弩級兵装回収作戦~ハイブリッド・アーミー、最古の兵

作者:白石小梅

●ハイブリッド・アーミー
 その日、三重県四日市コンビナートへ、ダモクレスの大部隊が雪崩れ込んだ。
 全ての建造物は制圧、解体され、掘削機械やクレーンの群れへと姿を変える。
 瞬く間に、そこは巨大な発掘拠点と化した。

 ……その遥か地下深く。謎めいた機械が唸る巨大空間。
 ダモクレス『鉄聖母メサイアン』はその傍らにヘルメットの男を従え、露出した機械を見上げて微笑んでいた。
 エレベータが滑り降りてきて、扉が開く。現れるのは、同じようにフルフェイスヘルメットの巨漢と女。
 男は苛立たし気に振り返った。
「遅い。弩級兵装の発掘は地球侵略軍の最重要作戦だ。コマンダー・レジーナに出し抜かれてはジュモー・エレクトリシアン軍団の威信に関わるのだぞ。警備の首尾は。発掘はどの程度進んでいる」
 棘のある口調を意に介さず、巨漢が応える。
「……警備に関しては問題ない。発掘施設周辺は常に量産型ダモクレス、タイタンキャノン及びアパタイトソルジャーが哨戒している」
「ただ、発掘には細心の注意が必要だわ。それに、高度な技術も要求される仕事よ。焦って爆発してしまえば、例え発掘できても完全な状態ではないのは明らかだし……もう少し工数を頂きたいわ」
 遅すぎる。叱責しようとした男を、鉄の聖母が遮った。
「問題ないようですね。引き続き作業に尽力してください。発掘したあとに弩級外燃機関エンジンを転送する準備はいかがですか?」
 その問いに、男は姿勢を正した。
「万端整いました。いつでも転送可能です」
「それでは、皆さん。万一の場合は不完全でも転送させる事になりますが、それは最後の手段です……素早く、完璧に弩級兵装を発掘する為に、全力を尽くしましょう」
「ハッ!」
 鉄の聖母は満足したように金色の瞳を細めた。

 その男……調整体X1は振り返る。
 マザー・アイリスの雑兵など、信用ならない。
 だがこの『弩級外燃機関エンジン』を無事に転送すれば、地球侵攻軍の戦力は何倍にもなる。
(「我ら『ハイブリッド・アーミー』が、それを成すのだ」)
 男は、襲撃を待ちわびるように刀の柄を撫でた。
 壁面を埋め尽くす巨大機械は、静かに鳴動しながら復活の時を待っている……。

●弩級兵装回収作戦、始動
「ダモクレスの指揮官たちが連携した動きを見せました! 戦闘データ収集を終え、大作戦に打って出てきた模様です……!」
 望月・小夜(キャリア系のヘリオライダー・en0133)は出力した資料を広げる。そこに映るは、四つの巨大機械の図案。
「これらは、地球に封印されていた強力なダモクレス『弩級兵装』です。『弩級高軌道飛行ウィング』『弩級絶対防衛シールド』『弩級外燃機関エンジン』『弩級超頭脳神経伝達ユニット』の四つが現存し、その力は単体で重巡級ダモクレスに匹敵、合体運用も可能という地球侵攻の主軸兵器です」
 全てが完全に力を発揮すれば、敵戦力は最高で数十倍上昇すると試算が出ている。
「敵潜伏部隊の主目的はこの弩級兵装の位置特定にあったようです。敵は複数地域を占拠し、弩級兵装の発掘作戦を開始しました。作戦総指揮官は『コマンダー・レジーナ』。軍団長、自らの出撃です」
 だが、弩級兵装の発掘と修繕には細心の注意と専門知識が必要らしい。レジーナ自身が発掘を行う神経伝達ユニット以外は、ジュモー・エレクトリシアン配下の研究者ダモクレス部隊が発掘しているという。
「更に、それぞれの発掘拠点にはマザー・アイリス軍団より次世代量産機群が送り込まれ、周辺警護についています。無論、放置は出来ません。これらの発掘現場を強襲し、弩級兵装を可能な限り損壊させることが、今回の任務です」
 小夜はそう言って一枚の画像を差し出す。
「これが『弩級外燃機関エンジン』です。発掘区画への強襲部隊として、皆さん以外に三班、計四班を編成。他に、警護の量産型を引きつける囮として二班を編成して強襲を援護いたします。エンジンの発掘を担当している部隊『ハイブリッド・アーミー』を撃破し、弩級兵装を破壊してください」

