という表現が当てはまる。爆音と爆風。グラビティが渦巻く。
 三重県四日市のコンビナートに突入したケルベロス達は、それぞれに自らの任務を果たすべく、動く。
 そのコンビナートの建物の隅で、身を潜めるケルベロスの一団があった。
「……あれが、防衛している敵の姿、だね」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が、少し物陰から顔を出し、量産型の姿を確認する。
「弩級兵装の一部を破壊する、か……。こういう事をする時は、攻性植物に寄生されて良かったって思うよ」
 アンセルムはそう言いながら、自らの持つ少女の姿をした攻性植物を見る。普段は腹話術のようにこの人形を使って話すのだが、事の大きさにそれは敢えて行っていない。
「弩級兵装……。そんなものが埋まっていたなどと、にわかには信じがたいですが。こうして動いている彼らを見る限り、事実なのですよね」
 斎藤・斎(修羅・e04127)が爆音と共に戦っているケルベロス達を見る。彼らは言わば陽動であった。本体は我々を含む4チームである。
「彼らの働きを、無駄にはしたくない。……だから、ここまで来たらやるべきことをやるだけだ」
 レッサーパンダの小柄なウェアライダー、左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)がオウガメタルの『夜長』に触れながら、呟く。
「ケンタローの……宿敵」
 クーリン・レンフォード(紫苑一輪・e01408)が十郎と背を合わせて反対方向に集中しながら、これから向かう敵の事を思い出した。絹に聞いた『銀麗X552』や、他の箇所の敵達は、友人である麻生・剣太郎と因縁があると聞いていた。彼は今、この任務と同じ4チームのうちの一つに向かっている。そして、そのダモクレスたちは、元人間であったと言う。
(「……私と反対だね」)
 クーリンはそう思い、少し複雑な表情を浮かべた。
「僕達が、負けるわけには行かないね」
 愛用の日本刀を左手に、深紅の薔薇を髪に咲かせた高辻・玲(狂咲・e13363)が、穏和な表情でクーリンの言葉に続いて言う。その言葉は落ち着いているが、何処か裏があるようであったが、クーリンにはその真意は分からなかった。
「おっと、凛子さんです」
 斎が見つめる先に、蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)の姿がちらりと見えた。凛子の姿の奥には螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)の姿もある。凛子が手を下に下げ、続いて大きく手で招く動作をする。そして、拳を肩に構えて上下に振った。
「ああっ!? え、と。なんだべ!?」
 斎がそのハンドサインに戸惑う。自分では完璧に覚えたはずだったのだが、本番になるとすっかり意味を忘れてしまったのだ。
「体勢を屈めながら、来い。急いで、だ」
 慌てる斎を見ながら、そのハンドサインの意味を通訳する黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)。
「俺が殿を勤める。一気に行くぞ」
 一同は、物陰に体を隠しながら、素早く二人に合流する。
「この先に、エレベーターホールがあります」
 一息ついたのを確認し、凛子が状況を報告する。
「陽動がかなり上手く行っているようだ。エレベーターの扉を開けておいた。今しかない、行くぞ」
 セイヤがそう言葉を発すると、ケルベロス達は頷き、目的のエレベーターに駆け込んだのだった。

●銀麗X552
 シュイーン……。
 エレベーターが降下する感覚が分かり、己の武器を装備していくケルベロス達。ここは敵の本拠地である。
「作戦が開始されて4分……。みんな、もう少しこらえて……」
 アンセルムはそう言いながら、腕時計を見る。自分たちの侵入はスムーズに行ったが、これからは自分たちが素早く敵を撃破し、手順通りに目標を破壊しなければいけない。
 一同に緊張が走る中、唐突にエレベーター内の重力が変わる。エレベーターが目的の階に到着するのだ。
 そして、その重力を強く感じた瞬間、扉が開いた。
 その重力に負けないように床を蹴り、ケルベロス達はエレベーターから飛び出す。すると、真横から銀色に輝く物体がケルベロス達の中心に転がり込んできた。
 ダンダンダンダンダンダンダンダン!!
「ぐっ!」
「奇襲です!」
「隊列を乱すな!」
 いきなりの銃弾に、声を上げるケルベロス達。その銃弾を凛子とセイヤ、そして鋼が被弾し、身体から炎が上がる。
「ケルベロス……。まさかここまで乗り込んでくるとはね」
 その物体は、ゆっくりと起き上がり、両腕の拳銃をだらりと構える。
「あなたが、ギンレイ?」
「それを聞いて、どうするの、お嬢さん?」
「人の選択肢をとやかく言う資格はないのだけれど……。その道だけは間違ってたと私は貴方を否定するね」
 クーリンはそう言うや否や、掌からドラゴンの幻影を放つ。
 彼女の攻撃を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。回復よりも、まずは攻撃すること。時間との勝負である。ケルベロス達はそのまま攻撃を繰り出していく。
「蒼き龍の業、とくとご覧あれ!」
「銃での勝負ができないのは、少々残念ではありますが……」
 燃え上がる炎を受けた銀麗に、凛子が斬霊刀を抜き放って霊体の斬撃を飛ばし、斎が鉄塊剣『竜殺しの大剣』を振りかぶって飛び込む。
「まだまだ甘いわね」
 ダンダンッ!