●外燃機関破壊作戦
「発掘区画は、地下に埋まる外燃機関を中心に第一から第四区画までの四つ。一辺100mの正方形型に配置され、それぞれから発掘・修繕されています。囮部隊が量産型を引きつけた後、一部隊につき一区画ずつ制圧してもらう手筈です」
 区画は地下では繋がっておらず、区画ごとに一体のハイブリッド・アーミーたちが発掘作業を進めている。
「しかし厄介なことに、外燃機関は非常に扱いの難しい弩級兵装なのです。破壊方法を誤ると大爆発を起こし、四日市市全域を焦土にしてしまうでしょう」
 爆発はグラビティではないためケルベロスが死ぬことはないが、市街地にはまだ市民が残っている。手順を誤れば、その被害は計り知れない。
「区画内の敵を撃破すれば、外燃機関に直接攻撃が可能になります。全員が全力で攻撃することで、一、二分で区画ごと破壊できますが、この際、『第一区画から第四区画までを番号順に破壊する』必要があるのです」
 ダモクレス領域内の通信は不可能。だが、正しい手順で区画を破壊していく度、エンジンの色が変わるという。それを合図に、次の区画を破壊していくのだ。
「ただし第一区画にいる鉄聖母メサイアンを撃破して七分経つと、自動転送装置が働き外燃機関はいずこかへ転送されてしまいます。更に警備の量産型は無数に存在するため、囮部隊も長時間はもちません」
 囮部隊の撤退の際、作戦がまだ終わっていなければ量産型が戻ってくる。そうなれば作戦は失敗だ。
 外燃機関の完全破壊には周到な用意と計画、そして大胆さが必要なようだ。
「皆さんの担当は第四区画。発掘作業に当たっているのはこの男『調整体X1』。破壊が順当に行けば、最後の区画となります」
 ハイブリッド・アーミーとは鉄聖母メサイアンに救済を願い、ダモクレスとなった元人間たちの部隊だという。
「この男は、その第一号。最強の称号を求め、自ら魂を売り渡した上昇志向の実力主義者。メサイアンの右腕を自負する、部隊最古の兵です」
 そしてそれが、外燃機関の最後の守護者。

 長い説明を終え、小夜はため息を落とす。
「……気の遠くなるような任務ですが、未来のため、全力を尽くさねばなりません。出撃準備を、お願いいたします」
 決意を胸に、ヘリオンの群れは飛び立っていく。
 三重県、四日市市へ向けて……。


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)
アン・ボニー(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e35233)

■リプレイ


 番犬たちは、ほぼ無人となった発掘施設を縫うように進んでいく。
 全身の神経を研ぎ澄まして、放たれた矢のように進んでは止まる。
 やがて周囲を警戒しながら巨大な扉の向こうに、滑り込む。
 門の中は、そのままエレベータになっていた。静かな機械音を立てながら、壁に張り付くように設置されたリフトが降っていく。
 シルク・アディエスト(巡る命・e00636)が、時計を見る。
「現時点で囮部隊が敵の誘引を始めてから四分ほどです。エレベータが下につくまで一分ほどでしょうか」
 尾神・秋津彦(走狗・e18742)がそれに頷いて。
「敵は施設内にはほぼおりませんでしたね。囮部隊は作戦を完璧に遂行しているようです」
「無駄な闘いをせずに助かった。外から潜入して五分ってことは、囮が撤退しても敵が戻るまで時間は稼げるな。後は……」
 そう言うのは、スライ・カナタ(彷徨う魔眼・e25682)。
「こっちがどれだけ早くあれをブッ壊すかだろ……しかし凄ぇエンジンだな。宇宙なんざ楽々行けちまうんだろうと思うと、惜しくなってくるぜ」
 カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657)が網戸の向こうに見る機械の壁は、静かな青を湛えて眠っている。
「弩級……てことは、あの載霊機並の大きさになるのかしら? 同じ能力とは限らないけど、あんな物を復活させるわけにはいかないわ。さ、行きましょう」
 リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が言い終わると、滑るように扉が開く。
 全員が一歩を踏み出した瞬間、八人は同時に足を止めた。暗闇の向こうから、殺気が籠もった声が、身を貫いたからだ。
「ようこそ、番犬。俺はハイブリッド・アーミーのX1。弩級兵装の眺めはどうだ?」
「アンタの名乗りも話も興味はないわ。こんなものがアンタ達の手に渡ればどれだけの被害を生むかわからない。先んじて破壊するまでよ」
 ボクスドラゴンのシャドウと共に身構えて、アン・ボニー(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e35233)が敵の名乗りを雄々しく切り捨てる。イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)もまた、その剣を暗闇へと突きだして。
「ええ。名前からしてとんでもない代物のようですからね……銀天剣、イリス・フルーリアが、相手になりましょう! 出てきなさい、ダモクレス!」
 全員が武器を身構えたまま、僅かな空気の流れさえも読めるほどに神経を昂らせて。
(「この殺気。確かに、中々だ……最強を求めて自分からダモクレスになった男、か。上を目指してるうちに自分自身に見切りつけちゃったのかな」)
 エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)の刃を握る指の間に、汗が滲む。
「思い上がった定命め。限界を知るがいい。人を捨てて得た、この力を前にな!」
 明りが灯り、浮かびあがるのは、地面に突き刺さる無数の白刃。
 頭上から、漆黒の影が二閃が振り落とし、番犬たちは散るように身を捻った。
 霞を叩く如くその姿が散り、そして闘いが始まった。


 静かに唸る外燃機関が見守る中、激しい剣戟の響きが耳を裂く。
 調整体X1はまるで中空をバウンドするように、跳ね回る。エリシエルが刃を抜き打つも、閃光の如くかき消えて。
「死ぬがいい!」
 彼が空中で吼えれば、周囲の刀剣が浮かびあがり嵐のように降り注ぐ。
「そんな使い捨ての刃で、私達は斬れませんよ! 光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ!」
 輝きがイリスの刃に収束し、帯を引くような斬撃がしなって、X1の体を打ち据えた。だが、刃をその腕でいなしたX1は、すぐさま撃ち込んだシルクの砲撃を軽やかに躱して。
「この鉄の体には、軽いものよ」
 X1が空中を蹴ると、両足のブーストが火を噴いた。嵐より一転、一条の閃光と化して突っ込んでくる。狙いは、前衛を極彩色の爆煙で支えていた、スライ。
 だがその刃に、一つの影が横合いからぶつかった。アンとX1が空中でもつれ合う。
「アンタに構ってる暇はないっていったでしょう……! シャドウ!」
 刺突に脇腹を抉られつつも、シャドウの属性をインストールして顔面を蹴りつける。
 X1は受け身を取るも、すでにその後ろで、秋津彦が腰だめに槌を構えていた。放たれるのは、竜の轟き。
「兵法者たるこの身からすれば、最強とやらが為に人を捨てるなど見当違いも甚だしい。貴殿がそれで力を得た気になっても、それは所詮紛い」
 衝撃を身を捻って受け流したところを、カルナの槌が追い討つ。だがそれをいなすX1の頭上には、すでに小柄な影が身構えていた。
「……!」
 上下に交差しながら、影の如き刃が馳せ合う。間隙を縫い、その胸元を裂いたのは、リリー。
「作戦開始から九分経過! 速さがご自慢のようだけど……こちらもそれは譲れない。最速で片をつけてやるわ!」
「数ばかりの犬どもが……小賢しい」
 コンビネーションを重ねる度、男の体にはゆっくりと呪縛が染み込んで。
 時計の針だけが、無慈悲に時を刻んでいく……。