 銀麗はその二人の攻撃を避け、すれ違い様に銃弾を壁に向かって撃つ。すると、その銃弾は跳弾となり凛子を襲う。
 しかし、凛子の攻撃を鋼が黙って身体で受ける。
「鋼!」
「大丈夫だ! 十郎は皆に力を与える事を優先しろ!」
 鋼は十郎を制し、腕に装備した多目的兵器『月影』を抜く。
『頼むぞ、月影』
 鋼はおもむろに腹部の傷を月影で切りつける。すると、その光の刃が傷を塞いでいく。それを見た十郎は凛子とセイヤ、そして鋼と斎にカラフルな爆発を発生させ、士気を高めていく。
「……流麗な騎士、といった風貌だな。その外見に違わぬ様な精神は持っているか……? 持っている様ならば、一人の戦士として。持っていないのならば、単なる敵として相手してやる……!」
 セイヤがその動きを止めようと、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを銀麗の足元に叩き込む。銀麗はセイヤの攻撃を受け、バランスが崩れた。その隙を玲は見逃さなかった。
『冴ゆる御業を、御覧に入れよう』
 玲の日本刀が一閃する。そして、その霊気が銀麗の身体を覆っていく。
『其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう』
 続けて、アンセルムが空気中の水分を凍らせて無数の氷槍を作り出し、銀麗の身体に突き刺していった。

●想い
「そこです!」
 斎のバトルオーラが、銀麗の胸に直撃し、そこから氷が発生する。
 銀麗はケルベロス達の攻撃によって、その戦闘力を奪われていっていた。だが、銀麗は何かに取り付かれたかのように、無言で銃弾を放つ。
 ダン!
 斎が駆け抜ける一瞬を狙った射撃。彼女の頭部にグラビティの銃弾が浴びせられ、そのまま吹き飛ばされた。
「う……ぐ。油断、したべ」
 斎の眉間からぼたりぼたりと、血が流れ落ちる。
「これは、マズいだろ」
 その傷の深さに、すぐさま十郎が駆け寄り、月に似たエネルギー光球を照らす。
「でも、彼女ももう、限界みたいだね。……時間も無いし、一気にいこう」
 アンセルムがその手に持った少女から、草の触手を打ち放ち、縛り上げる。
『Destruction on my summons―!』
 クーリンが、至近距離まで一気に近づき、呼び出した大きなコヨーテを、銀麗の左腕に食らいつかせる。
「この一撃で決めて差し上げます」
 それを見た凛子が左脚を前に出し、半身の体勢のまま抜刀する。
『我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!』
 ふうっと息をその刃にかけ、目にも留まらぬ速さで、その刀を振り切る。
「あ……!」
 凛子の刃は袈裟切りに銀麗の鎧を切り裂き、そこから氷の華が咲き乱れる。
「エンジンも、威信も、その目論見も、纏めて叩き潰して差し上げよう」
 玲が雷の霊力を帯びた日本刀を構え、走りながら銀麗の腹部を貫く。
「さぁ、お休み――君の仲間も直に同じ道を辿るだろう」
 そしてそのまま切っ先を返し、緩やかな弧を描く斬撃で右腕を切り裂いた。
「おまえのその銀の仮面、俺が破壊する……!」
 セイヤが最後の突きを放つ。
 ピシ……。
 セイヤの突きは銀麗の仮面を突き破ると、仮面のシールドにヒビが入っていく。そして、弱々しく銀色に輝く瞳の、最後の灯火が消えた。
 パリン。
 シールドの破片が地面に落ち、割れると同時に、銀麗は前のめりに倒れこんだ。
「ごめん、なさい。あな……た」
 そして、その言葉が銀麗の最後の言葉となった。
 銀麗はそのままゆっくりと消滅していき、最後に落ちたシールドの破片だけが残った。
 その破片に、鋼が近づいていき、丁寧な動作で拾い上げる。
「せめて……安らかに眠れ」
 鋼はそのシールドにグラビティの力を込め、完全に破壊する。それは、戦って死んだという戦士の名誉を護るという、彼なりの礼儀であった。

●押し寄せる量産型ダモクレス
 銀麗を倒したケルベロス達は、そのまま待機した。
 目の前にある『弩級外燃機関エンジン』の色が最初と同じ青のままであった為だ。
「僕達は、彼女を倒すのに8分かかっている。他の皆がどれくらいで戦闘に入ったのか、苦戦しているのかも分からない……。ちょっと不安、だね」
 アンセルムは腕時計を確認し、少し焦る様子で、目の前の『弩級外燃機関エンジン』を、少しの変化も見逃さないように見守る。
「焦る、よな。でも、焦っても仕方ないぜ。こっちは準備をして、待つだけだ」
 十郎の声に、少し落ち着きを取り戻すケルベロス達。そして、色が変わった瞬間に全力の攻撃を行うべく備えた。
 ドォン!!