 作戦開始より、十分以上。
 X1は足のブーストを用いて空中を跳ね回るようにバウンドする。その一撃が、必死に癒しの加護を飛ばしていたシャドウを貫き、光の粒子と消し飛ばした。
 だが。
 エリシエルの一足が飛び退ろうとした瞬間を抑え、X1は刃の打ち合いにもつれこむ。
「どうした? 大分、息が上がってきたようじゃないか。悪いけど、機動戦ならこっちも少し腕に覚えがあるんだ」
「ほざけ……!」
 だがすでに、その体の内側には重い呪いが捻じ込まれていた。X1は打ち合いの隙に飛び込んで来た秋津彦の突きに足を取られ、エリシエルの斬撃がその胴を抜く。
 度重なる打ち込みに、段々と歪み始める男の体。
 その前に、菫の幻影が花開く。
 目の前には、その花を模したかのように、砲台を向けるシルク。
「貴方が捨てたものの尊さ、そして見落とした強さ。その身をもって教えて差し上げますね」
 怒りの雄叫びと共に、無尽の刀剣が菫の乙女に降り注ぐ。だが幻影に心を奪われて飛び込んで来たその身は、イリスのスライディングに足を掬われカルナの魔弾に弾かれる。
「……っ!」
「どうした? コチラも引けねぇからよ、何が何でも押し通らせて貰うつもりだぜ。それともお前……退けと言えば退く、ヤワなタマか?」
「黙れ! 雑魚どもが群れた如きで!」
 男は銃声のような音を立ててその刀身を射出する。その剣閃に高速のタックルで突っ込むのは、アン。肩を裂かれながらも刃を弾き、そこをリリーが氷結の光線で追い討って。
「何故だ……何故、俺が……!」
 追い詰められているのか。
 そう。X1の強さは、ただ一人結果を求めひた走る『孤高』の強さ。だがそれは、役割に徹した連携の前には、驚くほどに脆い。
 敵は、呪縛の中に沈んでいくかのように取り囲まれていく。
「……見えた。ここがお前の死だ」
 癒し手のスライさえもが、最後の波状攻撃に加わって。スライは、己にだけ見える死の印を見据え、渾身の拳でその顔面を打ち抜いた。
 バイザーも砕けて吹き飛びつつも、しかしX1は雄叫びをあげて起き上がる。
「だ、れが、死……!」
 叫びも半ばに、カルナの竜槌がその胸倉を押し潰した。上半身を砕かれた機体は粉々に弾け飛び、ごろりとその首がスライの足元へ転がって。
「お前がだよ。言った通りだったろ」
 その言葉も終わらぬうちに、機械の目から光が落ちる。
 それは作戦開始から、十三分目のこと。
 調整体X1は、死んだ。


 サーヴァント一体を失うも、その他は健在。だが外燃機関の色は、まだ変わらない。
 シルクがGPS装置をつけようと試みるも、余計な一般機材は紫電が迸って弾かれる。
 スライが、ため息を落として。
「待つしかない……か。ただ呆けてるわけにもいかない。皆、ヒールに回ろう」
 それが現況。そして二分が過ぎた頃。
「!」
 冷たい青を湛えていた外燃機関の色が、さあっと緑色へと変わる。
「第一区画破壊完了ね! 現在、作戦開始……十五分」
 リリーの眉が歪む。ここに戻るまでの時間を含めても、そろそろ敵が戻ってもおかしくない時間だ。
「もうしばらく待ったら、もう攻撃を始めましょう。破壊寸前で色が変われば、ギリギリ間に合うわ」
 立ち上がって、そう言うのは、アン。その前に、秋津彦が立ち塞がって。
「小生は反対いたします。狗は飼い主に従順なるもの。被害を看過は、出来ませぬ」
「ん? 変化前に何発か打ち込んどくのは、考えてもいいんじゃない? ただでさえダモクレスは無茶苦茶な物量に物言わせてるんだ。叩っ壊すまでできないなら最低でも……」
 そう言うエリシエルを、リリーが遮る。
「爆発したら街の破壊だけではすまないのよ? 何が爆発のトリガーになるかわからないし」
「もし仮に爆発しても、半ばとはいえ避難は始まってるわ。被害は……」
 アンの反論に、カルナとイリスも立ち上がって。
「おい。仮にってなんだよ? 戦場にいない奴の命をこっちが勝手に賭けるってのは乱暴すぎだろ」
「あの」
「無理矢理やるというなら、私は立ち塞がります。スライさんはどう思われますか」
「あの……!」
「え、あ、俺か……その。みんな、もう少し冷静に話し合ったらいいんじゃないか」
「だからその時間が」
「エレベータが動いてます……!」
 それは、シルク。
 口論になっていた全員がハッと振り返った。
 そう。エレベータが、こちらへ向けて降りて来ている。
「……色の変化は?」
「1分前……」
 第一区画から援軍が来るには、早すぎる。
 流れるのは、沈黙。
 ゆっくりと、全員の武器が上がる。
 ブザーが鳴った。
「敵です!」
「撃て!」
 作戦開始16分時点。
 肩のキャノンを放ちながら、タイタンキャノン部隊が舞い戻った。


「援護する……! あと二回色が変わるまで、時間を稼ぐぞ……!」
 スライの放った爆煙の勢いに乗るように、秋津彦が真っ先に敵に飛びこむ。
「跳ね、飛び、奔るは狗賓の領分。死地も同然なれば滾るというもの。お任せあれ!」
「続いて来ます! エレベータを止めなければ!」
 イリスが一体を蹴り飛ばし、制御盤らしき装置に跳び付いてエレベータの動きが止まる。だが安堵の間もなく、引き裂かれた地上出口の扉が轟音と共に落ちてくる。
 敵に刃を突き立てていたエリシエルの口元に、苦い笑いが引き攣った。
「形振り構わず、ね。当たり前か……」
 最初に降りてきた二体に続き、後続に二体が飛び降りてくる。
 アンが襲い掛かってきた機兵に、その体を叩きつけた時。それは起こった。
 外燃機関の色が、緑色から警戒的な黄色へと変わったのだ。
「……っ! 皆、第二区画がやったわよ!」
「第二区画にも敵は押し寄せていたはず……仲間はまだ、闘っています。ここを押し返して、待ちましょう……!」
 シルクの砲弾と敵の火砲が飛び交い、互いの前線を牽制する。灼熱の乱戦の中に、カルナが飛び出して。
「応! パーティのご馳走を喰らい損ねたんなら、こいつを鱈腹喰らっていきな!」
 異空間より呼びだされた機銃が火を噴いて、乱戦の中の一体を薙ぎ払う。
「我と我等へ徒成す者に、捌きと裁きの鉄槌を降せ……! みんな、頑張って! 後は第三区画……」
 目にも留まらぬ連撃で、もう一体の機兵を討ち払ったリリーの言葉が、そこで止まる。
 頭上から更に降る、四体の機兵。
 その半数が、ガトリングを構えた黄緑の機兵であることに気付いたから。
 それは、作戦開始18分時点のことだった。