 その時、上空から破壊音が響き渡った。
「まさか!?」
「その、まさかのようです!」
 クーリンはその思考を否定したい。だが、凛子がそれに気がつき、日本刀を構える。
『オオオオオオオオオオオオ!!』
 そう、複数の量産型ダモクレスが、上空から飛び降りてきたのだ。その数、6体。
「増援か! どうする?」
 セイヤがちらりと『弩級外燃機関エンジン』を見る。
「来た!」
 すると、エンジンの色が、青から緑へと変化していったのだ。
「手分けして当たるしかないだろう。俺が前を張る。援護を頼む!」
 鋼がそう言って、続々と着地するダモクレスに突っ込み、クーリンがミサイルポッドから大量のミサイルを浴びせる。
「みんなはエンジンを!」
 アンセルムが攻性植物から、その場を侵食する魔法を放ちながら言う。
『受け取ってくださいませ』
 その声を受けた斎が高度に圧縮したグラビティチェインを手のひらに乗せて、エンジンにその力を押し付ける。
 続けて、セイヤが黒のオーラを黒龍に変化させ、右腕に纏う。
『打ち貫け!!魔龍の双牙ッッ!!』
 セイヤの拳が、エンジンをえぐり、同じ場所へと玲が日本刀を大きく打ち込む。
 凛子が再び銀麗に放った氷の剣戟を、その傷口へと叩き込む。
『痛みは露の間、後は花色の夢だ。』
 そして、十郎が掌から青い花を咲かせ、呑み込む様に絡みつかせた。
 量産型ダモクレスの力はそれ程強くは無かったが、前に出ている鋼だけではそのうち限界が来るであろう。
 しかし、まだエンジンは破壊できない。
「まだか!」
「もう少しだ!」
 鋼の声に焦る十郎。手ごたえはある。もう一息だ。
『うおおおお!』
 ケルベロス達が全力の攻撃を加えたその時、大きな爆発音がエンジンから響き渡り、その色を緑から黄色へと変えていった。
「破壊完了いたしました!」
 凛子が声をあげ、ケルベロス達は即座に撤退へと動いていった。だが、この先に増援部隊が待ち構えている事を考えると、エレベーターを使うわけには行かなかった。
「こっちも……ひとまず完了だよ!」
 何とか増援を食い止め、ミサイルで一掃したクーリンが辺りを見渡すと、天井から降ろされた一本の梯子に気がついた。
「あ、あそこの梯子、使えないかな!?」
 その梯子の先は、エレベーターとは違う方向へと伸びていた。
「迷っている暇はなさそうだね」
 玲が先頭を切ってその梯子に飛び乗り、強度を確かめる。
「いけそうだね。皆、次の増援が来る前に撤退するよ」
 それを聞いた他のケルベロス達も、梯子に飛び乗り、全力で登った。その時間は恐ろしく長く感じたのだが、はたして、ケルベロス達は地上へと帰還を遂げたのだった。

 戦場を駆け抜けたケルベロス達は、そのまま戦闘区域外への脱出を果たした。
 あれからずいぶん時間が経ったようであったが、一帯を焦土と化すような、巨大な爆発は発生しなかった。
「成功、したのでしょうか?」
「さて、どうだろう?」
 凛子の声に玲が涼しい顔で答える。
「今、黒鉄が確認してくれている。それまで待とう」
 アンセルムはそう言って鋼を見る。鋼は、漸く繋がった通信を、ヘリオライダーの絹へと繋いでいた。
『宮元さん、こちら黒鉄。応答願う。応答願う。……ああ、そうだ。状況は? ……ああ、……ああ。そうか、分かった。では座標を送信する。宜しく頼む』
「鋼。どう、だ」
 セイヤが恐る恐る尋ねる。すると、彼はゆっくりとした口調で、答えた。
「破壊できたのは、我々まで、との事だ。ちなみに、死者や暴走は出ていない。これから宮元さんがヘリオンで迎えに来てくれるから、それまで待機だ」
 唖然とするケルベロス達。
「で、でも。ダメージは与えたから、役には……たったんだべ?」
 斎の言う通り、作戦は一応の成功を納めた。だが、完全破壊までに至らなかった悔しさが、一同を包む。
「ちょっと、悔しい……ね」
 クーリンが、声を押し殺して、呟く。
「……全員無事、か。まずは、それを喜ぶべきだろ」
 最後に十郎が言った言葉が、春を告げる風と共に消えていったのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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