 アパタイトソルジャーの帰還。
 それは、囮戦線は双方ともに崩壊したことと、敵の増援速度の倍化を示す。
 もはや、押し返す力など、残っているはずもない。
 アンは銃弾の嵐の中、秋津彦を庇ってその膝を折った。
(「なんてこと……私達は何か間違ったの? どこかにミスがあったの?」)
 その問いが、虚空に散る。
 全班が、最善を尽くしたのに。
 何故、と。

 エリシエルの稲妻の如き一閃が、押し寄せる敵の首を薙ぎ切る。
(「囮班は、この数を相手に闘ったのか。それでこれだけ時間を稼いだなら、上出来だよ。これ以上は……私だってさ……」)
 血みどろの体にすぐさま無数の銃弾が降り注ぎ、暗殺者は凶弾の前に倒れ伏す。

 砲撃戦を展開していたシルクもまた、圧倒的な砲弾の差に呑み込まれていく。薄れゆく意識の中でも、外燃機関はその色を変えぬままだ。
(「突入班は最速で敵を撃破したはず……きっと、どこも失敗はしていない……それは、つまり……」)
 全霊を振り絞って微かな希望を待つ間に、全員が心のどこかで理解していた。
 自分たちは、それぞれに上手くやりすぎたのだと。
 外燃機関は『完全破壊に最も時間を要する弩級兵装』だ。
 囮部隊は他の現場の限界以上に長く粘る必要があった。その為には、敵を少なくしなければならない。
 突入四班は、残敵を引き受ける必要があった。計32人が力を合わせたなら、多少の残敵などすぐに薙ぎ払えたはずだ。
 だが作戦に臨んだ全ての班は仲間の足を引っ張るまいと、目前の敵に全霊で挑んだ。
 結果、僅かずつ生じた時計の綻びは、つけとなって『ここ』に回ってきた。
 そう。
 第四区画。
 作戦全ての結果が形を成して押し寄せる、最後の場所に。

 作戦開始より、20分。
 破壊の可能性は潰えた。今この瞬間、色が変わったとしても、もう戦力はない。
「限界よ……! 転送が始まる! みんなエレベータに乗って!」
 リリーが上昇ボタンを叩き、全員が怪我人を抱えてエレベータに飛び乗っていく。そこにすぐさま飛び降りてくるのは、黄緑と漆黒の機兵が二体。
「クソッタレが! 出て行きな!」
 カルナがその槌を振り回して、敵を叩き落とした、その時。
「……!」
 地下からの追撃がエレベータの床を斬り裂き、その躯体を弾き飛ばした。エレベータの支柱に激突し、地下へ滑落しかかったカルナの腕を、秋津彦がはっしと掴み取る。
「振り返らずに進んで……! 下は地獄です!」
 機兵たちは犇めき合いながら壁面を追いすがる。彼とイリスはエレベータの脇にあった梯子に捕まり、リリーとスライはエレベータの支柱を登る。
 それぞれに怪我人を抱えながら、スライは地上へ転がり出た。戦闘音は、遠い。全班、もう撤退を終えつつあるのだ。
「……急げ。置き去りにされれば、なぶり殺しだ……!」
 スライは最後に這い出てきたイリスから、エリシエルとシルクを受け取ると、全員が走り出す。
 その最後の瞬間、殿を走るイリスが、振り返った。
(「弩級兵装が……敵の手に落ちる。いつか……いつか、必ず……!」)
 稲妻が落ちるような音が、響いた。
 後ろから這いだして来ようとしていたダモクレスたちが、崩れ去る空洞の中に呑み込まれて消える。
 番犬たちは、その混乱の中を、全速で走り抜けていく。

 弩級外燃機関エンジン、転送完了。
 それは、作戦開始より21分時点のことだった……。

作者:白石小梅 重傷:シルク・アディエスト(巡る命・e00636) エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672) カルナ・アッシュファイア(炎迅・e26657) アン・ボニー(ドラゴニアンの鎧装騎兵・e35233) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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